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「いらっしゃい。店なんだけど、ここで大丈夫?」
 丸山くんらしき人が目の前の店を指さしました。
「大丈夫って?」
 菜々さんの疑問に、丸山くんが答える。
「俺らは問題ないんだけど、普通の居酒屋のほうがいいかな?大丈夫?ちょっと変わってるでしょ?」
 ちょっと変わってる?
 店は、高架下でちょっと喧しそうだ。暖簾がかかった店は、決してオシャレという雰囲気ではないが、汚いわけでもなくって、落ち着いた渋い感じ。
 確かに、女性には敷居が高そうな店。会社帰りのサラリーマンが寄るようなイメージの店です。
「私はお酒がおいしければ問題ないよ。初夏と結梨絵ちゃんは?」
 菜々さんの問いかけに、小さな声で初夏ちゃんが答えた。
「私も、大丈夫です」
「本当に大丈夫?缶詰居酒屋だよ。飲食メニューは全部缶詰なんだよ?」
 丸山くんが心配そうに初夏ちゃんに尋ねています。
 ふーん。なんだかんだと脈はありそうですね。
「好き嫌いはないので大丈夫です。それに、こういうお店は女性だけでは入りにくいので楽しみです」
「そっか。えっと、結梨絵ちゃんは?」
 缶詰居酒屋?
「私も、楽しみです。缶詰居酒屋なんて初めてなので」
「そう、よかった」
 丸山くんがほっと息を吐きだし、菜々さんの元カレ(仮)の背中をドンっと叩きました。
「いやぁー良かったな和臣」
 ああ、和臣さんという名前なのですね。

「ったく、ひやひやしたよ。確かに面白い店だけど、こう、女性を連れてくことも考えてほしかったよ。オシャレさのかけらもなくてごめんなぁ。こいつ、モテる癖に本当気が利かないというか、女の子のことに無知というか……」
「やっぱりモテるんですか」
 菜々さんと付き合えるくらいだからそうですよね。それに、とても話しやすかったですし……。
 和臣さんの顔を見上げる。
 ずいぶん身長が高い。学生相談室の黒崎さんも背が高かったけれど、同じくらいあるんじゃないかな?185センチくらいありそう。
 顔はよく見えない。
「やっぱり?……そう、見える?」
 首を傾げる。
 よく顔が見えないけれど、遊んでそうな顔をしてるのでしょうか?
「見た目とかじゃなくて、この間話をしていて楽しかったので。あと、食べ物をおいしく食べられる人っていいですよね」
 あ。

 それは私の好みでした!モテそうに見えるのとは関係ありません。
 食堂で働いていると、顔はいいのに食べ方が汚くて好き嫌いも多くて食べ残す学生もよく見て来ました。
 男女問わず、そういう人は、いくら顔がよくてもどうも嫌悪感があるのです……。だから、思わず……。
 和臣さんは、何でもおいしく食べてたし、口に物を入れているときにしゃべらないとか、箸の持ちかたとか動かし方、きれいな食べ方をしていましたので……。
「そ、そうか、ありがとう」
「ありがとう?」
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