上 下
3 / 96

3

しおりを挟む
「すいません、学生相談室ってどこですか?」
 通りすがりの学生に声をかけて、場所を尋ねました。
「え?まさか、相談しに行くの?」
 オシャレに力の入った女学生さんが、驚いた顔を見せ、それからなぜか私の服装を上から下までチェックした。
「あー、本気で相談組?」
 本気で相談組?
 本気じゃない相談もあるっていうことなのでしょうか?
「悪いことは言わない。玉の輿狙いじゃなくて、本気で相談するつもりならやめたほうがいい。友達に相談したほうがいいよ。なんなら、私が相談に乗ろうか?」
 玉の輿?
 友達に相談したほうがまし?
 ……学生相談室って、いったい何なのでしょう?
 一見チャラそうな髪の毛が茶色くてくりんくりんの女学生は、実は面倒見が良い子のようです。
 提出する書類を持っていくだけですと説明すると、学生相談室の近くまで道案内をしてくれました。
 あれ?そもそも私、学生ではないのですが……学生だと勘違いされました?学生相談室は学生の相談を受ける場所ですよね?
「ありがとうございます」
「うん、気にしないで。あ、そうだ、新入生?サークル決まった?よかったらはい」
 女学生さんが、カバンから1枚紙を取り出して私の手に持たせて去っていきました。
「……サークルの勧誘されてしまった」
 学生に間違えられたどころか、新入生に間違えられていたようです。
 二十八歳の春であります。
 おっと、のんびりしていられません。
 今日は月曜日です。いつもよりも30分も帰りが遅くなっているんでした。
 スーパーの夕方タイムセールに間に合わなくなってしまいます!
 学生相談室とプレートが付いている扉をノックする。
「留守にしています。ご相談内容とお名前、連絡先を記入して相談箱に入れてください」
 ドアの隣に置かれた小さな机にはそんなメッセージと、南京錠のついた郵便受けが置かれていました。
「ここに入れればいいのかな?」
 一言メッセージを書き加えて郵便受けに入れることにします。
【学生食堂へ寄せられたご意見から、大学への申し送りです。ご不在のようでしたので、こちらに入れておきます。食堂の白井】


ご意見【カレーとアイスミルク試してみたら、本当に辛くなかった!これでカレーが食べられる!ありがとう白井さん!】
ご意見【モーニングって、朝って意味じゃないから!】
ご意見【甘納豆がない!】
ご意見【俺は辛いカレーが食べたい!】
ご意見【いやいや、白井さん面白すぎwww】


「はい、白井ちゃん」
 今日は火曜日のはずです。
 ご意見箱の用紙回収は、週に1回月曜日だと聞いたはずですが……。
 昨日、確かにご意見に返答をして掲示板に張り出しましたよね?
「どういうことでしょうか、チーフ」
 なぜか、終業時間終了5分前に、またもやチーフが紙を持って目の前に立っています。
「ふふふ。白井ちゃんのメッセージが大評判。気が付いてなかったのかい?」
 え?
 そういえば、掲示板を見ている人がいるなぁとは思っいましたけれど。
 いつも通り、注文の品を捌くのがやっとで、食堂の様子はあまり気にしている暇はありませんでした。
「ほら、やっぱり。これこれ、見てごらんよ。いつもよりもアイスミルクの注文数が多いとは思ったら、白井ちゃんの手柄だねぇ」
 アイスミルクの注文?

【カレーとアイスミルク試してみたら、本当に辛くなかった!これでカレーが食べられる!ありがとう白井さん!】

 チーフに見せられた紙にはそう書かれていた。
「は、はぁ」
 手柄ですか……。
 売り上げに貢献するとかしないとかは、どうでもいいのですが……。
 ありがとうですって。
 ふ、ふふふ。
 お礼を言われてしまいました。
「無理しなくていいんだけど、残業できそうだったら、頼むね」
 手元の紙は5枚。
 残業代30分。時給+25%アップ。
 はい、やらせていただきます。

しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

傷痕~想い出に変わるまで~

櫻井音衣
恋愛
あの人との未来を手放したのはもうずっと前。 私たちは確かに愛し合っていたはずなのに いつの頃からか 視線の先にあるものが違い始めた。 だからさよなら。 私の愛した人。 今もまだ私は あなたと過ごした幸せだった日々と あなたを傷付け裏切られた日の 悲しみの狭間でさまよっている。 篠宮 瑞希は32歳バツイチ独身。 勝山 光との 5年間の結婚生活に終止符を打って5年。 同じくバツイチ独身の同期 門倉 凌平 32歳。 3年間の結婚生活に終止符を打って3年。 なぜ離婚したのか。 あの時どうすれば離婚を回避できたのか。 『禊』と称して 後悔と反省を繰り返す二人に 本当の幸せは訪れるのか? ~その傷痕が癒える頃には すべてが想い出に変わっているだろう~

アラフォー王妃様に夫の愛は必要ない?

雪乃
恋愛
ノースウッド皇国の第一皇女であり才気溢れる聖魔導師のアレクサは39歳花?の独身アラフォー真っ盛りの筈なのに、気がつけば9歳も年下の隣国ブランカフォルト王国へ王妃として輿入れする羽目になってしまった。 夫となった国王は文武両道、眉目秀麗文句のつけようがないイケメン。 しかし彼にはたった1つ問題がある。 それは無類の女好き。 妃と名のつく女性こそはいないが、愛妾だけでも10人、街娘や一夜限りの相手となると星の数程と言われている。 また愛妾との間には4人2男2女の子供も儲けているとか……。 そんな下半身にだらしのない王の許へ嫁に来る姫は中々おらず、講和条約の条件だけで結婚が決まったのだが、予定はアレクサの末の妹姫19歳の筈なのに蓋を開ければ9歳も年上のアラフォー妻を迎えた事に夫は怒り初夜に彼女の許へ訪れなかった。 だがその事に安心したのは花嫁であるアレクサ。 元々結婚願望もなく生涯独身を貫こうとしていたのだから、彼女に興味を示さない夫と言う存在は彼女にとって都合が良かった。 兎に角既に世継ぎの王子もいるのだし、このまま夫と触れ合う事もなく何年かすれば愛妾の子を自身の養子にすればいいと高をくくっていたら……。 連載中のお話ですが、今回完結へ向けて加筆修正した上で再更新させて頂きます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【取り下げ予定】アマレッタの第二の人生

ごろごろみかん。
恋愛
『僕らは、恋をするんだ。お互いに』 彼がそう言ったから。 アマレッタは彼に恋をした。厳しい王太子妃教育にも耐え、誰もが認める妃になろうと励んだ。 だけどある日、婚約者に呼び出されて言われた言葉は、彼女の想像を裏切るものだった。 「きみは第二妃となって、エミリアを支えてやって欲しい」 その瞬間、アマレッタは思い出した。 この世界が、恋愛小説の世界であること。 そこで彼女は、悪役として処刑されてしまうこと──。 アマレッタの恋心を、彼は利用しようと言うのだ。誰からの理解も得られず、深い裏切りを受けた彼女は、国を出ることにした。 一方、彼女が去った後。国は、緩やかに破滅の道を辿ることになる。

ブランリーゼへようこそ

みるくてぃー
恋愛
今王都で人気のファッションブランド『ブランリーゼ』 その全てのデザインを手がけるのが伯爵令嬢であるこの私、リーゼ・ブラン。 一年程前、婚約者でもあった王子に婚約破棄を言い渡され、長年通い続けた学園を去る事になったのだけれど、その際前世の記憶を取り戻し一人商売を始める事を決意する。 試行錯誤の末、最初に手掛けたドレスが想像以上に評価をもらい、次第に人気を広めていくことになるが、その時国を揺るがす大事件が起きてしまう。 やがて国は変換の時を迎える事になるが、突然目の前に現れる元婚約者。一度は自分をフッた相手をリーゼはどうするのか。 そして謎の青年との出会いで一度は捨て去った恋心が再び蘇る。 【注意】恋愛要素が出てくるのは中盤辺りからになると思います。最初から恋愛を読みたい方にはそぐわないかもしれません。 お仕事シリーズの第二弾「ブランリーゼへようこそ」

愛なんて。~寂しくて、辛くて、時に素晴らしい~

巴瀬 比紗乃
恋愛
恋愛をテーマにした掌編小説の、寄せ集め。 主人公は老若男女問わず、ハッピーエンドもバッドエンドもあります。どれに当てはまるのかは、読んでからのお楽しみ。 恋愛小説が苦手ゆえに書き始めた作品群。 楽しんでいただければ、幸いです。

処理中です...