僕が勇者に殺された件。

フジミサヤ

文字の大きさ
上 下
14 / 40
第2章

13 ベッド上の攻防

しおりを挟む
 目を開けると、見知らぬ天井が広がっていた。

 ルカは視線だけ動かして、周囲を見回した。どうやら寄宿舎の自室ではないようだ。

 誰かに手を握られていた。ルカはその手を無意識のうちに握り返す。その温かさが、何故か懐かしい気がして、ルカの心に安心感をもたらした。

 

「 ……目が覚めたか?」

 聞き覚えのある声がして、そちらに顔を向けると、金色の髪をした青年がベッドの傍らに座っていた。彼は穏やかな表情でルカの顔を覗き込んでいたが、目が合うと、ほっとしたように微笑んだ。
 その笑顔が眩しくて、目が潰れそうになる。

「……ここは?」
「私の部屋だ。君は気絶してしまって、全く起きないし。講堂まで行くのも無理なようだったから、とりあえず連れて来た」

 二人部屋のルカの自室より明らかに広い部屋だった。調度品も高級感が漂っており、ルカが寝ているのも大きなベッドで寝心地も良いものだ。
 部屋の中にベッドが一つしかないので、彼は一人部屋なのだろう。つまり、彼は一般の生徒とは一線を画する立場の人間であるということだ。

 彼は制服から私服に着替えていた。白いシャツに、細身の黒のパンツというシンプルな出で立ちだが、なぜか優美に見える。 
 ルカも制服を汚してしまったからか、寝間着のような衣服に着替えさせられていた。
 
 誰が着替えさせたのだろうか。
 
 考えていると顔に熱が集まり、変な汗が出てきたので思考を止めた。


 ルカはずっと握ってくれていたらしい彼の手をそっと外すと、無言でベッドから床に降り、そのまま平伏した。

「申し訳ございません。この度はとんだご無礼を。煮るなり焼くなり切るなり、お好きなように処分してください」

 平伏したまま淡々と謝罪するルカを、この国の第二王子サミュエルと思われる青年は困ったように眺めた。

「いや……別に怒ってはないから顔を上げてくれ。それより、気分はどうだ?まだ顔色が良くない気がするが」
「……問題ございません」

 ルカは平伏したまま、首を横に振る。

「それなら良いが。……とりあえず床に座ってないで、ベッドに上がっておいで」
「いえ、このままで」
「私が嫌なんだ」

 頑なな態度のルカに、サミュエルは苦笑し、少し強い口調で告げた。

「じゃあ、命令だ。ベッドに上がって」
「……承知しました、では失礼します」

 王子様の命令ならば、従わないわけにはいかない。

 ルカは一度立ち上がり、指示されたとおりベッドに座った。すると、サミュエルもすぐ隣に腰を下ろしてきた。肩が触れそうなくらいの距離である。

(…む…近いな……)

 パーソナルスペースが広いルカは、その距離の近さに困惑した。
 日常的にご主人様以外の人間と接触することがなかったため、至近距離の相手に免疫がないのだ。

 ルカが身を硬くしながら僅かに身を引いていると、サミュエルはルカを見つめたまま、何故か更に距離を詰めてきた。
 そして、ルカの髪を優しく撫でたかと思うと指を滑らせ、左耳の耳朶を軽く摘まんでくる。そのまま、ルカの耳朶をふにふにと弄りだした。
 サミュエルの目的が解らず、ルカは混乱した。

「あの、なにを……?」
「いや、珍しいイヤーカフだなと思って」

 ルカの左耳には、ご主人様に無理矢理贈られたピアスが装着されている。柘榴石が嵌め込まれたものだ。

「これは、魔道具?」
「もらったものなので、詳しくは知らないです……」
「へえ……」
 
 サミュエルは面白がるような口調で頷くと、ルカのピアスに触れたまま、さらに顔を近づけてきた。

「もっとよく見せてくれるか?」

 サミュエルの顔が間近に迫る。あまりに端整な顔立ちに気圧されて、思わず後ろに仰け反り、ルカはベッドに倒れ込んでしまった。
 すると、なぜかサミュエルがルカの上に覆い被さるように、ベッドに片手をつく。

「え?」

 至近距離で視線が絡み合う。
 まるで押し倒されたような体勢になってしまい、ルカはさらに混乱した。どういう状況だ、これ。

「これ、ちゃんと見たいから外してもいいかな?ちょっと失礼する」
 
 サミュエルは再びルカの左耳に手を伸ばしてきた。耳を飾るピアスを外すつもりなのだろう。咄嗟に、ルカは左耳を両手で庇うように覆った。

「あの、申し訳ございません…これは……どうかお許しを」

 手を耳に触れさせたまま、ルカが上目遣いで懇願すると、サミュエルはふっと笑った。

「なるほど?これは特別な相手から贈られたものだから、外したくない、ということかな」
「えっと……」

 ご主人様に絶対に外すなと命令されたものなので、外すことはできないのである。勝手に外したら殺すと脅されている。ルカはご主人様に逆らうことはできないし、まだ死にたくない。
 そんな事情を素直に伝えても良いのだろうか。

 どう答えたものか考えあぐねていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「殿下、よろしいでしょうか」
 扉の向こうから、静かな男の声がする。 

「いいよ」
 サミュエルが入室を許可すると、ゆっくりと扉が開き、長身の青年が入室してきた。
 艶やかな紫紺の髪に、切れ長の瞳。鋭い眼差しに眼鏡が特徴的な男である。落ち着いた雰囲気を身に纏い、品のある所作で入室した彼は、ベッドに横たわったままのルカとサミュエルを見て眉を顰めた。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

異世界に召喚されて失明したけど幸せです。

るて
BL
僕はシノ。 なんでか異世界に召喚されたみたいです! でも、声は聴こえるのに目の前が真っ暗なんだろう あ、失明したらしいっす うん。まー、別にいーや。 なんかチヤホヤしてもらえて嬉しい! あと、めっちゃ耳が良くなってたよ( ˘꒳˘) 目が見えなくても僕は戦えます(`✧ω✧´)

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

処理中です...