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第2章
13 ベッド上の攻防
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目を開けると、見知らぬ天井が広がっていた。
ルカは視線だけ動かして、周囲を見回した。どうやら寄宿舎の自室ではないようだ。
誰かに手を握られていた。ルカはその手を無意識のうちに握り返す。その温かさが、何故か懐かしい気がして、ルカの心に安心感をもたらした。
「 ……目が覚めたか?」
聞き覚えのある声がして、そちらに顔を向けると、金色の髪をした青年がベッドの傍らに座っていた。彼は穏やかな表情でルカの顔を覗き込んでいたが、目が合うと、ほっとしたように微笑んだ。
その笑顔が眩しくて、目が潰れそうになる。
「……ここは?」
「私の部屋だ。君は気絶してしまって、全く起きないし。講堂まで行くのも無理なようだったから、とりあえず連れて来た」
二人部屋のルカの自室より明らかに広い部屋だった。調度品も高級感が漂っており、ルカが寝ているのも大きなベッドで寝心地も良いものだ。
部屋の中にベッドが一つしかないので、彼は一人部屋なのだろう。つまり、彼は一般の生徒とは一線を画する立場の人間であるということだ。
彼は制服から私服に着替えていた。白いシャツに、細身の黒のパンツというシンプルな出で立ちだが、なぜか優美に見える。
ルカも制服を汚してしまったからか、寝間着のような衣服に着替えさせられていた。
誰が着替えさせたのだろうか。
考えていると顔に熱が集まり、変な汗が出てきたので思考を止めた。
ルカはずっと握ってくれていたらしい彼の手をそっと外すと、無言でベッドから床に降り、そのまま平伏した。
「申し訳ございません。この度はとんだご無礼を。煮るなり焼くなり切るなり、お好きなように処分してください」
平伏したまま淡々と謝罪するルカを、この国の第二王子サミュエルと思われる青年は困ったように眺めた。
「いや……別に怒ってはないから顔を上げてくれ。それより、気分はどうだ?まだ顔色が良くない気がするが」
「……問題ございません」
ルカは平伏したまま、首を横に振る。
「それなら良いが。……とりあえず床に座ってないで、ベッドに上がっておいで」
「いえ、このままで」
「私が嫌なんだ」
頑なな態度のルカに、サミュエルは苦笑し、少し強い口調で告げた。
「じゃあ、命令だ。ベッドに上がって」
「……承知しました、では失礼します」
王子様の命令ならば、従わないわけにはいかない。
ルカは一度立ち上がり、指示されたとおりベッドに座った。すると、サミュエルもすぐ隣に腰を下ろしてきた。肩が触れそうなくらいの距離である。
(…む…近いな……)
パーソナルスペースが広いルカは、その距離の近さに困惑した。
日常的にご主人様以外の人間と接触することがなかったため、至近距離の相手に免疫がないのだ。
ルカが身を硬くしながら僅かに身を引いていると、サミュエルはルカを見つめたまま、何故か更に距離を詰めてきた。
そして、ルカの髪を優しく撫でたかと思うと指を滑らせ、左耳の耳朶を軽く摘まんでくる。そのまま、ルカの耳朶をふにふにと弄りだした。
サミュエルの目的が解らず、ルカは混乱した。
「あの、なにを……?」
「いや、珍しいイヤーカフだなと思って」
ルカの左耳には、ご主人様に無理矢理贈られたピアスが装着されている。柘榴石が嵌め込まれたものだ。
「これは、魔道具?」
「もらったものなので、詳しくは知らないです……」
「へえ……」
サミュエルは面白がるような口調で頷くと、ルカのピアスに触れたまま、さらに顔を近づけてきた。
「もっとよく見せてくれるか?」
サミュエルの顔が間近に迫る。あまりに端整な顔立ちに気圧されて、思わず後ろに仰け反り、ルカはベッドに倒れ込んでしまった。
すると、なぜかサミュエルがルカの上に覆い被さるように、ベッドに片手をつく。
「え?」
至近距離で視線が絡み合う。
まるで押し倒されたような体勢になってしまい、ルカはさらに混乱した。どういう状況だ、これ。
「これ、ちゃんと見たいから外してもいいかな?ちょっと失礼する」
サミュエルは再びルカの左耳に手を伸ばしてきた。耳を飾るピアスを外すつもりなのだろう。咄嗟に、ルカは左耳を両手で庇うように覆った。
「あの、申し訳ございません…これは……どうかお許しを」
手を耳に触れさせたまま、ルカが上目遣いで懇願すると、サミュエルはふっと笑った。
「なるほど?これは特別な相手から贈られたものだから、外したくない、ということかな」
「えっと……」
ご主人様に絶対に外すなと命令されたものなので、外すことはできないのである。勝手に外したら殺すと脅されている。ルカはご主人様に逆らうことはできないし、まだ死にたくない。
そんな事情を素直に伝えても良いのだろうか。
どう答えたものか考えあぐねていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「殿下、よろしいでしょうか」
扉の向こうから、静かな男の声がする。
「いいよ」
サミュエルが入室を許可すると、ゆっくりと扉が開き、長身の青年が入室してきた。
艶やかな紫紺の髪に、切れ長の瞳。鋭い眼差しに眼鏡が特徴的な男である。落ち着いた雰囲気を身に纏い、品のある所作で入室した彼は、ベッドに横たわったままのルカとサミュエルを見て眉を顰めた。
ルカは視線だけ動かして、周囲を見回した。どうやら寄宿舎の自室ではないようだ。
誰かに手を握られていた。ルカはその手を無意識のうちに握り返す。その温かさが、何故か懐かしい気がして、ルカの心に安心感をもたらした。
「 ……目が覚めたか?」
聞き覚えのある声がして、そちらに顔を向けると、金色の髪をした青年がベッドの傍らに座っていた。彼は穏やかな表情でルカの顔を覗き込んでいたが、目が合うと、ほっとしたように微笑んだ。
その笑顔が眩しくて、目が潰れそうになる。
「……ここは?」
「私の部屋だ。君は気絶してしまって、全く起きないし。講堂まで行くのも無理なようだったから、とりあえず連れて来た」
二人部屋のルカの自室より明らかに広い部屋だった。調度品も高級感が漂っており、ルカが寝ているのも大きなベッドで寝心地も良いものだ。
部屋の中にベッドが一つしかないので、彼は一人部屋なのだろう。つまり、彼は一般の生徒とは一線を画する立場の人間であるということだ。
彼は制服から私服に着替えていた。白いシャツに、細身の黒のパンツというシンプルな出で立ちだが、なぜか優美に見える。
ルカも制服を汚してしまったからか、寝間着のような衣服に着替えさせられていた。
誰が着替えさせたのだろうか。
考えていると顔に熱が集まり、変な汗が出てきたので思考を止めた。
ルカはずっと握ってくれていたらしい彼の手をそっと外すと、無言でベッドから床に降り、そのまま平伏した。
「申し訳ございません。この度はとんだご無礼を。煮るなり焼くなり切るなり、お好きなように処分してください」
平伏したまま淡々と謝罪するルカを、この国の第二王子サミュエルと思われる青年は困ったように眺めた。
「いや……別に怒ってはないから顔を上げてくれ。それより、気分はどうだ?まだ顔色が良くない気がするが」
「……問題ございません」
ルカは平伏したまま、首を横に振る。
「それなら良いが。……とりあえず床に座ってないで、ベッドに上がっておいで」
「いえ、このままで」
「私が嫌なんだ」
頑なな態度のルカに、サミュエルは苦笑し、少し強い口調で告げた。
「じゃあ、命令だ。ベッドに上がって」
「……承知しました、では失礼します」
王子様の命令ならば、従わないわけにはいかない。
ルカは一度立ち上がり、指示されたとおりベッドに座った。すると、サミュエルもすぐ隣に腰を下ろしてきた。肩が触れそうなくらいの距離である。
(…む…近いな……)
パーソナルスペースが広いルカは、その距離の近さに困惑した。
日常的にご主人様以外の人間と接触することがなかったため、至近距離の相手に免疫がないのだ。
ルカが身を硬くしながら僅かに身を引いていると、サミュエルはルカを見つめたまま、何故か更に距離を詰めてきた。
そして、ルカの髪を優しく撫でたかと思うと指を滑らせ、左耳の耳朶を軽く摘まんでくる。そのまま、ルカの耳朶をふにふにと弄りだした。
サミュエルの目的が解らず、ルカは混乱した。
「あの、なにを……?」
「いや、珍しいイヤーカフだなと思って」
ルカの左耳には、ご主人様に無理矢理贈られたピアスが装着されている。柘榴石が嵌め込まれたものだ。
「これは、魔道具?」
「もらったものなので、詳しくは知らないです……」
「へえ……」
サミュエルは面白がるような口調で頷くと、ルカのピアスに触れたまま、さらに顔を近づけてきた。
「もっとよく見せてくれるか?」
サミュエルの顔が間近に迫る。あまりに端整な顔立ちに気圧されて、思わず後ろに仰け反り、ルカはベッドに倒れ込んでしまった。
すると、なぜかサミュエルがルカの上に覆い被さるように、ベッドに片手をつく。
「え?」
至近距離で視線が絡み合う。
まるで押し倒されたような体勢になってしまい、ルカはさらに混乱した。どういう状況だ、これ。
「これ、ちゃんと見たいから外してもいいかな?ちょっと失礼する」
サミュエルは再びルカの左耳に手を伸ばしてきた。耳を飾るピアスを外すつもりなのだろう。咄嗟に、ルカは左耳を両手で庇うように覆った。
「あの、申し訳ございません…これは……どうかお許しを」
手を耳に触れさせたまま、ルカが上目遣いで懇願すると、サミュエルはふっと笑った。
「なるほど?これは特別な相手から贈られたものだから、外したくない、ということかな」
「えっと……」
ご主人様に絶対に外すなと命令されたものなので、外すことはできないのである。勝手に外したら殺すと脅されている。ルカはご主人様に逆らうことはできないし、まだ死にたくない。
そんな事情を素直に伝えても良いのだろうか。
どう答えたものか考えあぐねていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「殿下、よろしいでしょうか」
扉の向こうから、静かな男の声がする。
「いいよ」
サミュエルが入室を許可すると、ゆっくりと扉が開き、長身の青年が入室してきた。
艶やかな紫紺の髪に、切れ長の瞳。鋭い眼差しに眼鏡が特徴的な男である。落ち着いた雰囲気を身に纏い、品のある所作で入室した彼は、ベッドに横たわったままのルカとサミュエルを見て眉を顰めた。
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