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第1章
02 悪夢
しおりを挟む「……カ。……ルカ」
名前を呼ばれて、ルカはハッと我に返った。目の前には心配そうな表情で自分の顔を覗き込む、まだ幼い少年の顔がある。
「……大丈夫か?またうなされてたぞ?」
隣で寝ていたはずのレオに手を貸してもらって体を起こすと、額には玉のような汗があった。背中にもしっとりとした感触があって、思わず舌打ちをしたくなる。夢を見た後は決まってこうだった。
「水……」
「え?」
呟きは小さかったけれど、どうやらレオには聞こえていたようで、「ちょっと待ってろ」と言って当たり前のように部屋から出て行った。
周囲はまだ薄暗くて、部屋の中もまだよく見えない。目を凝らすようにして見ると、窓越しに見える夜空には星が煌めいていた。まだ夜中なのを認識すると同時に、こんな時間にまた自分のせいでレオを起こしてしまったのかと思って申し訳なくなる。最近はほとんど見なくなっていたのに、やはり今日は駄目だったらしい。暫くすると、レオがコップを持って戻ってきた。
「ゆっくり飲め」
「……ありがとう」
コップに入った冷たい水を飲んでいると、少しずつ現実に引き戻されてくるような気がした。レオの手が伸びてきて目尻に触れてきたため視線を上げると、暗闇の中でも光を放つ金色の瞳が心配そうにしていることに気づく。
「また、いつもの夢見たのか?」
その通りだったのでこくりと小さくうなずくと、レオは少しだけ眉を寄せながら言った。
「だから、一緒に寝てやるって言ってんのに」
「……いや、流石にもう年齢的に、恥ずかしいんだけど」
「俺らまだ子どもだし。眠れないよりマシだろ?恥ずかしいなら、チビたちが突撃してくるより早く起きれば問題ない」
ルカは淡々と語るレオの言葉を聞いて、まぁそう言われればそうかなという気持ちになってくる。しかし、このままでは一人で眠れなくなってしまう。
「ほら、こっち来い」
レオが自分の布団を上げてくれたので、ルカは思考を放棄した。以前のように彼と同じ布団に潜り込むと、自然とその腕の中に引き寄せられる。涙に濡れていた目尻を舌で舐め取られ、ルカはくすぐったくて思わず笑ってしまった。
「……夢の中でお前を苦しめてる奴、退治してやりたいな」
耳元で囁かれた優しい声音の言葉に心が温かくなる。
「……うん。ありがとう」
レオのその気持ちが気恥ずかしいのと同時に嬉しくて、ルカが思わずぎゅうっと抱きつくと、彼が小さく笑ったのが分かった。背中に回されていた手に力が込められる。
大人になった君に殺される夢だと告げたら、彼は一体どんな顔をするのだろう。
「……ルカ、流星群、見に行かなくて本当に良かったのか?今日が一番よく見られる日らしいぞ。しかも、次は二百年後。気分転換に、ちょっとだけ外に出て見てみるか?」
窓の外の夜空を眺めながら、レオが突然そんなことを言い出した。
「……駄目だ、今日は新月だよ。魔物が活発に動く日だ」
「そうだけど。これ逃したら、次は二百年後なんだぞ?お前、ずっと気にしてただろ、流星群」
レオに指摘されてルカは口籠もった。密かに気にしていたのを彼に見抜かれていたようだ。今日が流星群が一番よく見える日だと、ルカは最初から知っていた。そのうえで今日は絶対に引き籠もって外出しないと決めていたのだ。本音はめちゃくちゃ見に行きたい。けれど、今日は駄目なのだ。
ルカはレオの背中に回していた手に力を込めた。
「……今日じゃなくて、いい。もう少し、月が満ちてから、一緒に、見に行こう」
ルカの言葉を受けて、レオは夜空からルカの方へゆっくりと視線を戻す。
「……お前がそうしたいなら、それでいいよ。分かった。約束な」
レオが優しく微笑んでくれたので、ルカも笑顔でうなずいた。「おやすみ」と言う優しい声とともに、額に柔らかい感触が落ちる。約束を交わしたことに安堵し、ルカは彼にすり寄ると、そのまま大好きな幼馴染の腕の中で目を閉じた。
温かい体温に包まれて頭を優しく撫でられれば、すぐに睡魔が襲ってくる。
この少年の腕の中であれば、安心感に包まれて悪夢も消え、心地の良い眠りにつくことができることを、ルカは嫌というほど知っていた。
その日は、それ以上悪夢をみることはなかった。
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