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第5章 相思
欲望の果てに
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牢部屋の窓の向こうに五回陽が昇り、五回陽が落ちた。
囚われの身の久遠は、何も強要されない反面できることも何ひとつなくひとりで過ごす時間のすべてを瞑想と潜考に当てていた。
一時気絶するほど煌気を激しく消耗した久遠だったが、数日身体を休めた今、ほんのわずかだが煌気が回復しているのを感じていた。と言っても簡単な術を短時間だけ使える程度の量と思われる。久遠の頭の中にはある計画があり、そのためにはさらに煌気を蓄積させる必要があった。
(僕は回復の速度も遅いからな…人質がこんなだと明夜もさすがに興味湧かないだろうな)
明夜とはあの夜以来会っていない。この砦にいるはずなのに、永遠の弟である自分の顔を見に来ないことが最初のうちは不思議だったが、別にその必要もないのだろうと思うとたちまち気にならなくなっていた。
(明夜が来ないのは好都合だけど、ほんとに誰も来ないし不気味なくらい何も起こらない…いるのは牢番だけ…)
牢部屋の入り口の外側には見張り役が交替で詰めている。しかし彼らは久遠の一挙手一投足に終始目を光らせているわけではなく、彼が力を使い果たして鍵のかかった檻の中にいることに安心しきっているのか、椅子の上で欠伸をしたり背伸びをしたり、脚をぶらぶらさせて鼻歌を歌ったりと緊張感がまるでなかった。
(僕より迦楼羅の方が大事なんだからしかたないか…とりあえず瑞葉の精髄さえ無事なら…)
薄く目を開け服の胸の上から首飾りをそっと押さえたとき別の人間が階段を上ってきた。
「お疲れ様」
その声に久遠は耳をぴくりと反応させた。
(…ん?女性か…)
煌狩りの団員には女性も多くいるとの話だったので、さして不思議ではない。声をかけられた牢番の男が応対する。
「ああ、お疲れ様」
「退屈でしょ。ほら、葡萄酒。一杯だけもらってきたから気晴らしに飲みなよ」
「ほんとかい?悪いね」
その後二人は少しの間葡萄酒を飲みながら小声で雑談していたが、牢番の男の方はたった一杯ですっかり酩酊してしまったようだ。
「もう酔っ払っちゃったの?」
「ああ…うーん…疲れてるのかなぁ」
「そうかもね。ここは川の流れる音も気持ちいいし」
「…」
男はそれきり静かになった。机に突っ伏して、どうやら眠ってしまったらしい。
(…何やってるんだろ)
久遠が内心首を傾げていると不意にその女性がこちらに顔を向け歩いてきた。一歩ずつ近づくほどに月明かりが広い面を照らし出し、彼女の容姿を明らかにした。すらっとした四肢に長い黒髪、白い頬。化粧っ気のないさっぱりとした目許は綺麗に切れ上がり、気の強そうな唇は固くきゅっと結ばれている。美男美女の同胞を見慣れた久遠もひと目で美人だと思う容姿だった。
その女性も、牢の真ん中に胡座を組んだ久遠の顔を穴が開くほどまじまじと眺め回していたが、やがてこうつぶやいた。
「驚いた…ほんとにそっくり。まるで永遠がいるみたい」
「…え?」
久遠は目をまんまるにして呆気に取られた。彼女の両の下まぶたが切なそうにかすかに持ち上がる。
「あたし、このときを待ってたんだ。…何も知らない、自分たちも騙されてたと嘘をつき通して、静夜さんを叛逆者呼ばわりする奴らに同調しなきゃいけないのは本当に嫌だったけど、それを貫いたおかげであたしと兄貴は追及の目を逃れて組織に残り、信用を保ち、あたしは新しい拠点の鍵の保管庫の番人の役目を勝ち取った。いつかこんな日が来たときのためにと思って」
(この人…!)
久遠は自分の姉が世話になり、その安否を心配していた人の存在を忘れてはいなかった。
「明夜はつくづくかわいそうな奴…誰かと真実の絆を結んだことのない明夜には、静夜さんがどれだけみんなから慕われ、信頼されてたか、そんなことすらわからないんだ。だからあたしたちが静夜さんに道を開くために静夜さんの敵を演じてるだなんてこれっぽっちも疑ってない…みんなも静夜さんのことを口では批判しながら、心の中では懐かしみ、待ち望んでるってのに…まるで裸の王様さ」
「君は…耶宵さん、だね」
「あたしはあんただとすぐわかったよ、久遠くん。ねえ、永遠と静夜さんは無事?元気なの?」
「いろいろあってかなり疲れてはいるけど…大丈夫」
「…よかった」
耶宵は鉄格子に膝が擦れるほど近くにしゃがみ込んでささやいた。
「怪しまれないよう少ししか眠り花の粉を入れられなかったからあまり長く話せないけど、これだけは言っとく。静夜さんはきっとあんたを助けに来てくれる…静夜さんを信じて、もう少し我慢して」
「…静夜が、僕を?なんで…」
そんな無意味で無謀なことを、と思った直後、迦楼羅を取り戻さなきゃいけないからだと考えて久遠は思わず鼻先に軽い笑みをこぼした。耶宵はきょとんとする。
「どうかした?」
「ううん、何でも…それより、耶宵さん…」
鍵の保管庫に出入りできるなら、今すぐに迦楼羅を出してここに持ってきて欲しいーー久遠はそう言おうとしてやめた。まだ秘密を貫くべきだと思ったのだ。
「いや、ごめん、本当に何でもない。今のは忘れて」
耶宵は溜め息をついてから立ち上がる。
「何があったかは知らないけど…もっと自分を大事にしなよ。じゃ、あたしは戻るね」
牢番が目覚める前に耶宵は急ぎ足で立ち去った。
(静夜、まさか本気で助けに来るつもりじゃないだろうな…だいたいどうやってここを見つけるんだよ…)
瞑想に戻ろうと床に座り直したときだった。
…ズン…ズン…ォォォォ…
尻の遥か下の方から地響きのような振動と獣の咆哮のような音が伝わってきて、久遠は思わず顔をしかめた。
「…何だ、今の音…」
久遠がつぶやいた直後、辺りはもう静寂に包まれていた。
五人が目指す瑪瑙の窟は赤茶けた山間を流れる深い渓流沿いの岩山に掘り抜かれた巨大な洞窟だった。同じ拠点でも真鍮の砦とは異なり、地表に建てられる物見の塔や堡塁などの構築物はほとんど見られず、耶宵の地図によると大部分の通路や空間が切り立つ岩山の内部に蟻の巣のように張りめぐらされ、最奥部は渓谷の片面の崖に突き当たっているようだった。
夕暮れ迫る森の中、五人は樹陰に身を潜めて様子を窺いながら侵入する方法を話し合っていた。
「やっぱり正面突破ってのはまずくない?速攻で大騒ぎになっちゃうよ」
「でも他の通用口もきっと見張られてるはずです…ここは真鍮の砦のように物理的に忍び込める箇所がありませんので、少し難しいですね…」
彼らの視線の先には門番が水も漏らさぬ厳しい目つきで警備に当たっている窟の門がある。そこでは時折森を抜けてやってくる物資の運搬人や巡回当番が出入りする光景が見られる。いずれも検査は厳重のようだ。
「このまま夜になると通行不可になるかもしれない。その前に中に入りたいが、俺と暁良は面が割れてるし、原礎の三人は目立つから変装しても無意味だな…」
「変装がバレたら即座に倒して強行突破すればいい」
「変装するなら中途半端にするよりいっそ葉になっちゃった方がいいよ」
曜が物騒なことを言い出したとき、それまで黙って四人の話し合いの様子を眺めていた瞬があっけらかんとした調子で出し抜けに割り込んできたので、四人は一斉に驚きの顔を向けた。
「瞬様、葉になるとはいったい…」
「瑞葉の秘術のひとつ、“葉変”の術だよ。自分の姿を一時的に葉に変えて行動できるんだ。どこにでもある葉っぱなら、荷物や上衣に隠れられるから簡単に中に入れるよ」
「ほんとですか!?そんな秘術があるなら先におっしゃってくださいよ、瞬様!」
「他に名案があればそれに従おうと思って。だって主役はあくまで若者たちだからね」
別段大したこともなさそうににこにこと満面の笑みを浮かべている瞬に、若者たちは少し不甲斐ない思いを味わいつつ、その力に甘えさせてもらうことにした。
「あ、ほら、見て。次の荷物が到着したよ。あれに紛れ込もう」
瞬が指差した方を見ると、黄昏の薄闇の中から光とガラガラという音がして、ランプを点した荷馬車がやってくる。今日の最後の届け物だろう。
「術者の僕を含めて五人だから、五枚の小葉が一本の葉柄についた複葉になる。変身中は君たちは会話も身動きもできないけど、僕が煌気の流れに乗せて連れていってあげるから安心してね」
瞬は四人に、自分の両腕に二人ずつ手を置くよう指示した。そして目を閉じ、祈りを込めた煌気を全身の隅々にまで満たした。五人の姿は金色の淡い輝きに溶けてみるみるうちに輪郭を変え、輝きが消えたとき、そこには人の影も形もない代わりに一枚の複葉がひらひらと舞っていた。
(…!!)
葉の姿に変わるのが初めての四人は地面に足がつかず身体がふわふわと風に煽られて奇妙な気分になった。何とも言えない不思議な体感だが、瞬が無事に導いてくれると信じて煌気の流れに身を委ねていると、複葉はそよ風に乗ってすーっと荷馬車に近づいた。
「ご苦労様です」
荷馬車から袋や木箱が続々と下ろされ、門から出てきた下働きの者たちが慣れた動作でそれらを抱え上げる。その中の緑の野菜が詰まった袋に五人は滑り込んだ。何も知らない担当者たちはそれらをどんどんと中に担ぎ込んでいく。鮮やかな緑色の野菜の葉の隙間に紛れた五人は運ばれる動きに揺られながら周りの様子を観察した。彼らの視力は葉に姿を変えてもすこぶる良好で、洞窟の天井や壁に露出した天然の鉱物の美しい縞模様や色味まで詳細に視認できた。
彼らは食糧庫に運び込まれた。その後もいくつか袋と木箱が持ち込まれ、積み上げられる。そして仕事を終えた下働きの者たちがぶつぶつと文句を垂れながら出ていくのを待ってから瞬は術を解いた。元の姿に戻った五人は見事に潜入を果たした安堵に胸を撫で下ろした。瞬が上機嫌でぱちりと片目を瞑った。
「うまくいったね」
「…助かりました」
暁良以外の四人は急いで煌狩りの団員の変装をし、頭巾を目深に下ろした。着込むのは大森林に残してきた部下たちから借りた揃いの上衣だ。
「さて、どうする?」
「耶宵のいる鍵の保管庫に行く。それから久遠の牢だ」
五人はうなずき合い、暁良を先頭にして通路に出、あえて人目を忍ぶことなく堂々と歩き始めた。すると案の定呼び止められた。
「あれっ?暁良さんじゃないですか。こっちに来てたんですね」
「ああ。一時的にだけどな」
真鍮の砦で静夜と暁良とは別の所属だった若者だ。とっさに勘を働かせたその者は声を低めてこう尋ねた。
「ということは、副首領が見つかったんですか?」
静夜は一瞬ひやりとする。暁良は落ち着いて首を振った。
「そうですか…。早く見つかって欲しいですけど、ご自身で逃亡なさったからにはそれ相応の覚悟がおありなんでしょうね…やっぱりもうお会いできないのかな…」
若者は落胆の色をありありとにじませ、それからころっと表情を変えた。
「ところで暁良さん、後ろの人たちは?」
「新入りだ。入ってまだ日が浅いので機密保持のため視界を遮ってる。これから面談だ」
「そうですか。それはお疲れ様です」
信用のある暁良が何食わぬ顔で嘘をつくと若者は露ほども疑わずに道を開けて五人を通し、笑顔で離れていった。
(暁良…あのとき、しばらく耶宵と一緒に組織に留まって時機を待つと言っていたが、見事に役割を果たしてくれたな…もちろん耶宵も)
静夜は暁良の背中に頭巾越しに信頼のまなざしを注いだ。
耶宵の地図を頭に叩き込んである暁良は四人の先に立って迷わず進んでいった。ところが途中で最後尾にいた瞬が小さく声を上げた。
「みんな、待って。…こっちの脇道の奥に少しだけ煌気を感じるんだ」
それを聞いて曜と界が頭巾の陰からその方向の先に目を凝らす。
「…ほんとだ」
「久遠の気配かな…」
「でも牢はここではなくもっと上層部です」
「場所を移されたのかもしれない。静夜くん、ちょっと確かめてみてもいいかな」
「手短にお願いします」
警備と鉢合わせしないことを祈りながら五人は道をそれてそちらに歩いていった。
謎の通路はすぐに重厚感のある大きな扉に突き当たった。牢獄の入り口には見えない。だがその扉の意匠に静夜は見覚えがあった。
「…開けますよ」
静夜と暁良が両開きの扉を慎重に押し開け、五人は内部に足を踏み入れた。そしてそこに広がる驚くべき光景に思わず息を呑んだ。
「な…何だ、ここ…!」
最初彼らはここを死体の安置室だと思った。なぜなら篝火に照らされた広い空間の両側の壁一面に据えつけられる形で窓つきの長い筺がずらりと並べられていて、金色に発光する内部に瞑目する裸の人体が納められており、その様が棺に見えたからだ。だが事実はどうやら違うらしいということは、こわごわ近づいてその明らかに木製ではない奇妙な光沢を放つ棺らしきものの窓の中を覗き込んでみるとすぐにわかった。瞬が顔をしかめて言った。
「これは棺桶でも死体でもない…生きている人間だ」
「…い、生きてるんですか、これ…!」
曜は恐れおののきながらも怖いもの見たさが勝ち、首を伸ばしてしげしげとその中身を眺める。すると確かに中に納められた人間は肌も髪もつやつやとした生気にあふれていて、今にもまぶたを持ち上げそうだ。瞬は筺体の透明な窓に掌をかざし、うなずいた。
「僕が感じたかすかな煌気はこの中から漏れてきたものらしい。見て、中は煌気で満たされてる。まるで母親の子宮だ」
「採取された煌気を転用したんでしょうか…いずれにせよここで何かおぞましい実験が行われてるのは間違いなさそうですね」
「耶宵の言っていた助けたい人たちとは、もしかしてこの人間たちなのでしょうか…」
静夜たちも手近な筺体に近寄ってそれらをつぶさに観察した。油を塗ったように光る金属質の表面や、それに接続された管、周囲にびっしりと配置された無数のからくり仕掛けもまた、静夜の記憶に残るものに酷似していた。
(真鍮の砦の採煌装置と同じ材質だ…採煌装置の構造を応用しているのか?しかし、何のためにこんなものを…)
煌気は原礎たちから採取されたものとして、それが溶鉱炉や武器工房の動力としてではなくなぜ人間に対して使われているのかーー見るにつけ五人は胸の底がだんだんと薄ら寒くなるのを抑えられなかった。
「この人間たちはどういう人たちなんだろう?組織の団員なのかな」
「そもそも、人間をこんなにも濃密な煌気にどっぷり浸して大丈夫なのか?肉体は耐えられるのか?」
「静夜、キミもこの実験に関わってたの?」
「俺は原礎の捕縛と採煌には携わったが、人間に対してこんな実験が行われていたことは知らなかった…暁良、おまえは何か知らないか?」
「わ、私にもわかりません…!静夜さんが知らないことを私が知ってるわけないじゃないですか…!こんな恐ろしいもの見たのは初めてですよ…」
同じ生身の人間に加えられた非道な行いを想像して暁良はぞっと身震いした。
五人の口から疑問が次々と噴出したが、ひとつでも答えられる者はこの場にはひとりもいない。…ただひとりを除いて。
「その問いのすべてに答えをやろう」
突如発せられた男の野太い声が空間いっぱいに反響した。瞬以外は知っている声だ。
「…!!」
五人が振り向き身構えると、入り口とは反対側の奥のもうひとつの扉から明夜がゆらりと歩み寄ってくる。王のような豪奢な毛皮の上衣をまとい、威風堂々たる首領ぶりを醸そうとしているようだが、頬は痩せこけ、顔は鼠色で、風格どころか明らかに健康を害している。ただその落ち窪んだ目は爛々と輝いて静夜を絡め取ろうと狙っていた。
「やはり来たな、我が愛しの息子。ようこそ、新しい家へ」
芝居がかった手振りと抑揚で歓迎の意を表す明夜に、静夜は一片の揺らぎもない冷徹なまなざしを向けた。
「俺はもうあなたの息子じゃない。あなたとも煌狩りとも訣別した。…それよりこの実験室は何だ!?採煌装置に溶鉱炉、それに迦楼羅の複製…この上にまだどんな悪事を企んでる!?」
「知りたければ教えてやろう。黄泉様と俺たち煌狩りの計画の全貌を」
明夜は肩を震わせてクックッと気味の悪い笑みを漏らす。
「察しのとおり、その中に入っているのは人間だ。家族のいない者やひとり旅の者や家出人などは消えても誰にも気づかれず心配もされない格好の的でね。そういう人間を適当に拉致してきてその筺体に入れ、集めた煌気で満たし、いわば煌気漬けにしてるんだよ」
「貴様…人間を、命ある存在を何だと思ってる!!」
曜が声を荒らげたが明夜は歯牙にもかけず陶酔したように朗々と語った。
「全身まるごと煌気に浸かり続けたら人体はどうなるか?実験結果は予想どおりであり、また思惑違いでもあった。直接煌気を取り込んだ彼らの肉体は確かに屈強に発達し、腕力と体力は桁違いで、いくら活動しても疲れ知らずだった。だが頭脳と精神という点ではひと筋縄ではいかない。ほとんどは比較的従順に言うことを聞く者たちで、俺たちは彼らを“煌人”と呼んで調教したが、中には異常なほど凶暴で手に負えない奴らもいた。そいつらは“狂人”と名づけた」
人倫にもとる非道な行為の自供を五人は真っ青な顔で突っ立って聞いている。静夜は自分が副首領のひとりという要職にありながら組織の全容のうちのほんのひと握りの事実しか知らなかったことに内心臍を噛んでいた。
「煌人と狂人を生み出していったい何を…」
呆然としながら界が問うたが、それは質問というよりただのつぶやきのようだった。それに対して明夜は自分の謀に恍惚とするような表情で答えた。
「煌人は労働者にも戦士にもなれる。それゆえ拠点や工場の建設に従事させ、迦楼羅の複製を始めとする武器を作らせる。それを用いて原礎が絶滅するまで狩り、煌気を奪い、さらなる動力源と迦楼羅の複製と煌人を増やす無限の循環を作るという、実に素晴らしく実り豊かな計画だよ」
その出発点が静夜と迦楼羅の強奪だったということだ。だが瞬はその仕組みの致命的な綻びに気づいている。
「原礎が死に絶えたらそのときは煌気も星から消える。それでは無限の循環など到底成り立たない。結局は原礎の存在なしでは人間は生きられないと、最悪の形でおまえたちは学ぶことになる」
「俺たちの計画に抜かりはない。黄泉様がすべて解決してくださる」
明夜の濁った眼球に含意のある光が宿る。静夜が追及しようとしたとき、彼より先に曜が叫んだ。
「待て!おまえは煌人のことしか話していない。狂人はどうした?手に余るほど凶暴になった人間をどう扱ってきたんだ!?」
「失敗作の狂人は外に放った。異様に怪力で乱暴で頭のいかれた怪物のような人間がいるという噂がいい報告だったな。その後のさらなる研究の材料にさせてもらったよ」
「…まさか…!!」
静夜は突然ダートンでの事件を想起して慄然とした。家出して行方不明になり情緒不安定で攻撃的になって戻ってきたギル。苦悩の末やつれ果て、最期は自分の意思で命を手放すことでやっと地獄のような生から解放されたギル…。
(…ギルは煌気移植実験の犠牲者だったのか…!!)
どんなにか苦しく、恐ろしかっただろう。罪もなく、ただ人生の迷路から抜け出せなかったばかりに命を散らす運命となったか細い青年の淡い微笑みが脳裏をよぎり、熱い悲憤が静夜の胸を突き上げた。
「あなたは人間の幸福を謳い掲げながら命を冒瀆し不幸と悲しみを増やしている。そこに苦しんでいる人間に寄せる慈しみや思いやりはないのか?あなたとて、若かりし日の最初には崇高な志を抱いていたんじゃなかったのか!?」
暁良は歯を食いしばって怒りを押し殺している。幼い耶宵と肩を寄せ合いひもじさと孤独に耐えた日々が煌狩りとしての彼を支えてきたからだ。
しかし、二人の凄まじい瞋恚の形相を明夜は嘲笑混じりの鼻息ひとつであしらった。
「どんなに崇高な目的も、達成されなければ意味がない。そのためには生ぬるい正義感や人情など邪魔だ。静夜、おまえが迦楼羅を使って原礎を殺し採煌した。その行いがすべての源だ。おまえもすでに共犯だぞ」
明夜は静夜が根深く抱える罪と責任の意識に執拗に訴えかけた。
「殺した者たちの身内に囲まれて暮らすのはさぞ苦しかろう。父のもとに戻ってきて何も悩まずに以前と同じことをし続ければいい。その方が楽だ…」
レーヴンホルトの柄に手をかける静夜に、明夜は両腕を大きく広げて一歩近づく。
「恐れずともいずれ何もわからなくなる。煌人の実験が成功した暁にはおまえを煌気に浸して地上最強の戦士、忠実な殺戮人形、勇ましく美しく完璧な煌喰いの悪魔に仕立て上げてやろう。そしてともに新しい世界を見よう!」
瞬が美しい顔に静かな怒りを漲らせて言った。
「僕たち原礎にとって守るべき人間であっても、おまえだけは絶対に赦すことはできない。僕たち五人が証人となり必ずおまえに裁きを下す」
「おまえたちに俺は裁けない。なぜなら静夜はこちらに渡してもらい、あとは全員死ぬからだ!」
明夜はそう叫ぶなり、携えていた大剣を抜いて見せつけるように示した。緋色の燐光を放つ、禍々しいほどに黒い剣身だ。
「アグニの後継、“火天”だ。お姫様がいくら破壊しようと、黄泉様の工房では今もアグニの子供たちが絶え間なく生み出されている。迦楼羅もすでに我が手の内…足りないのは静夜、おまえだけだ!」
「…あなたはもはや救いようがない外道だ…俺は永遠と真鍮の砦を出るときもう誰ひとり殺さないと心に誓ったが、あなただけは赦さない…俺が今日ここで引導を渡す!」
静夜もレーヴンホルトを抜き放ち、同時に間合いを詰めた両者はその中間で相手を迎え撃つ。互いの存在をかけた壮絶な決闘が始まった。明夜は火天と血走った両眼で静夜に食らいついた。
「あと一歩で人間の幸福と救済に手が届くのだぞ、静夜!おまえもそれが唯一の願い、生き甲斐だっただろう!?」
「確かに…永遠と出会うまでは。だが星と人間に注ぐ原礎たちの愛が俺の目を醒まさせてくれた…本当の悪魔になり下がる前に」
「偉業を成し遂げようとするこの父の片腕ではなく、害悪である原礎の奴隷になるつもりか!?行き場のない同志や貧しさに苦しむ人間を見捨ててまで!」
「原礎たちは奴隷や権威など求めない!彼らも俺も、もうあなたの思いどおりにはならない…あなた自身が彼らに背を向けたんだ!!」
明夜は静夜の譴責に耳を塞ぐように狂笑しながら火天を振るい続けた。対立する自分と明夜の構図に静夜はかつての永遠と自分の姿を重ねていた。永遠の目に自分も同じように映っていたのかと思うと胸がかきむしられる。ただ自分と明夜が決定的に異なるのは、明夜にはもはや更生の望みがなく、また人間や原礎、星や礎、さらには自分や彼自身に対する欠片ほどの愛もないという点だ。
(哀れな男…こんな奴に俺は自分の人生のすべてを預けていたのか…)
虚しさと憐憫の情が彼の剣を優勢に導いた。
「静夜…!」
助太刀しようとヴィエルジュを手に走り出しかけた曜を瞬が引き留め、首を横に振る。父と子の因縁の果たし合いに手出しは無用、と言うように。
暁良と界は最初から手控えて戦いを見守っているが、事実、今の静夜に助力は不要だった。怪我を負い、迦楼羅よりも軽いレーヴンホルトひと振りだけながら力と気魄で圧倒する静夜に対し、明夜の剣技や身さばきは著しく衰えていたのだ。幼い彼に剣術の指南をした若き日の見る影もない。このままひと思いにとどめをーー心中決意した静夜に明夜は不意にニヤリと笑い、剣を弾き返して後退した。
「聞き分けのない子にはお仕置きが必要か…。むっ!」
全身に気合いが満ちるとその身がぶくぶくと膨張し、衣服を引きちぎってみるみる巨大化した。恐ろしく、醜く、危うい怪物の姿…ギルと同じ末路だ。
暁良たちは青ざめたが、静夜を信じて傍観している。
「見ろ!おまえを完璧な煌人にするためにこの父が自ら実験体になってやったぞ!!」
力を誇示するように両拳を高く突き上げ雄叫びを上げる。明夜は自らに煌気を移植し狂人となり果てていたのだ。
「いや…もう手遅れだ」
静夜はゆっくりと頭を振った。
「明夜…あなたの肉体は、もう…」
その肉体は過剰に浴びた煌気によって病み、すでに余命もわずかであることを静夜は看破していた。しかし明夜はなおも欲望と生に執着した。
「いいや、まだだ!俺の計画はまだ潰えない!」
静夜は無言でレーヴンホルトを正中に構える。その切先目がけて明夜は突進し、彼の命運は尽きた。白銀の軌跡が閃き、そして消えたとき、その巨体は血と埃に汚れて床に転がっていた。
静夜はもはや虫の息の明夜の側に立ち、怒りも憐れみもない冷厳な顔で見下ろしてこう問うた。
「最期に訊きたいことがある。どうして俺に静夜という名をつけた?」
明夜は薄く笑い、答えた。
「おまえを強奪したあの夜…風も雲もなく、月の輝きも翳らない静かな夜だったからだ」
囚われの身の久遠は、何も強要されない反面できることも何ひとつなくひとりで過ごす時間のすべてを瞑想と潜考に当てていた。
一時気絶するほど煌気を激しく消耗した久遠だったが、数日身体を休めた今、ほんのわずかだが煌気が回復しているのを感じていた。と言っても簡単な術を短時間だけ使える程度の量と思われる。久遠の頭の中にはある計画があり、そのためにはさらに煌気を蓄積させる必要があった。
(僕は回復の速度も遅いからな…人質がこんなだと明夜もさすがに興味湧かないだろうな)
明夜とはあの夜以来会っていない。この砦にいるはずなのに、永遠の弟である自分の顔を見に来ないことが最初のうちは不思議だったが、別にその必要もないのだろうと思うとたちまち気にならなくなっていた。
(明夜が来ないのは好都合だけど、ほんとに誰も来ないし不気味なくらい何も起こらない…いるのは牢番だけ…)
牢部屋の入り口の外側には見張り役が交替で詰めている。しかし彼らは久遠の一挙手一投足に終始目を光らせているわけではなく、彼が力を使い果たして鍵のかかった檻の中にいることに安心しきっているのか、椅子の上で欠伸をしたり背伸びをしたり、脚をぶらぶらさせて鼻歌を歌ったりと緊張感がまるでなかった。
(僕より迦楼羅の方が大事なんだからしかたないか…とりあえず瑞葉の精髄さえ無事なら…)
薄く目を開け服の胸の上から首飾りをそっと押さえたとき別の人間が階段を上ってきた。
「お疲れ様」
その声に久遠は耳をぴくりと反応させた。
(…ん?女性か…)
煌狩りの団員には女性も多くいるとの話だったので、さして不思議ではない。声をかけられた牢番の男が応対する。
「ああ、お疲れ様」
「退屈でしょ。ほら、葡萄酒。一杯だけもらってきたから気晴らしに飲みなよ」
「ほんとかい?悪いね」
その後二人は少しの間葡萄酒を飲みながら小声で雑談していたが、牢番の男の方はたった一杯ですっかり酩酊してしまったようだ。
「もう酔っ払っちゃったの?」
「ああ…うーん…疲れてるのかなぁ」
「そうかもね。ここは川の流れる音も気持ちいいし」
「…」
男はそれきり静かになった。机に突っ伏して、どうやら眠ってしまったらしい。
(…何やってるんだろ)
久遠が内心首を傾げていると不意にその女性がこちらに顔を向け歩いてきた。一歩ずつ近づくほどに月明かりが広い面を照らし出し、彼女の容姿を明らかにした。すらっとした四肢に長い黒髪、白い頬。化粧っ気のないさっぱりとした目許は綺麗に切れ上がり、気の強そうな唇は固くきゅっと結ばれている。美男美女の同胞を見慣れた久遠もひと目で美人だと思う容姿だった。
その女性も、牢の真ん中に胡座を組んだ久遠の顔を穴が開くほどまじまじと眺め回していたが、やがてこうつぶやいた。
「驚いた…ほんとにそっくり。まるで永遠がいるみたい」
「…え?」
久遠は目をまんまるにして呆気に取られた。彼女の両の下まぶたが切なそうにかすかに持ち上がる。
「あたし、このときを待ってたんだ。…何も知らない、自分たちも騙されてたと嘘をつき通して、静夜さんを叛逆者呼ばわりする奴らに同調しなきゃいけないのは本当に嫌だったけど、それを貫いたおかげであたしと兄貴は追及の目を逃れて組織に残り、信用を保ち、あたしは新しい拠点の鍵の保管庫の番人の役目を勝ち取った。いつかこんな日が来たときのためにと思って」
(この人…!)
久遠は自分の姉が世話になり、その安否を心配していた人の存在を忘れてはいなかった。
「明夜はつくづくかわいそうな奴…誰かと真実の絆を結んだことのない明夜には、静夜さんがどれだけみんなから慕われ、信頼されてたか、そんなことすらわからないんだ。だからあたしたちが静夜さんに道を開くために静夜さんの敵を演じてるだなんてこれっぽっちも疑ってない…みんなも静夜さんのことを口では批判しながら、心の中では懐かしみ、待ち望んでるってのに…まるで裸の王様さ」
「君は…耶宵さん、だね」
「あたしはあんただとすぐわかったよ、久遠くん。ねえ、永遠と静夜さんは無事?元気なの?」
「いろいろあってかなり疲れてはいるけど…大丈夫」
「…よかった」
耶宵は鉄格子に膝が擦れるほど近くにしゃがみ込んでささやいた。
「怪しまれないよう少ししか眠り花の粉を入れられなかったからあまり長く話せないけど、これだけは言っとく。静夜さんはきっとあんたを助けに来てくれる…静夜さんを信じて、もう少し我慢して」
「…静夜が、僕を?なんで…」
そんな無意味で無謀なことを、と思った直後、迦楼羅を取り戻さなきゃいけないからだと考えて久遠は思わず鼻先に軽い笑みをこぼした。耶宵はきょとんとする。
「どうかした?」
「ううん、何でも…それより、耶宵さん…」
鍵の保管庫に出入りできるなら、今すぐに迦楼羅を出してここに持ってきて欲しいーー久遠はそう言おうとしてやめた。まだ秘密を貫くべきだと思ったのだ。
「いや、ごめん、本当に何でもない。今のは忘れて」
耶宵は溜め息をついてから立ち上がる。
「何があったかは知らないけど…もっと自分を大事にしなよ。じゃ、あたしは戻るね」
牢番が目覚める前に耶宵は急ぎ足で立ち去った。
(静夜、まさか本気で助けに来るつもりじゃないだろうな…だいたいどうやってここを見つけるんだよ…)
瞑想に戻ろうと床に座り直したときだった。
…ズン…ズン…ォォォォ…
尻の遥か下の方から地響きのような振動と獣の咆哮のような音が伝わってきて、久遠は思わず顔をしかめた。
「…何だ、今の音…」
久遠がつぶやいた直後、辺りはもう静寂に包まれていた。
五人が目指す瑪瑙の窟は赤茶けた山間を流れる深い渓流沿いの岩山に掘り抜かれた巨大な洞窟だった。同じ拠点でも真鍮の砦とは異なり、地表に建てられる物見の塔や堡塁などの構築物はほとんど見られず、耶宵の地図によると大部分の通路や空間が切り立つ岩山の内部に蟻の巣のように張りめぐらされ、最奥部は渓谷の片面の崖に突き当たっているようだった。
夕暮れ迫る森の中、五人は樹陰に身を潜めて様子を窺いながら侵入する方法を話し合っていた。
「やっぱり正面突破ってのはまずくない?速攻で大騒ぎになっちゃうよ」
「でも他の通用口もきっと見張られてるはずです…ここは真鍮の砦のように物理的に忍び込める箇所がありませんので、少し難しいですね…」
彼らの視線の先には門番が水も漏らさぬ厳しい目つきで警備に当たっている窟の門がある。そこでは時折森を抜けてやってくる物資の運搬人や巡回当番が出入りする光景が見られる。いずれも検査は厳重のようだ。
「このまま夜になると通行不可になるかもしれない。その前に中に入りたいが、俺と暁良は面が割れてるし、原礎の三人は目立つから変装しても無意味だな…」
「変装がバレたら即座に倒して強行突破すればいい」
「変装するなら中途半端にするよりいっそ葉になっちゃった方がいいよ」
曜が物騒なことを言い出したとき、それまで黙って四人の話し合いの様子を眺めていた瞬があっけらかんとした調子で出し抜けに割り込んできたので、四人は一斉に驚きの顔を向けた。
「瞬様、葉になるとはいったい…」
「瑞葉の秘術のひとつ、“葉変”の術だよ。自分の姿を一時的に葉に変えて行動できるんだ。どこにでもある葉っぱなら、荷物や上衣に隠れられるから簡単に中に入れるよ」
「ほんとですか!?そんな秘術があるなら先におっしゃってくださいよ、瞬様!」
「他に名案があればそれに従おうと思って。だって主役はあくまで若者たちだからね」
別段大したこともなさそうににこにこと満面の笑みを浮かべている瞬に、若者たちは少し不甲斐ない思いを味わいつつ、その力に甘えさせてもらうことにした。
「あ、ほら、見て。次の荷物が到着したよ。あれに紛れ込もう」
瞬が指差した方を見ると、黄昏の薄闇の中から光とガラガラという音がして、ランプを点した荷馬車がやってくる。今日の最後の届け物だろう。
「術者の僕を含めて五人だから、五枚の小葉が一本の葉柄についた複葉になる。変身中は君たちは会話も身動きもできないけど、僕が煌気の流れに乗せて連れていってあげるから安心してね」
瞬は四人に、自分の両腕に二人ずつ手を置くよう指示した。そして目を閉じ、祈りを込めた煌気を全身の隅々にまで満たした。五人の姿は金色の淡い輝きに溶けてみるみるうちに輪郭を変え、輝きが消えたとき、そこには人の影も形もない代わりに一枚の複葉がひらひらと舞っていた。
(…!!)
葉の姿に変わるのが初めての四人は地面に足がつかず身体がふわふわと風に煽られて奇妙な気分になった。何とも言えない不思議な体感だが、瞬が無事に導いてくれると信じて煌気の流れに身を委ねていると、複葉はそよ風に乗ってすーっと荷馬車に近づいた。
「ご苦労様です」
荷馬車から袋や木箱が続々と下ろされ、門から出てきた下働きの者たちが慣れた動作でそれらを抱え上げる。その中の緑の野菜が詰まった袋に五人は滑り込んだ。何も知らない担当者たちはそれらをどんどんと中に担ぎ込んでいく。鮮やかな緑色の野菜の葉の隙間に紛れた五人は運ばれる動きに揺られながら周りの様子を観察した。彼らの視力は葉に姿を変えてもすこぶる良好で、洞窟の天井や壁に露出した天然の鉱物の美しい縞模様や色味まで詳細に視認できた。
彼らは食糧庫に運び込まれた。その後もいくつか袋と木箱が持ち込まれ、積み上げられる。そして仕事を終えた下働きの者たちがぶつぶつと文句を垂れながら出ていくのを待ってから瞬は術を解いた。元の姿に戻った五人は見事に潜入を果たした安堵に胸を撫で下ろした。瞬が上機嫌でぱちりと片目を瞑った。
「うまくいったね」
「…助かりました」
暁良以外の四人は急いで煌狩りの団員の変装をし、頭巾を目深に下ろした。着込むのは大森林に残してきた部下たちから借りた揃いの上衣だ。
「さて、どうする?」
「耶宵のいる鍵の保管庫に行く。それから久遠の牢だ」
五人はうなずき合い、暁良を先頭にして通路に出、あえて人目を忍ぶことなく堂々と歩き始めた。すると案の定呼び止められた。
「あれっ?暁良さんじゃないですか。こっちに来てたんですね」
「ああ。一時的にだけどな」
真鍮の砦で静夜と暁良とは別の所属だった若者だ。とっさに勘を働かせたその者は声を低めてこう尋ねた。
「ということは、副首領が見つかったんですか?」
静夜は一瞬ひやりとする。暁良は落ち着いて首を振った。
「そうですか…。早く見つかって欲しいですけど、ご自身で逃亡なさったからにはそれ相応の覚悟がおありなんでしょうね…やっぱりもうお会いできないのかな…」
若者は落胆の色をありありとにじませ、それからころっと表情を変えた。
「ところで暁良さん、後ろの人たちは?」
「新入りだ。入ってまだ日が浅いので機密保持のため視界を遮ってる。これから面談だ」
「そうですか。それはお疲れ様です」
信用のある暁良が何食わぬ顔で嘘をつくと若者は露ほども疑わずに道を開けて五人を通し、笑顔で離れていった。
(暁良…あのとき、しばらく耶宵と一緒に組織に留まって時機を待つと言っていたが、見事に役割を果たしてくれたな…もちろん耶宵も)
静夜は暁良の背中に頭巾越しに信頼のまなざしを注いだ。
耶宵の地図を頭に叩き込んである暁良は四人の先に立って迷わず進んでいった。ところが途中で最後尾にいた瞬が小さく声を上げた。
「みんな、待って。…こっちの脇道の奥に少しだけ煌気を感じるんだ」
それを聞いて曜と界が頭巾の陰からその方向の先に目を凝らす。
「…ほんとだ」
「久遠の気配かな…」
「でも牢はここではなくもっと上層部です」
「場所を移されたのかもしれない。静夜くん、ちょっと確かめてみてもいいかな」
「手短にお願いします」
警備と鉢合わせしないことを祈りながら五人は道をそれてそちらに歩いていった。
謎の通路はすぐに重厚感のある大きな扉に突き当たった。牢獄の入り口には見えない。だがその扉の意匠に静夜は見覚えがあった。
「…開けますよ」
静夜と暁良が両開きの扉を慎重に押し開け、五人は内部に足を踏み入れた。そしてそこに広がる驚くべき光景に思わず息を呑んだ。
「な…何だ、ここ…!」
最初彼らはここを死体の安置室だと思った。なぜなら篝火に照らされた広い空間の両側の壁一面に据えつけられる形で窓つきの長い筺がずらりと並べられていて、金色に発光する内部に瞑目する裸の人体が納められており、その様が棺に見えたからだ。だが事実はどうやら違うらしいということは、こわごわ近づいてその明らかに木製ではない奇妙な光沢を放つ棺らしきものの窓の中を覗き込んでみるとすぐにわかった。瞬が顔をしかめて言った。
「これは棺桶でも死体でもない…生きている人間だ」
「…い、生きてるんですか、これ…!」
曜は恐れおののきながらも怖いもの見たさが勝ち、首を伸ばしてしげしげとその中身を眺める。すると確かに中に納められた人間は肌も髪もつやつやとした生気にあふれていて、今にもまぶたを持ち上げそうだ。瞬は筺体の透明な窓に掌をかざし、うなずいた。
「僕が感じたかすかな煌気はこの中から漏れてきたものらしい。見て、中は煌気で満たされてる。まるで母親の子宮だ」
「採取された煌気を転用したんでしょうか…いずれにせよここで何かおぞましい実験が行われてるのは間違いなさそうですね」
「耶宵の言っていた助けたい人たちとは、もしかしてこの人間たちなのでしょうか…」
静夜たちも手近な筺体に近寄ってそれらをつぶさに観察した。油を塗ったように光る金属質の表面や、それに接続された管、周囲にびっしりと配置された無数のからくり仕掛けもまた、静夜の記憶に残るものに酷似していた。
(真鍮の砦の採煌装置と同じ材質だ…採煌装置の構造を応用しているのか?しかし、何のためにこんなものを…)
煌気は原礎たちから採取されたものとして、それが溶鉱炉や武器工房の動力としてではなくなぜ人間に対して使われているのかーー見るにつけ五人は胸の底がだんだんと薄ら寒くなるのを抑えられなかった。
「この人間たちはどういう人たちなんだろう?組織の団員なのかな」
「そもそも、人間をこんなにも濃密な煌気にどっぷり浸して大丈夫なのか?肉体は耐えられるのか?」
「静夜、キミもこの実験に関わってたの?」
「俺は原礎の捕縛と採煌には携わったが、人間に対してこんな実験が行われていたことは知らなかった…暁良、おまえは何か知らないか?」
「わ、私にもわかりません…!静夜さんが知らないことを私が知ってるわけないじゃないですか…!こんな恐ろしいもの見たのは初めてですよ…」
同じ生身の人間に加えられた非道な行いを想像して暁良はぞっと身震いした。
五人の口から疑問が次々と噴出したが、ひとつでも答えられる者はこの場にはひとりもいない。…ただひとりを除いて。
「その問いのすべてに答えをやろう」
突如発せられた男の野太い声が空間いっぱいに反響した。瞬以外は知っている声だ。
「…!!」
五人が振り向き身構えると、入り口とは反対側の奥のもうひとつの扉から明夜がゆらりと歩み寄ってくる。王のような豪奢な毛皮の上衣をまとい、威風堂々たる首領ぶりを醸そうとしているようだが、頬は痩せこけ、顔は鼠色で、風格どころか明らかに健康を害している。ただその落ち窪んだ目は爛々と輝いて静夜を絡め取ろうと狙っていた。
「やはり来たな、我が愛しの息子。ようこそ、新しい家へ」
芝居がかった手振りと抑揚で歓迎の意を表す明夜に、静夜は一片の揺らぎもない冷徹なまなざしを向けた。
「俺はもうあなたの息子じゃない。あなたとも煌狩りとも訣別した。…それよりこの実験室は何だ!?採煌装置に溶鉱炉、それに迦楼羅の複製…この上にまだどんな悪事を企んでる!?」
「知りたければ教えてやろう。黄泉様と俺たち煌狩りの計画の全貌を」
明夜は肩を震わせてクックッと気味の悪い笑みを漏らす。
「察しのとおり、その中に入っているのは人間だ。家族のいない者やひとり旅の者や家出人などは消えても誰にも気づかれず心配もされない格好の的でね。そういう人間を適当に拉致してきてその筺体に入れ、集めた煌気で満たし、いわば煌気漬けにしてるんだよ」
「貴様…人間を、命ある存在を何だと思ってる!!」
曜が声を荒らげたが明夜は歯牙にもかけず陶酔したように朗々と語った。
「全身まるごと煌気に浸かり続けたら人体はどうなるか?実験結果は予想どおりであり、また思惑違いでもあった。直接煌気を取り込んだ彼らの肉体は確かに屈強に発達し、腕力と体力は桁違いで、いくら活動しても疲れ知らずだった。だが頭脳と精神という点ではひと筋縄ではいかない。ほとんどは比較的従順に言うことを聞く者たちで、俺たちは彼らを“煌人”と呼んで調教したが、中には異常なほど凶暴で手に負えない奴らもいた。そいつらは“狂人”と名づけた」
人倫にもとる非道な行為の自供を五人は真っ青な顔で突っ立って聞いている。静夜は自分が副首領のひとりという要職にありながら組織の全容のうちのほんのひと握りの事実しか知らなかったことに内心臍を噛んでいた。
「煌人と狂人を生み出していったい何を…」
呆然としながら界が問うたが、それは質問というよりただのつぶやきのようだった。それに対して明夜は自分の謀に恍惚とするような表情で答えた。
「煌人は労働者にも戦士にもなれる。それゆえ拠点や工場の建設に従事させ、迦楼羅の複製を始めとする武器を作らせる。それを用いて原礎が絶滅するまで狩り、煌気を奪い、さらなる動力源と迦楼羅の複製と煌人を増やす無限の循環を作るという、実に素晴らしく実り豊かな計画だよ」
その出発点が静夜と迦楼羅の強奪だったということだ。だが瞬はその仕組みの致命的な綻びに気づいている。
「原礎が死に絶えたらそのときは煌気も星から消える。それでは無限の循環など到底成り立たない。結局は原礎の存在なしでは人間は生きられないと、最悪の形でおまえたちは学ぶことになる」
「俺たちの計画に抜かりはない。黄泉様がすべて解決してくださる」
明夜の濁った眼球に含意のある光が宿る。静夜が追及しようとしたとき、彼より先に曜が叫んだ。
「待て!おまえは煌人のことしか話していない。狂人はどうした?手に余るほど凶暴になった人間をどう扱ってきたんだ!?」
「失敗作の狂人は外に放った。異様に怪力で乱暴で頭のいかれた怪物のような人間がいるという噂がいい報告だったな。その後のさらなる研究の材料にさせてもらったよ」
「…まさか…!!」
静夜は突然ダートンでの事件を想起して慄然とした。家出して行方不明になり情緒不安定で攻撃的になって戻ってきたギル。苦悩の末やつれ果て、最期は自分の意思で命を手放すことでやっと地獄のような生から解放されたギル…。
(…ギルは煌気移植実験の犠牲者だったのか…!!)
どんなにか苦しく、恐ろしかっただろう。罪もなく、ただ人生の迷路から抜け出せなかったばかりに命を散らす運命となったか細い青年の淡い微笑みが脳裏をよぎり、熱い悲憤が静夜の胸を突き上げた。
「あなたは人間の幸福を謳い掲げながら命を冒瀆し不幸と悲しみを増やしている。そこに苦しんでいる人間に寄せる慈しみや思いやりはないのか?あなたとて、若かりし日の最初には崇高な志を抱いていたんじゃなかったのか!?」
暁良は歯を食いしばって怒りを押し殺している。幼い耶宵と肩を寄せ合いひもじさと孤独に耐えた日々が煌狩りとしての彼を支えてきたからだ。
しかし、二人の凄まじい瞋恚の形相を明夜は嘲笑混じりの鼻息ひとつであしらった。
「どんなに崇高な目的も、達成されなければ意味がない。そのためには生ぬるい正義感や人情など邪魔だ。静夜、おまえが迦楼羅を使って原礎を殺し採煌した。その行いがすべての源だ。おまえもすでに共犯だぞ」
明夜は静夜が根深く抱える罪と責任の意識に執拗に訴えかけた。
「殺した者たちの身内に囲まれて暮らすのはさぞ苦しかろう。父のもとに戻ってきて何も悩まずに以前と同じことをし続ければいい。その方が楽だ…」
レーヴンホルトの柄に手をかける静夜に、明夜は両腕を大きく広げて一歩近づく。
「恐れずともいずれ何もわからなくなる。煌人の実験が成功した暁にはおまえを煌気に浸して地上最強の戦士、忠実な殺戮人形、勇ましく美しく完璧な煌喰いの悪魔に仕立て上げてやろう。そしてともに新しい世界を見よう!」
瞬が美しい顔に静かな怒りを漲らせて言った。
「僕たち原礎にとって守るべき人間であっても、おまえだけは絶対に赦すことはできない。僕たち五人が証人となり必ずおまえに裁きを下す」
「おまえたちに俺は裁けない。なぜなら静夜はこちらに渡してもらい、あとは全員死ぬからだ!」
明夜はそう叫ぶなり、携えていた大剣を抜いて見せつけるように示した。緋色の燐光を放つ、禍々しいほどに黒い剣身だ。
「アグニの後継、“火天”だ。お姫様がいくら破壊しようと、黄泉様の工房では今もアグニの子供たちが絶え間なく生み出されている。迦楼羅もすでに我が手の内…足りないのは静夜、おまえだけだ!」
「…あなたはもはや救いようがない外道だ…俺は永遠と真鍮の砦を出るときもう誰ひとり殺さないと心に誓ったが、あなただけは赦さない…俺が今日ここで引導を渡す!」
静夜もレーヴンホルトを抜き放ち、同時に間合いを詰めた両者はその中間で相手を迎え撃つ。互いの存在をかけた壮絶な決闘が始まった。明夜は火天と血走った両眼で静夜に食らいついた。
「あと一歩で人間の幸福と救済に手が届くのだぞ、静夜!おまえもそれが唯一の願い、生き甲斐だっただろう!?」
「確かに…永遠と出会うまでは。だが星と人間に注ぐ原礎たちの愛が俺の目を醒まさせてくれた…本当の悪魔になり下がる前に」
「偉業を成し遂げようとするこの父の片腕ではなく、害悪である原礎の奴隷になるつもりか!?行き場のない同志や貧しさに苦しむ人間を見捨ててまで!」
「原礎たちは奴隷や権威など求めない!彼らも俺も、もうあなたの思いどおりにはならない…あなた自身が彼らに背を向けたんだ!!」
明夜は静夜の譴責に耳を塞ぐように狂笑しながら火天を振るい続けた。対立する自分と明夜の構図に静夜はかつての永遠と自分の姿を重ねていた。永遠の目に自分も同じように映っていたのかと思うと胸がかきむしられる。ただ自分と明夜が決定的に異なるのは、明夜にはもはや更生の望みがなく、また人間や原礎、星や礎、さらには自分や彼自身に対する欠片ほどの愛もないという点だ。
(哀れな男…こんな奴に俺は自分の人生のすべてを預けていたのか…)
虚しさと憐憫の情が彼の剣を優勢に導いた。
「静夜…!」
助太刀しようとヴィエルジュを手に走り出しかけた曜を瞬が引き留め、首を横に振る。父と子の因縁の果たし合いに手出しは無用、と言うように。
暁良と界は最初から手控えて戦いを見守っているが、事実、今の静夜に助力は不要だった。怪我を負い、迦楼羅よりも軽いレーヴンホルトひと振りだけながら力と気魄で圧倒する静夜に対し、明夜の剣技や身さばきは著しく衰えていたのだ。幼い彼に剣術の指南をした若き日の見る影もない。このままひと思いにとどめをーー心中決意した静夜に明夜は不意にニヤリと笑い、剣を弾き返して後退した。
「聞き分けのない子にはお仕置きが必要か…。むっ!」
全身に気合いが満ちるとその身がぶくぶくと膨張し、衣服を引きちぎってみるみる巨大化した。恐ろしく、醜く、危うい怪物の姿…ギルと同じ末路だ。
暁良たちは青ざめたが、静夜を信じて傍観している。
「見ろ!おまえを完璧な煌人にするためにこの父が自ら実験体になってやったぞ!!」
力を誇示するように両拳を高く突き上げ雄叫びを上げる。明夜は自らに煌気を移植し狂人となり果てていたのだ。
「いや…もう手遅れだ」
静夜はゆっくりと頭を振った。
「明夜…あなたの肉体は、もう…」
その肉体は過剰に浴びた煌気によって病み、すでに余命もわずかであることを静夜は看破していた。しかし明夜はなおも欲望と生に執着した。
「いいや、まだだ!俺の計画はまだ潰えない!」
静夜は無言でレーヴンホルトを正中に構える。その切先目がけて明夜は突進し、彼の命運は尽きた。白銀の軌跡が閃き、そして消えたとき、その巨体は血と埃に汚れて床に転がっていた。
静夜はもはや虫の息の明夜の側に立ち、怒りも憐れみもない冷厳な顔で見下ろしてこう問うた。
「最期に訊きたいことがある。どうして俺に静夜という名をつけた?」
明夜は薄く笑い、答えた。
「おまえを強奪したあの夜…風も雲もなく、月の輝きも翳らない静かな夜だったからだ」
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