1人で異世界4役物語

尾高 太陽

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~第2章~

絵本

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「それならいくらでもやりようがあるんじゃないのか?水をせき止めるとか、サーペンが寝てる間に行くとか。それ以前に、サーペントがいるならイビルもそんなとこに住めないんじゃないか?」
 するとシオンは深いため息を吐いた。
「それが分からん。偵察隊によると誰かが出入りしているは確実。しかもいつもサーペントが現れないか、現れても眺めているだけで誰も襲われない。なのに我々が行けばいつも撃退される。サーペントを飼い慣らすなど伝説上の話だ。」
 …伝説上。
「ちなみに勇者だと契約出来たりするとかはないのか?」
 シオンは「いや、」と否定した。
「伝説上、と言っても絵本だが。」

 ~昔々、凶暴な海蛇がいました。
 海蛇は戦いが大好きでした。
 自らよりも強い者を襲い、自らよりも大きな者を襲い、自らよりも賢い者を襲う。
 幾たびの戦いを生き延びるたびに海蛇は死にかけていました。
 鱗は剥がされ、尾は裂かれ、片牙を折られました。
 海蛇はより強く、大きくなるために栄養のある人間を食べ始めました。
 強く、強く、強く。
 強さを求めるにつれ体に変化が現れました。
 体はどんどんと大きくなり屋敷1つ分ほどの大きさに。
 新しく生えてきた鱗はより厚く、硬く、鋭利になり、鱗で擦るだけで人を殺せるほどに。
 裂かれた尾の間には水掻きが作られ、誰よりも早く泳げるように。
 残った片牙はより長く、太く、鋭く、毒を吐き、鯨を殺せるほどに。
 幾たびの経験からどんな事にも動じる事なく誰の攻撃も受けないように。
 そして海蛇は誰にも負ける事がなくなり、誰にも恐怖する事がなくなりました。
 誰もが海蛇を恐れ、誰もが海蛇から逃げて行く。
 海蛇は全てを支配した満足とともに心の底から楽しめる戦いがなくなった生活に退屈していました。
 そんなある日海蛇の目の前に1人の人間が落ちてきました。
 海蛇がその人間に食らいつくとその人間は片手で海蛇牙を掴み、それだけで海蛇の動きを止めました。
 そしてその人間は、水中にもかかわらず目を開き、まるで人間の子供のように笑みを浮かべました。
 その人間の笑みに海蛇は恐怖したのです。
 ここ最近感じなかった、負ける、死ぬという恐怖を感じました。
 その恐怖に海蛇は笑いました。
 この人間なら自分を殺せるのではないか、対等な戦いができるのではないか。
 海蛇の笑いを見た人間は水中で大きく笑いました。
 互いに意思も言葉も通じないにもかかわらず、人間と海蛇は長く笑い、いつしか友情が芽生えていました。
 海蛇は人間を地上に連れて行くと頭の金の鱗を人間に与えました。
 友情の証、強敵の証、それを与えられた人間は声を出しました。
 ですが海蛇に人間の言葉は分かりません。
 それに気付いた人間は身振り手振りで海蛇に話しかけました。
 海蛇を指差し、自分の胸を指差し、そして歩く動きをして、首を傾げました。
 その動きで、人間が一緒に旅をしないか?と誘われていることに気づき、海蛇は首を縦に振りました。
 そうして海蛇はその人間と旅に出たのです。
 そして旅の中で海蛇人の言葉を覚えは気づいたのです、この人間が他の人間に恐れられていることを。
 人間は魔王と呼ばれていました。
 ですが海蛇にとって、それは何も不思議な事ではありません。
 強きものが恐れらる。
 自分と似た立場の魔王に海蛇はさらに惹かれ、固い友情と共に早く戦いたいという気持ちは強くなっていきました。
 魔王はそれに気付くと、「この世界を正しく作り変えたらな」と言いました。
 正しい世界。海蛇にそれが何かはわかりませんでしたが今だけは友情を楽しもうと魔王の仲間になり、いつしか人間からも恐れられ。
「〈サーペント〉と呼ばれる様になったのでした。」

 ………え?オチは!?。
「何そのくだらない話。」
 「国の物語をつまらないとはなんだ!!」とでもシオンが言うかと思っていたが、予想とは違い「まあ絵本だからな」と同意をした。
 でも………。
「なんとなく分かった。」
 つまりはサーペントは自分よりも強い奴を友と認めるんだろ?魔王と呼ばれる強い奴…。な?シオン。」
「なぜ私にふる。どうするつもりだ?まさか魔王を仲間にで…も………。」
 俺の言いたい事を理解したシオンは驚いた顔で俺の顔を見た。
「さーて、その屋敷に行くぞー。」

 ◆◆◆

「で、なんで俺達は木を切っているんでしょう?」
 あの後シオンに連れてこられたのは森と言っても分からないほどの広さの庭だった。
 森からはすごく大きな城が見えていました………いやこれ以上言えないから。今みんなのアタマに思い浮かんでいる城そのものだから。

 王-王城-外庭

 と言うか何だかんだ城だとは思っていたけど、ここまでデケェ城だとはなぁ…。
 とか考えている俺と玉座の間の片付けをシオンに中断させられた数人の使用人はその庭で木を切っていた。
 糸鋸で。
「無理だろ!!なんで糸鋸なんだよ!なのにシオンだけ普通のノコギリ使ってるし!」
 俺がシオンを呼び捨てにしていることに使用人は手を止めて目を見開いていたが、その流れはアカリが嫌ほどやったので省略する。
「これはノコギリではない!!れっきとした剣だ!」
 剣?いやいやノコギリですやん。めっちゃ日曜大工ですやん。
 …まあそれが剣だったとして、今俺が言いたい事はみんな分かるよな?
 じゃあ行くぞ?
 せ~の!

「ダッサ。」
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