3 / 11
無数の星
しおりを挟む
しかし、その手は掴むことも、踏みつける事も無い、ただ乗っているように。
襲うどころか、まるで助けを求めているような手。
その手を伝うように体に目を移して、鏡は言葉を失った。
熊はまるで、ギロチンに切られたかのように、出刃庖丁を振り下ろされた魚のように、下半身が無くなっていた。
目は見開かれ、口からは暗闇の中でも赤々とした血が流れ出ていた。
「うわぁぁぁ!」
(死ん、でる。なんで!!)
鏡は腰が抜けて尻餅をつき。
しかし、熊から目を離す事は出来なかった。
本来なら絶対にあり得ない状況の中で、その苦しみに悶えるような表情を見ていると徐々に息が上がり、気付けば軽いパニック症状を起こしていた。
少しすると熊の血に1匹のハエが止まった。
それを見た瞬間、授業で習った弱肉強食という言葉を思い出した。
強い者が生き残り、弱い者が死ぬ。
それを頭の中で理解すればするほど落ち着き、生き残った喜びが湧き上がってきた。
「うおぉぉぉぉぉ!!!、ぉ、ぉ、ぉ、ぉ、、、」
しかしその喜びも束の間、目の前には現実が映っていた。
(やっぱり、闇雲に走ってたらこうなるか、、、)
生き残る事に必死で、道などは覚えていなかった。
元から迷ってはいたが、あの場所からなら戻れたかもしれない。
自分ならもっと落ち着いた対処が出来たのでは無いか。
そんな後悔と共に、走った疲労感と脱力感に襲われ草むらに寝転がる。
いつもなら気にする虫や雑菌も全く気にはならなかった。
しばらくの間、鏡は横に倒れている熊を見つめていた。
鏡の息が整う頃には熊の目は曇り、血は黒くなっていた。
重い体を起こし、熊の頭に手を置き瞼を閉じさせると、ゆっくりと立ち上がる。
(さて、どうしようかな。)
周りを見ていると、喉に痛みを感じた。
しかし、それは外部的ではなく〈中〉、喉の渇きだった。
もちろん、ただのお使いに水筒は持っておらず川の音もしない。
たとえ川があったとしても地面に寝転がるのが気になら無いのとは違い、その水を飲もうとは思えない。
そんな事を考えていると、どんどん喉は渇き、迷っているという現実と死という恐怖に襲われた。
(もう無理、かな。)
目の前に転がっている熊の死体が視界に入るたびに恐怖が増し、木の根元に座った。
(ここが僕の死に場、、、。)
死を覚悟した鏡は人生を後悔するように振り返っていた。
友達のいない小学生生活、引きこもりの中学生生活、母親が失踪したのも自分のせいでは無いか。
どんどんネガティブになっていく鏡の目に、小さな光が映る。
何十、何百メートル先にあるのか分からない。
木々の隙間を縫うように、今鏡の目に映っていることが奇跡のような小さな光。
しかし、その小さな光は希望でしかなく人生を諦める理由も、向かわない理由もなかった。
前に前に前に前に。
その光に近づくにつれ、その光が生活感のある、家のような建物の窓から漏れている灯だと分かった。
「やった!!ついてる!ついてる!!」
そして、光の漏れた元が小さな家だと分かるほどの距離になった時。
鏡の体を押し返すほどの強い向かい風が吹いた。
長く、強く、吹き続ける風の中、薄目で目を開く。
「っ!」
足を止めると、つま先に明らかな違和感を感じた。
足元を見ると足の3分の1先が宙に浮き小石がコツコツと落ちて行く。
それより先は、ただ深く、暗く、黒い、谷だった。
「ー!」
思わず後ずさりをすると、足元から視線をあげる。
その谷は5mほどの幅があり、まるで、〈向こう側〉と〈鏡〉を分けているかのように左右に広がっていた。
「やっぱりついてない。」
状況を整理するように、どうやって向こう側へ渡るかを考えたが、喉の渇きのせいでまともに頭が働かなかった。
「あぁ!」
髪をクシャクシャと掻き乱していると、単純な答えが口から出た。
「飛び越えれば、、、」
(ん?)
現実的思考の自分の口から出たとは思えない言葉に、鏡は固まっていた。
(、、、今何て言った!?)
「飛び越えれる分け無いから!絶対無理!!、、、そうだ!橋!橋!!」
まるで別の自分を納得させるかのように谷沿いに歩き出す。
谷に落ちないようにゆっくりと、足元を見ながら谷沿いに進んでいった。
「無い、、、何で橋が無いんだ!、と言うか最初の場所に戻ってる!?」
谷は家を囲むようにあり、気付けば鏡が歩き始めた木の前に戻って来ていた。
そして、家を囲む谷のどこにも橋はかかっていなかった。
(おかしい、谷の形はまだしも、この家の人はどうしてるんだ。)
鏡は谷に足を落とすように座ると、足をぶらぶらと揺らした。
(無理だー、この風じゃ声は届かない、、、)
鏡は、また人生を諦めるように空を見た。
今度は何も見つけてしまわないように、希望を見つけてしまえば生きたくなる。その希望に裏切られる事は苦痛でしかなかった。
しばらくして、頭上にあった星を見ていると、ミシミシと言う音と共にジェットコースターのような浮き上がる感覚に襲われた。
鏡は思わず下を見ると、下に星空があった。
そしてその横には今まで座っていた谷がえぐられるように削れていた。
「え!?」
鏡は逆さまだった、座っていた谷の淵部分が崩れ、谷に落ちていく。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
鏡は恐怖で目を瞑る。
ついさっきまで死を覚悟していたはずが、実際に死を感じると恐怖する。
いや、ついさっきまで感じていた死は一種の混乱とパニックによるもの。
しかし今感じている死は事実で、確定した死。
そんな、どうしようも出来無い恐怖を感じながら、谷へと落ちて行った。
何秒経ったのだろう。
谷は想像以上に深く、落ちる時間は長かった。
もしかすればただの走馬灯のようなもので、まだ一瞬しか経っていないのかもしれない。
そう考えるとなぜが落ち着き、冷静に目を開く事が出来た。
上下も分からない中で、ただ暗闇の中に落ちていると思っていた。
いや、本来ならそうなのだろう。
しかし鏡の目には映っていたのは、まるで無数の赤い星のように輝く谷の壁が上から下へと、流れ星のように流れていく景色。
初めて見るような美しい〈赤〉
それを見た瞬間、意識が遠くなり、眠るように気を失った。
襲うどころか、まるで助けを求めているような手。
その手を伝うように体に目を移して、鏡は言葉を失った。
熊はまるで、ギロチンに切られたかのように、出刃庖丁を振り下ろされた魚のように、下半身が無くなっていた。
目は見開かれ、口からは暗闇の中でも赤々とした血が流れ出ていた。
「うわぁぁぁ!」
(死ん、でる。なんで!!)
鏡は腰が抜けて尻餅をつき。
しかし、熊から目を離す事は出来なかった。
本来なら絶対にあり得ない状況の中で、その苦しみに悶えるような表情を見ていると徐々に息が上がり、気付けば軽いパニック症状を起こしていた。
少しすると熊の血に1匹のハエが止まった。
それを見た瞬間、授業で習った弱肉強食という言葉を思い出した。
強い者が生き残り、弱い者が死ぬ。
それを頭の中で理解すればするほど落ち着き、生き残った喜びが湧き上がってきた。
「うおぉぉぉぉぉ!!!、ぉ、ぉ、ぉ、ぉ、、、」
しかしその喜びも束の間、目の前には現実が映っていた。
(やっぱり、闇雲に走ってたらこうなるか、、、)
生き残る事に必死で、道などは覚えていなかった。
元から迷ってはいたが、あの場所からなら戻れたかもしれない。
自分ならもっと落ち着いた対処が出来たのでは無いか。
そんな後悔と共に、走った疲労感と脱力感に襲われ草むらに寝転がる。
いつもなら気にする虫や雑菌も全く気にはならなかった。
しばらくの間、鏡は横に倒れている熊を見つめていた。
鏡の息が整う頃には熊の目は曇り、血は黒くなっていた。
重い体を起こし、熊の頭に手を置き瞼を閉じさせると、ゆっくりと立ち上がる。
(さて、どうしようかな。)
周りを見ていると、喉に痛みを感じた。
しかし、それは外部的ではなく〈中〉、喉の渇きだった。
もちろん、ただのお使いに水筒は持っておらず川の音もしない。
たとえ川があったとしても地面に寝転がるのが気になら無いのとは違い、その水を飲もうとは思えない。
そんな事を考えていると、どんどん喉は渇き、迷っているという現実と死という恐怖に襲われた。
(もう無理、かな。)
目の前に転がっている熊の死体が視界に入るたびに恐怖が増し、木の根元に座った。
(ここが僕の死に場、、、。)
死を覚悟した鏡は人生を後悔するように振り返っていた。
友達のいない小学生生活、引きこもりの中学生生活、母親が失踪したのも自分のせいでは無いか。
どんどんネガティブになっていく鏡の目に、小さな光が映る。
何十、何百メートル先にあるのか分からない。
木々の隙間を縫うように、今鏡の目に映っていることが奇跡のような小さな光。
しかし、その小さな光は希望でしかなく人生を諦める理由も、向かわない理由もなかった。
前に前に前に前に。
その光に近づくにつれ、その光が生活感のある、家のような建物の窓から漏れている灯だと分かった。
「やった!!ついてる!ついてる!!」
そして、光の漏れた元が小さな家だと分かるほどの距離になった時。
鏡の体を押し返すほどの強い向かい風が吹いた。
長く、強く、吹き続ける風の中、薄目で目を開く。
「っ!」
足を止めると、つま先に明らかな違和感を感じた。
足元を見ると足の3分の1先が宙に浮き小石がコツコツと落ちて行く。
それより先は、ただ深く、暗く、黒い、谷だった。
「ー!」
思わず後ずさりをすると、足元から視線をあげる。
その谷は5mほどの幅があり、まるで、〈向こう側〉と〈鏡〉を分けているかのように左右に広がっていた。
「やっぱりついてない。」
状況を整理するように、どうやって向こう側へ渡るかを考えたが、喉の渇きのせいでまともに頭が働かなかった。
「あぁ!」
髪をクシャクシャと掻き乱していると、単純な答えが口から出た。
「飛び越えれば、、、」
(ん?)
現実的思考の自分の口から出たとは思えない言葉に、鏡は固まっていた。
(、、、今何て言った!?)
「飛び越えれる分け無いから!絶対無理!!、、、そうだ!橋!橋!!」
まるで別の自分を納得させるかのように谷沿いに歩き出す。
谷に落ちないようにゆっくりと、足元を見ながら谷沿いに進んでいった。
「無い、、、何で橋が無いんだ!、と言うか最初の場所に戻ってる!?」
谷は家を囲むようにあり、気付けば鏡が歩き始めた木の前に戻って来ていた。
そして、家を囲む谷のどこにも橋はかかっていなかった。
(おかしい、谷の形はまだしも、この家の人はどうしてるんだ。)
鏡は谷に足を落とすように座ると、足をぶらぶらと揺らした。
(無理だー、この風じゃ声は届かない、、、)
鏡は、また人生を諦めるように空を見た。
今度は何も見つけてしまわないように、希望を見つけてしまえば生きたくなる。その希望に裏切られる事は苦痛でしかなかった。
しばらくして、頭上にあった星を見ていると、ミシミシと言う音と共にジェットコースターのような浮き上がる感覚に襲われた。
鏡は思わず下を見ると、下に星空があった。
そしてその横には今まで座っていた谷がえぐられるように削れていた。
「え!?」
鏡は逆さまだった、座っていた谷の淵部分が崩れ、谷に落ちていく。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
鏡は恐怖で目を瞑る。
ついさっきまで死を覚悟していたはずが、実際に死を感じると恐怖する。
いや、ついさっきまで感じていた死は一種の混乱とパニックによるもの。
しかし今感じている死は事実で、確定した死。
そんな、どうしようも出来無い恐怖を感じながら、谷へと落ちて行った。
何秒経ったのだろう。
谷は想像以上に深く、落ちる時間は長かった。
もしかすればただの走馬灯のようなもので、まだ一瞬しか経っていないのかもしれない。
そう考えるとなぜが落ち着き、冷静に目を開く事が出来た。
上下も分からない中で、ただ暗闇の中に落ちていると思っていた。
いや、本来ならそうなのだろう。
しかし鏡の目には映っていたのは、まるで無数の赤い星のように輝く谷の壁が上から下へと、流れ星のように流れていく景色。
初めて見るような美しい〈赤〉
それを見た瞬間、意識が遠くなり、眠るように気を失った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる