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第一章 世界のはじまりと仲間たち
【記念書き下ろし】ジョエル副団長の一日
しおりを挟む【ご挨拶】2022/6/4
はじめまして。瑛珠(エイジュ)と申します。
この物語に目を止めて下さった皆様のお陰で、なんと、小説家になろう様にて累計10000pvを達成致しました!
こんなに沢山の方々に読んで頂けるとは! と本当に嬉しく、感謝の念に堪えません。
嬉しすぎたので、勢いで副団長の一日を書き下ろしました。お楽しみ頂ければ幸いです。
(もちろん、飛ばして頂いても本編には全く影響ございません。本当にただの一日です!)
今後も『毎日更新』を目標に『完結』まで頑張っていく所存です。宜しくお願い致します。
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ジョエル・ブノワ。
由緒あるブノワ伯爵家四男にして、王国騎士団副団長。蒼い髪の後ろは常に刈り込んであるのとは対照的に、前髪は左目が隠れるよう伸ばし、右目しか見えない。
二つ名は『麗しの蒼弓|《そうきゅう》』。王国屈指の弓の使い手で、その右目は魔眼と呼ばれ、魔力を集中させることによって放たれるその魔眼矢は、なんと百発百中。並の魔獣であれば一矢でその命を失うほどの威力だ。
「ふあぁ~! のーみすぎたなーっと」
副団長室の執務机に突っ伏しながら、大きな独り言をのたまう彼は、完全なる二日酔いで寝不足。
麗しの、とは到底言えない、しょぼしょぼした目での出勤である。朝日が眩しくてまともに目が開かないまま、いつもの雑多な部屋の扉を開けた時のゲンナリ感といったらなかったな、と彼は少しだけ整理整頓をしていないことを反省する。
昨夜、王都の飲み屋街から、王宮の騎士団宿舎に戻れたのは何時だったのだろう。団長に訓練でしごかれまくった新人三名が、辞めたいと泣いている、助けてくれ、と第一騎士団師団長のセレスタンからそれこそ『泣き』が入り、飲みに付き合ったのだった。
セレスタンとは、セレスタン・オベール。
オベール侯爵家の長男でシャルリーヌの義兄である。
素直で良い男な反面、正直すぎて、全然空気が読めない。嫁であるシャルリーヌの姉にいつも「無神経!」と怒鳴られ、尻に敷かれている。そんな男も、もうすぐ父親になるということで、あまり飲みに行けなくなった。昨晩も早々に後は頼んだ! とそそくさと帰っていった。
「酒奢るくらいしかできねえぜーっと」
結局新人君たちは、
「自分には才能がないのではないか」
「このままでは役に立てない」
「ついていけない」
と自信を失っていたので、
「みんなが通る道」
「才能よりも地道な鍛錬を続ける方が重要」
「少なくとも僕には君たちが必要だよ」
と浴びせるほど飲ませて、諭した。
これがなんの解決にもなっていないのは、分かっている。
だが、ジョエルにとって彼らが必要で大事なのは、本当のことだし、できれば続けて欲しいと思っている。
何故ならば、厳しい王国騎士団入団試験をくぐり抜けられるような、志の高い若者は、問答無用で貴重な人材であるからだ。その存在自体が、既に大切なものなのだ。
にも関わらず、騎士団長ゲルルフ――ゴリラそのものなので陰ではゲルゴリラと揶揄されている――は、未だ『たたき上げ』『しごき』にこだわり、ついてこれないものを排除することで、威厳を保とうとしている。
「ったく、捌け口にしてんじゃねえっつうのー」
伯爵家子息で、ドラゴンスレイヤーでもある自分への、八つ当たりであろうことも、もちろん自覚はしているが、それもまたどうしようもない。
苛立ちながら、執務机に積んである書類の端っこを、突っ伏した姿勢のまま指先でつまんで、パラパラしてみる。
ざっと見、警備報告書、巡回日誌、備品要請書、経費申請書、人員配置計画案、と多岐に渡る。
「好き勝手に置きすぎだよぉ~……」
働かない頭に鞭を打って、だらだら書類の仕分け。
それが、ジョエルの朝のルーティン。
副団長なんて、肩書きだけだ。
♪仕事は地味~ぢみぢみ~
♪レオナのお茶~が飲みたいなぁ~ん
♪クッキークッキー、食べたぁーいなー
「なんだその間の抜けた歌は」
苦笑しながら副団長室の扉を勝手に開けて立っていたのは、ラザール・アーレンツ王国魔術師団副師団長。
シルバーアッシュの短髪に眼鏡の、神経質そうで顔色の悪い、アーレンツ伯爵家の一人っ子。
師団長は十年前のスタンピードで戦死して以来、空席のまま。ラザールに昇進の打診は何度もあるらしいが「やっとれん」と、師団長の喪に服していることを理由に、断り続けている。
「どしたのラジ」
「……朝議の前に少し話したくてな」
「ほぉーん?」
「レオナ嬢から、誕生日パーティの招待状が届いたのだが」
「うん。僕もー」
「……この、ドレスコードとやらは、なんだ?」
――ぶふっ!
朝から何言ってんの? こいつめー
「なんだよー、何かあったのかと思ったよー」
「いやその、気になってな」
眼鏡をくいっと上げながら、ラザールがもごもご言うので
「書いてある通りだよー?」
とジョエルはあっさり返す。
「むう……」
どうやらレオナは、招待客に何でも良いので『深紅』の何かを身につけて来て欲しいらしい。そのことを『ドレスコード』と書いてあった。面白そうな試みだなと、ジョエルは感心した。
「僕はタイとハンカチでするつもりー」
仕方がないので、助け舟を出す。
「……なるほど」
「真似しても良いから、これ手伝ってよー」
バサバサと書類の束を振ると
「はー、またか」
ラザールは、即座に理解してくれたらしい。
「みんな好き勝手しすぎじゃなーい?」
「お前がちゃんと指示しないからだろう」
「ブリジットさんを、僕にくださいっ!」
ブリジットとは、魔術師団第二師団(補助魔法専門)の副長で、大変しっかり者かつ優秀なラザールの部下であり、書類仕事も迅速な凄腕秘書でもある。ちなみに独身女性だが、優秀すぎて、高嶺の花だと遠巻きにされているらしい。
「やらん」
「それはいつもの僕のやつー」
「ふっ」
「レオナもやらんからねー?」
レオナと出会ってから、ラザールは雰囲気が柔らかくなったよなぁ、とジョエルは思う。
「分かった分かった。朝議が終わったら少し手伝ってやる」
「やったあ!」
ちなみに朝議(国王、第一王子、宰相、騎士団長、騎士団副団長、魔術師団副師団長、財務大臣、外交大臣、法務大臣が揃う朝の定例会議)では、荒ぶるゲルゴリラと氷の宰相(レオナの父)がいつも通りにやり合い、復興祭に向けてまた追加予算を通したい! と国王が言えば財務大臣が発狂する、いつもの感じだった。
「副団長! やべぇです!」
書類の整理も終わり(ラザールが本当に少し手伝ってくれた)、署名も決裁もようやく済んだジョエルは、昼食後から部隊訓練に顔を出す予定だ。
が、もぐもぐとパンを片手に、復興祭の夜会での警備人員配置計画案を眺めていると、ドタドタと副団長室に入って来たのは、ブロル。
第一騎士団(王都とその近郊の警護が主任務)所属の古株で、平民出身とはいえ身体強化が使え、熱くなりやすく情にも厚い部下の一人だ。
「やべぇって、何がー?」
「新人二名脱走、しかも備品ぶっ壊して行きやがった。団長にバレたら」
「――そりゃあ……やべぇねー」
「どうします?」
「はー、とりあえず二人は内密に手配かけてー、……何ぶっ壊したの?」
「ナックルコレクション」
騎士団長が個人的に集めている、拳に装着する武器の数々だ。団長室に、これみよがしにたくさん並べて、飾ってある。言っちゃ悪いが、大変に悪趣味だ。
「だーっははははっ! っやーるぅー!!」
ジョエルは、思わずバンバン机の上を叩いてしまった。書類がバサバサと落ちる。
「――楽しんでません?」
ブロルが、床に散らばった紙を拾いながら苦笑する。
「ゲホゴホッ! あーやべぇ、笑った笑った! すんごい楽しいけど、マジでシャレんならないから、鍛治屋の親父すぐ呼んでー。代金は僕付けでー」
「了解す」
「二人見つかったら、僕のとこ連れて来てねー」
「もちろんっすよ!」
またドタドタとブロルが去って行く。
――最近、新人脱走率高いなぁ。
庇えるのにも限度があるぞぉ。
にしても……
「ぶふうっ」
これはしばらく思い出し笑いしちゃうぞ、とジョエルは思った。
部隊訓練も無事終わった夕方。
副団長室に戻ると、また執務机の上には書類が山積みになっていた。
明日は王都郊外の巡回任務に同行するため、急ぎのものは、今片付けなければならない。ちなみに団長に直に持っていっても『お前が見ておけ(間違ってたらお前のせい)』と突き返されるだけである。
「ひえー、終わるかなこれ」
コンコン……
珍しく真面目に、副団長室の扉をノックされた。
「? どうぞー?」
「失礼致します」
綺麗な所作で入室してきたのは、金のロングヘアを後ろで束ねた眉目秀麗、伯爵家子息で近衛筆頭、ジャンルーカ・ファーノだ。
「ジャン。珍しいね?」
「ええ。こちらをお持ちしました」
「うん? わざわざありがとう?」
差し出された書類は、白紙の、近衛への異動連絡書だった。
何も書かれていない、雛形。
「あー! フィリに頼まれてたやつねー」
「ええ。申し訳ありませんが、お渡し願えますか」
「必要にならなきゃいーけど」
「うちは万年人手不足なので、ありがたいですけどね」
騎士団の中でも、よりすぐった精鋭しかなれない近衛。
常に王宮に侍り、式典でも花形を勤める彼らは、強さに加え、知識や所作も重要である(表立っては言えないが、見た目も)。
「では」
「おつかれー」
よし、もう少し書類片付けたら、今度こそ今日はまっすぐ帰……
バタバタバタバタ
「副団長!」
「なーにー?」
「見つかりました!」
「「すんませんっしたあーっ!!」」
「えっ? あ、脱走君たち?」
――はやっ!
「お、おぉ~? おかえりぃ~?」
――うんうん、壊したのが怖くなって、自首しに来たのね?
良い子たちだねー。
飲みいこっか、とりあえず。
ジョエルは、今日も帰れないのだった。
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お読み頂きありがとうございました。
2023/1/16改稿
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