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網膜剝離
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アイが男たちの視線を浴びながら裸で踊っている。アイは笑いながら自分の割れ目を惜し気もなく、寧ろ誇らしげに、これがあんたたちの故郷なんよと、男たちの前で披露する。照明のなか、海に漂うブイのように浮かび上がったもの、それは息づいて、確かに、男たちを魅了していく。男たちはやっと見つけた真実を見るように真剣な眼差しを向けている。男たちは近付いていく。触れてもみたいネ。そのあとアイは陰毛をなびかせながら踊る、踊る、まるで地球を回すように踊る。ボクは目の回りそうな感覚に陥る。
金縛り、変な夢、夢のなかの夢?
ボクは病院のベッドで俯せになって寝ていた。
漁師の町から帰った後、ボクは無気力になってしまった。日常は無力感とともに過ぎ去っていった。無力感そのものだった。
イカ釣り船の反動?
無色透明、無味乾燥、僕は乾ききってしまった。灼熱の太陽に何もかも攫われ、天日干しのスルメイカのように脱水状態であった。
イカアレルギー?
全身が痒くて、痒くてたまらなくなった。そして全身の痒さが治まった頃、左目の周りが痒くなってきた。左目が風に吹かれてチンチラ泣いた。痒くてたまらない。ボクはその痒みに対峙するかのように掻いた。
何がどうなった? 皮膚炎?
あげく左目の周りは赤くただれてしまい、痒さが治るのと引き換えに景色の下半分が真っ黒に見えるようになってしまった。
「網膜剝離です。目の周辺を掻いた衝撃で網膜に孔があき、その孔から水が網膜の裏側へはいった、そのせいで網膜が剥がれてしまったのでしょう」、「ちょうど封筒に貼られた切手をはがす時、裏面に水をつけてはがす、ちょうどその原理と同じように網膜が剥がれてしまったのでしょう」眼科医は得意気に言った。そしてなおも、
「レーザーは無理、手術だ、手術」と、獲物を見つけた漁師のように嬉々として言った。運悪く、アイと待ち合わせの日、十一月十五日が手術日、氏神神社へ行くどころか、皮肉な運命だ。アイに連絡する術もない。 手術の前日、執刀医から説明があった。
「眼球にエアーを注入して、その上昇圧力で剥がれた網膜をピタッとくっつけます」彼はマジシャンみたいな言い方をした。
医は仁術じゃなくて奇術か!
「術後、仰向けで寝るとエアーが瞳の方へいくので、そうなると瞳がやられる。だから、エアーがなくなるまでは網膜が上になるように俯せで寝て下さい」
「そうですね。2~3週間ぐらいかな」
待って、待ってくれよ。
手術は厳粛に行われたのに不埒なボクはアイのことばかり考えていた。眩しい、眩しい、手術医と助手のやり取りが遠くぼそぼそと聞こえる。眼球がえぐられ、捏ねまわされていくような感覚だ。エアーが眼球に送られて行く。
あっ、アイよ、eye、アイ。
ボクは瞳の裏へアイそのものを閉じ込めていく。神を冒涜するかのように閉じ込めていく。身体ごと心も閉じ込めた。
金縛り、変な夢、夢のなかの夢?
ボクは病院のベッドで俯せになって寝ていた。
漁師の町から帰った後、ボクは無気力になってしまった。日常は無力感とともに過ぎ去っていった。無力感そのものだった。
イカ釣り船の反動?
無色透明、無味乾燥、僕は乾ききってしまった。灼熱の太陽に何もかも攫われ、天日干しのスルメイカのように脱水状態であった。
イカアレルギー?
全身が痒くて、痒くてたまらなくなった。そして全身の痒さが治まった頃、左目の周りが痒くなってきた。左目が風に吹かれてチンチラ泣いた。痒くてたまらない。ボクはその痒みに対峙するかのように掻いた。
何がどうなった? 皮膚炎?
あげく左目の周りは赤くただれてしまい、痒さが治るのと引き換えに景色の下半分が真っ黒に見えるようになってしまった。
「網膜剝離です。目の周辺を掻いた衝撃で網膜に孔があき、その孔から水が網膜の裏側へはいった、そのせいで網膜が剥がれてしまったのでしょう」、「ちょうど封筒に貼られた切手をはがす時、裏面に水をつけてはがす、ちょうどその原理と同じように網膜が剥がれてしまったのでしょう」眼科医は得意気に言った。そしてなおも、
「レーザーは無理、手術だ、手術」と、獲物を見つけた漁師のように嬉々として言った。運悪く、アイと待ち合わせの日、十一月十五日が手術日、氏神神社へ行くどころか、皮肉な運命だ。アイに連絡する術もない。 手術の前日、執刀医から説明があった。
「眼球にエアーを注入して、その上昇圧力で剥がれた網膜をピタッとくっつけます」彼はマジシャンみたいな言い方をした。
医は仁術じゃなくて奇術か!
「術後、仰向けで寝るとエアーが瞳の方へいくので、そうなると瞳がやられる。だから、エアーがなくなるまでは網膜が上になるように俯せで寝て下さい」
「そうですね。2~3週間ぐらいかな」
待って、待ってくれよ。
手術は厳粛に行われたのに不埒なボクはアイのことばかり考えていた。眩しい、眩しい、手術医と助手のやり取りが遠くぼそぼそと聞こえる。眼球がえぐられ、捏ねまわされていくような感覚だ。エアーが眼球に送られて行く。
あっ、アイよ、eye、アイ。
ボクは瞳の裏へアイそのものを閉じ込めていく。神を冒涜するかのように閉じ込めていく。身体ごと心も閉じ込めた。
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