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むぎ

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学園入寮編

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時雨が手をつけられたものは僅かであったが、それでも普段よりはしっかりと食べている。
心臓病の娘がいたからか、味付けはかなり薄くしてくれている様で問題なく食べられ、量も半人前程だろうか。その半分食べられているから、今日は頑張っている。
櫂斗はその様子にホッとするも、周囲の家族はそうと捉えてくれないようだ。

箸をそっと置いた時雨を心配そうに百合子が見る。
「時雨ちゃん、大丈夫?お口に合わなかったかしら?」
「いえ、お料理はとても美味しいです。ただ、もうお腹がいっぱいで。」

「あら、もう?大丈夫なの?」
「母さん、心配になるのはわかるが、今日は食べれている方だよ。
最近は本当にヨーグルトだけとか、果物何切れかとかが続いていたから。」
「いっぱい残してしまってすみません。もう少し、食べられたらいいんですがこれ以上は難しくて…」
「いいのよ、無理はしないで。これは燃えるわねっ!今度は時雨ちゃんでもしっかり食べられるものを研究しておくわっ!」
フッフッフッフッとメモ片手に今回の反省をブツブツと呟いている。

時雨は大丈夫だろうかと心配になるも、櫂斗から見ては行けないと顔を逸らされる。

御手洗いに、と席を立ち櫂斗に案内してもらう。その間に水だけ用意してもらい薬を飲んで戻る。

「凄く明るい家族だね。僕の両親と気が合いそうだよ。久しぶりに実家で過ごしてる気分だった。」
「想像と違うだろう?世間からは天下の来栖なんて言われているが、中身はただの人だよ。料理も家事も使用人はいるが、時間の空いた時は俺達も混じって掃除するし、料理好きの母さんだからこういう団欒の時は母さんが食事を作る。
少々風変わりな所はあるが、悪い人達ではないよ。」
ギュッと手を繋ぎながら少し冷たい廊下をゆっくり歩く。

「うん。カイの家族はとっても暖かいね。少しの間だけど、すっごく好きになっちゃった。」
「そうか。それなら何よりだ。今度はシグの家族にも合わせてくれ。」

「うーん。夏にぃに会うのは時間さえ会えば簡単だけど、他の家族は今アメリカだからね。テレビ電話とかなら全然出来ると思うんだけど。」

「焦らないさ。時間が出来たら向こうに挨拶に行ってもいいしな。ゴールデンウィークは夏樹さんの所にいくんだろう?夏休みはどうするんだ?」
「うーん。夏は体調崩してる事が多いから、わからないなぁ。日本の夏は暑いって言うし、城先生の許可次第…?」

「シグの体調がよければアメリカに行こう。無理でもまたウチで一緒に過ごせばいい。この家は夏は涼しいからな。」
「うんっ。」
部屋について、扉を開ける。

「遅かったわね~っ。イチャイチャしてたの~?カイに虐められてない?変なことされたらすぐに百合ちゃんに言うのよ?」
「だ、大丈夫です!優しくして貰っています!」

「「「ブッ!!」」」
時雨の言葉に男性陣が噴き出す。
どうしたんだろう?櫂斗が優しいのは当たり前なのに。

「シ、シグ。座ろう。」
「う、うん。」

「はぁ…時雨君は少し危ない所があるな。カイ、取られない様にしっかりするんだぞ。何かあれば来栖は時雨君のバックにつく。思いっきりやりなさい。」
「はい、わかっています。シグに手を出すやつは容赦しません。」
そんなこんなで父息子の絆が強くなる一方で、時雨は真斗と話をしていた。

「真斗君は中学生になるんだよね?初等部から由良なの?」
「は、はい。そうです。3日後に入寮します。」
「そっかー。ドキドキだねぇ。何かあったら高等部においで。僕は頼りにならないかもしれないけど話ぐらいは聞いてあげられるから。」
「あ、ありがとうございます!
あ、あの…」
「なぁに?」
「シグ兄様と、お呼びさせて頂いても良いでしょうか!」
「シグでいいよ~。兄様ってそんな固くならなくても…。シグ兄くらいがいいなぁ。」
「あ、そ、それでは、シグ、にぃ…」
「はい。」
ニッコリと真斗に微笑むと顔を真っ赤にしてパタパタと仰いでいる。
「シグ、マサを虐めるなよ。」
「虐めてないよ~。ね?真斗君。」
「は、はい…。名前を呼んでいただけです…」
「そうだよっ、シグ兄って呼んでって話してたの。真斗君は、マサくんでもいいかな?」

「ははははは、はいっ!」
「無意識は怖いな。シグ、シグは俺のだからな。」
「うん、カイの番だよ?」
「はぁ…。わかってるんだか、わかってないんだか…。」

櫂斗が呆れ返りながらも、その後もワイワイと話をして夜が更けていく。


その後解散し、2人でお風呂に入った。
これまた檜風呂で時雨はテンションが上がる。
「こら、滑るぞ。」
「うわっ」
見事に忠告通りに滑りそうになる時雨を難なく片手で受け止める。

「あ、ありがと。」
腰にタオルは巻いているが、肌と肌が触れ合いどこか恥ずかしい。

並んで体を洗い、背中をお互い洗いっこする。
「カイの背中は大きいねぇ。僕の3倍はありそう。」
「まぁ、鍛えてるしな。シグに何かあってもすぐにおぶえるぞ。」
「カイをおぶうのは難しそうだね。何かあったら引きずっちゃうかも。」
「あ、ああ。そうならない様に気をつけてるよ。さぁ、湯船に。身体が冷える。」
浴槽の広さは2人が足を伸ばしても十分な広さがあるが、櫂斗は時雨を膝に乗せて抱き締める。
時雨も櫂斗の胸に頭を置いてふぅーっと力を抜き、綺麗な紫眼で櫂斗を見上げる。
「気持ちいい?」
「うん…。眠たくなりそう…」
身体がポカポカしており、疲れもあって目が閉じかける。そんな様子を見て、軽く頬や額にキスを落として愛おしそうに抱き締める力を強くし、密着する。

「浸かりすぎも良くないから、そろそろ上がるか?」
「ん…。」
ザバッと2人で上がり、浴衣に着替える。髪を乾かそうとするも着替えて椅子に座ってフッとしている間に時雨の意識は落ちかけている。

「シグ、乾かしてから寝るぞ。」
「んー。」
仕方ないと、また時雨の椅子となって髪を乾かしてやる。
終わる頃には完全に夢の中だ。冷えない様にと時雨を羽織で包むと、櫂斗の部屋に行き2人で横になって眠りについた。
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