アングレカム

甘く深く

20

何事もなく、時が過ぎ、いよいよ番うと決めた日が明日に迫っていた。夏樹達にもお見舞いに来てくれたタイミングで番う事を話し、おめでとうと祝福された。

櫂斗も昨日で中等部を卒業した為、業務等に煩わされる事なく時雨のみに集中できる。
この3日間は時雨のベッドでただ抱き締め合いながらゆっくり夜を過ごした。

前日である今日の夜は、時雨は落ち着かない様子でソワソワとしていた。
「大丈夫。怖い事は何もしないよ。たっぷり愛するだけだから、安心して？」
櫂斗がそういうも
「だって、恥ずかしい…。自分がどうなるのかわからないのが1番怖い。」
ギュッと櫂斗の腕に抱き締められながら思いを吐露した。
「体調がおかしいなと思ったら、PHSやナースコールですぐに城先生を呼ぶよ。」
「そっ、そうじゃなくて……。声出ちゃったり、Ωの発情期は淫乱ってよく言われるから…。その、自分の思考とは別に乱れるのが怖いというか…なんというか…」

櫂斗は時雨の思わぬ発言にブッと吹き出した。
「し、時雨さん？俺に今すぐ襲わせたいの？今でさえ、なけなしの理性を抑えてるんだけど？」
「ん？何が？」等の本人はなんて事ない顔をしている。
「はぁ～。何でもない…。シグの可愛い声も聞かせてほしいし、どんなシグでも愛せる自信があるから心配いらないよ。」
そっと口づけを落として、フェロモンで包み込むと、時雨に眠る様に促した。

トントンと時雨の背中を叩くと、香りの影響もあるのか直ぐにトロンと目がして来て、眠りについてくれた。

「全く、この子は…」
純粋すぎるのも俺の心臓に良くないと櫂斗は必死に理性を押し殺しながら、迫る明日に向けて時雨をしっかり抱きしめて目を閉じた。


朝を迎えて、朝に弱い時雨を櫂斗が優しく抱き上げて起こす。
まだ本人は眠りについているが、関係無しに検温をして問題ない事を確認し表に記載する。
起きて～と顔をつついたりして見ても起きない事がわかっている為、ニヤリと笑うと、時雨に深く口づけを落とした。

「…っふぁ、ん…あ…」
徐々に何をされているのかわかってくるのだろう。ゆっくりと目が開いていき、最後は驚いて一気に目覚める。

「おはよう、シグ。」
やった方は満面の笑みだ。時雨も起こしてもらった手前何も言えない。
「お、おはよう。櫂斗さん。その、起こし方心臓に悪いから、やめてほしいんだけど…」
「発作も起きてないし、大丈夫そうだけど？すぐに起きてくれたら、そんなに深くもならないしなぁ。」と意地の悪い口調で言い返され、ぐうの音もでない。

むくれる時雨をいつものごとく抱きしめて宥める。
「いよいよ、今日だな。」
「…うん。」櫂斗の服を掴む手にギュッと力が入る。

その後服を着替え、この後に備えてそれぞれシャワーを浴びた。髪を乾かしたり、またイチャイチャと過ごしていると、呆れ返った城が欠伸をしながら入ってくるのがこの数日続いている。

「おはよーさん。シグ、診察するから横になれ。」
大人しくベッドに横になり、診察を受ける。

「ん。変わり無しと。問題なさそうだな。朝食終わったら、移動する。
今日は点滴で負担の少ないように発情促進剤を使用する。で、シグが無事に発情出来たら番って貰って、終わったら、今回は抑制剤を坊ちゃんがシグに打ってくれ。
坊ちゃんは、事前に抑制剤を飲む事。運命の番の発情期はそれは情熱的だと言われる。αはラットを最初は起こす事が多いからな。ラット予防だ。」
ほれと薬を2錠渡されて飲む。記憶にある限り、比較的作用の強い抑制剤だ。

朝食を終えて、まとめた荷物を櫂斗が持ち、今までの病室のあった３階から5階までエレベーターで城の案内で移動する。

着いた部屋は、フェロモン治療に用いれられる部屋で、普通の病室と異なり、扉は頑丈で大きなベッドとシャワールームが完備されている。城曰く、陰圧室になっており、匂いも漏れない作りらしい。

万が一の為に、時雨には行為を邪魔しない遠隔型の心電図パッチが貼られた。

「発情期特有の波形以外で、致死性の波形が出た時点で問答無用で飛び込む。それ以外で何かあれば坊ちゃんが責任を持ってコールを押せ。」

「シャワーは浴びてるんだろう？早速薬いれるか？」
「う、うん。」
時雨は不安そうに答えた。

「大丈夫だよ、坊ちゃんならシグを傷つける事はしないさ。シグも覚悟決めろよ。話し合ったんだろ？」
城はベッドサイドにしゃがんで、俯く時雨の顔を見ながら声をかけた。

「うん。大丈夫…。入れて。」
暫く目を閉じていたが、決心したように城を見た。

強くなったなと、半分親心で城は時雨の頭をくしゃっと撫でる。
「じゃあ、確認だ。これも医薬品だからな。フルネームと生年月日。」
「月見里時雨。20XX年12月5日」
「よし。じゃあ、これは中心静脈のCVポートに刺して滴下する。
この点滴は、発情したら停止すること。ここにボタンがあるから、どちらでもいいからこのボタンを押して止めなさい。んで、理性を失う前にシグが抜くか、櫂斗が優しく抜くかだな。出来れば、アルコール綿で消毒までして貰いたい所だが。
無理そうなら、ナースコールを押してくれ。俺は番がいるし、影響は受けんからな。」
暫く寝たきりだろうと判断されて、意識を失った時に栄養を入れるためのポートを作られた。起きてすぐは案の定食べられなかったちめ、まだ抜かずに過ごしていた所で番うと決めた。今回はそれが役に立ち、2人でなるべく邪魔されないという環境を作り上げたのだった。

薬剤の確認を3人でしたのち、城によって点滴が入れられた。

「気持ち悪くなったり、身体が暑くなるとか発情サイン以外でおかしいと思ったらすぐに呼べ。じゃあ、後は楽しめ。」
念押しに念押しを重ねて万が一の時はすぐに呼ぶ様伝えると、ニマニマとしながら城は病室を出て、施錠した。