アングレカム

むぎ

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甘く深く

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翌日、運動動作は行わず、以前と同様の検査を櫂斗付き添いで実施した。

どうやら、本当に運命の番のフェロモンは器官の増強に繋がるらしく、以前よりも結果は良いものになっていた。

「ほぉ~。すげぇな。こりゃ今後も楽しみだな。」
城も医者である。研究職の様な事もしている為、今回の結果は興味を大変引いたのだろう。
まぁ、実験感覚では無いことだけが救いだ。

「で、学校は?行っても良いの?」
不安そうにボタンを止めながら時雨が尋ねる。

「この調子なら良いだろう。だが、なるべく坊ちゃんといる事。これは坊ちゃんのフェロモンで身体が少し強くなっているに過ぎない。シグが虚弱であるのは変わらないし、発作が減る、直ぐに命の危機とはならない程度だろう。
長く離れた時には、元に戻る可能性もある。お前ら番うんだろ?ベッタリ学校でもくっついとけ。」
ニヤリと笑いながら答えた。

「ばっ、恥ずかしいこと言わないでよ!デリカシーの欠片も無いんだから!」
むくれる時雨を宥める様にバックハグをしながら櫂斗が落ち着かせる。

「まぁまぁ、良かったじゃないか。これで主治医公認でもベッタリ出来るわけだ。」
櫂斗も楽しそうである。
味方が居ないと拗ねる時雨だったが、城から、いつ番うのか尋ねられ、意識を向ける。

「うん…。3日後にしようかなと思ってマス。」
性の事であり、経験のない時雨は顔を真っ赤にして櫂斗のお腹に顔を埋めながら答えた。純粋な反応に櫂斗は終始顔が崩壊している。

「ほぉ、それまたどうして?」
またニマリとしてそうな声色で城は会話を広げた。

「入学式の1週間前から入寮出来るので、なるべく身体を慣らす為にも最低5日前には入寮しておきたいんですよ。で、入学式まで残り13日。発情を誘発たり番になった事で、時雨に何か影響があっても5日あれば何らかの治療は出来ると見越してですよ。
明日でも良いんですが、まだ目覚めて直ぐです。本調子では無いだろうし、3日後くらいがいいかって話あったんですよ。」

「そうか、そうか。じゃあ、3日後の朝に部屋押さえて、点滴打ってやるよ。
あ、シグは樹雨(きさめ)さんや夏樹達にも番う事報告しとけよ。」
「わかってるよ。」
まだ照れくさいのか、顔を上げる事なく返す。

「樹雨さんって…?」初めて聞く名前だと櫂斗は思案する。
「僕の父さん。」
「お父様か、俺も挨拶しないとな。」
僕も櫂斗の家族に挨拶しなきゃと2人で考えていると、
「そういえば、お前達は互いの家について調べたりしてないのか?」
と城が言ってきた。

「うーん、別にどんな家族でもいいかなって。櫂斗さんの家族なら貧乏でもMafiaでも。」
「まぁ、どうせ父親が調べているだろうし、何も言われないって事は問題ないと言う事だろうし。何かあっても、シグとは離れるつもりが無いから、俺は良いかなって。」
「父親が調べてるって…?」
時雨は身辺調査をされていると知り、櫂斗を不安げに見上げた。

「坊ちゃんって言ってんだろ。そいつは、来栖財閥の御曹司だよ。次期後継者。」
「来栖って、あれ?車メーカーとか、アパレルとか、色んな分野に展開してる会社?」
苦笑しながら櫂斗が続けた。
「そうそう。その来栖だよ。一応、後継者とは言われているが、まぁ、継がなくても弟もいるし、重く考えなくていい。」
再び頭を撫でながら時雨を抱き締める。

「ま、シグんとこも坊ちゃんの調査はしてると思うぞ~。
つか、夏樹は来栖会長と知り合いみたいだったな。」
「月見里…。ああ、シグはYAMANASHIの大本かな?父が偉い機嫌よく取引から帰ってきて、褒めていたのを覚えている。」

「つことで、家柄的には問題ないだろう。ま、あの人達はお前達が決めた相手なら何も言わんと思うがな。
シグんとこはクソ過保護だから、暫くは睨まれるぞぉ。」黒い笑みを浮かべて櫂斗に覚悟しとけよ?と忠告する。

「そんな事ないよ。なんなら今かける?今向こう21時でまだ起きてると思うし。」
そう言って、携帯を取り出す時雨。個室であり、今は検査後の為、機器はまだついていない。

止める間もなく、スピーカーモードにした携帯から発信音がなる。
Purururu
『シグ?身体は大丈夫?倒れたと夏樹から連絡がきたよ?』
柔らかなバリトンボイスが病室に響く。

「父さん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね。」
『あんまり、無理はしないでおくれよ。時季(とき)も心配していた。』
「ごめんね。パパにも心配しないでって伝えておいて。」
『わかったよ。で、用事は何だったんだい?』
「あ、あのね、僕、運命の番とあってね。運命だからって訳じゃなくて、ただ純粋に惹かれたんだけど。その人と番おうと思ってる。」
『………………。父さん、耳が遠くなったみたいだ。もう一度言ってくれる?』
「だから、運命の番で、僕の好きな人と、番おうと思ってるの!恥ずかしいからこれっきりね!」顔は耳まで真っ赤だ。

『ほぉ…。どこのどいつだね?可愛いシグをたぶらかしたのは…』
「初めまして。来栖櫂斗と申します。来栖財閥の長男です。私が時雨さんと番わせて頂きたいと思っています。」
『来栖の御曹司か…。私は月見里樹雨だ。YAMANASHIの会長を務めている。んで?どうしたら、こんなに早く番うことになってるんだ?』
明らかに不機嫌な声で櫂斗に威圧をかけている。電話越しなのに、威嚇フェロモン全開であるのがわかるほどに。

「はい。一目惚れをしました。また、1週間程を共に過ごしましたが、お互い落ち着きますし、愛情は深まるばかりです。俺が時雨さんに隣に居て欲しいと、愛していると、番う事をお願いし、了承を得ました。
一生をかけて幸せにすると誓いました。どうか、認めて頂けないでしょうか。」
電話越しに頭を深く下げる。

『…………。シグ、お前は後悔しないか。番は簡単に断ち切れるものではない。特にΩにとっては一生に1人だろう。解除しようとした時は、Ωにかかる負担はすざまじい。シグは解除の圧には耐えられないだろう。
そう考えると、本当に一生の存在だ。
彼で、良いと、時雨は迷いなく思えるかい?』
「…。はい。僕は来栖櫂斗さんとこれからの未来を過ごしたいと望んでいます。僕からもお願いします。父さん、番う事を認めてくれませんか。」
実父であるが、真剣な場であり、誠意を伝える為にもしっかりとした態度で時雨も頭を下げた。

『俺達家族は、シグが幸せなら構わないさ。櫂斗君、シグをよろしく頼むよ。悲しませて泣かせる事は許さない。その時はYAMANASHI総出で来栖を潰しにかかるから、覚悟しておけよ。』
シグと櫂斗との対応の差が激しいが、父からは認めるとお許しが出た。

『シグ、いつでも帰ってきていいからね。櫂斗君に飽きたらすぐに言うんだよ。』
「そんな事にはさせませんので、ご安心を。ありがとうございます。これからよろしくお願いします。お義父さん。」
『だぁれがお義父さんだ!まだ認めてないからなっ!@\fgk&@…』
「はいはい。ありがとね。じゃあ、またね!」
時雨は長くなると思い、シグゥと嘆く父親を振り切り電話を切った。

「ごめんね。ちょっと子煩悩だから、あのまま続けてると一日終わっちゃうから。」
こういう時の時雨は強いんだと新たな発見をした櫂斗だった。

「櫂斗さんのところは、ご挨拶はいつが良いかな?」
「俺のところは番ってからで構わないと言われている。俺が落ち着かないだろうからと。」
「じゃあ、入学前にでも挨拶に行けたら嬉しいな。」
「わかった。父に連絡しておくよ。」

「はいはい、お二人さん。イチャイチャするなら俺が出てってからにしてな。」呆れ返るように城にシッシッとされる。

「ま、とりあえず、許可は貰ったという事で、体調に問題が無ければ3日後な。フェロモン治療に使用する、5階の病室抑えてるから3日後までにはこの部屋の整理しとけよ。」
はーいと返事を返すと、俺も早く会いに行こうと城が不貞腐れながら出ていった。

「城先生の番は、この病院の作業療法士さんなんだ。僕も何度かお世話になってるけど、奥さんとは思えないくらい体格がいいよ。お子さんも2人いるしね。」
「…なんか意外だな…。」
想像すると笑いが出てきて、つられる様に時雨もくすくすと笑い、久しぶりに和やかな1日となったのだった。
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