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33話 兆しと契約

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 三日ほどたっただろうか、俺は授業を受ける気にはなれずこの三日間、朝から晩までラグラスの森の中をひたすらに散策していた。


 不思議なことにこの三日間で魔物には一匹にも出会ってなく殺されることも無く森の中を歩いていた。


 少しばかり森の中を歩くと大きく開けた場所へと出て、大きな湖がお出迎えをしてくれる。


 ここにいると心が落ち着いて、冷静に物事を考えられる気がして目覚めてから毎日ここに来ているが大事なことは何一つ決まっていなかった。


 適当な木下に寝転がって目を閉じる。
 風で靡く木のせせらぐ音、ザーザーと波打つ水、どこかから聞こえる鳥の鳴き声、それを聞いていると落ちつく。


 アニス……。
 胸に大きな穴がずっと空いている感覚だ。
 それほどまでに俺の中でアニスは大事なものになっていた。


 出会いは偶然森で拾った、ただそれだけだ。
 けどそれで俺の人生は全部と言っていいほどに変わった。


 俺は彼女に何も返せていない。
 きっと彼女はそんなものいらないって言うだろうけど恩を仇で返すなんてことは出来ない。


 俺にたくさんのかけがえのないものを押し付けるだけ押し付けていなくなるなんて聞いてないぞ。
「ふざけんなよ……」
 やるせない怒りをどこにやればいいのかわからずモヤモヤする。


「ここにいたか」
 すると後ろからかなり久しぶりに聞いた男の声がする。
「……何の用だ」
 振り向くとそこには赤色の逆立つ毛と真赤なジャケットが特徴的なラミアの魔装機、ガーロットがいた。


「どんな具合かラミアに頼まれて見に来たんだ。思ったより元気そうだな」
 ガーロットはどうでいいような態度で適当に言う。
「そりゃどうも。もう確認は終わったろ、どっかいってくれ……」
「ああ、そうさせてもらうよ」
 俺の邪険な態度を気にもせずガーロットはすぐさま来た道を戻ろうとする。


「ああ、そうだ一つだけ。お前の持っているその魔石はなんだ?」
 くるりと振り返り最初から知っていたような口振りで魔石のことを聞いてくる。
「なにって、アニスが壊れた時に残った魔石、ただそれだけだろ」
 ポケットから魔石を取り出してガーロットに見せる。


「……そうかただの魔石か、ただの魔石がそんなに強力な悪魔の魔力を帯びてるなんて不思議な話しだな」
 ガーロットは鼻で笑いその場を今度こそ離れる。
「お、おい!どういうことだ!?」
 呼び止めようとしたがそれも虚しくガーロットはどこかへ消えてしまった。


 強力な悪魔の魔力……。
 この魔石にそれがある?
 さっきのあいつの言葉が本当かどうか確認したいけど今の俺にはその術がないし……。


「お困りのようだね!!生き延びる気になったかい?」
 頭を悩ませているとそんな明るい声が聞こえてくる。
「おい、この魔石にまだ魔力があるのは本当か?」
 ちょうどいいところにきたので聞いてみる。


「おっと、いきなりだね~。どれどれ……」
 精霊はまじまじと魔石を見つめる。
「……あるね、しかもかなり強力なやつだ。この魔石はまだ生きている」
「ッ!?それってアニスがまだ生きてるってことか!?」
「それはわからないけど、その可能性は高いんじゃない?」
 精霊は俺の話の食いつき様に驚いた顔をする。


 まだ、助かるかもしれない!
 今はその可能性だけで十分だった。


「おい、契約って何をすればいいんだ?」
「お!契約してくれる気になったのかい?」
 精霊は俺の言葉を聞いて嬉しそうに笑う。


「このまま行けば俺は死ぬんだろ?そういう訳にはいかなくなった、お前の暇つぶしに付き合ってやるよ」
「そうか!それは嬉しいね!!それじゃあさっそく始めようか、善は急げだ!」
 妖精は祈るように手を胸のあたりに組んで目を閉じる。


「我が光は彼の地へと導く光、光の精霊リュミールの名の元にここに灯の誓を交わす」
 とたんに体の周りを光が包みとても安らかな気持ちなる。


 落ちつく。
 この感覚はなんだな知っているような気がする、なんだったろうか……。


「さ、終わったよ!」
 精霊の声で目を咄嗟に開く。
 ほんの少しの間だけ意識がなかった。
「そんなに気持ちよかったかい?」
 俺の顔を見てか、いたずらっ子のように笑い聞いてくる。


「……うるさいぞ精霊」
「私の名前は精霊じゃない!自己紹介したよね?リュミール!私の名前はリュミールだよ!!」
 精霊と言う呼び方が余程嫌だったのか物凄い勢いで抗議する。


「あー、はいはい。悪かったよ……」
「何だいその適当な返事は!?まったく、せっかく一番契約の中でいい証をあげたのに……」
「証……?」
 精霊、リュミールの言葉を聞いて自分のどこに証があるか探す。


「これか」
 左手の甲を見ると何で描かれたかはわからないが複雑な模様が手にあった。
「普通、精霊って言うのは信用に値する人間でも自分の全ての力を貸すわけじゃない、その場合なにか対価になるもの貰うんだ。証にも何種類かあってね、君にはその中でも一番力を使える証をあげた」
 リュミールは胸張り、自慢げにふんぞり返る。


「まあ、私は君の人生というとんでもない対価を貰ったわけだからこれくらい当たり前なんだけどね」
 続いた言葉を聞いて納得する。


 確かにこいつは俺の滅多にない面白そうな人生を見届けたいがために力を貸してくれるんだ、死なれては困るわけで当たり前といえば当たり前か。


「何あいうことがあるんじゃないかい?」
「……」
 言い方がむかついたので何も言わず学園へと戻る。


「ちょ!そんなはずがしがるなよ~」
「うるさいぞ……リュミール」
 そんな不毛なやり取りをしながら帰る。
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