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第9話 重愛の評判
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「パスパスっ!!」
「赤城に回すな!!」
「頼んだ赤城!!」
「おうっ!!」
脇目も振らずに大声で指示を出し合う生徒たちの声と、バスケットボールのドリブル音が体育館に響き渡る。無数に聞こえるスキール音は学校指定の上履きで授業を受けているとは思えない。
どのスポーツに於いても言えることなのだが、バスケットボールというスポーツは特にラン&ストップが激しいスポーツで靴にかかる負担は大きい。丈夫にできているとは言え、もともと運動メインの設計で作られていない指定上履きにはハードな仕事だろう。
だと言うのにそんなことお構い無しに、上履きを酷使してプレーに全力を捧げる生徒たち。その姿は若いエネルギーに満ち溢れていると言っていいだろう。
「うぉぉぉおお! また決めた!!」
「ナイス赤城!!」
「よっしゃぁあああ!」
喜んだ声とと悔しがる声が綯い交ぜになる。その声に掻き消されることなく、異様に耳に届くボールがゴールネットを潜る音。
これで点差は更に広がった。
ミニゲームの内容は、赤城烈斗率いる赤チームの圧勝であった。無情なり白チーム。だが、経験者のいるチームに勝つというのはなかなか難しい話である。仕方ない。
それでも最後まで諦めずに白チームはボールをゴールまで運ぶ。
授業はとても盛り上がっていた。
4時間目、授業は言うまでもなく体育館、内容は男子がバスケットボールで女子がバレーボールだった。
午前中最後の授業、それが体育と言う殆どの生徒に取ってはご褒美のような授業ということもあり生徒たちのテンションはマックスだった。
しかも今日は2つのクラスが集まって行う合同授業と言うこともあり、生徒の数もそこそこに多くてお祭りのような騒ぎだ。合同相手はB組、重のクラスだった。
こういう授業はとても楽だ。上手いこと人影に隠れていればちゃんと授業に参加する必要が無い。つまりサボっていられるのだ。
運動は別に嫌いではないが、今日は体を動かす気分にならなかった。それならば隅っこに座ってもう反面のコートを使っている女子のバレーを見ている方が有意義な時間だ。
俺だけが不真面目だと思うなかれ。俺みたいな奴は当然ながら他にもいる。ゲームに参加しておらず、特に他の奴らのゲーム内容に興味が無い他の男子生徒は俺と同じように女子のバレーを見ているのだ。
「バスケするのもいいけど、こっちもいいよな」
「ああ……眼福だぜ……」
「だな!」
思春期真っ盛りな色目トークが聞こえてくる。
全くの同意見だがお前らの場合は話し声がデカいし、表情に少し出すぎだ。女子が軽く気持ち悪がっているぞ。
「……」
俺みたいな周りに気を使える男はそこら辺は抜かりない。
あくまで隅っこで休憩している風を装い、たまたま女子の方を見ている感じを演出するのだ。そして表情は常に真顔。
これで完璧に怪しまれずに女子の観察をすることが出来る。
お前たちはまだまだ練度が低すぎる。
「ふっ……」
気持ち悪がられてる男子を尻目に女子のコートを再び注視する。特に1人の女子生徒に対してだ。
そんなことをしていると聞き覚えのある声に名前を呼ばれる。
「おうおうなんだ啓太、授業にマトモに参加せずに優雅に女子のバレーを眺めてるとはいいご身分だな」
「……善か、試合終わったのか?」
声の主は悪友の小鳥遊善だ。善は汗をタオルで拭いながら俺の隣に腰掛ける。
「ああ! 圧勝だったぜ!」
「だろうな。赤城がいれば大抵の相手は余裕だろ」
「まあな。そんで誰をそんなに一生懸命見てるんだ……ってわざわざ聞く必要も無いか。どうせいつも通り譎か」
「違ぇよ」
「じゃあ誰だよ?」
「……善には教えねぇ……」
「なんだよそれ。いいじゃかぁ、教えろよォ」
ウザ絡みしてくる善から目線を切って、再び同じ女子生徒を見る。
その女子生徒とは───
「なんだ珍しいな、今日はカサネアイか」
「……」
───善が今言った通り重だった。
「昨日からどうも熱心だな。本当に鞍替えか?」
「……だから違うって言ってるだろ。てか、なんでわかった」
「じゃあ何だってんだよ?昨日からお前おかしいぜ?」
善は俺の質問に答えず、逆に質問をして続けた。
「あんなに煙たがってたカサネアイと登校してくるわ、昼に誘うわ、今日に限っては授業中に熱い視線を送るわ。
理由を聞いてもお前は「違う」と言うが、傍から見てたら譎から鞍替えとしか思えんぞ」
「……」
善の言葉に俺はノーコメントを貫く。
確かに善の言いたいことは分かるし、そう思ってしまうのも納得する。しかし、俺は決してそんな腑抜けた理由で重を見ていた訳では無い。全て理由あってのことなのだ。
だが、その理由を話したところで理解して貰えないだろうし、善には「結局鞍替えだろ?」と言われそうなのでまともに相手はしない。
スマンな友よ。
「まあどっちでもいいがよ。正直俺は、お前の判断は妥当だと思うぜ。譎はお前には高嶺の花すぎる。
まあカサネアイだって同じだぜ? あの見た目だ、男子からの人気も相当高い。お前よりカッコよくてスペックのいい男なんて選びたい放題。なのにお前にあんなにゾッコン。本当に謎だ……」
「……お前、ゲームに参加しないの?」
「今は休憩中、復帰するなら次からだな」
しつこく話を続けてこようとする善を遠ざけようとするがなかなか諦めない。
「……はあ、重って男子から人気なのか?」
俺の雰囲気を察して踏み込んだ話はしないようにしたので、仕方なく善の話に付き合うことにする。
俺はとにかく重のことを知らなさすぎる。それは個人的なことから一般的な周りの評判など全部だ。
俺の至上命題を果たすためには様々な彼女の事を知る必要がある。たった今、善から気になる内容が聞こえてきたし、ここは一つ情報収集をしてみよう。
「そりゃあの見た目だし当前だろ。譎と並ぶ、全校男子の憧れの的だぜ。一年の頃はよく色んなやつから告白されたって話は聞いたな」
「へえ……」
それは知らなかった。そうか重は男子に人気があるのか。いや、確かに顔ヨシ・スタイルヨシだし見てくれだけで言えば重は相当レベルが高い。人気だと言われても不思議ではない。
「数多くのイケメンや運動部のエース、世間的に女子生徒から人気のあった男どもがカサネアイに告白したわけなんだが、あの女はそれを尽くキッパリと完膚なきまでに断った。理由は「心に決めた人がもういる」だとかなんだとか」
「ふむ」
「その一見キツすぎる対応に男どもは戦意喪失。女子からは「生意気だ」と反感を買う形になっちまった。半年後にはカサネアイに近づく男はいなくなった、同時に仲のいい生徒もいなかった。そこで付いたあだ名が『孤独姫』」
「ネーミングが安直すぎないか……てか、なんでそんなに詳しいんだよ?」
俺の質問に善は懇切丁寧に回答してくれた。
というか、本当にネーミングが雑すぎる。
「いやこれ、この学校の一般常識だぜ?」
「……マジ?」
「マジだよ。どんだけ今まで譎にお熱だったんだよ……」
善は呆れた視線を俺に向けてくる。腹立たしい反応だが、あながち言ってることは間違いでは無いので言い返せない。
「そんな孤独姫が入学当初から誠実君主さまにベタ惚れってんだから驚きだよな」
「その呼び方やめろって言ってるだろ。俺は別に誠実でもなんでもねえよ」
善の言う『誠実君主』とは俺のあだ名のようなものだ。
何でも周りのクラスメート曰く「お前ほどバカな真面目は見たことがない」らしい。俺のどこをどう見てコイツらは俺を『真面目』と言っているのか、俺がみたいなのが真面目なら全人類マジメちゃんだ。全く理解できなかった。
「しかも。この事実を知ってる生徒は極小数。当人達とそのまわりにいる親しい人間くらいと来たもんだ。どうなってんだこれ?」
「知るかよ。まあ変に周りに広まって変な妬み買うよりかはましだけどさ」
善の言う通り好かれている事が謎なら、それが全く露呈していないのも謎だった。
重は今まで俺に様々なストーカー紛いの行為を続けてきたが、その全てを他の生徒にバレずに行ってきたのだ。普通は直ぐにバレそうなものだが今まで本当にそういった噂は流れてこなかった。
やり方が上手いのか、何なのかは知らんが謎の多い生徒に変わりなかった。
「そんなお前が今、カサネアイに興味を持つとはねぇ……」
「……なんだよ。何度も言うが鞍替えとかそういうのじゃないからな」
「それはもうわかったし。変に理由を聞くのも止めた。本当に話したくないみたいだしな」
善は諦めたように笑うと立ち上がった。どうやら他のメンバーがやっていたゲームが終わり、善の番が回ってきたらしい。
「啓太はやんねぇの?」
「今日はいいや。俺の分まで動いてきてくれ」
「オーケー、じゃあ行くわ。あと、あんまりガン見しすぎるなよ。見すぎてカサネアイと目が合っても知らねえぞ」
最後に茶化すように善は言うと、コートの中に走っていく。
「ご忠告どうも…………つっても、もうとっくの前から目は合いっぱなしなんだどな」
善に向けて放った言葉だが、当の本人は聞こえない。再び視線を女子の方に戻すと、またそいつと目が合った。
一瞬からだをビクリと震わせて、胸の前で小さく手を振ってきた。
それに何となく手を振り返して近くで俺と同じように女子の方を見ていた男子の会話を盗み聞く。
「おい! いま孤独姫がこっちに手を振ったぞ!?」
「なに! これは脈アリってやつか!!?」
「バカ! あれは俺に向けて手を振ってくれたんだよ!!」
「んだと!? そんなわけねぇだろ!」
『孤独姫』なんて呼ばれて周りから避けられているとさっき聞いていたが、依然として男子からの人気は高いようだ。
「まあ性格を抜きにすればあれほど完璧な女子はいないだろうな……」
俺は少しだけ重について詳しくなった。
「赤城に回すな!!」
「頼んだ赤城!!」
「おうっ!!」
脇目も振らずに大声で指示を出し合う生徒たちの声と、バスケットボールのドリブル音が体育館に響き渡る。無数に聞こえるスキール音は学校指定の上履きで授業を受けているとは思えない。
どのスポーツに於いても言えることなのだが、バスケットボールというスポーツは特にラン&ストップが激しいスポーツで靴にかかる負担は大きい。丈夫にできているとは言え、もともと運動メインの設計で作られていない指定上履きにはハードな仕事だろう。
だと言うのにそんなことお構い無しに、上履きを酷使してプレーに全力を捧げる生徒たち。その姿は若いエネルギーに満ち溢れていると言っていいだろう。
「うぉぉぉおお! また決めた!!」
「ナイス赤城!!」
「よっしゃぁあああ!」
喜んだ声とと悔しがる声が綯い交ぜになる。その声に掻き消されることなく、異様に耳に届くボールがゴールネットを潜る音。
これで点差は更に広がった。
ミニゲームの内容は、赤城烈斗率いる赤チームの圧勝であった。無情なり白チーム。だが、経験者のいるチームに勝つというのはなかなか難しい話である。仕方ない。
それでも最後まで諦めずに白チームはボールをゴールまで運ぶ。
授業はとても盛り上がっていた。
4時間目、授業は言うまでもなく体育館、内容は男子がバスケットボールで女子がバレーボールだった。
午前中最後の授業、それが体育と言う殆どの生徒に取ってはご褒美のような授業ということもあり生徒たちのテンションはマックスだった。
しかも今日は2つのクラスが集まって行う合同授業と言うこともあり、生徒の数もそこそこに多くてお祭りのような騒ぎだ。合同相手はB組、重のクラスだった。
こういう授業はとても楽だ。上手いこと人影に隠れていればちゃんと授業に参加する必要が無い。つまりサボっていられるのだ。
運動は別に嫌いではないが、今日は体を動かす気分にならなかった。それならば隅っこに座ってもう反面のコートを使っている女子のバレーを見ている方が有意義な時間だ。
俺だけが不真面目だと思うなかれ。俺みたいな奴は当然ながら他にもいる。ゲームに参加しておらず、特に他の奴らのゲーム内容に興味が無い他の男子生徒は俺と同じように女子のバレーを見ているのだ。
「バスケするのもいいけど、こっちもいいよな」
「ああ……眼福だぜ……」
「だな!」
思春期真っ盛りな色目トークが聞こえてくる。
全くの同意見だがお前らの場合は話し声がデカいし、表情に少し出すぎだ。女子が軽く気持ち悪がっているぞ。
「……」
俺みたいな周りに気を使える男はそこら辺は抜かりない。
あくまで隅っこで休憩している風を装い、たまたま女子の方を見ている感じを演出するのだ。そして表情は常に真顔。
これで完璧に怪しまれずに女子の観察をすることが出来る。
お前たちはまだまだ練度が低すぎる。
「ふっ……」
気持ち悪がられてる男子を尻目に女子のコートを再び注視する。特に1人の女子生徒に対してだ。
そんなことをしていると聞き覚えのある声に名前を呼ばれる。
「おうおうなんだ啓太、授業にマトモに参加せずに優雅に女子のバレーを眺めてるとはいいご身分だな」
「……善か、試合終わったのか?」
声の主は悪友の小鳥遊善だ。善は汗をタオルで拭いながら俺の隣に腰掛ける。
「ああ! 圧勝だったぜ!」
「だろうな。赤城がいれば大抵の相手は余裕だろ」
「まあな。そんで誰をそんなに一生懸命見てるんだ……ってわざわざ聞く必要も無いか。どうせいつも通り譎か」
「違ぇよ」
「じゃあ誰だよ?」
「……善には教えねぇ……」
「なんだよそれ。いいじゃかぁ、教えろよォ」
ウザ絡みしてくる善から目線を切って、再び同じ女子生徒を見る。
その女子生徒とは───
「なんだ珍しいな、今日はカサネアイか」
「……」
───善が今言った通り重だった。
「昨日からどうも熱心だな。本当に鞍替えか?」
「……だから違うって言ってるだろ。てか、なんでわかった」
「じゃあ何だってんだよ?昨日からお前おかしいぜ?」
善は俺の質問に答えず、逆に質問をして続けた。
「あんなに煙たがってたカサネアイと登校してくるわ、昼に誘うわ、今日に限っては授業中に熱い視線を送るわ。
理由を聞いてもお前は「違う」と言うが、傍から見てたら譎から鞍替えとしか思えんぞ」
「……」
善の言葉に俺はノーコメントを貫く。
確かに善の言いたいことは分かるし、そう思ってしまうのも納得する。しかし、俺は決してそんな腑抜けた理由で重を見ていた訳では無い。全て理由あってのことなのだ。
だが、その理由を話したところで理解して貰えないだろうし、善には「結局鞍替えだろ?」と言われそうなのでまともに相手はしない。
スマンな友よ。
「まあどっちでもいいがよ。正直俺は、お前の判断は妥当だと思うぜ。譎はお前には高嶺の花すぎる。
まあカサネアイだって同じだぜ? あの見た目だ、男子からの人気も相当高い。お前よりカッコよくてスペックのいい男なんて選びたい放題。なのにお前にあんなにゾッコン。本当に謎だ……」
「……お前、ゲームに参加しないの?」
「今は休憩中、復帰するなら次からだな」
しつこく話を続けてこようとする善を遠ざけようとするがなかなか諦めない。
「……はあ、重って男子から人気なのか?」
俺の雰囲気を察して踏み込んだ話はしないようにしたので、仕方なく善の話に付き合うことにする。
俺はとにかく重のことを知らなさすぎる。それは個人的なことから一般的な周りの評判など全部だ。
俺の至上命題を果たすためには様々な彼女の事を知る必要がある。たった今、善から気になる内容が聞こえてきたし、ここは一つ情報収集をしてみよう。
「そりゃあの見た目だし当前だろ。譎と並ぶ、全校男子の憧れの的だぜ。一年の頃はよく色んなやつから告白されたって話は聞いたな」
「へえ……」
それは知らなかった。そうか重は男子に人気があるのか。いや、確かに顔ヨシ・スタイルヨシだし見てくれだけで言えば重は相当レベルが高い。人気だと言われても不思議ではない。
「数多くのイケメンや運動部のエース、世間的に女子生徒から人気のあった男どもがカサネアイに告白したわけなんだが、あの女はそれを尽くキッパリと完膚なきまでに断った。理由は「心に決めた人がもういる」だとかなんだとか」
「ふむ」
「その一見キツすぎる対応に男どもは戦意喪失。女子からは「生意気だ」と反感を買う形になっちまった。半年後にはカサネアイに近づく男はいなくなった、同時に仲のいい生徒もいなかった。そこで付いたあだ名が『孤独姫』」
「ネーミングが安直すぎないか……てか、なんでそんなに詳しいんだよ?」
俺の質問に善は懇切丁寧に回答してくれた。
というか、本当にネーミングが雑すぎる。
「いやこれ、この学校の一般常識だぜ?」
「……マジ?」
「マジだよ。どんだけ今まで譎にお熱だったんだよ……」
善は呆れた視線を俺に向けてくる。腹立たしい反応だが、あながち言ってることは間違いでは無いので言い返せない。
「そんな孤独姫が入学当初から誠実君主さまにベタ惚れってんだから驚きだよな」
「その呼び方やめろって言ってるだろ。俺は別に誠実でもなんでもねえよ」
善の言う『誠実君主』とは俺のあだ名のようなものだ。
何でも周りのクラスメート曰く「お前ほどバカな真面目は見たことがない」らしい。俺のどこをどう見てコイツらは俺を『真面目』と言っているのか、俺がみたいなのが真面目なら全人類マジメちゃんだ。全く理解できなかった。
「しかも。この事実を知ってる生徒は極小数。当人達とそのまわりにいる親しい人間くらいと来たもんだ。どうなってんだこれ?」
「知るかよ。まあ変に周りに広まって変な妬み買うよりかはましだけどさ」
善の言う通り好かれている事が謎なら、それが全く露呈していないのも謎だった。
重は今まで俺に様々なストーカー紛いの行為を続けてきたが、その全てを他の生徒にバレずに行ってきたのだ。普通は直ぐにバレそうなものだが今まで本当にそういった噂は流れてこなかった。
やり方が上手いのか、何なのかは知らんが謎の多い生徒に変わりなかった。
「そんなお前が今、カサネアイに興味を持つとはねぇ……」
「……なんだよ。何度も言うが鞍替えとかそういうのじゃないからな」
「それはもうわかったし。変に理由を聞くのも止めた。本当に話したくないみたいだしな」
善は諦めたように笑うと立ち上がった。どうやら他のメンバーがやっていたゲームが終わり、善の番が回ってきたらしい。
「啓太はやんねぇの?」
「今日はいいや。俺の分まで動いてきてくれ」
「オーケー、じゃあ行くわ。あと、あんまりガン見しすぎるなよ。見すぎてカサネアイと目が合っても知らねえぞ」
最後に茶化すように善は言うと、コートの中に走っていく。
「ご忠告どうも…………つっても、もうとっくの前から目は合いっぱなしなんだどな」
善に向けて放った言葉だが、当の本人は聞こえない。再び視線を女子の方に戻すと、またそいつと目が合った。
一瞬からだをビクリと震わせて、胸の前で小さく手を振ってきた。
それに何となく手を振り返して近くで俺と同じように女子の方を見ていた男子の会話を盗み聞く。
「おい! いま孤独姫がこっちに手を振ったぞ!?」
「なに! これは脈アリってやつか!!?」
「バカ! あれは俺に向けて手を振ってくれたんだよ!!」
「んだと!? そんなわけねぇだろ!」
『孤独姫』なんて呼ばれて周りから避けられているとさっき聞いていたが、依然として男子からの人気は高いようだ。
「まあ性格を抜きにすればあれほど完璧な女子はいないだろうな……」
俺は少しだけ重について詳しくなった。
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―作品について―
全32話、約12万字。
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