上 下
388 / 763
アスティア

突入

しおりを挟む
レナトゥスの表面からウルトやほかのドゥームアンヘが発生する様子はない。

今の内にこれを何とかしないと。

「どうする?トリプルブーストの《ルインブレイザー》を撃ち込みまくる?」
「それが一番だと思います。ユキさん、ソラちゃん、テュケ君は周囲の警戒を」
「分かりました!」「ん、了解」「おう!」

リオさんの提案通り、私がトリプルブーストをリオさんに付与してリオさんが《ルインブレイザー》を撃つ。

地表の岩石と凶星石を削り取って大爆発を起こす。何ならこのままバラバラに砕け散ってくれればいいのだけど、そうはならなかった。

動けない私の代わりにユキさん、ソラちゃん、テュケ君《カタフィギオ》で衝撃波を防いでくれた。

粉塵が収まった所でレナトゥスはどうなったか確認する。

表面にかなり大きな穴が空いていた。

「このまま内部に行ってみる?」
「そうですね。外から打撃を与えるにはあと何回あれをやらなくちゃいけないか分からないですし」

リオさんに聞かれて考察した事を口にする。
実際今の一撃で削り取れたのはほんの一部だった。これを外から消滅させようとすると途方もなく時間がかかる上にトリプルブーストの使用回数がとんでもない事になってしまう。
流石に連射して無事でいる自信はない。

「内部にコアでもあればそれを破壊して終わりなんですけどね」
「そうなんだよね。それを確認するにはやっぱり中に入らなくちゃなんだよ」
「ここで話し合っていてもウルトやアンヘルが湧くだけね。突入しましょう」

リオさんの提案に全員が頷いて穴の開いた所に入っていく。直径はどれくらいの穴だろう?

穴の中は真っ暗で、リオさんが魔法で灯りを付けてくれてようやく見渡せるようになった。
魔法で抉り取られた断面は岩の様になっていて、所々にかなり小さな凶星石が埋まっている。

これが育って人に寄生する様になるのだろうか?この石達はどうやら生物を糧にしている様なので触らない様にしよう。

暫く進むと真っ黒な壁に行き着いた。

「なんだろう、ただの壁では無さそうだけど…」

光を当てても真っ黒なのだ。絵具で塗りつぶされたみたいに。

そして僅かだけど引き寄せられている感じもする。

「魔法で壊してみようか」
「そうですね」

《ルインブレイザー》は反動が怖いので《レイブラスター》をぶつけてみる事に。

何かあった時に対処できるようにテュケ君が撃つ事になった。

「いくぞ!《レイブラスター》!」

テュケ君の左手から放たれた高威力の光線は壁に命中して…

何も起こらない。

「テュケのヘナチョコ魔法では壊せないみたい」
「悪かったな!もう一度だ!《レイブラスター》!!」

今度は自分でオーバーブーストを掛けて撃っている。
さっきのよりもずっと太い光線が黒い壁に命中するけど効果はなし。

「これは魔法が効かない素材なのかしら?」

リオさんは少し近づいて灯りで照らして壁を調べる。

「あまり近付かない方がいいですよ」

ユキさんもリオさんに続いて近付いていく。何かあった時のフォローをする為だろう。

「何か聞こえるわ…て、えっ!?」

耳を澄ませていたリオさんが壁に引き寄せられて吸い込まれていく。

「リオさん!」

ユキさんが手を引っ張るけどそのまま引き込まれていく。

「ユキ!手を離しなさい!このままじゃあなたまで…」
「ダメです!離しません!」

ユキさんは首を横に振りながら両手でリオさんの腕を掴んで引っ張る。
しかし吸い込まれていく速度は変わらない。転移で強制的に救出する事も出来ないし…

「ミナ!ユキを連れて離れて!」
「いえ、みんなで吸い込まれましょう。多分ですけど即死する様な事は無いと思います」

何となくだけどそんな気がする。

「賛成。私達はいつでも一緒」
「そうだな。ねーちゃんが言うなら大丈夫だろ。行こう!」

ソラちゃんとテュケ君も同意してくれた。

ユキさんもリオさんの手を引っ張るのをやめて、片手を私の方に伸ばしてくる。
その手を取って、全員で壁に吸い込まれる。

ーーーー

気が付くと私達は草原に立っていた。
草は膝丈程もない広い草原。
遠くには雪を被った山脈が見える。
麓には森があり、そこまでは見通しが良い。

「ここは…?」

ユキさんは防御姿勢をとりつつ周囲を確認する。

「レナトゥスの中…よね?」

リオさんは空を見上げて呟いた。
空は青く、天井がある様には見えない。

「草の匂いがする…本物?」

ソラちゃんは手で地面に触れて感触を確かめていた。

私達は呼吸出来ている。宇宙空間では《アドラステア》、《アルスアドラステア》で保護されていたので呼吸をしていなかったのだけど、今は新鮮な空気を胸一杯に吸い込んで吐き出す事が出来た。

「ねーちゃん、あれ…」

テュケ君が指した方向を見ると、黒い毛の牛が元気よく走っていた。
あれは…プレリヴァーシュじゃないね。
鑑定してみたら【プラトボース】と出た。
まあ、どう見ても地球の牛なんだけど。

「美味しそう」
「罠かも知れないわ。近付いたらダメよ」
「むぅ…」

そうだね。念の為様子を見よう。

牛は元気よく走っていて私達には目もくれない。
そのまま草原の彼方へと消えていった。

「ミナ、鑑定で人間が居ないか調べられる?」
「やってみます」

とにかく広範囲を調べたかったのでオーバーブーストを掛けてから鑑定をする。

…どうやら人が住んでいる場所がいくつもあるみたい。一番近くは…大した距離じゃない。みんなにも鑑定結果が判る様にアウラさんに伝達してもらう。

「どう思います?」
「そうね…他の星で捕らえられた人間か、ここで飼われているだけなのか…」

リオさんの言う通りその可能性は充分にある。それならば助け出す事は可能だろうか?

「もっと状況が知りたいわね」
「見てみますね」

《ハイパークレアボイアンス》を使って一番近い人のいる地点を見てみる。

…ここは畑だろうか?
2人の男性がピッチフォークを片手に何やら話している。
2人は笑顔で農作業の途中で休憩をしている様だった。

その少し向こう側には村が見える。此処は農村なのだろう。

「囚われている様には見えないけど…」
「ますます訳がわからないわ。会いに行って見ましょうか」
「そうですね。油断せずに、戦闘体制は維持したままで」

私達は農村のある地点まで翼で飛んでいく事にした。
しおりを挟む
感想 1,506

あなたにおすすめの小説

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

地味薬師令嬢はもう契約更新いたしません。~ざまぁ? 没落? 私には関係ないことです~

鏑木 うりこ
恋愛
旧題:地味薬師令嬢はもう契約更新致しません。先に破ったのはそちらです、ざまぁ?没落?私には関係ない事です。  家族の中で一人だけはしばみ色の髪と緑の瞳の冴えない色合いで地味なマーガレッタは婚約者であったはずの王子に婚約破棄されてしまう。 「お前は地味な上に姉で聖女のロゼラインに嫌がらせばかりして、もう我慢ならん」 「もうこの国から出て行って!」  姉や兄、そして実の両親にまで冷たくあしらわれ、マーガレッタは泣く泣く国を離れることになる。しかし、マーガレッタと結んでいた契約が切れ、彼女を冷遇していた者達は思い出すのだった。  そしてマーガレッタは隣国で暮らし始める。    ★隣国ヘーラクレール編  アーサーの兄であるイグリス王太子が体調を崩した。 「私が母上の大好物のシュー・ア・ラ・クレームを食べてしまったから……シューの呪いを受けている」 そんな訳の分からない妄言まで出るようになってしまい心配するマーガレッタとアーサー。しかしどうやらその理由は「みなさま」が知っているらしいーー。    ちょっぴり強くなったマーガレッタを見ていただけると嬉しいです!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女

かなかな
ファンタジー
異世界に突然やって来たんだけど…私これからどうなるの〜〜!? もふもふに妖精に…神まで!? しかも、愛し子‼︎ これは異世界に突然やってきた幼女の話 ゆっくりやってきますー

【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「『面倒』ですが、仕方が無いのでせめて効率的に片づける事にしましょう」  望まなかった第二王子と侯爵子息からの接触に、伯爵令嬢・セシリアは思慮深い光を瞳に宿して静かにそう呟いた。 ***  社交界デビューの当日、伯爵令嬢・セシリアは立て続けのトラブルに遭遇する。 とある侯爵家子息からのちょっかい。 第二王子からの王権行使。 これは、勝手にやってくるそれらの『面倒』に、10歳の少女が類稀なる頭脳と度胸で対処していくお話。  ◇ ◆ ◇ 最低限の『貴族の義務』は果たしたい。 でもそれ以外は「自分がやりたい事をする」生活を送りたい。 これはそんな願望を抱く令嬢が、何故か自分の周りで次々に巻き起こる『面倒』を次々へと蹴散らせていく物語・『効率主義な令嬢』シリーズの第2部作品の【簡略編集版】です。 ※完全版を読みたいという方は目次下に設置したリンクへお進みください。 ※一応続きものですが、こちらの作品(第2部)からでもお読みいただけます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。