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平穏

初任務

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受付のお兄さんはラッドという名前らしい。冒険者証と同じサイズのプレートを手渡される。

「ソイツは帝国内での君の評価だ。今は全てが最低ランクになっているが、仕事をやっていればすぐに上がる。」
「ありがとうございます!」

これで帝国内で冒険者って認められた事になるんだね。
あれ?そういえばまだオリハルコンのプレートになってないのにラッドさんはなんで私がAランクだと分かったんだろう?

聞いてみたら笑いながら教えてくれた。

「ここに窪みがあるだろう。これは特殊な魔法を打ち込んだ跡で、ランクアップ手続き中を指す印なんだ。この部分を解析するとどこのギルドで申請中なのか分かるんだぜ。」

そうだったんだ。ユーシアさんいつの間に…。

「私と一緒に来た人達で、依頼達成の報告に来た人はまだいないですか?」
「おう。嬢ちゃんが一番だぞ。」
「他の人の様子を見に行ったりはダメですか?」
「そうだな。嬢ちゃんがネタバレすると、この試験の意味が無くなっちまうから辛抱してもらえるか?」
「分かりました。」

ひょっとしたら許可してもらえるかもと聞いてみたけどダメだった。

みんな似たような仕事をやっているという事だけ教えてもらって待っていたら、次々とみんなが戻ってきた。
良かった、みんな終了証をもらってきたみたい。

ラッドさんは私の時と同じように全員に謝罪していた。

チョーカーも返して、帝国のシステムの説明を一通り受けた。

「なんだ新顔か?子供ばかりじゃないか。精々頑張れよ。」
「ありがとうございます。頑張ります。」

年季の入った冒険者の男性が鼻で笑って通り過ぎて行く。

「嬢ちゃん皮肉を言われてるのに怒らないんだな。」
「新顔なのも子供なのも事実ですから。頑張れって応援してくれたならお礼を返すのが礼儀ですよ。」

実は冒険者の仕事って数える程しかやってないんだよね。

「そうだぞ。このなりで何を言ってもピヨピヨ囀ってる様にしか聞こえないだろ。悔しいなら結果で示せばいいだけだ。」

マサキさんも表情一つ変えずに言っている。

「なるほどな。こりゃあ試すだけ無駄だったみたいだな。君達ならここの連中とも上手くやってくれそうだ。改めて宜しく頼む。」

ラッドさんは私達を認めてくれた。良かったよ。

「なっ!?ななな何でここに…!?」

入り口に立って声を上げていたのは1人の男性、やや年配の…服装からして貴族かな?
どこかで会ったっけ?

[ゼルグラン侵攻軍の司令官です。]

あー、レア皇女を連れて停戦命令を出した時に会った第5軍の司令長官だった人だ。

「お久しぶりです。お変わりないようで…」
「ネメシス様、何故この様な所におられるのですか…?」
「はぁ!?ネメシス様…?」

ラッドさんも混乱している。
話がややこしくなるので部屋を借りて話をする事に。

5軍の司令長官だった人は、今はアフターギフト討伐軍の軍団長をやっているらしい。
私達の素性をラッドさんに説明してくれるけど、ネメシス様はやめてもらいたい。

「…魔王を討伐した冒険者で、ネメシス様の化身?失礼しました…先程の非礼、深くお詫び申し上げます。」
「い、いえ!気にしないでください。それと、あまり大袈裟にされるのは困りますので普通に接してください。」
「…分かりました。」

変なタイミングで会っちゃったなぁ。

「ネメシス様…「ごめんなさい、その『ネメシス様』はやめてください。私は一冒険者のミナです。」
「失礼しました、ミナ様。」

様付けもやめてもらいたいけど、この際仕方ない。軍団長がここに来た理由を訊ねる。

「はい、現在我々は国内で抵抗しているレクタール一派の掃討を行っていて、戦略不足から冒険者への参戦を依頼しに来たのです。」

レクタールといえば帝国の4人の参謀の内の1人、アフターギフトの有効性を提唱し、世界中にあれをばら撒いた張本人だ。

「ミナ様達は冒険者としてここにおられるのであれば、正式に依頼をさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「はい。私達で良ければ喜んでやらせていただきます。」

アフターギフトの撲滅なら喜んでやらせてもらおう。他のみんなも頷いてくれた。

「しかしアフターギフト掃討戦となるとランクが足らないのではないでしょうか?」
「馬鹿者!ミナ様達がランク不足な訳がないだろう!ミナ様が最低ランクだったらここの連中はドブネズミか?すぐに作り直せ!!」

ラッドさんの指摘に軍団長は顔を真っ赤にして怒っている。
慌てて私達のプレートを回収して部屋から出て行くラッドさん。

ドブネズミは言い過ぎだよ…。

「あの…ラッドさんは職務を全うしているだけですからそんなに責めないでください。」
「何とお優しい…改めて数々の非礼、どうかお許しください。」

跪いて謝り始めたちゃったよ。お願いだからやめてほしい。

ラッドさんが戻ってきて全員にプレートを配ってくれる。
見ると探索、討伐、護衛の3つのレベルが最大の5に書き換えられていた。

「誠に申し訳ありません。」
「いえ!ラッドさんは何も悪くないです。私達も素性を言わなかったのですから。」

言うも何も普通に冒険者として地道にランク上げするつもりだったんだよ。でもこれ以上ラッドさんが叱られるのは可哀想だ。さっきも言ったけど彼は何も悪くないのだから。

何かスゴく申し訳ない事をしてしまったけど帝国冒険者用のプレートをもらって、アフターギフトを広めていた人達の掃討を請け負うことになった。

エルジュにリアード、アフターギフトで多くの人が生命を失った。
人工的に作ったもので無理矢理ギフトを発現させる技術だけど、身体は変異して魔物になってしまう恐ろしいものだ。

あれはこの世界にあってはいけない技術だ。それに張本人にどうやってその技術を見つけて形にしたのかも聞きたい。

因みに今回の総指揮官は参謀の1人ランドルフさんだ。現場指揮官はサトルさんが務めていると聞いた。

サトルさんも4人いた参謀の1人で今も帝国に仕えている。前の戦争で転生者の扱いは悪くなる一方らしいけど、そんな中でも自分の職務を全うしようと頑張っているらしい。

予測される戦闘規模を聞くとかなりの戦力を保有している事が分かったので、リオさん達の合流を待って掃討戦に参加しようと思う。
元帝国の転生者の人達にも手伝ってもらおうか。
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