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平穏

邪神像

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各地でダンジョンに避難していた人達の帰還が始まった。
数日の避難だったけど、慣れない場所での生活で大変だったと思う。1日も早く日常生活を取り戻してもらいたい。

戦後交渉の調印も無事に済んで、各国も今後しばらくは大きな争いをせずに国内情勢の安定化に専念するだろうとリオさんは言っていた。

このお城を取り壊す話をしていたら、「これだけ立派な城を取り壊すのは勿体ない」とエルジュ、リアード、ディルロードの王様、皇帝から言われて少し困ってしまった。

それなら何処かに移築しようという事になったけど、3国のいずれかに移築すると不公平が出てしまう。

「不公平が出ない様にアルオベイトの難民の村の近くに移築します。特に理由はありませんが、聖国がなくなった以上あの村が将来あの国の中心になると思うからです。王城というよりは国際会議場の様な使い方をしてもらう様に話しておきますね。」

3国の代表達は互いに顔を見合わせて苦笑すると「今度そちらで会議をする時は平和の為の会議が出来るよう尽力する。」と言ってくれて解散となった。

次はリリエンタの獣人族ケルヴィムの町の修復。
ユイさん、リルさん、ミーちゃんも一緒だ。

空爆こそされなかったけど、街の中で戦闘が行われたらしい。詳しく聞いたら、逃げ遅れた獣人族ケルヴィム達を助ける為にエルさん達がダンジョンから出てきて救助、その間に町を拠点にしようとしていたディルロード帝国軍に対してエイブラムスと12騎士が攻撃を行った事で町はかなり破壊されていた。

《アドラステア》を起動してオーバーブーストを掛けた修復リペアーを町全体にかけたらあっという間に直す事ができた。

ひと段落した時に町の中心部に変なオブジェクトが建っているのに気付く。
さっきまでなかったのは、激しい戦闘で粉々に砕かれていたからだと思う。

「…何というか、禍々しいですね。」
「ラスボスっぽい。」

見上げながらユキさんとソラちゃんが言っているけど私もそう思う。

石でできた5メートル位のオブジェクトは、4人の女性?が絡まりあった異形の化け物にしか見えない。一人ずつはそれぞれ段違いに顔が配置されていて、全員あり得ないくらい大きく口を開いていた。

獣人族ケルヴィムの人達の守り神的なものなのでしょうか?ちょっと不気味です…。」

ユイさんが呟いている横で、さっきから何も言わないリオさんはオブジェクトを見上げたまま引きつっている。
もしかして見た事がある魔物なのかな?

「…気付かないの?これ多分私達よ。」
「は?」「え?」「合体事故?」

私とユキさんはその場で固まり、ソラちゃんは何かそれっぽい事を言っている。
一応鑑定したら英雄の像(ミナ、ユキ、リオ、ソラ)と表示されたから間違いない、

「多分リリエンタを救った私達を称えて作ったのでしょうけど…これは酷いわね。」

リオさんが引きつるのも無理はない。目の前にある巨大なオブジェクトからは禍々しさが溢れていた。

「禍々しいとはこの事を言うのなら、帝国の兵士にはミナがこんな感じに見えていた?」
「えぇ…それはちょっと…。」

確かにこれが目の前で動いていたら泣くかもしれない。

「とにかく族長達に話をして撤去してもらいましょう。」

リリエンタを訪れた旅人に『これが私達を救ってくれた方達のお姿です』とか紹介されたら非常によろしくない。

ダンジョンに避難中の族長達に話を聞いてみた。

「あれは皆様を称えて作らせてもらった石像です。本当は噴水にしようと思っていたのですが内部構造を作れる技師がいなくて断念したのです。口から大量の水が出るようにと考えていたのですが…」

エルさんのお父さんがサラっと凄い事を口にした。口から水って…東南アジアの観光名所じゃないんだから。

「作っていただいて申し訳ないのですが、撤去してもらえないでしょうか?」

「…そうですか、残念です。あれはリリエンタのシンボルになると思っていたのです…守り神の様な立ち位置になるのではと。」

いやいや…シンボルも守り神もやめてください。

「悪い事をするとあの像に食べられちゃうよって、子供のしつけに使えそう。」
「年に一回『泣く子はいねぇが~』って町の中を練り歩いたりしてね。」
「それは…面白そうですけど元が私達なのがちょっと…」

あんなものが歩いてきたら泣くよ?ユキさん、面白そうって…。

「とにかく、あれはちょっと印象が悪いので撤去してほしいです。」
「それならば代わりになる石像を手配できませんか?もう一度同じ石工に頼んでも良いのですが、似た様なものが出来てしまうと思いますので。」

次にリリエンタに来た時に、また異形の魔物が鎮座していたら敵わない。取り敢えず「何とかします」と返事をしておいた。

「石工さんに会って技能を習得したら自分で作ろうかと思います。」
「それが無難かしらね。」

エルさんのお父さんに石工さんの住まいを聞いて訪問する。仮想リリエンタでも同じ所にみんな住んでいるらしい。
やって来たのは大小様々な石像が並べてあるお店だった。

「すみませーん!」
「はいはーい。いらっしゃい。気に入ったものがありましたか?」

奥から出て来たのは猫人族フェレシアン半獣人レグスケルヴィムの男性。私達を見て一瞬固まったけど、すぐに人懐っこい笑顔で近づいてきた。

「あの、作業を少しだけ見せては頂けないでしょうか?」
「彫刻に興味があるのかな?今作っているもので良ければどうぞ。」

快く奥へと通してくれた。

奥の部屋の中央には彫りかけの石像が1つ置いてあった。高さ50センチメートル位の狐人族レーヴィアン半獣人レグスケルヴィムの女性の立像だ。

顔の部分は既にほぼ完成していて美しい女性に見える。

「これはエルさんですか?」
「そうですよー。」

軽く答えながらノミの様な道具を使って彫り始めている。

うん、よく出来てるしソックリだ。
と言う事はあのオブジェクトは意図して作られたものなんだよね?

「リリエンタの中央広場にある石像ですけど、あれを作ったのは…」
「私ですよ。族長達の注文が複雑で手直しをしている内によく分からないものになってしまって…族長達は満足していたけどね。」

つまり、この人の美的センスがおかしい訳じゃないと。

「申し訳ないのですが、あれは撤去して普通のものを作り直してもらう事って出来ますか?もちろんお代は払いますので。」
「いいですよ。」

手を止めるとスケッチブックの様なものを持ってきた。

「あなた達4人の立像でいいかな?好きなポーズをとってくれればすぐに描いてしまうよ。」

やっぱり私たちの事を知っていたんだね。
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