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エルジュ王国

捕獲命令

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宿に帰った私とユキさんは、食事を取ることもなく洗浄クリーンをかけると眠ってしまった。

目が覚めたのは夕方。食事をとりに2人と1匹で降りていくと常連さん達が出迎えてくれて労ってくれた。

途中からは冒険者の人達もやって来てマイアス山であった事とかを聞かれた。
一応打ち合わせた事に合わせて答えておいたけど、嘘をつくことになってしまい胸が痛んだ。

食事も終えて話もひと段落した時に外からガチャガチャと大勢の足音が聞こえてきた。

扉が乱暴に開かれる。

「ここにミナとユキという冒険者がいるな?」

入ってくるなりそう言い食堂を見渡す兵士。
この人達、見覚えがある。森でティターニアの子を連れて行こうとしていた兵士達だ。

目が合う。兵士は気味の悪い笑みを浮かべた。

「領主の命により、身柄を拘束する。」

「何言ってんだ?」
「この子達が何したってんだ!」
「町を救った功労者だぞ!」
「頭おかしいんじゃないの?」

お客さん達からはブーイングの嵐。

「黙れ!領主の命に逆らうなら貴様達も牢屋にぶち込むぞ!」

「ふざけんな!」
「帰れ!!」

みんなが私達を庇ってくれる。でもこのままじゃみんなが逮捕されちゃうよ…。

「ミナ、ユキ、裏口からお逃げ。」
「そんな…「いいから逃げろ。路地を使ってギルドに向かえ。」

奥さんとおじさんが私達を隠すように前に立つ。お客さん達と兵士達の睨み合いが続いている。

「む、なんだこの猫は?」
「ジャマだ!」
「あっちにいけ!」

ウルちゃんは何故か兵士達の足に擦り付いている。彼女なりに兵士を止めようとしているのかな?

(今のうちに行きましょう。)

ユキさんが私の手を引く。
みんなにありがとうとごめんなさいを心の中で言いつつ裏口から穴熊亭を出た。

裏路地をスイスイと走っていくユキさん。以前私を連れて逃げてくれた時に通った事があるのだろう。動きに迷いがない。

いつの間にかウルちゃんも追いついて来ていた。

「ウルちゃん、さっきは何をしていたの?」
「はい。かなりの邪気を纏っていたので吸い取って禍にして返しておきました。」
「それって危ないんじゃ…。」
「ミナ様やユキ様に向けられた邪気でしたので。それに私の中には邪気が殆どありませんから死ぬような禍にはならないと思いますよ。」
「そ、そうなんだ…。でもウルちゃんが怪我したら心配だから無理はしないでね。」
「お心遣いありがとうございます。」

ユキさんに手を引かれながら冒険者ギルドの近くまで来ていた。

「もうすぐです。」
「ありがとうユキさん。」

表通りを確認する。いつもは昼夜問わず活気のある表通りは全ての扉が閉められ、出歩いている人の姿はない。居るのは衛兵隊の人と、いかにも騎士というような金属鎧にマントといった姿の人達。

あんな人達エリストにはいないような…。

「派兵されて来た人達ではないでしょうか?エリストの救援ではなく私達の捕縛が目的の様な気がしますが…。」
「そうだよね…。こんな大掛かりな事をしなくても…。」

王都への情報漏洩はどこからだろう?思い当たる所が多過ぎる。

「とにかくギルドに行こう。ここにいたら見つかっちゃう。」
「そうですね。」

裏路地を伝って冒険者ギルドへ。

「ミナさん、ユキさん、こっちです。」

ニアさんが手招きしている。そこには隠し扉があるみたい。
中に入ると、職員の休憩所に繋がっていた。

そのままフロアに出る。
扉はしっかりと閉じられていて閂がかけられていた。
ルーティアさんが迎えてくれる。ダキアさんとクロウさん、クランのみんなもいる。

「2人とも無事みたいだね。良かった。」
「一体何が起こったんですか?」
「王都から来た連中がミナのレアドロップについて知っていた。奴らはブルーティアーズの回収とミナの捕獲を目的としているそうだ。」

捕獲って…私は珍獣か何かですか…。

「辺境伯も王都から来た者より早くミナを捕まえに動き出したと聞いた。アリソンとマイアを穴熊亭に向かわせたんだがすれ違いになってしまったようだ。」
「ブルーティアーズは全て渡してもいいです。でも捕縛は…されたくないです。」
「ブルーティアーズを欲しがっているのは王に取り入ろうとしている馬鹿な貴族共らしい。そんな奴等にくれてやる必要はないさね。勿論ミナも渡さない。」
「ミナさんは絶対渡しません。」

ユキさんも強く頷いている。
ユキさんだって気をつけないと狙われているみたいなんだよ。

「で、どうするよ?このまま匿い続けてもジリ貧だぜ?」
「指名手配でもされたら出歩く事も出来なくなる。…一旦国外に逃がすか?」
「戻ってこられる確証がないんだよねぇ……。」

ダキアさんとクロウさんとルーティアさんとで話し合っている。

「これ以上迷惑をかけたくありません。町を出ようと思います。」
「それしかないか……。よし、地下道を使ってくれ。領主ですら知らない道だ。町の外まで繋がっている。」

「あ、あの!私達にも何かできませんか?」

ニアさんが声をあげる。ロウさんもエルクさんも頷いている。

「それなら3人はミナとユキを連れて地下道から町の外まで行ってくれ。2人の護衛だ。できるか?」
「「「はい!」」」

「ミルドから念話がきた。王都から来た奴らがここに来る。さあ、早く行くんだ!」

イクスさんがカウンター下の隠し階段を開ける。ランタンを手渡してくれた。

「ミナさんユキさん、どうか気をつけて。…3人の事、お願いします。」

…私達と一緒に3人も逃がそうとしているんだ。

「ほとぼりが冷めたらまた来ます。」
「色々お世話になりました。」

私達は地下道に入ると、無言のまま出口に急いだ。

ズンと大きな振動が地下道にまで響いてくる。戦闘になってる…?

「俺達、足手纏いだから一緒に逃がされたんだな…。」
「悔しいけど邪魔になるだけだからな。」
「うん…。」

暫く歩いて私達は出口にたどり着いた。
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