上 下
33 / 763
邪なる者

邪気を喰らうもの

しおりを挟む
黒い霧は空へ立ち上っていき、消えて無くなった。

ウインドバリアが解除される。

『また……あの時の様に……!』

間違いない。邪竜の声だ。
呼びかけてみよう。ヘルプさん、私の話している内容をみんなに伝達してください。

[承りました。]

『ウルディザスター…さん?話は出来ますか?』

『む……私を正気に戻してくれたのは貴女ですか?』
『私だけではありません。ここにいる全員であなたを攻撃しました。』
『……ありがとう。何時ぞやの様にまた大地を枯らしてしまうところでした。』
『なぜ正気を失ってしまったのですか?』
『私は生き物の邪気を喰らい生きています。取り込んだ邪気は生命力に還元され放出されるのです。』

…え?つまり邪竜なんて言われているけど実は悪い竜じゃないって事?

『放出する生命力よりも多く邪気を吸収してしまうと体の中に邪気が溜まってしまいます。最近は邪気が多くなりました。人の子達よ、この大陸は今どうなっていますか?人間は多く住んでいるのですか?』
「人間は多く住んでいるよ。いくつもの国に分かれて小競り合いをしたり、良い意味でも悪い意味でも競い合っているね。その中には他の種族も混ざっていたりもするけどね。」

ルーティアさんが代わりに答えてくれる。私はそれを竜語で伝えた。

『やはり……。』

項垂れる邪竜。

『かつて私は封印され、枯らしてしまった大地を蘇らせようと還元を続けてきました。しかし、今はそれも間に合わず力の暴走を引き起こしてしまいます。……殺してください。』
『待ってください。ウルディザスターさんは今までみんなの為に邪気を生命力に変えてくれていたんですよね?そのあなたを殺すなんてできません。』
『このまま生きていても折角芽吹いた命をまた枯らしてしまうのです。それだけはしたくないのです。』

邪竜は頭を地面に着け、目を閉じた。

『あなたが居なくなって、邪気が吸われなくなったらどうなるのですか?』
『世界の法則に従い、不幸としてこの地に住まう民に降り注ぐことになるでしょう。』
『もう一つ、還元が間に合わない場合の対処法はないのですか?』
『1つだけあります。そのまま禍として放出する事ができます。しかしこれには難点があり、私の中で凝縮された禍が局所的に現れてしまいます。その効果は計り知れません。』

禍って不幸の事だよね。それなら私が役に立てるかもしれない。

『その禍を私1人にぶつける事は出来ますか?』
『出来ますが……そんな事をしたら貴女を殺してしまうことになります。』
『一度だけでいいですから試させてください。私、運だけはいいんですよ。』

「ミナ!危ないことはするんじゃねぇ!大体この地に降りかかる禍って、元は自分達が溜め込んだもんじゃねぇか。それはお前が無茶をする事じゃねぇぞ!」

ダキアさんが私を止めようとする。

「ウルディザスターさんを助けたいんです。みんなの為に今まで頑張ってきたのに、都合が悪くなれば殺すなんて…私には出来ません!」

「でもよ……。」
「もう無茶はしないって誓ったのにごめんなさい。どうしてもやりたいんです。やらせてください…。」
「…分かった。そこまで言うならしょうがねぇ。でも、無理だと思ったら直ぐに止めろよ。俺達も出来る限りの事はするからな。」
「最後まで面倒みてあげるよ。頑張っておいで。」
「ありがとうございます。」

ダキアさん、ルーティアさん、みんなも頷いてくれている。これほど心強い事はない。

一か八か…。
私の幸運に賭ける!
ラッキーシュートを幸運に付与!

『さあ!お願いします!』
『心優しき人の子よ。願わくば無事でいてください。』

邪竜は悲鳴の様な鳴き声をあげると体中から黒い霧を出し始めた。
それは一箇所に集まり小さな球体になって、ゆっくりと私の所へ飛んでくる。

そっと手を触れてみる。
手の中に球体が吸い込まれていく。
痛みも違和感も無い。

『なんと……!』

ヘルプさん、私の状態はどうですか?

[何も変化はありません。完全に禍を駆逐しました。]

いける…!

私は邪竜の頭に手を触れる。

『おおぉ……!なんと言う事……!邪気が、禍が消えていく……!!』

真っ黒だった邪竜の姿は白く美しく変貌していた。

『どこかおかしな所はありますか?』
「い、いえ……今までにない程快調です。」
「あれ?竜語じゃない?」
「どうやら貴女に触れられた時に話せる様になったみたいです。」

「体調も良いみたいでよかったです。これなら私が定期的に禍を浄化しにくれば死なずに済みますよね!」
「もし……」
「はい?」
「私が貴女と共にあることを望んだら……受け入れてくれますか?」
「はい。いいですよ。」

「ちょっと!そんな簡単に……。」

慌てるルーティアさん。

「でも、私じゃないと禍を取り除けないですから。最後まで責任を持ちます。」
「しかしそのサイズのドラゴンとじゃあ何処にも行けねえだろ。」

「姿を変えれば良いのですね。」

そう言うとウルディザスターさんはみるみる内に小さくなっていった。

「これでどうでしょうか?」

鳩くらいのサイズのドラゴンになっている。

「そんな事もできるんですね…。」
「小さくなった分、戦闘能力は激減してしまいますが。」

激減といってもあれだけの攻撃力があるんだから十分強いんじゃないかな?

「いかがでしょう……?」

これなら一緒にいても大丈夫だよね?

「他の動物にはなれないか?流石にドラゴンだと人目につく。」

クロウさんが言う。
確かにそうだね。珍しいからって攫われちゃったら困るしね。

「ミナちゃんとセットだと鴨がネギ背負ってるみたいなものだしねー。」

えぇ…酷くないですか?
全員頷いている。ユキさんまで…。

「これならどうでしょう?」

そういうと猫の様な生き物に変身して地面に着地した。真っ白な長毛種の猫だ。

「か、カワイイ!」

ユキさんが抱き上げる。大人しく収まっている姿は完全に猫だ。

「それはそれで目立つけど、いいんじゃないかなー?」
「これなら誰も邪竜とは思わないだろう。」

アリソンさんとクロウさんが頷いている。

「これなら連れ歩いても大丈夫だろう。ミナはどうだ?」
「凄くいいです!」

猫大好き!
しおりを挟む
感想 1,506

あなたにおすすめの小説

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

地味薬師令嬢はもう契約更新いたしません。~ざまぁ? 没落? 私には関係ないことです~

鏑木 うりこ
恋愛
旧題:地味薬師令嬢はもう契約更新致しません。先に破ったのはそちらです、ざまぁ?没落?私には関係ない事です。  家族の中で一人だけはしばみ色の髪と緑の瞳の冴えない色合いで地味なマーガレッタは婚約者であったはずの王子に婚約破棄されてしまう。 「お前は地味な上に姉で聖女のロゼラインに嫌がらせばかりして、もう我慢ならん」 「もうこの国から出て行って!」  姉や兄、そして実の両親にまで冷たくあしらわれ、マーガレッタは泣く泣く国を離れることになる。しかし、マーガレッタと結んでいた契約が切れ、彼女を冷遇していた者達は思い出すのだった。  そしてマーガレッタは隣国で暮らし始める。    ★隣国ヘーラクレール編  アーサーの兄であるイグリス王太子が体調を崩した。 「私が母上の大好物のシュー・ア・ラ・クレームを食べてしまったから……シューの呪いを受けている」 そんな訳の分からない妄言まで出るようになってしまい心配するマーガレッタとアーサー。しかしどうやらその理由は「みなさま」が知っているらしいーー。    ちょっぴり強くなったマーガレッタを見ていただけると嬉しいです!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女

かなかな
ファンタジー
異世界に突然やって来たんだけど…私これからどうなるの〜〜!? もふもふに妖精に…神まで!? しかも、愛し子‼︎ これは異世界に突然やってきた幼女の話 ゆっくりやってきますー

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。