433 / 453
竜の国
ライカンスロープ
しおりを挟む
「あなた達は無理矢理戦わされているの?」
「はい。家族を人質にされていて……」
「戦わなければ食事も碌に貰う事が出来ないんだ」
人の姿の彼らは窶れていた。頬はこけ顔色も悪い。
「俺達はまだ良い。戦う事も出来ない者や男手を失った者達はもっと悲惨な目に遭っている……」
生き残った者達は一箇所に集められて収容されているそうだが、建物どころか雨を凌ぐ為の屋根すらない所らしい。
食事は日に一度、それも量は全然足りておらず餓死者が大勢出ているそうだ。
「初めは五千人はいた筈だ。それが日を追うごとに減っていって……」
一人の男は頭を抱えて蹲りそう言った。
「今回の攻撃が失敗した以上、俺達に帰る場所は無いんだ。一思いに殺してくれ」
後の二人も項垂れていた。
過酷な状況で生きる気力を失ってしまったのだろう。家族も自分達が戻る頃には死んでいるかもしれない、彼らには不安と恐怖しかなかったのだ。
「お母さん……助けてあげられないかな?」
芽依は泣き出しそうな顔をして私に聞いてくる。
そんな顔をされたら「無理だ」とは言えないわ。
「収容されている場所を教えてもらえるかしら」
「精霊、様は……敵である俺達を助けてくれるのか?」
「助けられるかは分からないけど、やれるだけやってみるわ。まずはあなた達を何とかしないといけないわね」
先程まで戦っていたのだ。怪我もしているし、何より健康状態が悪過ぎる。案内させ様にも途中で倒れてしまいそうだ。
まずは泉の水を飲ませて傷と健康状態の回復。
収容所の場所と具体的な状況、監視を含めた敵の戦力を分かる範囲で説明してもらう。
彼らが言うには収容所があるのは森を越えた先の平地。木は疎らで草原になっているそうだ。そこを大きく囲う様に杭を打ち込んで仕切り、外側には魔物が種族毎に陣を張っている。
今回攻めて来た数の倍はいるだろうと説明する一人。
「スロヴァールの街や村はどうなったの?」
「全て焼かれました」
芽依の質問に答える男。
「え、じゃあ魔物達も食料を調達するのに苦労するんじゃない?」
「狩りをしているのをみましたよ。それに足りない分は……」
収容している人間を、ね。
「すぐに助けに行こうよ!」
「そうね。でも敵の陣容を確認した方が良いわ」
敵の陣地に突入するのだ。ある程度は慎重に事を進めた方が良い。
迂闊に私達が近付けば人間を人質に取る可能性もある。
となると少数で森を抜けるのが良いだろうか?
高高度から急襲するのも良いかも知れない。
一度戻って作戦を練った方が良さそうだ。
メトが魔物の群れを蹴散らしてこちらに合流して来たので労いの言葉を掛けて状況を説明、続いて騎兵が到着したので戦況の報告をして私達は三人を連れて一度スプリングフィールドに帰る事にする。
転移で屋敷の中庭に移動すると颯太が私達を見つけて出迎えに来てくれた
「おかえり母さん、芽依。カナエ、メト、マカミ、ご苦労様」
「こちらに変わりはない?」
「北部にドラゴンが現れたからトコヤミが迎撃に出ているよ。各地の監視も強化していて、オオトリとクオンにも空に上がってもらっている」
「ありがとう。ご苦労様」
「ところでその三人はどうしたの?」
私は彼らの素性とここに連れて来た経緯を説明する。
「成る程。救出となると色々準備が必要かもしれないね。もっと詳しい話が聞きたいから彼らを屋敷に連れて行くよ」
「ええ」
颯太は三人から更に詳しく情報を聞き出している。
私は《遠隔視野》を使って収容所と魔物達の陣地を確認する。
彼らの言った通りの陣容だ。ただ、人間の軍隊の様に統制がとれている訳ではなく好き勝手にやっている印象を受ける。
ゴブリンの陣地では死んだ人間を木にくくりつけて矢の的にして遊んでいた。
オークが収容所の中に入って行き、逃げ惑う人間を追い回している。
……不愉快な光景ね。
「はい。家族を人質にされていて……」
「戦わなければ食事も碌に貰う事が出来ないんだ」
人の姿の彼らは窶れていた。頬はこけ顔色も悪い。
「俺達はまだ良い。戦う事も出来ない者や男手を失った者達はもっと悲惨な目に遭っている……」
生き残った者達は一箇所に集められて収容されているそうだが、建物どころか雨を凌ぐ為の屋根すらない所らしい。
食事は日に一度、それも量は全然足りておらず餓死者が大勢出ているそうだ。
「初めは五千人はいた筈だ。それが日を追うごとに減っていって……」
一人の男は頭を抱えて蹲りそう言った。
「今回の攻撃が失敗した以上、俺達に帰る場所は無いんだ。一思いに殺してくれ」
後の二人も項垂れていた。
過酷な状況で生きる気力を失ってしまったのだろう。家族も自分達が戻る頃には死んでいるかもしれない、彼らには不安と恐怖しかなかったのだ。
「お母さん……助けてあげられないかな?」
芽依は泣き出しそうな顔をして私に聞いてくる。
そんな顔をされたら「無理だ」とは言えないわ。
「収容されている場所を教えてもらえるかしら」
「精霊、様は……敵である俺達を助けてくれるのか?」
「助けられるかは分からないけど、やれるだけやってみるわ。まずはあなた達を何とかしないといけないわね」
先程まで戦っていたのだ。怪我もしているし、何より健康状態が悪過ぎる。案内させ様にも途中で倒れてしまいそうだ。
まずは泉の水を飲ませて傷と健康状態の回復。
収容所の場所と具体的な状況、監視を含めた敵の戦力を分かる範囲で説明してもらう。
彼らが言うには収容所があるのは森を越えた先の平地。木は疎らで草原になっているそうだ。そこを大きく囲う様に杭を打ち込んで仕切り、外側には魔物が種族毎に陣を張っている。
今回攻めて来た数の倍はいるだろうと説明する一人。
「スロヴァールの街や村はどうなったの?」
「全て焼かれました」
芽依の質問に答える男。
「え、じゃあ魔物達も食料を調達するのに苦労するんじゃない?」
「狩りをしているのをみましたよ。それに足りない分は……」
収容している人間を、ね。
「すぐに助けに行こうよ!」
「そうね。でも敵の陣容を確認した方が良いわ」
敵の陣地に突入するのだ。ある程度は慎重に事を進めた方が良い。
迂闊に私達が近付けば人間を人質に取る可能性もある。
となると少数で森を抜けるのが良いだろうか?
高高度から急襲するのも良いかも知れない。
一度戻って作戦を練った方が良さそうだ。
メトが魔物の群れを蹴散らしてこちらに合流して来たので労いの言葉を掛けて状況を説明、続いて騎兵が到着したので戦況の報告をして私達は三人を連れて一度スプリングフィールドに帰る事にする。
転移で屋敷の中庭に移動すると颯太が私達を見つけて出迎えに来てくれた
「おかえり母さん、芽依。カナエ、メト、マカミ、ご苦労様」
「こちらに変わりはない?」
「北部にドラゴンが現れたからトコヤミが迎撃に出ているよ。各地の監視も強化していて、オオトリとクオンにも空に上がってもらっている」
「ありがとう。ご苦労様」
「ところでその三人はどうしたの?」
私は彼らの素性とここに連れて来た経緯を説明する。
「成る程。救出となると色々準備が必要かもしれないね。もっと詳しい話が聞きたいから彼らを屋敷に連れて行くよ」
「ええ」
颯太は三人から更に詳しく情報を聞き出している。
私は《遠隔視野》を使って収容所と魔物達の陣地を確認する。
彼らの言った通りの陣容だ。ただ、人間の軍隊の様に統制がとれている訳ではなく好き勝手にやっている印象を受ける。
ゴブリンの陣地では死んだ人間を木にくくりつけて矢の的にして遊んでいた。
オークが収容所の中に入って行き、逃げ惑う人間を追い回している。
……不愉快な光景ね。
3
お気に入りに追加
431
あなたにおすすめの小説
イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!
転生したら妖精や精霊を統べる「妖精霊神王」だったが、暇なので幼女になって旅に出ます‼︎
月華
ファンタジー
21歳、普通の会社員として過ごしていた「狐風 空音」(こふう そらね)は、暴走したトラックにひかれそうになっていた子供を庇い死亡した。 次に目を覚ますとものすごい美形の男性がこちらを見、微笑んでいた。「初めまして、空音。 私はギレンフイート。全ての神々の王だ。 君の魂はとても綺麗なんだ。もし…君が良いなら、私の娘として生まれ変わってくれないだろうか?」えっ⁉︎この人の娘⁉︎ なんか楽しそう。優しそうだし…よしっ!「神様が良いなら私を娘として生まれ変わらせてください。」「‼︎! ほんとっ!やった‼︎ ありがとう。これから宜しくね。私の愛娘、ソルフイー。」ソルフィーって何だろう? あれ? なんか眠たくなってきた…? 「安心してお眠り。次に目を覚ますと、もう私の娘だからね。」「は、い…」
数年後…無事に父様(神様)の娘として転生した私。今の名前は「ソルフイー」。家族や他の神々に溺愛されたりして、平和に暮らしてたんだけど…今悩みがあります!それは…暇!暇なの‼︎ 暇すぎて辛い…………………という訳で下界に降りて幼女になって冒険しに行きます‼︎!
これはチートな幼女になったソルフイーが下界で色々とやらかしながらも、周りに溺愛されたりして楽しく歩んでいく物語。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お久しぶりです。月華です。初めての長編となります!誤字があったり色々と間違えたりするかもしれませんがよろしくお願いします。 1週間ずつ更新していけたらなと思っています!
転生貴族可愛い弟妹連れて開墾します!~弟妹は俺が育てる!~
桜月雪兎
ファンタジー
祖父に勘当された叔父の襲撃を受け、カイト・ランドール伯爵令息は幼い弟妹と幾人かの使用人たちを連れて領地の奥にある魔の森の隠れ家に逃げ込んだ。
両親は殺され、屋敷と人の住まう領地を乗っ取られてしまった。
しかし、カイトには前世の記憶が残っており、それを活用して魔の森の開墾をすることにした。
幼い弟妹をしっかりと育て、ランドール伯爵家を取り戻すために。
♡してLv.Up【MR無責任種付おじさん】の加護を授かった僕は実家を追放されて無双する!戻ってこいと言われてももう遅い!
黒須
ファンタジー
これは真面目な物語です。
この世界の人間は十二歳になると誰もが天より加護を授かる。加護には様々なクラスやレアリティがあり、どの加護が発現するかは〈加護の儀〉という儀式を受けてみなければわからない。
リンダナ侯爵家嫡男の主人公も十二歳になり〈加護の儀〉を受ける。
そこで授かったのは【MR無責任種付おじさん】という加護だった。
加護のせいで実家を追放された主人公は、デーモンの加護を持つ少女と二人で冒険者になり、金を貯めて風俗店に通う日々をおくる。
そんなある日、勇者が魔王討伐に失敗する。
追い込まれた魔王は全世界に向けて最悪の大呪魔法(だいじゅまほう)ED(イーディー)を放った。
そして人類は子孫を残せなくなる。
あの男以外は!
これは【MR無責任種付おじさん】という加護を授かった男が世界を救う物語である。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる