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竜の国

完封

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リンが退場して、次に入って来たのはエレと剣士。
エレはこの試合も素手で戦うつもりらしく、大剣は背負ったままだ。

「おいおい、舐めてるのか?」
「そんなつもりはないんですけど、人間は脆いですから」
「言うじゃねえか。剣を使わなかった事を後悔するなよ!」

銅鑼が打ち鳴らされると剣士はエレに斬りかかる。

対するエレは構えすらとっていない。

長剣がエレの左肩に振り下ろされるが、エレはそれを左手一本で掴んで止めた。

「なっ!?」
「そちらこそ手加減してるじゃないですか。致命傷狙いなら頭を狙わないと」

エレは刃を掴んだまま離さない。
剣士はどうにかエレを引き剥がそうともがいているがビクともしなかった。

暫くその様子を見ていたエレだったが、剣を取り上げると両手で持って長剣をへし折った。

「素手で戦った経験はありますか?」
「あるに決まってるだろ。だが、俺がアンタに勝てる見込みは無いみたいだ……降参する」
「はい。ありがとうございました」

銅鑼が打ち鳴らされて試合が終了した。
10秒程度で相手に怪我を負わせる事なく勝って見せたエレ。
観客は物足りなかったかも知れないが、エレは気にする事なく退場していく。

次は知らない剣士同士の対戦。
両者共に実力は同程度で激しい攻防が繰り広げられる。観客は大いに沸いた。

決着がつくと次に入って来たのはミラと二刀流の剣士。両手とも長剣を持っていて鎧は着ていない。
対するミラは弓矢と小剣に軽鎧と、予選の時と変わらない装備だ。

試合が開始されるとミラは矢を立て続けに三本素早く発射した。

剣士は二本の剣で三本の矢を斬って落とす。

続いてミラは上方向に矢を放ち、小剣を抜いて距離を詰める。

剣士は接近してくるミラを見て構え直し迎え撃つ体制だ。
だがミラは間合いに入る直前で止まり、小剣を矢筒に入れて替わりに矢を取り出すと弓を引き絞る。

それを見た剣士は慌てて前に出て斬り掛かるが、それこそミラの誘いだった。

空に放った矢は男の左太腿を射抜き、たった今放たれた矢は左肩を貫いていた。

しかし剣士は諦めなかった。

苦痛に顔を歪めながら左手の剣を捨てて斬りかかる。

距離にしたら数歩、ミラは矢筒から矢を取り出そうとしていて攻撃が間に合わない。剣士は倒れ込む様にミラに斬りかかる。

怪我をし、バランスを崩しながら見舞った斬撃は素人の剣とまでは言わないが、とにかく攻撃を当てようとするだけのものだった。

それもミラに弾かれる。

金属の擦れる音と共に長剣が宙を舞っていた。ミラは先程矢筒に差し込んでいた小剣を手にしていた。

剣の技量では数段劣る彼女でも、今の剣士の攻撃は容易に弾く事が出来た。

剣士は地面に倒れると降参を宣言した。ミラの勝利だ。

救護係が来るまでミラは応急手当てを始める。そういう所も含めて素晴らしい冒険者だと思った。

救護係と対戦相手と共に退場していくミラ。次はマイの番だ。

マイの対戦相手は槍使い。
重装鎧に総金属製の大槍を持った大男はマイを見て困惑していた。

「お嬢ちゃん、本当に戦うのか?」
「はいです。こう見えて結構強いので手加減は不要ですよ」
「……そうか」

にこやかに話すマイを見て更に困惑している。

無理もないわね。見た目は普通の子供なのだから。

銅鑼が打ち鳴らされたが両者共に動かない。

「おじさんが戦いやすい様にこっちも少しだけ手の内を明かすです」

そう言うとマイの足元の土が集まってきて彼女を持ち上げる。それはゆっくりと身体を覆っていき大きな人型のゴーレムになった。

「それじゃ、行くですよ!」

ゴーレムの頭の部分から上半身を出しているマイが言うと、ゴーレムは勢いよく槍使いの方へと走り出す。

槍使いの男はかなり大柄で二メートル近いのだがマイのゴーレムは三メートルはあった。その巨体に似合わずかなりの速度で走ると男に右拳を振り降ろす。

男は槍を使って拳を逸らしたが、そのまま左足から放たれた蹴りを受けて大きく吹き飛んでいった。

壁に叩きつけられてその場に倒れる男。

「ごめんなさい……やり過ぎちゃいました」

銅鑼が打ち鳴らされて試合が終了した。
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