上 下
403 / 453
竜の国

非道

しおりを挟む
セロが我慢強くなったのは修行の成果の様に言っていたけど、トコヤミ達が何かしたのだろうか?

「い、いえ……少しばかり指導に熱が入ってしまいまして」

トコヤミは私と目を合わせようとしなかった。

「セロ達の訓練に我々も付き合っていましたが、加減が難しく毎回大怪我をさせていました。トコヤミが」
「おいカクカミ!お前も両手両足の骨を砕いていたではないか!」

二人ともかなり激しい事をしていたのね。他の者もそうだったのだろうか?

私が皆を見ると顔を背けたり目を逸らしたりしていた。

「トコヤミも言っていたけど元の姿の彼らでは人間を相手するのは加減が難しいんだ。勿論怪我をするたびに泉の水を使って直ぐに治療していたよ」

颯太が皆を庇って説明してくれる。

「セロさん達の訓練に付き合ってくれてありがとう。人間は脆いから大変だったわね。次からは人の姿で訓練できるかも知れないわ。その時はまたお願いね」

私がそう言うと全員明るい顔で返事をしてくれた。

「そんな過酷な修練を……」
「彼らも既に人外の域にいるのかも知れない……」

フランシスとエリオットは顔を青くしながら呟いていた。

次の対戦はリンと剣士だ。

入場してくる二人。剣士は細身で背が高い男性。黒い長い髪を後ろで束ねていてどこかやる気がなさそうに見える。
手にしているのは刀の様な片刃の曲刀で、体の至る所にナイフを装備していた。

この男の出ていたブロック予選は見ていたが、あの時とは少し様子が違う。昨日はもっとやる気を出していたと思ったが。

「まさか剣聖レンブランが予選で負けてしまうなんて……剣を交えられる事を楽しみにしていたのに……」
「それはお気の毒ね」

大きなため息と共に言う剣士にリンは返事をする。
それで気落ちしていたのね。

「剣聖を切り刻めると思ったのに……仕方がない、君で我慢するよぉ」
「え?」

銅鑼が打ち鳴らされると同時に男はナイフを二本連続でリンに投げる。動作が小さくとても早い。
リンはその動作に反応する事が出来ず、ナイフが左太腿に突き刺さる。

更に続けて二本、今度は右脚に一本、右肩に一本突き刺さった。

リンがゆっくりとその場に崩れる。
だが男は曲刀を抜いて斬りかかっていた。

「リン、降参するんだ!」

颯太が声を上げる。リンは降参を宣言しようとしていた。

だが男はそのリンに目掛けて更にナイフを投げる。
ナイフは左肩に突き刺さり、声は苦痛の悲鳴に変わってしまった。

あの男、リンに降参させない様にワザとナイフを……

刀を振りかぶりリンに迫る男。その顔は喜びに満ちた狂気の笑みを浮かべていた。

「おやめなさい!」

我慢の限界だった。

私は水弾を複数発、リンと男の間に撃ち込む。男は驚いて後ろに飛び退いた。

「勝負はもう着いているでしょう。これ以上の攻撃は許しません」
「精霊様ァ……彼女はまだ降伏していません」
「それはあなたが攻撃を続けた為に声が出せなかったのです」

私は席から闘技場の中に降りる。颯太とカナエもついて来てくれ、リンの手当を始めた。

「ハル殿の言う通りである。リンは戦闘不能でお主の勝ちだ」

ラムドがそう言うと、ようやく銅鑼が打ち鳴らされた。

「あなたの勝ちです」
「ククク……残念……これからが面白いところだったのに……ああ、ナイフ返してもらえますか?刺さったままなら抜いていくので」

そう言う男の足元に全てのナイフが突き刺さる。

「もう抜いたよ。それを拾って早く退場するんだ」
「それは残念……」

颯太が冷たく言うと男は薄ら笑みを浮かべてナイフを拾って去っていく。

「リン、大丈夫かい?」
「……はい。何とか」

颯太が持っていた泉の水で治療は完了していたが、リンはまだ動けないでいた。

救護係がやって来てリンを担架に乗せる。

「もう大丈夫だろうけど僕がリンに付き添うよ」

そう言って颯太は救護係と共に退場して行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

謎の能力【壁】で始まる異世界スローライフ~40才独身男のちょっとエッチな異世界開拓記! ついでに世界も救っとけ!~

骨折さん
ファンタジー
 なんか良く分からない理由で異世界に呼び出された独身サラリーマン、前川 来人。  どうやら神でも予見し得なかった理由で死んでしまったらしい。  そういった者は強い力を持つはずだと来人を異世界に呼んだ神は言った。  世界を救えと来人に言った……のだが、来人に与えられた能力は壁を生み出す力のみだった。 「聖剣とか成長促進とかがよかったんですが……」  来人がいるのは魔族領と呼ばれる危険な平原。危険な獣や人間の敵である魔物もいるだろう。  このままでは命が危ない! チート【壁】を利用して生き残ることが出来るのか!?  壁だぜ!? 無理なんじゃない!?  これは前川 来人が【壁】という力のみを使い、サバイバルからのスローライフ、そして助けた可愛い女の子達(色々と拗らせちゃってるけど)とイチャイチャしたり、村を作ったりしつつ、いつの間にか世界を救うことになったちょっとエッチな男の物語である! ※☆がついているエピソードはちょっとエッチです。R15の範囲内で書いてありますが、苦手な方はご注意下さい。 ※カクヨムでは公開停止になってしまいました。大変お騒がせいたしました。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

愛されイージーモードはサービスを終了しました。ただいまより、嫌われハードモードを開始します。

夕立悠理
恋愛
ベルナンデ・ユーズには前世の記憶がある。 そして、前世の記憶によると、この世界は乙女ゲームの世界で、ベルナンデは、この世界のヒロインだった。 蝶よ花よと愛され、有頂天になっていたベルナンデは、乙女ゲームのラストでメインヒーロ―である第一王子のラウルに告白されるも断った。 しかし、本来のゲームにはない、断るという選択をしたせいか、ベルナンデにだけアナウンスが聞こえる。 『愛されイージーモードはサービスを終了しました。ただいまより、嫌われハードモードを開始します』 そのアナウンスを最後に、ベルナンデは意識を失う。 次に目を覚ました時、ベルナンデは、ラウルの妃になっていた。 なんだ、ラウルとのハッピーエンドに移行しただけか。 そうほっとしたのもつかの間。 あんなに愛されていたはずの、ラウルはおろか、攻略対象、使用人、家族、友人……みんなから嫌われておりー!? ※小説家になろう様が一番早い(予定)です

愛されなかった私が転生して公爵家のお父様に愛されました

上野佐栁
ファンタジー
 前世では、愛されることなく死を迎える主人公。実の父親、皇帝陛下を殺害未遂の濡れ衣を着せられ死んでしまう。死を迎え、これで人生が終わりかと思ったら公爵家に転生をしてしまった主人公。前世で愛を知らずに育ったために人を信頼する事が出来なくなってしまい。しばらくは距離を置くが、だんだんと愛を受け入れるお話。

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

処理中です...