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竜の国

轟竜ヴォルグファーン

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巨大な緑の竜は浅瀬に着地する。
明確な敵意を私達に向けていた。

「あなたに話さなければいけない理由が見当たらないわ」
『泉の精霊よ、あまり調子に乗らぬことだ。我の力を持ってすれば貴様らなど一瞬で消し炭だ』

どうやら私の事を知っている様だ。

『我はヴォルグファーン。魔竜王ズロヴァストの命によりこの地を監視する者。泉の精霊ハルよ、貴様がここに現れたという事はファディア国への報復が目的か?』
「いいえ。私はこれ以上他国に侵攻しない様に話に来ただけです」

私が返答を聞いて目を細めるヴォルグファーン。

「ククク……甘い、甘いぞ精霊よ。ガルムンドを倒したと言うから如何程かと思えば……まあいい。我は監視のみを命じられたが、ここで泉の精霊を討ち取ればズロヴァストも我の扱いを変えるだろう」

どうやらヴォルグファーンは今の扱いに不満があるらしく、手柄を上げて評価を変えてもらいたい様だ。

『無礼な駄竜め。ハル様、ここは私がやりましょう』

カクカミは蹄で砂を踏み締めてヴォルグファーンを睨みつけていた。

「あなただけでは危険よ」
『いいえ、ガルムンドに比べれば此奴は数段劣ります。私だけで十分です』
『ハル様、カクカミ様も私も以前より強くなっているのです。まずはカクカミ様にお任せください』

ヤトはトグロを巻いたまま言ってくる。

『まずは、とは私がこの程度の雑魚に苦戦すると思っているのか?』
『いえ、他意はありません』
『何をゴチャゴチャと話している?貴様らなど今直ぐに消し炭にしてくれるわ!』

そう言って高らかに咆哮をあげるヴォルグファーン。ここはカクカミに任せてみるとしよう。

ヴォルグファーンは大きく口を開いて超高温のブレスを吐いてくる。

カクカミが嘶きながら竿立ちになると、空から巨大な雷が落ちてきて、一撃でブレスをかき消した。

『ほう?少しは出来る様だな』
『今ので力の差が分からんか。やはり大した者では無い様だ』
『……我を愚弄して生きていた者はおらぬぞ!』

ヴォルグファーンは翼を広げたまま突進する。対するカクカミも角に雷を纏って突進。両者が頭からぶつかり合い衝撃波が起こる。

『ハル様!』

ヤトが身体を使って私を護ってくれる。

「ありがとうヤト」
『これくらい当然です』

カクカミとヴォルグファーンの体格差は殆どない。見た目が重そうなヴォルグファーンの方が有利かと思ったが、カクカミが角を下に差し込んで勢いよく持ち上げる。ヴォルグファーンは慌てて翼をバタつかせて空へと逃れる。

ヴォルグファーンは一吠えすると頭にある鋭い角が放電し始める。

カクカミは角にあった雷撃を解き放ちヴォルグファーンを打つ。

『ぐっ!?小癪な!』

今度はヴォルグファーンの角から雷撃が放たれる。しかしカクカミは角を振り回して雷撃を打ち払う。

雷は空気を伝いこちらにもやって来る。
これもヤトが身体で防いでくれた。

『カクカミ様、遊んでいないで早く倒してください』
『遊んでいたのではない。計っていたのだ。申し訳ありませんハル様。次で終わりにします』

カクカミはこちらに頭だけを向けてそう言うとヴォルグファーンの方へ向き直る。

『何を計っていたと言うのだ?ただの我を倒せぬ言い訳であろう!』
『それはこれを受けてから判断するが良い』

カクカミは角を空に向けて嘶く。
再び雷が落ちて来るが、今度はカクカミの角に雷が宿った。

『先程と何ら変わらぬではないか!それしか出来ぬ様だな!』

ヴォルグファーンは大きく口を開くと光線のブレスを放つ。
カクカミは勢いよく角を振り下ろして光線を掻き消した。

『今に分かる』

カクカミは角に集めた雷を放つ。
先程まで使っていた雷とは違い白く輝いていた。それが三つに分かれてヴォルグファーンの胴体に突き刺さる。

『なっ!にぃっ!?』

驚愕するヴォルグファーン。
三方向に分かれた雷は凶石を確実に貫いていた。、
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