上 下
342 / 453
勇者

神の敵

しおりを挟む
コースケは諦めたのだろうか?

「さあどうする?」

カグツチはいつでもコースケを焼き尽くせると言わんばかりに全身に炎を纏わせたまま詰め寄る。

「負けたよ……降参します」

そう言ってゆっくりと立ち上がるコースケ。俯いたまま両手を力無く挙げる。

「なんでこんなに力の差があるんだよ……同じ転生者なのにおかしいだろ……」
「あなたはここに転生して何がしたかったの?」
「僕は……自由に生きたかった。社会に抑圧されて、誰かの敷いたレールに乗って、誰からも相手にされず、利用された……一度くらい自由に生きたっていいだろう!」

彼は前世で鬱屈した日々を送って来たのだろう。だがそれはそれ。

「あなたの自由は他の誰かの自由を奪う事なの?そんなものは自由ではないわ。ただの我儘よ」
「前世だってそうだ!我儘に生きた奴が徳をしてきた!だから今度は僕が我儘に自由に生きて何が悪い!」
「あなたのやっている事は人の道に反しているわ──「それがどうした!僕は神からここで生きる事を許されたんだ!」

私の言葉を遮って強い口調で言い放つコースケ。私は彼が話し終えるのを待つ。

「僕がここにいるのは神が好きに生きていいと言っているからだ!だから僕には自由に生きる権利がある」
「そうね。あなたには自由に生きる権利がある。人の道を外れて生きるのも自由だわ」

穏やかに答える私の様子を見て意外だったのか、一瞬言葉に詰まるコースケ。

「でもね、それは相手にも言える事なのよ。ここはあなただけの世界ではない。人の自由を踏み躙る事を無条件で許された人なんていないのよ」
「それは……」
「あなたは私とその大切なものを害そうとした。そうなった場合、どうなると思う?」

息を呑んで私が言葉を続けるのを待つコースケ。

「戦う事になるわ。それは分かっていた事でしょう?」
「でも……こんなに強さが違うのは不公平だ!」
「あなた、この世界に来て何年になるの?」
「十年くらいだよ」
「そう……」

私の生きてきた時間を言って諭したい訳ではない。彼が生きてきた十年間でどれだけの人が自由を踏み躙られてきたのかを考えていた。

「あなたは何年なんだよ?」
「……説明しにくいわ」

行った所で彼の反応は大体想像できる。

「いいから教えろよ」
「数十万…いえ数百万年かしら。私がこの世界に来たのは全ての生命が死滅して、生物が生存出来ない程に汚染された大地だったわ」
「なんだよそれ……じゃあこの世界はあなたが一人で直して来たっていうのかよ?それこそ身勝手じゃないか!」

……まあ大体そう言うだろうとは思ったわ。
それから私はこの世界を一人で直してきたなどとは思っていない。
アルシファーナが私をあの時代に転生させてくれ、シグルーンと出会って様々な事を教えてもらったから頑張れたのだと思う。

コースケは私が自由にこの世界を創ってきたのだと誤解しているのかも知れないが、今更それを正すつもりもない。

「僕はあなたを認めない!神に殺害対象に指定されているあなたがこの世界に居て良い訳がないんだ!」

コースケはゆっくりと私の前に歩み寄ってくる。ワダツミとミカヅチが間に立って護ろうとしてくれるが、それを制して私も前に出る。

コースケが目の前まで来た時、彼の左手中指に嵌められた指輪が光り短剣が現れる。鞘を抜き放ち私に向かって刃を突き立てんと飛びついてきた。

「お母様!」「母上!」

後ろから二人の精霊の慌てる声が聞こえる。

大丈夫よ。これくらいなら一人で対処できる。

短剣を身を屈めて交わしてコースケの懐に入ると、右肩から彼の鳩尾に突き込むように飛び出す。

「ぐぇェッ!?」

そのまま《栄養吸収》を発動してコースケの生命力を全て奪い取る。

「あなたは私の敵だから容赦はしないわ。謝りもしない」

コースケはそのまま塵となって消えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

転生したら妖精や精霊を統べる「妖精霊神王」だったが、暇なので幼女になって旅に出ます‼︎

月華
ファンタジー
21歳、普通の会社員として過ごしていた「狐風 空音」(こふう そらね)は、暴走したトラックにひかれそうになっていた子供を庇い死亡した。 次に目を覚ますとものすごい美形の男性がこちらを見、微笑んでいた。「初めまして、空音。 私はギレンフイート。全ての神々の王だ。 君の魂はとても綺麗なんだ。もし…君が良いなら、私の娘として生まれ変わってくれないだろうか?」えっ⁉︎この人の娘⁉︎ なんか楽しそう。優しそうだし…よしっ!「神様が良いなら私を娘として生まれ変わらせてください。」「‼︎! ほんとっ!やった‼︎ ありがとう。これから宜しくね。私の愛娘、ソルフイー。」ソルフィーって何だろう? あれ? なんか眠たくなってきた…? 「安心してお眠り。次に目を覚ますと、もう私の娘だからね。」「は、い…」 数年後…無事に父様(神様)の娘として転生した私。今の名前は「ソルフイー」。家族や他の神々に溺愛されたりして、平和に暮らしてたんだけど…今悩みがあります!それは…暇!暇なの‼︎ 暇すぎて辛い…………………という訳で下界に降りて幼女になって冒険しに行きます‼︎! これはチートな幼女になったソルフイーが下界で色々とやらかしながらも、周りに溺愛されたりして楽しく歩んでいく物語。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー お久しぶりです。月華です。初めての長編となります!誤字があったり色々と間違えたりするかもしれませんがよろしくお願いします。 1週間ずつ更新していけたらなと思っています!

転生貴族可愛い弟妹連れて開墾します!~弟妹は俺が育てる!~

桜月雪兎
ファンタジー
祖父に勘当された叔父の襲撃を受け、カイト・ランドール伯爵令息は幼い弟妹と幾人かの使用人たちを連れて領地の奥にある魔の森の隠れ家に逃げ込んだ。 両親は殺され、屋敷と人の住まう領地を乗っ取られてしまった。 しかし、カイトには前世の記憶が残っており、それを活用して魔の森の開墾をすることにした。 幼い弟妹をしっかりと育て、ランドール伯爵家を取り戻すために。

♡してLv.Up【MR無責任種付おじさん】の加護を授かった僕は実家を追放されて無双する!戻ってこいと言われてももう遅い!

黒須
ファンタジー
 これは真面目な物語です。  この世界の人間は十二歳になると誰もが天より加護を授かる。加護には様々なクラスやレアリティがあり、どの加護が発現するかは〈加護の儀〉という儀式を受けてみなければわからない。  リンダナ侯爵家嫡男の主人公も十二歳になり〈加護の儀〉を受ける。  そこで授かったのは【MR無責任種付おじさん】という加護だった。  加護のせいで実家を追放された主人公は、デーモンの加護を持つ少女と二人で冒険者になり、金を貯めて風俗店に通う日々をおくる。  そんなある日、勇者が魔王討伐に失敗する。  追い込まれた魔王は全世界に向けて最悪の大呪魔法(だいじゅまほう)ED(イーディー)を放った。  そして人類は子孫を残せなくなる。  あの男以外は!  これは【MR無責任種付おじさん】という加護を授かった男が世界を救う物語である。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...