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勇者

オフの日

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宿に帰るまでの間、芽依は私に抱きついたままだった。
そんなに嫌だったのだろうか。

「兄には私からもよく言っておきます」
「ええ。お願いします」

宿に帰って自室で芽依と話をする。エレとマイも心配そうに少し離れた所で見ている。

「芽依大丈夫?」
「うん。もう平気。突然だったから混乱しちゃって……ごめんねお母さん」
「いいのよ。私の方こそごめんなさい。芽依がどう対応するのか見ていたの。すぐに助けてあげれば良かったわね」

しかしあの反応には驚いた。普段から男の子に接していなかったのかしらね。

「学校にいた時男の子に告白されたりしなかった?」
「されたよ。でもみんな私と同じ子供だったから気にもならなかったし、私に勝ったら付き合ってあげるって言って全員やっつけちゃったし」

芽依に好意を寄せる男子生徒が多かったのは知っていた。人生経験になるだろうと思い交際する事も良いと思っていたのだが、ウルゼイドにいる間に芽依が付き合う事はなかった。

「お母さんはキスした事ある?」
「それはまあ……この体では無いけど」
「誰としたの?」
「前世の夫。若い頃は当時付き合っていた人ともね」

前世の話はするべきではないと思うが、今の芽依には話した方が良いだろう。

良い思い出ばかりでは無いが、前世の私がどんな人を好きになってどんな人と付き合ってきたか、結婚して子供を産んで、苦労も多かったけど幸せな日々を暮らした事を話す。

「キスは好きな人とするんだよね?」
「そうよ。もし好きでもない人が迫ってきたら蹴飛ばしてしまいなさい」
「偉い人でも?」
「ええ。私が許します」

そう言うと芽依はニコリと笑って抱きついてくる。私はそれを受け止めて優しく髪を撫でる。

「身体は大きくなったのにまだまだ子供ね」
「私はずーっとお母さんの子供だもん。だからお母さんには遠慮なく甘えるの」

芽依は暫く私に抱きついていたけど、気が済んだのか離れてもう一度笑顔を向けてきた。

もう大丈夫みたいね。

夕食で皆と顔を合わせた時には普段通りの芽依に戻っていてセロ達も安心していた。
ギルバートの事については話題に出さないように気を遣ってくれていた様だが。

夕食を食べ終えて、お茶を飲みながら話をする。
王都での私達の役割も終わったのでセイランに帰ろうかと話を振った。

「帰るのは明後日にして、明日は思い切り遊ばない?」
「うん!そうしようよ!」

リンの提案に真っ先に飛びついたのは芽依。

そういえばあまり観光も出来なかったわね。

「私も賛成です」
「それじゃあ、明日は朝から服を見に行きましょう!」

リンの提案を聞いてセロが一瞬顔を引き攣らせていたがお茶をグイッと飲み干して、「付き合うよ」と覚悟を決めて言っていた。

「お昼はどこかで食べますよね?いいお店がないか探しちゃいますよ!」

エレは食べる事が楽しみの様だ。

「街を見て回るだけで楽しいです!」

マイも楽しみの様だ。

明日は早めに起きようと言う事になり今日は解散となった。

次の日、朝食を取り終えて街へと繰り出す。今日は装備を置いて、街の中を散策などして目一杯楽しもう。とはいえ流石に丸腰なのは不安だと言うので、全員の装備は私と芽依とマイの《ストレージ》の指輪の中に分けて入れておいた。

午前中は服を見て周り、それぞれ気に入ったものを買っていた。

芽依には今の姿に合う服を買い、エレとマイの服もそれぞれ流行りのものを多めに買っておく。その他普段着と合わせられそうな靴など良さそうなものはとにかく買う。何せお金は余っているから。

待っているセロには申し訳ないと思いつつもかなり時間を使わせてもらった。

「お待たせ!じゃあご飯を食べに行こっか」
「そうだね。お腹空いたよ」

待っていただけのセロが一番疲れた顔をしていた。
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