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勇者

謝礼

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話は順調に進んでいく。
私にとってクーゲルの処遇についてはどうでも良かった。
問題はここからだ。

「森に現れた魔物、モールドーテを退治されたそうだが、寄生元の狼についてはハル殿が飼っているそうですな?」

髭を蓄えた白髪の老人が私に聞いてくる。

来たか。

「飼っているのではありません。彼は被害者であり、今は私の家族です」
「操られていたとはいえ我が国の騎士を多数殺害しているのです。その様な危険な者を生かしておくわけにはいきません」

私が強い言葉で言い返すと老人は狼狽えるが、話を続けた。

「危険な者と言われましたか?彼を、マカミを危険な者とするならば私はどうですか?一度は王都を襲い、城まで攻め入った。私の方が危険でないですか?」
「あなたは誰も殺してはいないでしょう」
「村で騎士隊長を殺害しています」

それはこの場で既に説明している事だ。この場にいる誰もが知っている。

「それは騎士隊長ワルドが不貞を働き仕方なくでしょう」
「仕方なければ殺して良いというのですか?ならば操られていたマカミも同じです」

歯切れ悪く言う老人に間髪入れずに言い返す。

「しかしそれは……ハル殿は理性あります」
「マカミにも理性はあります。来なさい、マカミ」

皆に隅に移動してもらいマカミを召喚する。

『ハル様!』
「マカミ、前に話したあなたを取り調べる場所です。皆さんにご挨拶なさい」

元気よく現れたマカミに説明すると彼は行儀良く座り直しゆっくりと頭を下げる。その姿は優雅で知性のある者に見えただろう。

『人間の皆さん初めまして。操られていたとはいえ皆さんの仲間を殺してしまいました。ごめんなさい』

ここにいる者で彼の言葉が分かるのは私と芽依とセロだけだ。しかし気持ちは伝わるだろうと思ったのでマカミに謝罪の言葉を覚えさせた。

彼を恐れながらも静かに見守る一同。

エリオットが立ち上がりこちらにやって来る。

マカミの顔の前に行くと鼻を撫でる。

「彼は泉の精霊ハル様の眷属になり、魔物の束縛から解放され、今こうして我々の前に座っている。先日私を背中に乗せて巨人達の移動を先導してくれたのも彼です。この狼、マカミは知性も理性も持ち合わせている」

エリオットがそう言うと怪訝な顔をする者も居たが大多数は立ち上がり拍手を送っていた。

「エリオットの言う通りである。私もハル殿の眷属、マカミ殿には罪が無いものと思う。異論がある者は?」

ラムドがそう言うと誰も何も言ってこなかった。

「私も支持致しましょう。エリオットと陛下の言われた事を」

そう言って立ち上がったのはギルバートだ。
それを見て怪訝な顔をしていた者達も立ち上がり拍手を始めた。彼らはギルバート派の者達だった様だ。

『ハル様、これでよろしかったのでしょうか?』
「ええ、みんなあなたの事を許してくれたわ。ご苦労様」

頭をこちらに向けて聞いてくるマカミの頭を撫でて送還する。

「聞けばハル殿は他にもあの様な魔獣……失礼、家族を連れているそうですね」

そう聞いてきたのはギルバート。彼は私の事を警戒しているのだろう。

「はい。皆私に忠実に従ってくれています。私に危害が加わらなければこの国の者にも何もしないでしょう」
「あなたに危害が及んだと思い込んで暴走する事は?」
「ありません。私が口を聞けない状態でも息子と娘が止めてくれるでしょう」

ここはハッキリと言っておかなければならない。

「本当に何もされてないならね」

芽依がギルバートを真っ直ぐ見ながら言っている。

「そうですか。失礼しました」

そう言ってギルバートはゆっくりと座る。

「これにて査問会は終了とします」

髭の老人がそう締め括って終了となった。

「ハル殿、御助力感謝する」

クーゲルがそばに来て礼を言ってくる。

「いえ、私は事実を言っただけですから。無罪にはしてあげられなくてごめんなさいね」
「元よりそのつもりはない。部下を大勢死なせたのは私の失態だからな」

クーゲルは私達に一礼して去って行った。
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