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勇者

石の力

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カナエが防いだのとほぼ同時にカクカミとメトが私より前に出てガルムンドと対峙する。

颯太は私のすぐ目の前に立って庇ってくれる。

『ハル様を害するなど我らが許すわけなかろう!』

カクカミが棹立ちになって嘶き巨大な落雷をガルムンドに落とす。

ガルムンドは空をチラリと見上げると咆哮を上げる。角の先から雷撃を発生させカクカミの放った落雷を相殺した。

続いてメトが大火球を放つ。
ガルムンドは立ち上がり身体を旋回させると尻尾の一撃で火球を打ち払った。

「強いね。モールドーテとは比較にならない」

颯太は険しい表情をしていた。

『私も戦います!』

エレが前に出ようとする。

『やめておけ。お前如きでは皆の邪魔になるだけだ。一番後ろで戦いを見ているがいい』

トコヤミがエレを制して前に出る。

『ほう。貴様、それだけの力を持っていて泉の精霊なぞに従うのか』

ガルムンドはトコヤミを見て嘲笑する。

それを聞いたトコヤミがカクカミとメトを掻き分けるようにして前に出るとガルムンドに突進する。

ぶつかり合う二体の竜。

凄まじい衝撃と共に地面が大きく揺れる。

『ハル様を軽んずる事は許さん。死して詫びろ!』

至近距離からブレスを吐きつける。
炎が白く輝き周りの空気が燃えていた。

トコヤミのブレスはガルムンドの首を掠め肉を抉り取り焼いている。

ガルムンドは苦しそうに呻くと頭でトコヤミを突き飛ばし自身も後ろに飛び退き距離をとる。

「今がチャンスです!」

カナエが巨大な竜巻を起こしてガルムンドの身体を覆い動きを封じる。
そこに颯太が光の槍を投げつけ、カクカミは雷撃を放ち、メトは大火球をぶつけた。

私はその様子を見ながら《過剰分泌》させた泉の水を手の中で圧縮していた。

『ぐっ……!おのれ……だがその程度では我は倒せぬぞ!!』

空気が震えるほどの咆哮を上げるガルムンド。

竜巻は掻き消え身体中至る所に大きな傷が付いていたが少しずつ修復しているのが分かる。

『再生速度が早過ぎるよ。何か変だ』

メトは警戒して後退っていた。

私はガルムンドの身体を注意深く観察する。

必ずあるはずだ。
立ち上がったガルムンドの左脇腹の傷口から黒い石が僅かに見えた。

あれか!

手の中で圧縮していた水を矢の様にして投げつける。

黒い石に命中し粉々に砕いた。

『ぐあぁぁぁぁっっっ!!?』

苦しそうに叫ぶガルムンド。

効いている。が、再生速度が落ちただけだ。

「これは……母さん、ガルムンドは例の石を複数持っているみたいだね」
「ええ。このまま波状攻撃を続けて。ヤト!手伝って!」

全員に指示を出してヤトを追加召喚する。

『仰せのままに』

ガルムンドが翼を羽ばたかせて空に逃れようとしたが足元からヤトが飛び出してきて左足に食らいつく。

ヤトはガルムンドを振り回して地面に叩きつけた。

そこにトコヤミの光線よ様なブレス、カナエの放った真空の刃、カクカミは雷撃を角に纏わせて体当たりを加え、メトは右手に炎を纏わせて勢いよく頭を殴りつける。

颯太が光の槍を首元にぶつけると、そこに赤い石が露出する。

私はすぐさま《過剰分泌》させた泉の水を高速で発射し石を砕いた。

『ばっ……バカな……!?我らの力の源を破壊できるだと!?』
「私はその石を破壊する事に特化しています。あなたが何をしても無駄ですよ。全員、相手は弱っているけど手を緩めないで。このまま何もさせずに倒します」

私が言うまでもなく全員手加減などしなかった。

首の傷を更に抉られ、翼をへし折られ、足を食い千切られ、尻尾を切り取られてもまだブレスや牙で抵抗していた。

彼にとって私の水は天敵でも、この子達にとっては癒しをもたらす生命の水だ。
幾ら傷を与えてもすぐに治す。

私は露出した石を確実に水で撃ち抜いていく。

五つ目の石を破壊したところでガルムンドは力無く倒れて動かなくなった。
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