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勇者

仏の顔も

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「セロさん!」

芽依が駆け寄るとエリオットはセロから短剣を引き抜きながら離れる。その場に崩れ落ちるセロ。

少し離れて見ていたリンとミラも駆け寄ってくる。

「なにするんだ!」

セロの傷口を手で塞ぎながら芽依は小剣をエリオットに向ける。

「今言ったじゃないか。彼が死ねばその剣は僕が受け取る事が出来るんだろう?」

……まずはセロの治療だ。

「ハル、動いたら駄目だよ。彼の治療は許さない」
「お断りします」

言葉で拒否してもエリオットの命令は『動くな』なので首輪は作動しない。

「駄目だと言ってる。言う事を聞かないと痛い思いをする事になるんだよ?」
「あなたは街の者を傷付けないと約束したのに破りましたね?依頼はここで終了にさせてもらいます」
「だから何だい?もう君は僕の物だ。今すぐ全部服を脱いで這いつくばれ!」

勝ち誇った様に言い放つエリオット。

「お断りします」

首輪が締まり全身に電気が走った様な痛みが駆け巡る。

少しずつだがダメージを受けている様だ。
だが本当に少しずつだ。ヴァンパイアソーンから吸い上げた膨大な生命力があるので微々たるもの。痛みもすぐに慣れた。

「お断りします」
「何……?まさか耐えられるのかい?」
「私にはこんなもの効きませんよ」

私は泉の水をセロに掛ける。
エリオットの方を向いてゆっくりと歩きながら首についた従属の首輪に手を掛けて魔力を注ぎ込む。

金属の首輪は粉々に砕け散った。

「この化け物め!」

訓練場の入り口に控えていた魔術師の青年が私に向かって雷撃を放つ。
私は水を地面から噴き上げて雷撃を打ち払い、その水で魔術師を押し流した。

いつの間に入り込んだのか、訓練場の中に潜んでいた黒ずくめ達が一斉に私に襲いかかってくる。

「ハル様!」

エレが私の前に飛び出してきてあの超大剣を振り回して黒ずくめ達を薙ぎ払ってくれた。

「もう許さないよ!」

芽依は2本の小剣を抜いてエリオットに向かっていく。

「芽依、彼は私が。エレを手伝ってあげて」
「うん、分かった」

芽依は素直に従ってくれ転進、尚も飛びかかってくる黒ずくめの一人に回し蹴りを入れて吹き飛ばしていた。

「ま、待て……!」
「お断りします」

たじろぐエリオットに迫り平手打ちを一発。

乾いた音が訓練場に響く。

「ぼ、僕を打ったな!王族の……王子の僕に手を上げてただで済むと思うなよ!」
「あら、もしかしてお父様にも打たれた事はないのかしら?それじゃあ、わがままに育つわけね」

そう言って反対の頬を張る。

「こ、こんな事をして──」

構わずもう一発。
喋っている最中だったから口の中が切れてしまったみたい。
口元から血が滲んでいる。

涙目になりながら「痛い」と呟いているが、構わず反対の頬を平手打ち。

セロはその何百倍も痛かったのよ。

あなたが言葉で傷つけた多くの人も、あなたの痛み以上のものを味わったの。

思い知りなさい。

私は何度も何度も平手打ちをした。
痛みに耐えかねて地面に倒れても、身体を引き起こして繰り返す。

黒ずくめ達はエレと芽依に倒され、魔術師も戻ってこなかった。

ドルフと騎士達が駆けつけてきてエリオットを助け出そうとするが、いつの間にか現れたバルドルと冒険者達に阻まれていた。

私は平手打ちを繰り返す。
エリオットの両頬が腫れ上がり鼻からも血が出ていたが構いはしない。

「も、もう……やめて……」
「人の痛みが少しでも分かりましたか?」
「は……い……ごめんなさい……」

私の手も腫れ上がっていた。エリオットに水を掛けようかと思ったがまだやめておく。

「私はまだ気が収まらないわ」
「ひいっ……」

座ったまま後退りするエリオット。

「あなたのお父さんに抗議しに行きます」
「王子のお父さんって王様の所に行くの?」

芽依が剣を納めて聞いてくる。

「ええ。叱りもせずに子供が育つものですか。親としてひとこと言いに行きます」

エリオットを連れて王都に行く事に決めた。
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