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勇者

散歩

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次の日、朝食を終えたタイミングでラティーシアが話しかけてきた。

「昨日は夜だったので気付きませんでしたが、昼間も夜と同じ力が出せる様になりました」
「それは良かったわ。これで昼間に襲われても対処出来るわね」
「はい。ありがとうございます」

これで少々の事があっても大丈夫だろう。泉から誰かに来てもらう事も考えていたが、その必要が無くなって安心した。

「ギルドに行くのはお昼からだよね?それまでどうする?」
「そうね……エレは何をしたい?」
「街を見て回りたいです」
「それではお昼まで散策しましょう。芽依はいい?」
「うん!」

3人で街を歩く事にする。
散歩なので武装の必要はないのだけど、芽依は「落ち着かなくて」と言って小剣を二本腰に下げてきた。
冒険者らしくなってきたわね。

まずは広場に行って、いつも通らない方へと歩いてみる。
少し前からまで内戦で街の中が戦場になっていたのに、それが嘘の様に活気に溢れている。

雑貨屋を見つけて中を覗いてみる。
芽依とエレは店頭に並ぶ様々な小物を見て楽しそうに話をしている。

仲の良い姉妹みたいね。

私も近くにあったリボンを手に取って見る。

これ二人に合いそうね。

「二人とも、ちょっと」
「なあに?」「はい」

リボンを買って二人に付ける。
芽依はツインテールの両方に、エレ動きやすい様にポニーテールにしてそれぞれ赤色に白い線の入ったリボンを付けた。

「新しいリボン?お母さんありがと!」
「私にも?宜しいのですか?」
「エレとお揃いのものがあったらいいと思って。私も、ほら」

後ろでまとめてある髪を見せる。

「お揃いだね!」
「はい!ありがとうございます!」

二人共気に入ってくれたみたい。良かったわ。

雑貨屋を出て歩いていると、美味しそうな匂いがしてきた。
エレがそれにつられて歩いていく。
私と芽依は互いに顔を見合わせて笑うとエレについて行く。

通りの角に屋台が出ていて、どうやら匂いの元はここらしい。

「らっしゃい!試しに食べていっておくれよ!」

元気のいいおじさんが声を掛けてくる。
店に並んでいるのは竹で作られた蒸し器だ。
これってもしかして……

「中は何が入っているのですか?」
「これかい?珍しいだろ?」

そう言って蓋を開けて見せてくれる。
想像した通りの物が入っていた。

「これは?」
「美味しそう……」
「こいつはパンに近い生地の中に肉と野菜を詰めてこの容器で蒸した物だ。とても美味いよ!」

おじさんは売り込みに必死だ。
この辺りで中華まんを見たのは初めてだ。それどころか蒸し料理を見た事がない。
みんな初めて見る料理に警戒して買っていないのだろうか。

「二人とも食べる?」
「はい!食べたいです!」
「うーん…美味しそうだけどさっきごはん食べたばかりだから入らないかも」
「じゃあ半分こしましょうか」
「うん!」
「おじさん、二つのください」
「あいよ!20エルズだよ」

お金を渡して中華まんを受け取る。エレに渡すと「いただきます!」と勢いよく齧り付いた。

「んー!美味しい~!」

エレは飛び跳ねる勢いで喜んでいた。

芽依にも半分渡して二人で食べる。

「ホントだ!変わった味だけど美味しい!」
「ええ。美味しいわ」
「気に入って貰えて良かったよ!これはパオって食べ物だよ」

パオ……なるほど、そのままね。

醤油ベースの味付けで中の具は細かく刻まれていて肉汁と絡んでいて良い味だ。

満足のいく食べ物だけど、残念なのは値段かしら。少し高い。
これではいくら美味しくても売れないわ。

「これはどうやって蒸しているのですか?」
「これはね、魔法の道具だよ。魔力石を動力にして下の水を温めているんだ」

なるほど。魔道具を使っているからコストが掛かっているのね。

「お店を構えて売れば魔道具を使わなくても作れるのでは?」
「この街の伝手を頼って来たんだけどね、この前の内戦で死んじまって……帰る路銀も無いのでここで商売をしているんだよ」
「そうでしたか。大変ですね」
「これは絶対売れると思うんだよ。みんなに美味さを知って貰えれば。あとはもう少し安くなれば……」

おじさんは欠点をよく理解していた。
何とかしてあげたいが、私達に伝手はない。

「お母さん、あのお店のおじさんに話して見る?」

芽依が言うのは昨日手伝ったお店の事だろう。
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