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冒険者

八日目

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オークとの戦闘から更に四日後、セイランの街を出て八日目。あれから何事もなく商隊は進み、順調かに見えた。

その日の昼過ぎ、馬車から水が垂れてきているのに気付いた。
中に乗り込んで確認してみると、水を貯めた樽から漏れていた。樽は三つあるのだが、その三つ全てからだ。セロが補強をしてくれて漏れは無くなったが、かなりの量の水を失ってしまった。

この水は冒険者達の飲み水だ。移動中の水分補給に使う貴重な水を失ってしまった事になる。

「水はお母さんが出せるから大丈夫だけど、何か変だよね」

芽依も同時に三つの樽から水が漏れる事を不審に思っている。

「そうね。少し調べてみましょう」

注意深く観察してみると、樽板が僅かに削られている箇所がある。こんな事をしたらすぐに水が抜けてしまう筈だが……いや、荷台の隅に植物の葉が落ちている。

この葉は擦ると粘り気のある液体が出る。それを使って簡易的な栓を作ったのだろう。こんな物でも数時間は保つ。

細工をするとしたら昼休憩に水が減ったタイミングか。丁度私達が食事をしていた時だろう。

まさか昼間に水樽に細工してくるとは……油断していた。

「どうした?」

ヴァンがやって来たので状況を説明する。

「水は私が出せるので補充できます」
「それなら問題無いが、誰かがやったのは確かだ。このあと何か仕掛けてくるかも知れんな。警戒を強化しよう」

そう言ってヴァンは戻って行くが、商人の馬車でも問題が起きた様だ。
どうやらこちらと同じで樽に穴が空いていたらしい。

「確かに仕掛けてくるならそろそろよ」

エルザが言うにはこの辺りが街道の中間で、街に助けを呼びに行く事も、行軍を中止して引き返す事も困難な位置で襲撃は起こりやすいそうだ。

夕方、そろそろ野営地に到着というところでトラブルが起きた。

街道にはおよそ半日程度の距離毎に井戸などの水場があるのだが、この時間になって反対方向に向かう馬車を何台も見かける。今から次の野営地まで行こうとすると到着は深夜になってしまい危険だ。
それなのに移動をしているという事はこの先の野営地で何かあったのだろう。

ヴァンが一台の馬車を止めて事情を聞いている。

「あそこの水場は使えないよ。井戸の中でネズミが死んでいたんだ。知らずに飲んじまった連中は寝込んでる。きっと何かの病気を持っていたに違いない。アンタ達もあの野営地は使わない方がいい」

止まってくれた商人の男がヴァンに話していた。

そうなると選択は二つか。

来た道を戻って一つ前の野営地を目指すか、野営地を通り過ぎて次の野営地を目指すか。

普通は水の確保が必要な為その選択を迫られる事になるが、幸い水の補充は簡単な為、私達には選択に幅がある。

商隊は停止して、ヴァン達リーダーと商人達で協議する様だ。

「お母さんは行かなくて良かったの?」
「リーダーはセロさんだし、私の言いたい事はセロさんとヴァンさんが話してくれるわ。私達は周囲の警戒をしながら夕食の仕込みでもしていましょう」

どう動くにしても夕食はとらなければならない。芋の皮を剥いたり、切ったりはしておいて問題ないだろう。

リンとミラも手伝ってくれて、かなりの量を下処理する事ができた。
ひと段落した所でセロが戻ってくる。

「どうだった?」
「どうやら商人が知っている泉が近くにあるらしい。野営地を越えて少し行った所だって。そこで野営する事に決まったよ」

セロの表情は険しい。何か言われたのだろうか?

「何かあったの?」
「ああ……ハルさん達には言いたくないんだけど」

芽依が聞くとセロはそう前置いてから話し合いで言われた事を教えてくれた。

まず、私が水を生成できると言う事を商人に話した時、『そうやって毒を入れた水を飲ませる気ではないのか?』と言われたそうだ。

「何それ!そんな事するわけ無いよ!」
「ゴメン。どうやらこの商隊の人達は冒険者を信用してないみたいなんだ」

芽依は怒り、それをセロが宥める。

そしてヴァン達が提示した二つの選択の両方を断って、泉を目指す事になったらしい。

「まるで信用されていないわね」
「護衛と対象がその様な関係で大丈夫なんでしょうか?」

リンとミラも不快そうだ。

「まあ仕方ないさ。今まで散々被害に遭ってるんだ。護りきれなかった冒険者を信用しないのも自然だよ」

セロは諦めた様に言う。
話していたら馬車が動き出した。

夕暮れまでそう時間がない。泉に着く頃には夜になってしまうだろう。
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