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冒険者
合格
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バルドルを水を使って治療する。
「ここは……?」
「訓練場です。あなたは芽依に負けたのよ」
身体を起こし怪我の状態を確認しているバルドル。私が完全に治したのでどこも怪我はしていない。
「大丈夫ですかバルドルさん」
「お、おう……」
リフィナはバルドルに駆け寄って様子を見ている。
「次は私ですか?バルドルさんがお相手をしてくれるのかしら?」
「い、いや……アンタは回復能力だけでも充分合格だ。魔法使いなんだろう?」
立ち上がりながら私を見て後ずさる。
「ええ。芽依が前衛で私は魔法支援になるのかしら」
「私は魔法も使えるよ。お母さんには大分劣るけどね」
芽依は木槍を元に戻して私の横に並ぶ。
「実力は分かりました。冒険者の証を用意しますのでホールでお待ちいただけますか?」
リフィナはそう言うが、芽依は嫌そうだ。
「時間が掛かるなら宿の手配などをしておきたいので外出しても宜しいですか?」
「分かりました。作製には少し時間が掛かります。三時間後にもう一度お越し下さい」
「分かりました」
「宜しくお願いします」と会釈をして訓練場から出る。
芽依は私の腕に抱きつきながら嬉しそうに話す。
「やったね!合格だって!」
「芽依の実力なら当たり前よ。あなた、ウルゼイドの騎士団三つから誘われていたじゃないの」
ウルゼイドには通常の騎士団が二つと近衛騎士団が一つある。その全てから騎士として迎え入れたいと打診があったのだ。本来は見習いから入るそうだが芽依は特別待遇だった。
本人は全て断ってしまったのだが。
「騎士団はカッコいいけど堅苦しいからキライ。近衛なんて四六時中要人警護でしょ?私はお母さんを護る為に武術を学んだんだよ?」
「ふふ。ありがとうね」
ホールに戻ると窓も扉も開け放たれていて、眠りこけていた酔っ払い達も居なくなっていた。一人いるのは恰幅の良い中年の女性で、豪快にモップをかけていた。
「おやおや、私がくる前に来客があったのね。散らかっていたでしょう?ごめんなさいね」
「いいえ、私はハル、こっちは芽依。今日から冒険者になります。宜しくお願いします」
芽依と一緒にお辞儀をする。
「若いのに丁寧なのね。私はマーサよ。ここの掃除や雑用で雇われているの。宜しくね」
マーサはニコリと笑うと掃除を再開する。
邪魔をしては悪いので、まだモップを掛けていない所を歩いて外に出た。
そろそろ店も開き始めている。宿は空いているだろうか?
「少し歩いて街の様子を見ておきましょう」
「賛成!お母さんとお散歩だ!」
二人で街を散策する。
この街の建物はあまり整えられて建てられてはいない。材質もバラバラ、サイズも統一はされていない為に道は小刻みに曲がりくねっている。
しかし商業についてはよく考えられていて、種別毎に大体同じ区画に店が構えられていた。
誰かがそうなる様に指示をした訳ではなく、自然とこの形に落ち着いたのだろう。
装備については特に買い足さなければならないものはないだろう。
衣服や装飾品、食べ物の売っている店を覗きながら宿屋を探す。
途中、川魚を串焼きにして売っている屋台があったのでそこで二本買って、ついでに宿屋の位置を聞いておいた。
串焼きは塩味が程よく聞いていて香ばしく、とても美味しかった。
「この辺りだね!」
少し先を歩いていた芽依がクルリと振り返って告げてくる。
街の西門に近い通りから入り込んだ所に何軒か宿屋があると教えられていた。
馬車は入れない。それどころか人がすれ違うのもギリギリといった通路の所に宿屋はあった。建物が密集しているせいか、太陽が見えず薄暗い。
『白い蝙蝠亭』
不気味なんだかメデタイのかよく分からない名前の宿屋だが、入口は周りは清潔だ。
ここに入ってみるか。
扉を引いて中に入る。中は薄暗く、灯りは蝋燭が数本、点々と点っているだけ。
受付がすぐ左手にあった。奥には椅子とテーブル。どうやら一階は食堂を兼ねている様だ。
芽依は私の腕にしがみついている。
「いらっしゃいませ」
カウンターには真っ白な長い髪に赤い目をした少女が立っていた。
「ここは……?」
「訓練場です。あなたは芽依に負けたのよ」
身体を起こし怪我の状態を確認しているバルドル。私が完全に治したのでどこも怪我はしていない。
「大丈夫ですかバルドルさん」
「お、おう……」
リフィナはバルドルに駆け寄って様子を見ている。
「次は私ですか?バルドルさんがお相手をしてくれるのかしら?」
「い、いや……アンタは回復能力だけでも充分合格だ。魔法使いなんだろう?」
立ち上がりながら私を見て後ずさる。
「ええ。芽依が前衛で私は魔法支援になるのかしら」
「私は魔法も使えるよ。お母さんには大分劣るけどね」
芽依は木槍を元に戻して私の横に並ぶ。
「実力は分かりました。冒険者の証を用意しますのでホールでお待ちいただけますか?」
リフィナはそう言うが、芽依は嫌そうだ。
「時間が掛かるなら宿の手配などをしておきたいので外出しても宜しいですか?」
「分かりました。作製には少し時間が掛かります。三時間後にもう一度お越し下さい」
「分かりました」
「宜しくお願いします」と会釈をして訓練場から出る。
芽依は私の腕に抱きつきながら嬉しそうに話す。
「やったね!合格だって!」
「芽依の実力なら当たり前よ。あなた、ウルゼイドの騎士団三つから誘われていたじゃないの」
ウルゼイドには通常の騎士団が二つと近衛騎士団が一つある。その全てから騎士として迎え入れたいと打診があったのだ。本来は見習いから入るそうだが芽依は特別待遇だった。
本人は全て断ってしまったのだが。
「騎士団はカッコいいけど堅苦しいからキライ。近衛なんて四六時中要人警護でしょ?私はお母さんを護る為に武術を学んだんだよ?」
「ふふ。ありがとうね」
ホールに戻ると窓も扉も開け放たれていて、眠りこけていた酔っ払い達も居なくなっていた。一人いるのは恰幅の良い中年の女性で、豪快にモップをかけていた。
「おやおや、私がくる前に来客があったのね。散らかっていたでしょう?ごめんなさいね」
「いいえ、私はハル、こっちは芽依。今日から冒険者になります。宜しくお願いします」
芽依と一緒にお辞儀をする。
「若いのに丁寧なのね。私はマーサよ。ここの掃除や雑用で雇われているの。宜しくね」
マーサはニコリと笑うと掃除を再開する。
邪魔をしては悪いので、まだモップを掛けていない所を歩いて外に出た。
そろそろ店も開き始めている。宿は空いているだろうか?
「少し歩いて街の様子を見ておきましょう」
「賛成!お母さんとお散歩だ!」
二人で街を散策する。
この街の建物はあまり整えられて建てられてはいない。材質もバラバラ、サイズも統一はされていない為に道は小刻みに曲がりくねっている。
しかし商業についてはよく考えられていて、種別毎に大体同じ区画に店が構えられていた。
誰かがそうなる様に指示をした訳ではなく、自然とこの形に落ち着いたのだろう。
装備については特に買い足さなければならないものはないだろう。
衣服や装飾品、食べ物の売っている店を覗きながら宿屋を探す。
途中、川魚を串焼きにして売っている屋台があったのでそこで二本買って、ついでに宿屋の位置を聞いておいた。
串焼きは塩味が程よく聞いていて香ばしく、とても美味しかった。
「この辺りだね!」
少し先を歩いていた芽依がクルリと振り返って告げてくる。
街の西門に近い通りから入り込んだ所に何軒か宿屋があると教えられていた。
馬車は入れない。それどころか人がすれ違うのもギリギリといった通路の所に宿屋はあった。建物が密集しているせいか、太陽が見えず薄暗い。
『白い蝙蝠亭』
不気味なんだかメデタイのかよく分からない名前の宿屋だが、入口は周りは清潔だ。
ここに入ってみるか。
扉を引いて中に入る。中は薄暗く、灯りは蝋燭が数本、点々と点っているだけ。
受付がすぐ左手にあった。奥には椅子とテーブル。どうやら一階は食堂を兼ねている様だ。
芽依は私の腕にしがみついている。
「いらっしゃいませ」
カウンターには真っ白な長い髪に赤い目をした少女が立っていた。
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