89 / 453
養育
移住
しおりを挟む
数回に分けてダークエルフを泉へと運ぶ。
一度泉で彼らの話を聞く事にした。
「さて、私は自分の身を守るとはいえ、あなた達の家族を殺しました。私はゾルと約束したからあなた達をディアブレルから解放しました。もう自由です」
「精霊様、ありがとうございました。そして命じられていたとはいえ生命を狙い申し訳ありません」
そう言って来たのは首長なのだろうダークエルフの青年だ。
彼らもエルフと同じである程度までしか歳を取らないらしく、老人どころか中年も見当たらない。
「済んだ事として水に流したいと思います」
「ありがとうございます……」
全員が跪いて首を垂れていた。
私に対して憎しみを抱く者もいるだろう。いずれ敵対してくる可能性もある。
その時は完全に滅ぼすしかないが、それは今ではない。
「行くところが無いのならあなた達に住処を与えましょう。エルフと同じ山の麓になりますが構いませんか?」
「それはもう……」
彼らに行く当てがない事は分かっていた。
あの地ならエルフ達に世話を任せられるしトコヤミの住処の側なので何かあればすぐに分かる。
それよりも一つ聞いておきたい事があった。
「ところであなた達は住処を追われてディアブレルに行ったそうだけど、何が攻めて来たの?」
「あれは魔物の群れでした」
ダークエルフの長が言うには集落を襲って来たのは様々な魔物達だったらしい。
それらを纏めていたのは竜だったと言う。
「竜が他種族を従えるのは普通の事なの?」
『我ら竜種は下等な生物を飼う趣向はありません。飼うくらいなら糧にするでしょう』
トコヤミに聞いたらもっともな意見を返してきた。
長は具体的に挙げてくれた。
リザードマンという蜥蜴人間や上半身が人で下半身が馬のケンタウロス。ハーピィという鳥と人間の混ざった様な生き物に二足歩行の狼や虎もいたそうだ。
「奴らはかなりの規模で各地の集落を攻撃している様です」
北部の町も彼らの仕業かも知れない。
私達の所には被害が出ていないが、いずれ接触する事になるだろう。大森林に住む全てのものに警戒を促しておいた方がいいかも知らない。
「ありがとう。トコヤミの住処の山に住んでいる限りあなた達の身の安全は保証しましょう。何かあればトコヤミに言いなさい」
「はい。ありがとうございます」
ダークエルフ達はトコヤミに送ってもらい、私は芽依に会いに行く。家に入ると芽依が出迎えてくれた。
「お母さん!」
「ただいま。終わったからもう大丈夫よ」
抱きついてくる芽依。頭を撫でて落ち着かせる。目に涙を浮かべていた。
「私ね、もっともっと強くなる。それでお母さんとお兄ちゃんを守れる様になる」
「ええ。でも背伸びはしなくていいのよ。芽依は自分のペースで色んな事を学んでいけばいいわ」
「うん。頑張る」
芽依は頷く。真剣な眼差しには何か決意の様なものが宿っている気がした。
☆★☆★☆★☆★
あれから更に三年が経った。
私は学校で教師を続け、芽依は十二歳で高等武術科に飛び級していた。
芽依はあれから三回、剣術大会一般の部に出場しているが優勝は出来ていない。
一度目は準々決勝、二度目は準決勝、今年は決勝戦で冒険者の男に負けた。
「勝者、ロイド!」
「むぅ~また負けたぁ……」
「はっはっはっ!中々良かったがまだ俺の方が強かったな!」
剣術大会の決勝戦は、去年の準決勝のカードと同じだった。
ロイドは芽依が八歳と九歳の時にエキシビジョンで戦った冒険者だ。彼はこの国一番の冒険者として名を馳せている。
そんな彼は三年前のあの一件以来私達の護衛として屋敷に詰めており、通学の時には馬車に乗っている。
芽依はすぐに彼と打ち解けてより実践的な剣術を教わっていた。
「今年こそ勝てると思ったのに~……」
ペタリと座り込んで天を仰ぎ、悔しそうにしている芽依。
惜しかったわね。でも、来年には勝てるかも知れないわ。
私達は健闘を称えて拍手を送った。
一度泉で彼らの話を聞く事にした。
「さて、私は自分の身を守るとはいえ、あなた達の家族を殺しました。私はゾルと約束したからあなた達をディアブレルから解放しました。もう自由です」
「精霊様、ありがとうございました。そして命じられていたとはいえ生命を狙い申し訳ありません」
そう言って来たのは首長なのだろうダークエルフの青年だ。
彼らもエルフと同じである程度までしか歳を取らないらしく、老人どころか中年も見当たらない。
「済んだ事として水に流したいと思います」
「ありがとうございます……」
全員が跪いて首を垂れていた。
私に対して憎しみを抱く者もいるだろう。いずれ敵対してくる可能性もある。
その時は完全に滅ぼすしかないが、それは今ではない。
「行くところが無いのならあなた達に住処を与えましょう。エルフと同じ山の麓になりますが構いませんか?」
「それはもう……」
彼らに行く当てがない事は分かっていた。
あの地ならエルフ達に世話を任せられるしトコヤミの住処の側なので何かあればすぐに分かる。
それよりも一つ聞いておきたい事があった。
「ところであなた達は住処を追われてディアブレルに行ったそうだけど、何が攻めて来たの?」
「あれは魔物の群れでした」
ダークエルフの長が言うには集落を襲って来たのは様々な魔物達だったらしい。
それらを纏めていたのは竜だったと言う。
「竜が他種族を従えるのは普通の事なの?」
『我ら竜種は下等な生物を飼う趣向はありません。飼うくらいなら糧にするでしょう』
トコヤミに聞いたらもっともな意見を返してきた。
長は具体的に挙げてくれた。
リザードマンという蜥蜴人間や上半身が人で下半身が馬のケンタウロス。ハーピィという鳥と人間の混ざった様な生き物に二足歩行の狼や虎もいたそうだ。
「奴らはかなりの規模で各地の集落を攻撃している様です」
北部の町も彼らの仕業かも知れない。
私達の所には被害が出ていないが、いずれ接触する事になるだろう。大森林に住む全てのものに警戒を促しておいた方がいいかも知らない。
「ありがとう。トコヤミの住処の山に住んでいる限りあなた達の身の安全は保証しましょう。何かあればトコヤミに言いなさい」
「はい。ありがとうございます」
ダークエルフ達はトコヤミに送ってもらい、私は芽依に会いに行く。家に入ると芽依が出迎えてくれた。
「お母さん!」
「ただいま。終わったからもう大丈夫よ」
抱きついてくる芽依。頭を撫でて落ち着かせる。目に涙を浮かべていた。
「私ね、もっともっと強くなる。それでお母さんとお兄ちゃんを守れる様になる」
「ええ。でも背伸びはしなくていいのよ。芽依は自分のペースで色んな事を学んでいけばいいわ」
「うん。頑張る」
芽依は頷く。真剣な眼差しには何か決意の様なものが宿っている気がした。
☆★☆★☆★☆★
あれから更に三年が経った。
私は学校で教師を続け、芽依は十二歳で高等武術科に飛び級していた。
芽依はあれから三回、剣術大会一般の部に出場しているが優勝は出来ていない。
一度目は準々決勝、二度目は準決勝、今年は決勝戦で冒険者の男に負けた。
「勝者、ロイド!」
「むぅ~また負けたぁ……」
「はっはっはっ!中々良かったがまだ俺の方が強かったな!」
剣術大会の決勝戦は、去年の準決勝のカードと同じだった。
ロイドは芽依が八歳と九歳の時にエキシビジョンで戦った冒険者だ。彼はこの国一番の冒険者として名を馳せている。
そんな彼は三年前のあの一件以来私達の護衛として屋敷に詰めており、通学の時には馬車に乗っている。
芽依はすぐに彼と打ち解けてより実践的な剣術を教わっていた。
「今年こそ勝てると思ったのに~……」
ペタリと座り込んで天を仰ぎ、悔しそうにしている芽依。
惜しかったわね。でも、来年には勝てるかも知れないわ。
私達は健闘を称えて拍手を送った。
0
お気に入りに追加
433
あなたにおすすめの小説
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
愛されイージーモードはサービスを終了しました。ただいまより、嫌われハードモードを開始します。
夕立悠理
恋愛
ベルナンデ・ユーズには前世の記憶がある。
そして、前世の記憶によると、この世界は乙女ゲームの世界で、ベルナンデは、この世界のヒロインだった。
蝶よ花よと愛され、有頂天になっていたベルナンデは、乙女ゲームのラストでメインヒーロ―である第一王子のラウルに告白されるも断った。
しかし、本来のゲームにはない、断るという選択をしたせいか、ベルナンデにだけアナウンスが聞こえる。
『愛されイージーモードはサービスを終了しました。ただいまより、嫌われハードモードを開始します』
そのアナウンスを最後に、ベルナンデは意識を失う。
次に目を覚ました時、ベルナンデは、ラウルの妃になっていた。
なんだ、ラウルとのハッピーエンドに移行しただけか。
そうほっとしたのもつかの間。
あんなに愛されていたはずの、ラウルはおろか、攻略対象、使用人、家族、友人……みんなから嫌われておりー!?
※小説家になろう様が一番早い(予定)です
愛されなかった私が転生して公爵家のお父様に愛されました
上野佐栁
ファンタジー
前世では、愛されることなく死を迎える主人公。実の父親、皇帝陛下を殺害未遂の濡れ衣を着せられ死んでしまう。死を迎え、これで人生が終わりかと思ったら公爵家に転生をしてしまった主人公。前世で愛を知らずに育ったために人を信頼する事が出来なくなってしまい。しばらくは距離を置くが、だんだんと愛を受け入れるお話。
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。
みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。
主人公は断罪から逃れることは出来るのか?
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる