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人間

反撃

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「あなた達は私達を騙したばかりか同胞であるアインを手にかけた」
「だからどうしたと言うのだ?こんな男、島を見つければもう用はない」

エイリークは余裕だ。私を人質にとっていれば何も出来ないと思っているからだ。

「あなた達を生かして帰す事はできないわね」
「なに?何か言ったか小娘……」

次の瞬間、エイリークは悲鳴を上げる事になる。

「うぎゃあぁぁぁぁあぁぁぁぁっっ!!」

私の首を締めていた彼の手は枯れ木の様に細くなり、土気色に変色していた。
私がその手を掴むとパキリと軽い音がして簡単に折る事が出来た。

私はエイリークから離れる。彼は声にならない叫び声を上げながら転げ回っている。

「何をした!?」
「私は泉の精霊、あなた達よりもずっと長く生きているし、あなた達の様なニンゲンも知っているわ」

黒髪の男が聞いてくるので努めて冷たい口調で返した。
私がやったのは《栄養吸収》。かなり加減をして腕の栄養分だけ吸い取った。

伊達に八十まで生きていたわけではない。悪意のある者くらい大凡見分けは付く。
颯太は小屋の至る所からツタを生やして黒髪の男が持つ剣を絡め取った。

「く、くそっ……」
「なにをしている……早くこの娘を殺せ!!」

腕を押さえながらどうにか立ち上がろうとしているエイリーク。

「母さん、この二人どうするの?」
「外に放り出しておいて。アインの治療が先だわ」

颯太は二人をツタで絡めとると小屋の外に放り出した。

『貴様ら……ハル様と颯太様を謀ったな』
『生きて帰れると思うなよ、ニンゲン』

小屋の外ではカクカミとメトが待ち構えていた。

今はそれはどうでも良い。それよりもアインの治療だ。

「ハ……ル……」
「喋らないで。直ぐに良くなるわ」

《過剰分泌》を使って泉の水を生成してアインに与える。

「すまな……い。おれが、つれてき……たせい、で」

彼は謝っていた。自分が死ぬ様な目に遭っているのに私達を気遣っていた。

「いいのよ。今は自分の事だけを考えなさい」

私は水を与え続ける。

実は人間に対してある程度警戒する様に全員を教育していた。颯太、カクカミ、メト、ヤト、カナエには人間の頭の良さとズルさを教えておいた。
そしてアイン以外の人間がこの島を訪れた時、それが悪意を持つ者かを判別し対処出来る様に打ち合わせもしていた。

人間とニンゲン。
ほんの少ししか発音は変わらないけど敵対者に対してはニンゲンと言い換える様にしていたのだ。

泉に着いて、カナエと話をしていた時、ヤトはまだ近くにいた。
カナエのニンゲン発言を私が肯定した事で、ヤトは彼らの上陸地点に移動を始める。

私の推測が正しければ、今のうちに沖の船から上陸隊がやって来ているはずだ。
人数を揃えた所で森の仲間達を攻撃するに違いないと。

ヤトは上陸地点に近い種族達に警戒する様に呼び掛けて、必要があれば戦闘もする。

他のニンゲン達の事はみんなに任せてアインの治療に専念しよう。

「ハル様、アインの傷が深すぎます」
「母さん、実をあげてみる?」

カナエも魔法でアインの傷を治そうと頑張ってくれているが致命傷だ。この状態で生きているのには訳があった。

彼がこの島で暮らしていた僅かな間、颯太の実を食べた事によって彼の身体は変異していた。

見た目の変化は殆ど見られないが、身体能力や怪我に対する耐性が大幅に上がり、小さな傷なら数秒で塞がってしまう程だった。

その彼でも回復しきれない傷を負い、今正に命が尽きかけようとしていた。

「アイン……あなた、私達と一緒に生きる覚悟はある?」

苦しそうに浅い息遣いをしているアインに尋ねる。

「死んで、償う……よりも、生きて、償いたい……」

アインは掠れた声で途切れ途切れにそう言った。

「分かったわ。私はあなたを本当の家族として迎え入れます」

それは彼にとって最も悲惨な事だったかも知れない。
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