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繁栄

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カクカミに乗って海へと急ぐ。
ケリュネイアとコボルトの半数を泉に置いてきた。
カナエと泉の警護の為だ。

私達は森を掻き分けて走る。ゴブリンの群れに出会しても無視だ。

あっという間に海に出る。

白い砂浜に青い海。破壊され尽くした世界からここまで再生した事を思うと感慨深いものがあるが、今はそんな場合ではない。

見渡すと砂浜から少し離れた丘陵に石が積み上げられている箇所を見つけた。

「あれかしら?」

城……というよりは大きめの石を積み上げただけの石垣?いや、ただのバリケードだ。屋根すらない。
ゴブリンには建築技術というものが無いのだろうか?

何にせよ堅牢な城だったら侵入するのに苦労しただろうがこれなら容易に中に入れる。

入り口の様な所から中の様子を伺う。

中にはオーガが三人、見たことのない大柄な人型が2人、背の高いコボルトの様な人型が一人、そして一番奥にゴブリンが一人地べたに座っていた。

ゴブリンは普通よりも大柄で、捩くれた木の枝の杖を持っていた。杖の先端には野球のボール程の黄色い宝石が付いていた。

じっと見ていたらガムドと名前が表示されたので間違い無いだろう。

見たことのない大柄な人型はトロールという種族のようだ。毛むくじゃらでオーガ程ではないが逞しい。

カバの妖精ではないみたいね。

背の高いコボルトはノールという種族だ。こちらは逞しいというよりも手足が長くスレンダーだ。

ここにいるのがガムドが従えている他種族というわけか。幸い配下のゴブリン達はいない。

「あなたがガムドね?」
「何者だ?」
「私は泉の精霊ハル。何故他の種族を脅かすような事をするの?」
「不要だからだ。」

不要?必要ないから殺すというの?

「それだけの理由で他種族を殺すのは間違っています。」
「間違っている?」
「種族は違えど、この世界に生まれた仲間です。あなたの横暴で踏みにじって良い訳がない。」
「それはお前の考えだろう?俺は違う。強いものを従えて、弱いものは殺す。そしてお前も目障りだから殺す。」

どうやら分かり合える事は無さそうね。

ここまで敵対的な態度を示しておきながら攻撃を仕掛けてこない。
何か狙っているのか?

『ハル様……』

そばに立っていたカクカミが足を折って屈んでいる。苦しそうに何度も頭を振っている。

『なんだ……これ……』

メトも同じだ。
ヨキ達も苦しそうにしている。平気なのは私と颯太だけだ。

……何をした?

持っている杖の先に付いている宝石が怪しく光る。あれが原因だろうか?

母熊に付いていた石と同じ類の物ならば泉の水が効くかも知れない。

《成分複製》と《気化》を合成して水を撒く。

苦しそうにしていた全員が霧状の泉の水を吸い込むと頭を振りながら立ち上がる。

これは……あのゴブリン達と同じ?
という事は同じ手口で強い他種族を操っていたという事?

「ぐっ……オレは何を……?」

頭を押さえながらトロールが言う。

「俺は何でこんな所にいるんだ?」

ノールも我に返った様だ。

「オレ、カエル。」

オーガは城から出て行こうとする。

その時ガムドが杖を振りかざした。
かざした杖の周りで稲妻が迸りオーガ三体を貫いた。

声もあげる事なく全身を焦がしてその場に倒れるオーガ達。

……今のは何?

『まさかこんなに簡単に支配が解けるとはな……』

それはガムドが発した声ではなかった。

ガムド自身は白目を剥いて、気を失っている様に見える。

「あなたは何者です?」

私は黄色く輝く宝石を睨みながら言う。

『さあ?何者だろうな?自分が何者かなど、考えたこともない。』

母熊に付いていた石と同種の物な気がするが、あれは喋らなかった。

と、黄色の宝石にビシッと音を立てて亀裂が入る。さっきの気化した水が効いたのか?

『やはりお前は我らにとって天敵。ここで排除させてもらう。』

再び杖を振りかざすと、今度は巨大な火の玉が現れる。
それは離れた所でも肌を焼く様な感覚がする程に凄まじい熱量だった。

あんなものをぶつけられたら一溜りも無い!

「みんな逃げて!」

そう叫ぶのが精一杯だった。
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