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破壊と再生

別れ

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「その猛毒とは……」

容易に想像がつく。行き過ぎた科学、機械の発展、戦争の激化。威力の高い兵器を求めて作り出したもの。

核兵器だろう。

『どうやら心当たりがある様だな。』
「シグルーンさん、ごめんなさい。私もその人間達と同じ《テンセイシャ》なの。彼らが行った愚かな行為を許して欲しいとはとても言えないわ。」
『やはりそうであったか……』

深く息を吐き目を閉じるシグルーン。
償いきれない業を重ねてきた人間と同じ《テンセイシャ》だと知って落胆させてしまったのだろう。

『心優しき泉の精よ。お前のせいではないのだ、謝ることはない。』

少しだけ開いた目が私をみつめていた。

「そうだ……私と同じ精霊は無事なのでは?」

その人達と協力すればこの世界を再生できるかも知れない。

『人間は精霊をも殺してしまったのだ。その力を手に入れるための《キカイ》で捕らえ、エネルギーを搾り取った。もうこの世界に精霊はいない。』
「一人もですか?」
『ああ。一人もだ。彼らが生き残っていれば再生も容易だったろうに。』

シグルーンは無念そうに語る。
人間が自らの兵器で自滅してから暫くは世界中を飛び回り生存者を探していたらしい。
残念ながら見つける事は出来ず、各地で遭遇したのは人間が作った主人が居なくても動く《キカイ》のみだった。
それと戦い、傷つきながらも全てを破壊したのだと言う。

『あれは後世に残してはならない。』

命を賭して《キカイ》の殲滅をしてきたのだ。その戦いの凄まじさは全身に付いた傷が物語っていた。

『そろそろ時間の様だ……最後に、生まれたばかりのハルに力の制御を教えよう。』

小さく息を吐き説明を始めるシグルーン。

『泉の精であるハルは、自身の力を泉に与えることが出来る筈だ。まずは理解せよ。念じよ、望め……分かりやすく見られる様に。大切な事は信じる事だ。疑いがあっては何も為せぬ。』

自分の事を把握するためによく見ろと言う事だろう。

私は静かに頷いた。

『この世界に緑あふれる豊かな大地が戻らん事を望まん……』
「私、やってみます。この世界を本当に直せるかは分からないけど、《テンセイシャ》がしてしまった事を償えるのなら。」
『ハルには時間がある。ゆっくりと、時間を掛けて、やるといい……』

ゆっくりと目を閉じるシグルーン。

その目は二度と開かれる事はなかった。

私はシグルーンの顔に手を当てて「ありがとう」と「ごめんなさい」を言って祈りを捧げた。

☆★☆★

黒かった雪はいつの間にか白くなり、降り積もる。
空は分厚い雲に覆われてお日様は見えない。
私は何ヶ月も掛けてシグルーンを埋葬した。

この身体、精霊というのは空腹も寒さも眠気すら感じない。不思議だ。

雪は降り積もり、周りの景色を白に染めていく。
シグルーンの遺骸は死してなお熱を持っていて、泉の周りには雪が積もらなかった。

「さて……そろそろやってみようか。」

シグルーンの言っていた自身の把握。泉の状態を見てみよう。

目の前には真っ黒な水溜り。
この泉?はどうなっているのだろう。

じっと見つめていたら目の前に文字が浮き上がってくる。

【ハルの泉 状態:深刻な汚染】

目の前に映るのはスマートフォンの画面の様な感じだ。
あれには何年使っても慣れなかった。
画面を突いたり擦ったり抓ったり、操作がよく分からなかった。
知らない間によく分からない事をして息子によく怒られたわね。

懐かしんでいても何も始まらない。現実と向き合おう。

深刻な汚染……具体的にはどんな?

【ハルの泉 状態:放射能汚染】

やっぱりか……という事はこの空も大地も汚染されているんだ。

直す方法はないのだろうか?放射能は消えるまでにかなりの年月がかかる筈だ。

そうだ……泉の精の力で何か出来ないだろうか?

自分の状態を確認しよう。

【ハル 泉の精霊 付与力:100】

付与力というのがシグルーンが言っていた限りある力なのだろう。おや……?

【ハル 泉の精霊 付与力:101】

増えた。時間で増えるのか。
これで何が出来るのか……。

現れたのはいくつかの項目。

拡張   [10]
吸収   [10]
汚染除去 [100]

これだ、汚染除去。
強く念じて泉を綺麗にする。

【ハルの泉 状態:放射能汚染】
【ハル 泉の精霊 付与力:1】

付与力が減っているけど何も変わっていない……。

さて、どうしたものか。
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