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第1話 バカ夫婦の目覚め その1
しおりを挟む「ハイ。あぁ――ん、だよ」
そう言うと雄也は目じりを下げ。にんまりとしながら口を開け、私が差し出すスプーンを口に含む。
「うんうん。うん! 麻奈美の手料理、やっぱりおいしい!」
「でしょ! でしょ! これさぁ、雄也が好きそうだなって、思って作たんだぁ――。うれしいぃ!! やったぁ――――――!!!!」
よっしゃぁ。
雄也から美味しいいただきましたぁ――――。
ああ、幸せだ。
雄也と結婚して、私は本当に幸せだ。
甘々ラブラブ。もうこんなにラブな生活がずっと続くんだよね。
ジっと、雄也の顔を見つめていると。彼が「どうしたの麻奈美?」と私の瞳を見つめながら言う。
ちょっと心配そうな顔つきが、私のこの小さな胸<……おっぱいの事じゃないよ。それなりにあるんだから。これでも>の中に、雄也のとろけそうな感情が、なだれ込んでくるような感じを受け止めながら。
「ううん、何でもないよ。私雄也と結婚出来て本当に幸せだなぁって」
「うれしいよ。僕も麻奈美と結婚出来てとても幸せだ」
そう真剣なまなざしで、雄也は返してくれた。
お互いの瞳を見つめあいながら、ひかれあうかのように唇が触れ合う。
もう何度も。このお互いの唇を触れ合わせているけど。いつも新鮮な感覚になるのは本当に、私は雄也のことを愛しているからだろう。
熱いキスが止まらない。
ああ、だんだんと体が熱くなっていくのを自ら認めて感じていく。この感じが幸せを感じるこの胸に油を注いでくれる。
「なぁ、麻奈美」
「んっ。まだ駄目。ご飯の途中でしょ」
「でも、待てない」
「もう仕方がないなぁ――」
求める夫に、じらす新妻。
新妻……で、まだ通るよね。だって結婚してからまだ1年と少ししかたっていないんだもん。
「ふわぁ――」
「すっごい大きなあくびだね。はい、コーヒー」
「あ、ありがとう愛子さん」
隣のデスクにいる同僚であり、友人でもある秋葉愛子。彼女は私の良き理解者でもある。私より3歳年上の彼女。結婚して、すでに7年目の大ベテラン。二人の子供の母親でもあるのだ。
私のディスクの上に置かれたかわいらしい猫のイラスト? 絵が付いたマイマグカップに、サーバーポットのコーヒーを静かに注ぎ入れ、飲むように勧める。
「うげぇ――、苦い!」
「そりゃそうでしょ。ブラックだもん」
「お砂糖入れてよ」
「あら、ずいぶんと眠そうにしていたから、ブラックの方がいいんじゃないの?」
にんまりと笑いながら返すところが憎らしい。
「それで昨夜は何回だったの?」
何回? デスクの下へ手を差し伸べて、手のひらを開いた。
「5回! マジ?」
「マジ……」
「もう、お盛んですこと。いっそのこと子供つくちゃえば」
「そ、そうなんだけど」
そうなのだ。私はいつでも”OK”なんだけど。
年齢的にも28歳。そろそろ一人目が欲しいかも。
でも二人で決めた。子供は、もう少し後にしよって。
経済的なこともあるけど。まだ、二人でイチャイチャしていたい。
後1年か2年は我慢しよって。でも待て、そうしたら私30歳。高齢出産ってわけじゃないけど、出来れば20代で一人目は出産したいという願望はあった。
ま、でもそれはそれ、今は楽しもう。
多分、子供が出来ればこんなイチャイチャは、もう出来なくなるかもしれないんだから。
「子供かぁ。欲しいところはあるけど、もう少し今の生活を二人で楽しみたいかなぁ」
「ふぅーん。まだ脳内はピンク色なんだ。そのピンク色も大体もって2年ていうところかな。ま、あと性欲で盛り上がれるのも3年ぐらいかもね。その間に、子供が生まれるっていうイベントがあると変わってくるけど、……なんとも言えないけどね」
呟くように愛子さんは言うけど、なんかこれぞ実体験だというのが、必然的に私の頭に叩き込まれたような気がした。
イチャラブもって2年。性欲盛り上がり、もって3年。
あっ! だからか3年目の浮気っていうフレーズが、いまだにどこかに残っているのは……?
デスク。もとい編集長がなんか機嫌がいいときに、口ずさむあの歌。昭和丸出しのフレーズが流れ込んでくる。
おっさん丸出しの編集長。でもなんかちょっと可愛いところもあるんだ。
でも、でもミスして怒ると……もっのすごく怖い。
眠たそうにしているのを、悟られないようにゴクリとまたブラックコーヒーを口にした。
やっぱり苦い。
私はまだお子様なんだろうけど、甘い方がまだ好きなんだよね。
甘々な生活。それがこれからもずっと続くのを私は信じているし。お砂糖でこの体をまぶして、その甘い砂糖を雄也が好んでくれる。だから、私の幸せホルモンはいつも驀進中なのだ。
だが、あの日を境に私のこの甘さは。
ほろ苦く、まるでビールの苦さが甘さに感じてくるような、新たな感覚を持つようになってきた。
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