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第43話 あの子とこの娘とそして君もなの? ACT 9
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何気ない杉村の問いに、なんて答えようかと戸惑ってしまった。
実際恵美が料理? 台所に立っている姿なんて見たことがない。
「まぁー、どうだろ。え、あ、いや。三浦も吹部忙しいんじゃないのかなぁ。帰ってくるのいつも遅いんだよ。それに両親揃ってほら、職人だしね」
「ふぅーん、そっかぁ―、そうだよね。三浦さんの家ってあの有名なお菓子屋さんだもんね。おばあちゃん、『カヌレ』のケーキ好きなんだよ」
にっこりと笑いながら杉村は応えた。
もしかしたら何とかごまかせた? そう言う言い方は本当はしたくないんだけど、実際……多分恵美は料理はしたことないんだ……多分。何せ、ミリッツアさんが「ご飯くらい炊けたらなぁ」なんて漏らすくらいだ。やばいのかもしれない。
でも、それも仕方がないことなのかもしれない。恵美の抱えたあの傷からようやく彼女はここまで立ち直ったんだから。それだけでも本当はすごいことなんだと思う。
「さぁてそれじゃ作り始めますか」
「僕も手伝うよ」
「えっ、笹崎君料理できるの?」
「ああ、得意だよ」さらりと言ったけど、それがなんか杉村には物凄くプレッシャーだったみたいで。
「嘘、嘘……き、緊張しちゃう。料理得意何て言われちゃうと。もしかして、ものすごい料理なんて作ってしまう人なの? それこそ、うちの料亭の職人さんみたいな」
「おいおい、普通の料理だよ。人前に出してお金もらうなんて言うものなんか作れないよ」
「でも得意なんでしょ」
「少し……は」
今度はちょっと遠慮気味に。
それを聞いて杉村がどう思ったのかは分からないが「でも、私頑張るから」と気合を入れてしまった。
いや、そんなに気合入れなくても、僕はカップラーメンでも十分ありがたいんだけど!
なんてことはもう言えない。
「笹崎君はここで待っていて、ちゃんとしたもの作るから。ちゃんとしたもの……」
と、ぶつぶつ言いながら、彼女は台所に向かった。
暫くすると、これは出汁の香りだろう。なんとなく懐かしい、そしてこの香りが胸を少し締め付る。
和風だし。多分インスタントじゃない、ちゃんと素材から出汁を取っているんだと思う。
ここの家の台所ってどんな感じなんだろう。そこで杉村が、料理をしている。ちょっと覗いてみたい気分になる。けど、その衝動を空を眺めながら抑えた。
僕が行くと、多分彼女は緊張しちゃんじゃないのかなぁ。
だってさっきの会話ですらなんか緊張しているのが伝わってきたからな。
もう入道雲が出る季節から少し過ぎたと思うこの時期。多分、海の方からだと思う。白く黙々とした雲がこっちに近づいている。
夏の名残……雲か。
カランカランとびいどろ風鈴が流れ込む風に合わせて心地いい音を放している。
不思議だな。なんだかとても落ち着くよ。
初めてきた杉村の家。
すうーと体が、心がなじんでくるような静かな時間が流れていく。
温かい。心が温かく休まる気がする。この優しくて、懐かしい香り。
「かあさん」
ぼんやりと瞼に浮かぶ母さんの面影。でもその姿はすぐに消えていった。
はっとして目を覚ますと、体にタオルケットをかけ、ほほに伝わる温もりを感じた。
「あ、目覚ましたの」
その声は少し恥ずかしそうな、それでいて少し残念がっているかのような。そんな声に聞こえた。
ようやく現状を飲み込めた僕は、むくっと上半身をおこした。
「ご、ごめん眠っていたんだ」しかも、……杉村の膝枕の上で。
「気持ちよさそうに寝ていたね……笹崎君」
ほんのり赤い顔をしながら、彼女はそう言った。
実際恵美が料理? 台所に立っている姿なんて見たことがない。
「まぁー、どうだろ。え、あ、いや。三浦も吹部忙しいんじゃないのかなぁ。帰ってくるのいつも遅いんだよ。それに両親揃ってほら、職人だしね」
「ふぅーん、そっかぁ―、そうだよね。三浦さんの家ってあの有名なお菓子屋さんだもんね。おばあちゃん、『カヌレ』のケーキ好きなんだよ」
にっこりと笑いながら杉村は応えた。
もしかしたら何とかごまかせた? そう言う言い方は本当はしたくないんだけど、実際……多分恵美は料理はしたことないんだ……多分。何せ、ミリッツアさんが「ご飯くらい炊けたらなぁ」なんて漏らすくらいだ。やばいのかもしれない。
でも、それも仕方がないことなのかもしれない。恵美の抱えたあの傷からようやく彼女はここまで立ち直ったんだから。それだけでも本当はすごいことなんだと思う。
「さぁてそれじゃ作り始めますか」
「僕も手伝うよ」
「えっ、笹崎君料理できるの?」
「ああ、得意だよ」さらりと言ったけど、それがなんか杉村には物凄くプレッシャーだったみたいで。
「嘘、嘘……き、緊張しちゃう。料理得意何て言われちゃうと。もしかして、ものすごい料理なんて作ってしまう人なの? それこそ、うちの料亭の職人さんみたいな」
「おいおい、普通の料理だよ。人前に出してお金もらうなんて言うものなんか作れないよ」
「でも得意なんでしょ」
「少し……は」
今度はちょっと遠慮気味に。
それを聞いて杉村がどう思ったのかは分からないが「でも、私頑張るから」と気合を入れてしまった。
いや、そんなに気合入れなくても、僕はカップラーメンでも十分ありがたいんだけど!
なんてことはもう言えない。
「笹崎君はここで待っていて、ちゃんとしたもの作るから。ちゃんとしたもの……」
と、ぶつぶつ言いながら、彼女は台所に向かった。
暫くすると、これは出汁の香りだろう。なんとなく懐かしい、そしてこの香りが胸を少し締め付る。
和風だし。多分インスタントじゃない、ちゃんと素材から出汁を取っているんだと思う。
ここの家の台所ってどんな感じなんだろう。そこで杉村が、料理をしている。ちょっと覗いてみたい気分になる。けど、その衝動を空を眺めながら抑えた。
僕が行くと、多分彼女は緊張しちゃんじゃないのかなぁ。
だってさっきの会話ですらなんか緊張しているのが伝わってきたからな。
もう入道雲が出る季節から少し過ぎたと思うこの時期。多分、海の方からだと思う。白く黙々とした雲がこっちに近づいている。
夏の名残……雲か。
カランカランとびいどろ風鈴が流れ込む風に合わせて心地いい音を放している。
不思議だな。なんだかとても落ち着くよ。
初めてきた杉村の家。
すうーと体が、心がなじんでくるような静かな時間が流れていく。
温かい。心が温かく休まる気がする。この優しくて、懐かしい香り。
「かあさん」
ぼんやりと瞼に浮かぶ母さんの面影。でもその姿はすぐに消えていった。
はっとして目を覚ますと、体にタオルケットをかけ、ほほに伝わる温もりを感じた。
「あ、目覚ましたの」
その声は少し恥ずかしそうな、それでいて少し残念がっているかのような。そんな声に聞こえた。
ようやく現状を飲み込めた僕は、むくっと上半身をおこした。
「ご、ごめん眠っていたんだ」しかも、……杉村の膝枕の上で。
「気持ちよさそうに寝ていたね……笹崎君」
ほんのり赤い顔をしながら、彼女はそう言った。
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