29 / 69
第28話 僕の知らない彼女 ACT 13
しおりを挟む
「酒かぁ。飲みてぇ気分だけど……。あのぉ、結城、お前もしかして明日は」
「何にも予定ないっすよ。まぁちゃんと送り届けてくれればこっちは構いませんけど」
少しとげがあったかな?
「そっかじゃぁの、飲むか……なぁ、親父」
「お、おう。飲むか」
「はいはいそれじゃビールからね」そう言いながら、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、グラスに注いで二人の前に置いた。
「おい、幸子は飲まないのか?」頼斗さんのお父さんがちょっと申し訳なさそうに言う。
「うん、今はいいわ。あとでゆっくりと飲ませてもらうから。はい、私と結城君はサイダーだよ」
もう二つのグラスに透明なサイダーが注がれる。シュワーと泡が立ちはじけるように沈んでいく。
そして、もう一つのグラスに幸子さんはビールを注いだ。
「これは響音の分」
「そうだな……彼奴ももう飲めるんだよな」
「うん、そうだよ。もう立派に成人しているんだもん。一緒にみんなで飲もうよ」
そこに姿はなくとも、みんなにはちゃんと見えているんだ。みんなの最愛の響音さんの姿が。
まだこの人たちは、本当の意味でも心の傷は癒えてはいない。
それでもその現実を一生懸命に受け入れようと努力している姿が、なんだかとても愛おしく思える。
本当に家族に愛されていたんだということを。
そして、ここには僕ではなく、恵美の姿が本来あるべきなんだとその時思った。
頼斗さんとお父さんは、一気にグラスのビールを飲み干した。
「ふぅー」と深いため息のようなそれでいて、今まで胸の中にため込んでいた何かを吐き出すかのように頼斗さんは息をつく。
「いやぁ―こんな時間から飲むビールは格別だなぁ。なぁ親父」
「ああ、旨いなぁ。一人で飲んでいてもなんか侘しいだけだからな」
「なんだよ幸子さんと一緒に飲まねぇのかよ」
「だってぇ―、この人飲むと動けなくなるじゃない。誰がベッドまで運んでいくと思っているの?」
「全くよぉ、年甲斐もなく無理するからだぜ! もう自分の体のことも考えて動けや」
「仕方がねぇだろ、梯子から足滑らせちまったんだから。体のせいじゃねぇぞ頼斗」
「何かポケッと考え事でもしてたんじゃねぇのか? まっ正直これを教訓にあんまり無理はしなさんなよ親父」
「そうも行ってられん。この怪我のせいでスケジュールがかなり押されている。回復するまであと1か月はかかるようだ。そのあとはほとんど出張だ」
「なんだよ、また幸子さんを一人っきりにさせちまうのか?」
「仕方ないだろ。だったらお前がここにきてやればいいだろ。通えない距離でもないだろ。お前の車なら」
「まぁなぁ、実際そうなんだけど……。親父はいいのかよ」
「俺は別に構わわん。好きにすればいいだろ。それで縁が切れることはないはずだからな」
「まぁ……。確かにな」
この二人の会話の意味がよくわからない。僕の横で幸子さんはなぜかあの小柄の体をもっと小さくしながらちびちびとサイダーを飲んでいた。
「ねぇ結城君、好きなの取って食べていいよ。こんなにあるんだから結城君がいっぱい食べてくれるとうれしいなぁ」
そこまで言われると遠慮も出来ない。正直おなかも減っているのは確かだ。
煮漬物やだし巻き卵、それにローストビーフまで用意してある。
これ全部幸子さんが作ったのか?
幸子さんて、見かけによらず料理は本当に上手なんだと思う。小皿に取り分けてくれた煮物をを口にすると、そのうまみが口いっぱいに広がっていく。この人の料理は本物だと確信してしまった。
「どうだうめぇだろ。幸子さんの煮物は天下一品だ。この煮物を食うと、家に帰ってきたっていう感じがようやく実感できるんだ」
「うっ、もうぉ、だったら毎日でも作ってあげるから、頼斗君は私の傍にいてほしいなぁ」
「無理なこと言わないでくれよ幸子さん」
「……そうだね」と、答える幸子さんの表情は少し寂しそうだった。
すでに二人が缶ビールを共に2本ずつ空にしていた。
「ウイスキーに変えよっかぁ」
「ああ、そうだな。俺はそっちの方がいい。親父は大丈夫か?」
「ああ、まだいけるぞ」
その声を聞いてキッチンで氷を用意して、新しいグラスを持ってきた。
「頼斗、そこの戸棚にウイスキーが入っているはずだが取ってくれないか」
「ああ」と言いながら、戸棚からウイスキーのボトルを取り出すと、その瓶の中身はあと残りわずかだった。
「なんだこれだったら買ってくればよかったな」頼斗さんがそう言うと。
「ちょっと待ってて、これ飲んでいて、今新しいの買ってくるから」と幸子さんが言う。
「ええ、でも悪いなぁー、いいの?」
「いいって、実はそれ飲んじゃったの私だから、同じの買ってくるね」と、僕の方に幸子さんは視線を向け、「結城君も一緒に行く?」
「えっ、僕もですか?」
「だって酔っ払いの相手しているの大変じゃない?」
「まぁ―、いいんですか?」
「うん、一緒に行こ。私の愛車で」
何かありそうな感じがするけど、僕は幸子さんと一緒に車に乗り込みお酒を買いに、この家を出た。
「あのウイスキー売ってるところちょっと離れているんだぁ。ちょっと不便なところもあるけど、私はこの町嫌いじゃないのよねぇ」
と、にこやかに笑いながら幸子さんは車を発進させた。
しかし、仲がいいのはなんとなくわかるような気がしてきたけど、微妙になにかがあるのは薄々と感じ始めていた。
「何にも予定ないっすよ。まぁちゃんと送り届けてくれればこっちは構いませんけど」
少しとげがあったかな?
「そっかじゃぁの、飲むか……なぁ、親父」
「お、おう。飲むか」
「はいはいそれじゃビールからね」そう言いながら、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、グラスに注いで二人の前に置いた。
「おい、幸子は飲まないのか?」頼斗さんのお父さんがちょっと申し訳なさそうに言う。
「うん、今はいいわ。あとでゆっくりと飲ませてもらうから。はい、私と結城君はサイダーだよ」
もう二つのグラスに透明なサイダーが注がれる。シュワーと泡が立ちはじけるように沈んでいく。
そして、もう一つのグラスに幸子さんはビールを注いだ。
「これは響音の分」
「そうだな……彼奴ももう飲めるんだよな」
「うん、そうだよ。もう立派に成人しているんだもん。一緒にみんなで飲もうよ」
そこに姿はなくとも、みんなにはちゃんと見えているんだ。みんなの最愛の響音さんの姿が。
まだこの人たちは、本当の意味でも心の傷は癒えてはいない。
それでもその現実を一生懸命に受け入れようと努力している姿が、なんだかとても愛おしく思える。
本当に家族に愛されていたんだということを。
そして、ここには僕ではなく、恵美の姿が本来あるべきなんだとその時思った。
頼斗さんとお父さんは、一気にグラスのビールを飲み干した。
「ふぅー」と深いため息のようなそれでいて、今まで胸の中にため込んでいた何かを吐き出すかのように頼斗さんは息をつく。
「いやぁ―こんな時間から飲むビールは格別だなぁ。なぁ親父」
「ああ、旨いなぁ。一人で飲んでいてもなんか侘しいだけだからな」
「なんだよ幸子さんと一緒に飲まねぇのかよ」
「だってぇ―、この人飲むと動けなくなるじゃない。誰がベッドまで運んでいくと思っているの?」
「全くよぉ、年甲斐もなく無理するからだぜ! もう自分の体のことも考えて動けや」
「仕方がねぇだろ、梯子から足滑らせちまったんだから。体のせいじゃねぇぞ頼斗」
「何かポケッと考え事でもしてたんじゃねぇのか? まっ正直これを教訓にあんまり無理はしなさんなよ親父」
「そうも行ってられん。この怪我のせいでスケジュールがかなり押されている。回復するまであと1か月はかかるようだ。そのあとはほとんど出張だ」
「なんだよ、また幸子さんを一人っきりにさせちまうのか?」
「仕方ないだろ。だったらお前がここにきてやればいいだろ。通えない距離でもないだろ。お前の車なら」
「まぁなぁ、実際そうなんだけど……。親父はいいのかよ」
「俺は別に構わわん。好きにすればいいだろ。それで縁が切れることはないはずだからな」
「まぁ……。確かにな」
この二人の会話の意味がよくわからない。僕の横で幸子さんはなぜかあの小柄の体をもっと小さくしながらちびちびとサイダーを飲んでいた。
「ねぇ結城君、好きなの取って食べていいよ。こんなにあるんだから結城君がいっぱい食べてくれるとうれしいなぁ」
そこまで言われると遠慮も出来ない。正直おなかも減っているのは確かだ。
煮漬物やだし巻き卵、それにローストビーフまで用意してある。
これ全部幸子さんが作ったのか?
幸子さんて、見かけによらず料理は本当に上手なんだと思う。小皿に取り分けてくれた煮物をを口にすると、そのうまみが口いっぱいに広がっていく。この人の料理は本物だと確信してしまった。
「どうだうめぇだろ。幸子さんの煮物は天下一品だ。この煮物を食うと、家に帰ってきたっていう感じがようやく実感できるんだ」
「うっ、もうぉ、だったら毎日でも作ってあげるから、頼斗君は私の傍にいてほしいなぁ」
「無理なこと言わないでくれよ幸子さん」
「……そうだね」と、答える幸子さんの表情は少し寂しそうだった。
すでに二人が缶ビールを共に2本ずつ空にしていた。
「ウイスキーに変えよっかぁ」
「ああ、そうだな。俺はそっちの方がいい。親父は大丈夫か?」
「ああ、まだいけるぞ」
その声を聞いてキッチンで氷を用意して、新しいグラスを持ってきた。
「頼斗、そこの戸棚にウイスキーが入っているはずだが取ってくれないか」
「ああ」と言いながら、戸棚からウイスキーのボトルを取り出すと、その瓶の中身はあと残りわずかだった。
「なんだこれだったら買ってくればよかったな」頼斗さんがそう言うと。
「ちょっと待ってて、これ飲んでいて、今新しいの買ってくるから」と幸子さんが言う。
「ええ、でも悪いなぁー、いいの?」
「いいって、実はそれ飲んじゃったの私だから、同じの買ってくるね」と、僕の方に幸子さんは視線を向け、「結城君も一緒に行く?」
「えっ、僕もですか?」
「だって酔っ払いの相手しているの大変じゃない?」
「まぁ―、いいんですか?」
「うん、一緒に行こ。私の愛車で」
何かありそうな感じがするけど、僕は幸子さんと一緒に車に乗り込みお酒を買いに、この家を出た。
「あのウイスキー売ってるところちょっと離れているんだぁ。ちょっと不便なところもあるけど、私はこの町嫌いじゃないのよねぇ」
と、にこやかに笑いながら幸子さんは車を発進させた。
しかし、仲がいいのはなんとなくわかるような気がしてきたけど、微妙になにかがあるのは薄々と感じ始めていた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
(R18) 女子水泳部の恋愛事情(水中エッチ)
花音
恋愛
この春、高校生になり水泳部に入部した1年生の岡田彩香(おかだあやか)
3年生で部長の天野佳澄(あまのかすみ)
水泳部に入部したことで出会った2人は日々濃密な時間を過ごしていくことになる。
登場人物
彩香(あやか)…おっとりした性格のゆるふわ系1年生。部活が終わった後の練習に参加し、部長の佳澄に指導してもらっている内にかっこよさに惹かれて告白して付き合い始める。
佳澄(かすみ)…3年生で水泳部の部長。長めの黒髪と凛とした佇まいが特徴。部活中は厳しいが面倒見はいい。普段からは想像できないが女の子が悶えている姿に興奮する。
絵里(えり)…彩香の幼馴染でショートカットの活発な女の子。身体能力が高く泳ぎが早くて肺活量も高い。女子にモテるが、自分と真逆の詩織のことが気になり、話しかけ続け最終的に付き合い始める。虐められるのが大好きなドM少女。
詩織(しおり)…おっとりとした性格で、水泳部内では大人しい1年生の少女。これといって特徴が無かった自分のことを好きと言ってくれた絵里に答え付き合い始める。大好きな絵里がドMだったため、それに付き合っている内にSに目覚める。
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる