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第22話 僕の知らない彼女 ACT 7
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車はスピードを上げ、市街地を抜けていく。
長いトンネルを抜け、陽の光が戻ると、おのずと方角は示されていた。
まだはっきりとした行先も伝えられないまま、車は目的地に向かっていた。
千葉か、千葉の奥地までは行ったことがない。山間の道を、先生は気持ちよさそうに車を走らせている。
「先生いったい目的地はどこなんですか?」
「ああ、それなぁ―、俺の実家のあたりだ」
「はぁ―、先生の実家? なんでそんなところに僕を連れだしたんですか?」
「まぁいいじゃねぇか」
「それになんで僕だけなんですか? ――――――あのぉ、もしかして恵美さんに何か関りがあるんですか?」
「なんで恵美にかかわりがあるって思うんだ?」
「あ、なんとなくていうか、その……先生、正樹さんやミリッツアさんたちともなんか親しそうでしたし。それに、……そのぉ」
「ずいぶんとまどろっこしい聞き方すんなぁ。なんかムズムズしてくるぞ笹崎」
先生はそう言いながら、ダッシュボードからたばこを取り出し、くわえて火を点けた。
「ふぅー」と煙を吐きながら「あ、吸ってもよかったよな」
「別に構いませんけど」
「お前、俺と恵美との関係のこと知りたいんだろ」
ぐっ! 直球過ぎるんですけど!
「律子からは聞いていなかったのか?」
「何も……て、先生は知っていたんですか?」
「ああ、別れたといっても今でも律子とは何だかんだと、繋がりがある。お前のことも聞いている」
「はぁ、そうなんですか」てさぁ、律ねぇはどこまでこの人に話しているんだろう。
まさか洗いざらい話してはいないと思うんだけど……。
「なぁ、お前、まだ恵美のこと諦めついていねぇんだろ」
「そ、それは。でも振られましたし。好きな人がいるみたいですしね。―――――その人ってもしかして先生ですか?」
ちょっと突いてみた。
「あははははは、俺と恵美がかぁ。教師と生徒の禁断の恋っていうやつかぁ。ま、俺の生には合わねぇな。でも……もしそうだったとしたら、お前はどうする?」
「どうするって」
「恵美のこと諦めるのか?」
「諦めるって、そもそも、僕のことなんか眼中にないんですから、諦めるも何もないですよ」
「ふっ、たぶんそんなことだろうと思っていたよ。ま、それも仕方がねぇけどな。今の恵美にしてみりゃ、ただ”うざい”だけなんだろうからよ」
う、うざいって、そこまで言わなくてもいいんじゃないんですか先生!
「ま、お前も両親を亡くして間もないんだ。まだ、恋だの愛だのなんて、そう言う事に余裕もねぇことくらい分かってるよ。でもなぁ、俺は思ったんだ、恵美を彼奴を救ってくれるのはお前かもしれないってな」
「救うってどういうことですか? やっぱり恵美には何かあるんですよね」
「それを今からお前がその目で見て、知ることになる。多分酷なことかもしれねぇけど、俺たちには触れることの出来ない部分にお前だったら、手を差し伸べることができるかもしれない……俺はそう思ったから今、お前をこうして連れ出しているんだ」
なんかまだよく意味が分からない。肝心な部分がすっぽり抜け落ちてる。
「ま、いい、もうじき着く」
山間の道が一気に開け始めた。ところどころに広がる田園風景に、町並みが目に映る。
そして防波堤の隙間から除き見える海。
漁港町特有の雰囲気が流れる景色から感じられた。
立ち直ろうとする。その活気の裏に覆いかぶさるように寂れゆく時の流れが、否めない。
そんな町を後に、車は小高い山道を上っていき、数台駐車できるスペースのあるところで止まった。
「さぁ着いたぞ」
ふと窓の外に見えるその先の景色は、ここが墓地であることを映していた。
なぜこんなところに。
花束を手にして、ミリッツアさんから受け取った小箱を持ち、先生は車を降りた。
ちらっと投げかけられた先生からの視線。
それに答えるように、僕も車から降りて先生の後ろをついていく。
ほのかに香る線香の香り。
綺麗に整備された墓地の一角で先生の足は止まった。
そこにはすでに、花と線香が手向けられていた。そしてふと目にする二つのカヌレ。
「もう帰った後だな」そう先生はつぶやく。
カヌレが置かれていた。そのカヌレを見れば、正樹さんが作ったあのカヌレだということは一目でわかった。
「さっきまで誰か来ていたようですね」そう何気なく言うと。
「ああ、恵美だろうな」と、先生は言った。
恵美が……。
どうしてこんなところまで恵美が。朝早くに出て行ったのはここに来るためだったのか。
そして恵美がここに来ることを先生は知っていた。
いや、正樹さんもミリッツアさんも知っていたんだ。
それならどうして一緒に来なかったんだ。どうして恵美は一人でここに来たんだ。
いったい、だれがここに眠っているんだ。
北城家と彫られた墓石に、この謎の答えがすべて隠されているような気した。
そして、その墓石を見つめる脳裏に、あの時の。
雨が降りしきる中、泣き叫んでいた。
恵美のその姿が浮かんでいた。
僕の妖精のほんとうの隠された姿が今、ここで僕は見ることになるのかもしれない。
長いトンネルを抜け、陽の光が戻ると、おのずと方角は示されていた。
まだはっきりとした行先も伝えられないまま、車は目的地に向かっていた。
千葉か、千葉の奥地までは行ったことがない。山間の道を、先生は気持ちよさそうに車を走らせている。
「先生いったい目的地はどこなんですか?」
「ああ、それなぁ―、俺の実家のあたりだ」
「はぁ―、先生の実家? なんでそんなところに僕を連れだしたんですか?」
「まぁいいじゃねぇか」
「それになんで僕だけなんですか? ――――――あのぉ、もしかして恵美さんに何か関りがあるんですか?」
「なんで恵美にかかわりがあるって思うんだ?」
「あ、なんとなくていうか、その……先生、正樹さんやミリッツアさんたちともなんか親しそうでしたし。それに、……そのぉ」
「ずいぶんとまどろっこしい聞き方すんなぁ。なんかムズムズしてくるぞ笹崎」
先生はそう言いながら、ダッシュボードからたばこを取り出し、くわえて火を点けた。
「ふぅー」と煙を吐きながら「あ、吸ってもよかったよな」
「別に構いませんけど」
「お前、俺と恵美との関係のこと知りたいんだろ」
ぐっ! 直球過ぎるんですけど!
「律子からは聞いていなかったのか?」
「何も……て、先生は知っていたんですか?」
「ああ、別れたといっても今でも律子とは何だかんだと、繋がりがある。お前のことも聞いている」
「はぁ、そうなんですか」てさぁ、律ねぇはどこまでこの人に話しているんだろう。
まさか洗いざらい話してはいないと思うんだけど……。
「なぁ、お前、まだ恵美のこと諦めついていねぇんだろ」
「そ、それは。でも振られましたし。好きな人がいるみたいですしね。―――――その人ってもしかして先生ですか?」
ちょっと突いてみた。
「あははははは、俺と恵美がかぁ。教師と生徒の禁断の恋っていうやつかぁ。ま、俺の生には合わねぇな。でも……もしそうだったとしたら、お前はどうする?」
「どうするって」
「恵美のこと諦めるのか?」
「諦めるって、そもそも、僕のことなんか眼中にないんですから、諦めるも何もないですよ」
「ふっ、たぶんそんなことだろうと思っていたよ。ま、それも仕方がねぇけどな。今の恵美にしてみりゃ、ただ”うざい”だけなんだろうからよ」
う、うざいって、そこまで言わなくてもいいんじゃないんですか先生!
「ま、お前も両親を亡くして間もないんだ。まだ、恋だの愛だのなんて、そう言う事に余裕もねぇことくらい分かってるよ。でもなぁ、俺は思ったんだ、恵美を彼奴を救ってくれるのはお前かもしれないってな」
「救うってどういうことですか? やっぱり恵美には何かあるんですよね」
「それを今からお前がその目で見て、知ることになる。多分酷なことかもしれねぇけど、俺たちには触れることの出来ない部分にお前だったら、手を差し伸べることができるかもしれない……俺はそう思ったから今、お前をこうして連れ出しているんだ」
なんかまだよく意味が分からない。肝心な部分がすっぽり抜け落ちてる。
「ま、いい、もうじき着く」
山間の道が一気に開け始めた。ところどころに広がる田園風景に、町並みが目に映る。
そして防波堤の隙間から除き見える海。
漁港町特有の雰囲気が流れる景色から感じられた。
立ち直ろうとする。その活気の裏に覆いかぶさるように寂れゆく時の流れが、否めない。
そんな町を後に、車は小高い山道を上っていき、数台駐車できるスペースのあるところで止まった。
「さぁ着いたぞ」
ふと窓の外に見えるその先の景色は、ここが墓地であることを映していた。
なぜこんなところに。
花束を手にして、ミリッツアさんから受け取った小箱を持ち、先生は車を降りた。
ちらっと投げかけられた先生からの視線。
それに答えるように、僕も車から降りて先生の後ろをついていく。
ほのかに香る線香の香り。
綺麗に整備された墓地の一角で先生の足は止まった。
そこにはすでに、花と線香が手向けられていた。そしてふと目にする二つのカヌレ。
「もう帰った後だな」そう先生はつぶやく。
カヌレが置かれていた。そのカヌレを見れば、正樹さんが作ったあのカヌレだということは一目でわかった。
「さっきまで誰か来ていたようですね」そう何気なく言うと。
「ああ、恵美だろうな」と、先生は言った。
恵美が……。
どうしてこんなところまで恵美が。朝早くに出て行ったのはここに来るためだったのか。
そして恵美がここに来ることを先生は知っていた。
いや、正樹さんもミリッツアさんも知っていたんだ。
それならどうして一緒に来なかったんだ。どうして恵美は一人でここに来たんだ。
いったい、だれがここに眠っているんだ。
北城家と彫られた墓石に、この謎の答えがすべて隠されているような気した。
そして、その墓石を見つめる脳裏に、あの時の。
雨が降りしきる中、泣き叫んでいた。
恵美のその姿が浮かんでいた。
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