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第6話 見事にフラられました ACT 6

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なぜそんなことが言えるのか。……それは本人から直接聞いたからだ。
本人がそういうのだから間違いはないだろう。

なぜそんなことを聞き出せたのかって、まぁそれには僕のこの恋の始まりが関係していた。
高校の入学前に偶然出会った僕の妖精。
あのアルトサックスの音色が僕を呼んでいるように聞こえ、その音に誘われるがごとく僕は彼女、三浦恵美みうらえみと出会ったのだ。

離れた場所からでも彼女のその金色の長い髪は周りの景色に溶け込むことなく、僕の目に焼き付いていた。
もし、彼女が日本人……れっきとした日本国籍を持った女性ではあるんだが、その容姿は異国の女性そのものだった。
外国人の金髪。そんなに珍しいものでも何でもない。街を歩けば外人さんに出会うことは普通なくらい日常的だ。しかし、彼女の場合というべきだろうか。僕に飛び込んできたその姿は,、本当に妖精がサックスという楽器から語り掛けてきたようなそんな感じがした。

それも優しい言葉なんかじゃない。
あれは多分彼女の心の中にある苦しみ。悲しみなんだと思う。まるで自分の心を自分で奏でる音でえぐる様な、姿。

あんな惨いことをなぜ彼女は自ら行っていたのか。
その痛みが僕の心にも染み出していた。

その痛みは本当にあっという間にこの僕の心を奪った。なぜその痛みを率直に僕は感じたのかはわからない。だけど、間違いなく僕は彼女に呪縛されてしまった。
そう……恋という言葉よりは呪縛。呪いといった方がしっくりとくるかもしれない。

この呪縛から逃れるには、彼女を僕の物にするしかないと、勝手な思い込みだと思うでもそれが僕の心の中で芽生えた彼女への想いであり、これを僕は恋だと感じたのだ。

その出会いの日から始まり何度も僕は彼女が現れるであろう。あの河川敷へと足を運んだ。
必ず会えたという訳ではなかった。空振りの日だってあった。
声をかける事さえしていない彼女に出会うには、僕が一方的に出向くしかなかった。


入学式の当日。ざわめく生徒達の向こうに、彼女の姿を見た時、僕の鼓動は痛いほど高鳴った。
まさかこんな偶然てあるんだろうかと……。
しかし、その偶然は僕にとって彼女をただ見つめているだけの時間を、創ったに過ぎなかった。

学年は同じだった。でもクラスは違った。
案の定、彼女のその容姿は、学校中に瞬く間に広まり、男子生徒のあこがれの女子生徒という存在になった。
こんな平凡、なんの取り柄もない僕が彼女に近づこうなんて、恐れ多いという雰囲気の構図が瞬く間に校内で出来上がってしまったのだ。

だがこの想いだけはあの時のまま、ずっと引きずっていた。

そんな僕の姿を律ねぇは見逃さなかったというべきか、彼女にしてみればちょっと楽しそうな余興じみたものだったのかもしれない。

「なんで誘ったの?」僕は律ねぇに問う。
「う――ん、なんでだろうね。なんかさぁ結城のこと見ていて、とても歯がゆくてさ」
「歯がゆいってどういうこと?」
「ん? まぁーねぇ、私も人のことなんか。特に君! 結城のことを言える立場じゃないんだけど」

僕は律ねぇに直球を投げつけた。
「律ねぇは父さんのこと好きなんだろ」
その問いに律ねぇは、僕の目を見つめそらさずに「そうよ」と答えた。
まっすぐに、とにかくまっすぐだった。

「そして、君も今恋をしているんでしょ」
「……多分。これが恋だというんだったら僕はこれからどうしたらいいのか、分からないくらい引きずっているのは確かなんだけど。でも律ねぇの恋も、かなわない恋だっていうのは自分自身が知っていても、諦めることができないでいるんじゃない。それこそ歯がゆい恋を今、渡っているというのは僕と同じなんだ」

「確かにそうだよ。私の恋も、結城の恋も。多分願いはかなわない恋だと自分ではわかっているんだよね。それでもこの想いは消せない」

「お互いなんか……ものすごく切ないね」
「切ないという言葉は好きじゃないけど、あてはまるかなぁ」

「ああ、お互いなんだかなぁ――――っていう感じだなぁ」
「あははは、そのなんだかな――っていうのいいね。でも結城はまだガキだね」
ガキ! ちょっとむっとした。こんな僕だってプライドくらいはある。

「僕がガキ? まだ子供だっていうの律ねぇ」
「うん、うん、大人の恋と子供恋との格差って、どんだけのもんかっていうのを君はまだわかっていない」
大人の恋……こんな切ない恋することは、もう十分に大人なんだと思っていたけど、そうじゃないっていうのか。
「何きょとんとしてんのよ」律ねぇは珈琲カップを見つめながら、僕に言う。


「結城あなたを大人の恋に目覚めさせてあげる。ううん、教えてあげる。でも、結城にちゃんと彼女ができるまでの間だけど」

「それってどういうこと?」
「女を、女っていう生き物をあなたに教えてあげるって言っているの。女の表と裏をね」

そう、この時から僕らは疑似の姉弟で……。
肌と、想いと……ありえないかもしれないこの気持ちをお互い、絡み合わせる仲になった。


むろん、二人だけの秘密の行為だ。
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