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第2章

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男も女も惚れる男、というイメージの陽が『甘やかされたい』しご褒美は『キスをしてほしい』なんて信じられない。普段の陽の印象はそれはもう太陽のように明るくて、周りを元気にしてくれるビタミンのような人。はつらつとしていて、いつも笑顔で、同僚である教師にも生徒からも好かれている、完璧な人なのに。

恋愛として好きだった陽。人間としても、もちろん憧れていた。

そんな人が今、自分の膝に乗って、無遠慮に体を触られて喘いでいる。この状況で興奮しないほうがおかしいだろう。

「きもちいい、ですか?」
「ん、ぅ……っ」
「あぁ、そうか……〈Say教えて〉」
「っきもち、いい……」
「Tシャツの上から、触ってるだけですけどね。わざとこんなうっすい素材のTシャツ着てきました?」
「そんなんじゃない…たまたま…」
「ふぅん……」

いかにも『お風呂上がりです』という匂いをさせて、髪の毛の先もうなじもまだしっとり濡れているのに暑かったのかぺらっぺらのTシャツを着ているのはわざとにしか思えない。

Tシャツの上から触っても枢の手を、温度を、動きを感じられるようにするため、だったら嬉しいのだけれど。

「どうして俺にご褒美をもらえるなら、キスなの?」
「それは……」
「正直に言えたら、ご褒美をあげる。だからちゃんと〈Speak話して〉」

コマンドを出すと、陽が赤い舌でぺろりと唇を舐める。熱を孕んでいる瞳が枢だけを映していて、たったそれだけのことに優越感を覚えた。

陽が甘いため息をついて、するりと枢のうなじを細い指で撫でる。短くしている襟足をさりさりと撫でて、枢の唇を眺めながら彼の喉仏が上下したのが分かった。

「枢のキス……とろっとろに甘くて、熱くて、きもちよさそうだなって思ったから」

正解?
そう言って、こてんと首を横に倒す陽。きゅるんとした瞳が物欲しそうにこちらを見つめていて、枢も思わずごくりと唾を飲み込んだ。

まさか陽から『キスが気持ちよさそう』なんて思われているとは。同僚に対してなんてことを思ってるんだ、この人は!そう思ったけれど、陽が枢を『性的に見ている』ことが正直嬉しい。

ああ、ダメだ、狂わされる。

でも、もう遅い。

「……〈Good Boyいいこだね〉。ヒナ、ご褒美だよ」

陽の細い顎を掴んで顔を近づけると、彼はきゅっと目を瞑る。同僚であり、2歳年上の先輩である陽に今からキスをしようとしているのに、一切の躊躇いがない自分が怖い。

今はPlay中だし、とPlayにかこつけて学校のアイドルだった陽を懐柔しているだなんて信じられない。陽の顎を掴んで唇を重ねると、バカみたいに柔らかかった。触れるだけのキスを何度か繰り返しながら陽の頭を撫でると、陽の口から甘い吐息が漏れた。

「……枢の唇、やわらかい…」
「っ、ヒナ… 〈Openくちあけて〉」
「ふ、ぁ……っ」

かぱっと大きな口を開ける陽の唇に噛み付くような素振りを見せると、びくっと体を震わせる。今まで『年上の余裕』を保っていた陽のそんな様子に、ぎゅんっと心臓が握りつぶされそうな衝撃を覚えた。これぞまさにギャップ萌えというやつだろう。

ご褒美はキスがいい、と言っていたのはどの口だ?このぷりっぷりの赤い唇か?毎日毎日色んな人にニコニコ微笑んで、眠たくなるような心地いい声で授業をしている、この唇だよな?

「………キス慣れ、してないんですか?」
「んぁ…?」
「はは、喋れないか。コマンド守って、大きい口開けて待ってて、偉いですね」

ご褒美をあげると言ったのに焦らされているからか、陽の赤い舌が物欲しそうに動いている。

あぁ、すごい。陽が、あの朝霧陽が、2歳も年下で同僚である枢から与えられるご褒美を待っているなんて、本当に奇跡のような光景だ。

「ちゃんとご褒美、待てできていい子だね、ヒナ……」

枢はSubをとろとろになるまで甘やかしたいDomのはずなのに、なぜか陽には意地悪もしたくなるし、うんと甘やかしたい気持ちにもなる。

意地悪したあと、よくできたねって褒めて甘やかしてあげたくなるような、初めて感じる気持ちに枢自身困惑した。やっぱり自分の中にはそういう『黒い』部分もあるのだなと、現実を突きつけられた気がしたのだ。



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