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第21話 一番かっこいい加護

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 席に座った僕を観察するように見て彼女は嘲笑う。

「ボロボロではありますが仕立ての良い服を着ていますねぇ。奴隷の仕事はお辞めになられたのですかぁ?クスクス」

 服や靴はここまでの道のりで多少破れたり壊れたりしている。

「まぁな。お前のせいで酷い目にあったよ」

 次に彼女はテーブルに置いてあった僕の登録用紙を見る。

「おまえ?まぁいいでしょう。それより坊ちゃん、嘘はいけませんよ。クスクス」

「関係ないだろう」

 僕は登録用紙をひっくり返した。
 アナルは僕の隣りの席に座り、ひっくり返した登録用紙を指先で突いた。そして僕を蔑むようにクスクスと笑う。

「なんですぅ?オレフル・ボッキーダって?いつからオレフルさんになったのですか? それに加護も偽ってますよねぇ、【R奇術師】?クスクス。それ提出されるのですか?あたくしがギルドにバラしますよ?」

 そんなことしなくても登録時にステータス光を見せるから普通の人はそこでバレる。こいつギルド登録を知らないのか?
 しかし、相変わらず嫌な奴だ。5年前と変わっていない。
 僕は用紙を表にする。

「名前は偽る必要がないから訂正するよ」

 用紙に書いた『オレフル・ボッキーダ』を黒く塗り潰し、その上の空白に『ゼツ・リンダナ』と記入した。

「ほらっ坊っちゃん、加護名も直さないとwあの気色悪い加護、ここに書かないとダメですよぉ。クスクス」

 そう言いながらアナルは【R奇術師】と書かれた欄を指先で突っつく。

「あたくしが書いて差し上げましょうか? あっ、あの気持ち悪い加護名を書くだけで吐き気がするので、あたくしは書けないですねぇw ご自分で書くのが惨めならお連れの方に頼んだらいかがですかぁ?クスクス」

「あのっ!私、ノエルと言います。貴女はゼツ君の知り合いなんですか?」

 ノエルは眉を潜めアナルに問う。

「ふ~ん。綺麗なお嬢さんですねぇ。ええ、そうですよぉ~。あたくしはアナル・ファックと申します。ゼツ坊ちゃんがおられたリンダナ侯爵家の騎士団長ですぅ。クスクス」

 アナルはノエルににっこりと笑い掛けた。不気味な笑みだ。

「ゼツ君って侯爵家の人なの?」

「正確には『だった』だな」

「私、ずっとタメ口だった……。不敬罪になるよね……、あっ!なりますよね?」

 ノエルは申し訳なさそうに上目遣いで僕を見つめた。

 ビッグベニス王国は封建制度を採用している。
 領土を持つ貴族は領内の政治を行い法を制定し民衆を取り締まる。また課税対象や税金額を決めて民衆から取り立てる。言わば小国の国王に匹敵する権力を持っている。
 庶民は貴族の前で許し無しに言葉を発することはできない。それがタメ口ともなれば首を切られても文句を言えないのが常識だ。

「ノエル、僕はもう貴族じゃない。だからこれまでと同じように接して欲しい。今までの関係を壊したくない」

「ゼツ……くん、うん、わかった!」

「あれぇ~。言ってなかったのですかぁ~?こいつ、クソ気持ち悪い加護のせいで侯爵家を追放されたのですよぉ。クスクス。 惨めだからって隠すのはいけませんよぉwもしかして加護のことも言ってないのですかねぇ?www」

「お前は余計なこと言うな」

 僕の一言で不気味に笑っていたアナルの顔から笑みが消えた。そして僕を睨み付ける。

「おまえ、じゃなくてアナル様、だろ?まだ自分の立場がわかっていないのですね。可哀想なお人。坊っちゃんは奴隷に落ちた身分、あたくしは侯爵家騎士団長。不敬罪で捕縛してもよいのですよぉ?」

 アナルの言っていることは正しい。
 僕の身分は奴隷と変わらない。それが騎士に不遜な態度を取ることをこの国の身分制度は許さないのだ。 

「クスクス、何も言い返せないですよねぇ。そうだノエルさぁ~ん、コイツの加護知ってますぅ?クスクス」

「知らないです」

 アナルの口角が釣り上がる。

「クスクス、やはり隠してたのですねぇwww コイツの加護は【MR無責任種付おじさん】ですよ。気持ち悪い加護ですよねぇ~」

 僕は歯を食いしばり下を向く。
 ノエルはどう思うのだろうか?これまでの奴等と同様に僕をバカするだろうか?……別にどう思われたっていいじゃないか。ノエルが離れていくなら僕は一人で旅をしよう。

 ノエルはアナルを睨んだ。

「いえ、全くそうは思いません。ゼツ君の加護は凄く強いですし、それにゼツ君はとても素敵な人です。ゼツ君の加護が【MR無責任種付おじさん】ならそれは一番かっこいい加護だと思います」

 ノエルは淡々とそれでいて芯の通った声で答えた。話しを聞くアナルの顔は徐々に不機嫌になっていく。

 初めて加護を誉められた。僕の加護をバカにしなのか?

「ふ~ん、平民が口答えするとは生意気ですねぇ」

 アナルの苛立ちが声色や表情で伝わってくる。言い返されたの余程気に障ったようだ。彼女は片手を上げて。

「アレプニヒト来なさいッ!」
「はッ!」

 アナルの後方でずっと僕達を眺めていた金髪の若い男がアナルの横に馳せ参じた。一目で分かる身なりの良い服……、おそらく貴族だ。

「そこのお嬢さんを鑑定しなさい」

「ははッ! アクティブスキル〈ステータス鑑定〉」

 男の右目前に小さな魔方陣が発現した。
 この男【R鑑定士】だ。ノエルを鑑定してどうする積りだ?







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