Re:征服者〜1000年後の世界で豚公子に転生した元皇帝が再び大陸を支配する〜

鴉真似≪アマネ≫

文字の大きさ
上 下
65 / 108
帝位・勇気を紡ぐ者

第3話 分析

しおりを挟む

 

 ティルミス侯爵が目を覚ますな否や、再びレオンハルトに襲い掛かろうとしたが、夫人に取り押さえられ、カーティアに諭される。そこへさらにオリービアという、皇国でもっとも偉い立場の人間が、客人としてやってきたことで、やっと侯爵の気は収まり、なんとか誤解を解くことに成功した。

「ぬぅ、申し訳ない。娘に悪い虫がついてしまったとばかり思っておったから、つい」
「つい、ではありませんよ。全く。うちの主人が失礼いたしました。オリービア皇女殿下、ライネル子爵」
「いえ、お気になさらずに。実害があったわけではありませんので」
「ふふ。そう言ってもらえると……にしても主人の一撃を実害はなかったと言ってのけるとは、さすがですね。いつか手合わせ願いたいものです」

 そう言い、興味深い笑みを浮かべる侯爵夫人。

「はは、機会がありましたら」
「期待してます。ふふ」

 こと戦闘においては、レオンハルトもやぶさかでは無い。立場などを気にせず戦うこと。レオンハルトにとってそれは、もはや一種のスポーツのようなもの。

「ちょっと、ママ。話が逸れてるわよ」
「あら、ごめなさいね」
「ゴッホン」

 出会い頭に失態を演じてしまったが故に、多少立場が弱い侯爵。しかし、この地の主人は間違いなく彼である。よって、ここからは彼が主導権を握るのは、なんら不自然なことではない。

「帝位争いか……」
「はい。こちらにいらっしゃるオリービア皇女は先日、帝位争いへの参加を宣言しました。つきましては、侯爵のご協力を願いたく、この地に参りました」
「ふむ。協力するのはやぶさかではない。だが……」
「だが?」
「これ以上新勢力が台頭してしまっては、国が乱れるのではないか? もとよりワシは、争いの規模を小さく抑えたいからという理由で、帝位争いに参加せずにいたのだ。お主らに協力しては、更なる大戦を招き兼ねない。そのリスクを冒してまで、お主らに協力せねばならない理由はなんだ? 聞かせてみよ」
「では……恐れながら、すでに事態は小さく収めるなどという段階にないと思われます」
「ほう? なぜそう思う?」

 その問いに、レオンハルトは2本の指を立てる。

「問題となるのは二つの勢力。一つはレギウス第二皇子。そしてもう一つは、私の実家、シュヴァルツァー公爵家である」

 そこでレオンハルトは一旦言葉を区切り、深く息を吸い込む。

「レギウス第二皇子は、クリストファー第一皇子に強い嫉妬心を抱いています。皇帝の座に固執するのはそれが原因でしょう。それに対し、クリストファー皇子は、国がより良くなれば皇帝は自分でなくてもいいと思っています」
「その話だと、クリストファー皇子が譲ってしまえば争いなどは起こらぬのではないか?」
「ええ。ですが、クリストファー皇子はレギウス皇子が国をより良くできるとは思っていないようです。自分でなくても良いが、自分以上の適任者がいない、という状況です。よって二人がいがみ合う限り、争いは必ず起こります。近いうちに、レギウス皇子は戦を仕掛けるでしょう。レギウス皇子がクリストファー皇子勝っているのは、武勇だけですので」
「なるほど。では、もしお主が皇帝を目指すというのなら、クリストファー皇子は帝位争いから身を引く可能性がある、もしくはお主に協力する可能性があると?」
「はい」
「だが、それはお主の憶測に過ぎぬのではないか?」
「そうとも限りませんよ」

 そう言ってレオンハルトが取り出したのは、一枚の手紙。正式な書状ではないものの、クリストファー皇子を表す印が押されている。

「クリストファー皇子から自筆の手紙をいただいています。ご覧ください」
「ふむ」

 侯爵は手紙を受け取り、中身を確かめる。確かに、クリストファー皇子の字で間違いはないようだ。

 そして長々と綴られたその手紙の内容をまとめると、『帝位争いに勝利した暁には、レオンハルト・ライネルを皇帝として認める。それまで、私は静観を貫く』というものになる。

「手が早いな。もしや第一皇子以外も?」
「ええ。ですが、良い返事をいただけたのは第一皇子だけでした。先程の情報も、その過程で」
「なるほど。ただの繰り言というわけではないか。続けてくれ」
「はい。クリストファー皇子が引いたことで、レギウス皇子も引く可能性があると踏んでいましたが、使節団を送った結果、それはないということがわかりました。ならば、目先の問題はレギウス皇子の勢力を打ち破ることです」
「ふむ? 先ほど言っていたシュヴァルツァー家は?」
「そちらは僅かな情報に基づく私の憶測になってしまいますが、よろしいですか?」
「構わん」
「オリービア皇女から聞いた話によりますと、ケイシリア皇女は大人しく、穏やかな性格をしているそうです。とても帝位争いに参加したがるような性格ではありません。実際、私が送った使節団はケイシリア皇女に会うことすら出来なかったと言います。そして、使節団の対応をしたのは、西の雄リングヒル公爵だったそうです」
「なるほどな。見えてきたぞ。皇族自らの意志ではなく、貴族に担ぎあげられてしまったと。貴族同士の利権関係が絡むとなれば、簡単に引くこともできん、か」
「そういうことです。そして」
「まだあるのか?」
「はい。シュヴァルツァー家嫡男、つまり私の弟はケイシリア皇女の婚約者です。ケイシリア皇女が帝位をものにした暁には、私の弟は皇帝として君臨することになるでしょう。であれば、死に物狂いで帝位を求めるはずです。それに……弟は、私に強い敵愾心を持っています。私が名乗りを上げたとなれば、余計引くことができなくなるのでしょう。個人の感情で物事を判断するのは、貴族としてあってはならないことですが、まだまだ未熟な部分もありますので、何をするかは私からは何とも」
「……ふむ。そのようなものが皇帝となっては困るな」
「……」
「いいだろう。お主の戦いに、協力してやろう」
「感謝致します」
「なに。だが、皇帝になった暁には、ワシの今までの無礼は無かったことにして貰うぞ。はっはっは」
「ええ。それは無論」

 こうして、ティルミス侯爵との会談は幕を閉じた。




 ティルミス侯爵夫人の好意で、レオンハルトたちはティルミス侯爵邸で一泊することとなった。一泊するということは、夕食も朝食も侯爵邸でとることとなる。

 その間に、侯爵は延々と娘の自慢話を語っていたが、途中から奥さんとのなりそめ話へと移った。

 なんと、侯爵夫人はもと暗殺者である。それも凄腕の。ある日、当時はまだ嫡男だった侯爵の暗殺を引き受けたそうだ。そして、夫人は侯爵を暗殺するために寝室に乗り込むが、侯爵も相当な武人。寝込みだろうと、簡単の殺せる相手ではなかった。

 激しい戦闘の末、侯爵が勝利し、夫人は組み伏せられてしまったという。しかし、そこで侯爵の口から出たのは予想だにしていなかった言葉であった。

『き、君に一目惚れした。妻になってくれ!』

 流石の夫人も驚かずにはいられなかったのだろう。どういう心境の変化なのか、二人はそのまま結婚し、現在に至る。

 さて、なりそめの話はこれにて終了する。そろそろ時間になるということで、レオンハルトたちは出発しようとする。

「お世話になりました」
「ふふ、またいつでもお越しくださいね」
「機会がありましたら、是非」
「あなたはいつもそういうのね。ふふ。あー、それとティア、ちょっとおいで」
「ん? なに? ママ」

 カーティアを呼び寄せる夫人。ポカーンとしているカーティアの耳元に口を寄せて、周りに聞かれないように、ボソボソっと話をする。

 途端、カーティアの顔は真っ赤に染まり、

「ま、ママ!?」
「ふふ、いいじゃない? これも青春ってやつよ」
「なになに?私も混ぜて~」
「あら、オリービア殿下、この子ったら」
「ママ! オリービア殿下も!」

 ピンク一色に染まる空間。あんの話をしているのか何となく想像がつくだろう。

 あちらで乙女談義は繰り広げられているのに、対しこちはらむさ苦しい男二人。

「なんの話をしておるのだろう~」
「さあー。でも、まあ、察しはつきますけど」
「何? どういうことだ?」
「いや、まあ、ははは」

 どうやら侯爵は察しが悪いらしい。いや、察していても信じたがらないだけなのかもしれない。ただの見送りだが、思いのほか盛り上がってしまった。

 それ故に、これからの報告も聞くことができた。

 パタン、と扉が開く。

 騎士の格好をした男が一人、青ざめた顔で入室してきた。

「た、大変です! レギウス殿下が、クリストファー殿下、ケイシリア殿下の両殿下に宣戦布告しました!」
「「え?」」

(……始まったか)

しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【2章完結】女神にまで「無能」と言われた俺が、異世界で起こす復讐劇

騙道みりあ
ファンタジー
※高頻度で更新していく予定です。  普通の高校生、枷月葵《カサラギアオイ》。  日常を生きてきた彼は突如、異世界へと召喚された。  召喚されたのは、9人の高校生。  召喚した者──女神曰く、魔王を倒して欲しいとのこと。  そして、勇者の能力を鑑定させて欲しいとのことだった。  仲間たちが優秀な能力を発覚させる中、葵の能力は──<支配《ドミネイト》>。  テンプレ展開、と思いきや、能力が無能だと言われた枷月葵《カサラギアオイ》は勇者から追放を食らってしまう。  それを提案したのは…他でもない勇者たちだった。  勇者たちの提案により、生還者の居ないと言われる”死者の森”へと転移させられた葵。  そこで待ち構えていた強力な魔獣。  だが、格下にしか使えないと言われていた<支配《ドミネイト》>の能力は格上にも有効で──?  これは、一人の少年が、自分を裏切った世界に復讐を誓う物語。  小説家になろう様にも同様の内容のものを投稿しております。  面白いと思って頂けましたら、感想やお気に入り登録を貰えると嬉しいです。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト
ファンタジー
魔王を倒し、邪神を滅ぼし、五年の冒険の果てに役割を終えた勇者は地球へと帰還する。 しかし、遂に帰還した地球では何故か三十年が過ぎており……しかも、何故か普通に魔術が使われており……とはいえ最強な勇者がちょっとおかしな現代日本で無双するお話です。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...