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動乱・生きる理由
Re:
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「では、麗剣のシュナイダーではなく、正剣のアークが裏切り者だと?」
「はい。私の推測では、アーク騎士団長が教国側の裏切り者で、皇帝陛下殺害の下手人です。そして、その罪をシュナイダーに被せたのでしょう」
「どうして? そもそもなんで裏切り者がいると?」
「教国軍が現れたと聞いた瞬間から、裏切り者の存在を疑いました。でなければ、皇国が帝国と組んでない保証はとこにもない、罠の可能性も十分あるのに、貴重な神聖騎士団を500も派遣するはずありませんから。自信があったのでしょう。皇国と帝国が手を組んでいないという確固たる自信が」
「だとしても、それがアークというのは論理の飛躍じゃなくって? シュナイダーだって十分可能性があるじゃない?」
「一番ありえないからですよ」
「何?」
「アークは宰相に拾われた孤児。裏切り者である可能性は限りなく低いでしょう」
「話が見えないんだけど? それなら、正剣より麗剣の方が怪しいんじゃない?」
「ええ。シュナイダーの方が怪しいです。ですが、逆に言えばアークの方があまりにも怪しくないとも取れます。不自然なほどに」
皆の頭の上にハテナが浮かび上がる。
「人というのは、大なり小なり何かしらの秘密を持つものです。その秘密を秘密とするが故に怪しさと転じる。ですが、アークにはそれがありません。まるで意図して『私は怪しくありませんよ』と言っているようです」
「それで裏切り者だと? だとしても、論理の飛躍だと思うのだけど」
「まあ、ここまで御託を並べてきましたが、要するに私はシュナイダーを信じているのですよ。あの男はふざけたように見えて、誰よりも芯のある男ですから」
レオンハルトにしては珍しく高評価である。一度自分に打ち勝ったからか、自分に契機を与えくれたからか。とにかくレオンハルトはシュナイダーを信用していた。
しかし、そこで更なる報告が舞い込んでくる。
「報告します! 近衛騎士団が、麗剣のシュナイダーを処刑したと発表しました!」
「「「な?!」」」
あまりの急展開に、レオンハルト以外の誰もがついていけずにいた。
今しがたレオンハルトがシュナイダーの無実を訴えていたところで、この知らせ。これは、潔白である三騎士を失ったこととなり、裏切りの三騎士の勝利を意味する。
そして、その報告を受けて、もっとも動揺したのは、アリスである。
「う、嘘です。そんな」
「アリス」
「彼はとても強い人です。正剣といえど、負けるような人じゃ」
「アリス、落ち着いて」
「お、落ち着いていますよ。私は。だ、だって、か、彼が負けるはず、あ、ありませんので」
その言葉とは裏腹に、涙が止めどなく溢れ出る。信じたくないと思う一方、信じざるを得ない事実として突きつけられた。
それは、アリスの精神にとってはあまりにも重かったのだ。
「オルア、部屋に案内してやってくれ」
「……うん」
「アリス」
レオンハルトがアリスに話しかける。しかし、アリスは反応を示さない。反応を示すだけの余裕がないのだろう。
だが、それでもレオンハルトは言葉を続ける。
「アリス、気休め程度かもしれんが……お前の考えは正しい。奴はこれで終わるような男ではない。そのうちケロッとした顔で帰ってくるだろう。その時に拳骨を振るう準備をしておけ」
「……ありがとう、ございます」
ほんとに気休め程度だったが、レオンハルトがいうとなぜか説得力があるように感じた。
オリービアがアリスを連れて部屋を出ると、ローカム女伯爵がレオンハルトに話しかける。
「本当にそう思ってるのかしら? いくら麗剣といえど、相手が正剣となれば絶対はないのよ。余計な期待をさせて、彼女がさらに傷つくかも知れないわよ?」
「先ほどの言葉は本心ですよ。正剣ごときにやられるようなやつではありません。なんせ……後にも先にも、余に勝った唯一の男だからな」
「「「……」」」
レオンハルトの一人称が変化するが、それに違和感を抱いたものは一人もいない。むしろ、こっちの方がしっくりくるとさえ思っていた。
そこへオリービアが戻ってくる。
「ん? みんなどうしたの?」
そんなオリービアに目を向けながら、レオンハルトはーー
「なんでもない。それよりこれからの話だ……っと、その前に、少し俺の昔話を聞いてくれるか?」
◆
皇帝が暗殺されたことで、皇国は分裂した。
第一皇子派、第二皇子派、第一皇女派、中立派に大きく分けられた。
第一皇子、第二皇子、第一皇女はそれぞれ帝都を離れ、自身の支持者の領地に帰還した。これから始まる帝位争いに備えるためである。
国が大変なときに何をやっているのだ、と言いたい気持ちはよくわかるが、彼らにとって、敵対する帝位候補者は他国にも等しいものだった。
ゆえに、兄弟間で争う。
そのいざこざに際して、一つの宣言が成された。
第二皇女の帝位争いの参加。
それと同時に、ドバイラス伯爵、ローカム伯爵、アルハジオン子爵、テルメア子爵などの中立派貴族が一気に第二皇女派に傾いた。
中立派貴族の多くは、辺境貴族。それも、帝国の国境線に近い貴族たちだ。
彼らは知っていた。第二皇女の帝位争いへの参加は、何を意味するかを。第二皇女が帝位を得ることは、誰が皇帝となるかを。
中央では悪名高くとも、辺境の地では絶大の信頼を寄せられているあの男が、ついに重い腰をあげたのだと。
これより、真の意味で、レオンハルト・ライネルの物語が始まる。
◆
「へー。レオくんが皇帝ねー。面白いじゃん?」
ーーーーーーー
後書き
いかがだったでしょうか、これにて3章終了となります。
多くの謎を解決し、多くの謎を残した章ではないでしょうか?
さて、締めくくる前に一つだけ宣伝があります。
本日、『剣鬼物語~無知な獣、人を知り人となるまで~』という短編を投稿しました。
内容としては、Re:征服者の外伝となります。主人公は3章のプロローグでも登場したあの男です。1000年前の謎を少しでも解決できたらいいなあと思い書きました。
興味がある方は是非、読んで見てください。
では、3章を締めくくります。
学園を飛び出し、舞台が戦場へと変わり、そして多くの出来事が起こり、衝撃な事実が次々と明らかになりましたね。作者的にも書いていた楽しい章でした。
明日と明後日は幕間を投稿します。幕間の内容は帝国についてです! 一体どうなってしまうんだ!
いつも通り、幕間と言いつつ、結構重要な内容なので飛ばさずに見て欲しいです。
では、また四章『帝位・勇気を紡ぐ者』でお会いしましょう。(四章は個人的に最高傑作だと思っています)
以上、鴉真似でした。
「はい。私の推測では、アーク騎士団長が教国側の裏切り者で、皇帝陛下殺害の下手人です。そして、その罪をシュナイダーに被せたのでしょう」
「どうして? そもそもなんで裏切り者がいると?」
「教国軍が現れたと聞いた瞬間から、裏切り者の存在を疑いました。でなければ、皇国が帝国と組んでない保証はとこにもない、罠の可能性も十分あるのに、貴重な神聖騎士団を500も派遣するはずありませんから。自信があったのでしょう。皇国と帝国が手を組んでいないという確固たる自信が」
「だとしても、それがアークというのは論理の飛躍じゃなくって? シュナイダーだって十分可能性があるじゃない?」
「一番ありえないからですよ」
「何?」
「アークは宰相に拾われた孤児。裏切り者である可能性は限りなく低いでしょう」
「話が見えないんだけど? それなら、正剣より麗剣の方が怪しいんじゃない?」
「ええ。シュナイダーの方が怪しいです。ですが、逆に言えばアークの方があまりにも怪しくないとも取れます。不自然なほどに」
皆の頭の上にハテナが浮かび上がる。
「人というのは、大なり小なり何かしらの秘密を持つものです。その秘密を秘密とするが故に怪しさと転じる。ですが、アークにはそれがありません。まるで意図して『私は怪しくありませんよ』と言っているようです」
「それで裏切り者だと? だとしても、論理の飛躍だと思うのだけど」
「まあ、ここまで御託を並べてきましたが、要するに私はシュナイダーを信じているのですよ。あの男はふざけたように見えて、誰よりも芯のある男ですから」
レオンハルトにしては珍しく高評価である。一度自分に打ち勝ったからか、自分に契機を与えくれたからか。とにかくレオンハルトはシュナイダーを信用していた。
しかし、そこで更なる報告が舞い込んでくる。
「報告します! 近衛騎士団が、麗剣のシュナイダーを処刑したと発表しました!」
「「「な?!」」」
あまりの急展開に、レオンハルト以外の誰もがついていけずにいた。
今しがたレオンハルトがシュナイダーの無実を訴えていたところで、この知らせ。これは、潔白である三騎士を失ったこととなり、裏切りの三騎士の勝利を意味する。
そして、その報告を受けて、もっとも動揺したのは、アリスである。
「う、嘘です。そんな」
「アリス」
「彼はとても強い人です。正剣といえど、負けるような人じゃ」
「アリス、落ち着いて」
「お、落ち着いていますよ。私は。だ、だって、か、彼が負けるはず、あ、ありませんので」
その言葉とは裏腹に、涙が止めどなく溢れ出る。信じたくないと思う一方、信じざるを得ない事実として突きつけられた。
それは、アリスの精神にとってはあまりにも重かったのだ。
「オルア、部屋に案内してやってくれ」
「……うん」
「アリス」
レオンハルトがアリスに話しかける。しかし、アリスは反応を示さない。反応を示すだけの余裕がないのだろう。
だが、それでもレオンハルトは言葉を続ける。
「アリス、気休め程度かもしれんが……お前の考えは正しい。奴はこれで終わるような男ではない。そのうちケロッとした顔で帰ってくるだろう。その時に拳骨を振るう準備をしておけ」
「……ありがとう、ございます」
ほんとに気休め程度だったが、レオンハルトがいうとなぜか説得力があるように感じた。
オリービアがアリスを連れて部屋を出ると、ローカム女伯爵がレオンハルトに話しかける。
「本当にそう思ってるのかしら? いくら麗剣といえど、相手が正剣となれば絶対はないのよ。余計な期待をさせて、彼女がさらに傷つくかも知れないわよ?」
「先ほどの言葉は本心ですよ。正剣ごときにやられるようなやつではありません。なんせ……後にも先にも、余に勝った唯一の男だからな」
「「「……」」」
レオンハルトの一人称が変化するが、それに違和感を抱いたものは一人もいない。むしろ、こっちの方がしっくりくるとさえ思っていた。
そこへオリービアが戻ってくる。
「ん? みんなどうしたの?」
そんなオリービアに目を向けながら、レオンハルトはーー
「なんでもない。それよりこれからの話だ……っと、その前に、少し俺の昔話を聞いてくれるか?」
◆
皇帝が暗殺されたことで、皇国は分裂した。
第一皇子派、第二皇子派、第一皇女派、中立派に大きく分けられた。
第一皇子、第二皇子、第一皇女はそれぞれ帝都を離れ、自身の支持者の領地に帰還した。これから始まる帝位争いに備えるためである。
国が大変なときに何をやっているのだ、と言いたい気持ちはよくわかるが、彼らにとって、敵対する帝位候補者は他国にも等しいものだった。
ゆえに、兄弟間で争う。
そのいざこざに際して、一つの宣言が成された。
第二皇女の帝位争いの参加。
それと同時に、ドバイラス伯爵、ローカム伯爵、アルハジオン子爵、テルメア子爵などの中立派貴族が一気に第二皇女派に傾いた。
中立派貴族の多くは、辺境貴族。それも、帝国の国境線に近い貴族たちだ。
彼らは知っていた。第二皇女の帝位争いへの参加は、何を意味するかを。第二皇女が帝位を得ることは、誰が皇帝となるかを。
中央では悪名高くとも、辺境の地では絶大の信頼を寄せられているあの男が、ついに重い腰をあげたのだと。
これより、真の意味で、レオンハルト・ライネルの物語が始まる。
◆
「へー。レオくんが皇帝ねー。面白いじゃん?」
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後書き
いかがだったでしょうか、これにて3章終了となります。
多くの謎を解決し、多くの謎を残した章ではないでしょうか?
さて、締めくくる前に一つだけ宣伝があります。
本日、『剣鬼物語~無知な獣、人を知り人となるまで~』という短編を投稿しました。
内容としては、Re:征服者の外伝となります。主人公は3章のプロローグでも登場したあの男です。1000年前の謎を少しでも解決できたらいいなあと思い書きました。
興味がある方は是非、読んで見てください。
では、3章を締めくくります。
学園を飛び出し、舞台が戦場へと変わり、そして多くの出来事が起こり、衝撃な事実が次々と明らかになりましたね。作者的にも書いていた楽しい章でした。
明日と明後日は幕間を投稿します。幕間の内容は帝国についてです! 一体どうなってしまうんだ!
いつも通り、幕間と言いつつ、結構重要な内容なので飛ばさずに見て欲しいです。
では、また四章『帝位・勇気を紡ぐ者』でお会いしましょう。(四章は個人的に最高傑作だと思っています)
以上、鴉真似でした。
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