29 / 108
学園・出逢いは唐突に
第11話 運命の悪戯
しおりを挟む「ダメです! 絶対に認めません!」
「なーんでぇー! いいじゃん別に!」
「絶対ダメです!」
「どうしても?」
「どうしても、です! 大体なぜオリービア様が豚公子なんかと知り合いにーー」
「豚公子じゃない! レオ君だよ!」
「その呼び方はおやめください! 誰かに聞かれてしまったらどうするのですか!」
皇城の一室で激しく言い合いしているのは、皇女であるオリービアとその専属メイドのアリスである。話題の中心はもちろんレオンハルトである。
皇城へ帰ってきたオリービアは、アリスに嬉々と友達ができたことを語る。アリスもオリービアに友達ができたことが堪らなく嬉しかったのだ。それこそ、オリービアの手を握りながら、涙を流すほど。
しかし、オリービアの友人がレオンハルトであることを知ったアリスは態度を一変させる。レオンハルトのことを激しく批判しながら、オリービアに友人を止めるように勧める。
「聞かれたら聞かれたで別にいいじゃん。まずいこと言ってないし」
「まずいです! オリービア様がぶ、レオンハルトごときのことを親しげに呼ぶなんて、あってはなりません!」
「だ・か・ら! レオ君はそんな人じゃないってば! 強くて優しい良い子だよ」
「それは偽りの姿に決まってます! あのレオンハルトに限って、そんなことは絶対にありえません! そもそも彼は裏口入学という噂ですよ。強いはずありません!」
「強かったよ。私が負けるぐらいには強かったから」
「オリービア様が? というより、戦ったのですか?」
「あ、いや……」
「……」
「……てへ」
「おのれ! レオンハルトめ! 八つ裂きにしてくれる!」
「やめてぇー。ちょっと、ちょっと手合わせしただけだから! アリス、落ち着いて! どうどう」
オリービアの説得もあって、しばらくするとアリスも落ち着きを見せる。とはいえ、未だ怒り心頭ではあるが。
「……しかし、オリービア様がそれほど彼を庇うとは」
「だって……レオ君だし」
「ちょっと意味がわかりません」
「うん、私も分からない」
「……」
「……」
「はぁー、オリービア様がそこまでいうなら……」
「お?……期待の眼差し、キランキラン」
「……言わなくても、それぐらい見ればわかります……では、明日、彼に会わせてください。私が見極めて差し上げます」
「やったぁ! ありがとうアリス!」
「別に認めたわけではありませんからね」
「大丈夫大丈夫! レオ君だし」
「……やはり、意味がわかりません」
こうして、アリスはレオンハルトに会うことを決意した。もっとも、アリスはレオンハルトを認めるつもりはさらさらなかった。
(オリービア様に取り付く悪い虫は、処分しなくてはいけませんね)
◆
その日、レオンハルトはいつも通り訓練場へとやってきた。
昨日、オリービアと出会った場所である。今日も会えるかな、なんて呑気なことを考えながら、訓練場の門をくくる。
そのには、レオンハルトの期待通り、オリービアがいた。レオンハルトの口角が僅かに上がり、しかし、それもすぐに元に戻る。
その原因はオリービアのそばに立つ女性にある。
年齢は20代前半のように見え、学生とは呼べないだろう。服装から皇城に仕えるメイドであることがわかる。この場にいるということは、オリービアの専属メイドだと予想がつく。
紺色の髪に紺色の瞳。皇城に仕えているだけあって容姿は端麗だ。しかし、その顔には隠し切れないほどの敵意が見えるのは、きっと気のせいではないだろう。
「こんにちは、オルア。昨日ぶりか。今日も自主練か?」
「こんにちは、レオ君。今日はねー、ちょっと違うの。ちょっとあって欲しい人がいるんだけど……」
そう言ってオリービアはアリスの目を向ける。その目を向けられた本人はといえば、
「……オルア……オルアだと……わたしですら呼んだことないのに」
とまるで壊れた機械のようにぶつぶつ呟く。
「こっちは私の専属メイド、アリス。アリス、この男の子がレオ君」
「レオンハルトだ。よろしく」
「……オリービア様の専属メイドをやらせていただております、アリスです」
オリービアの声掛けにより、かろうじて自己紹介が可能となったアリス。次第にその顔に活気が戻り、再びレオンハルトを睨み付ける。
「それで、俺に何か用か?」
「……単刀直入に言わせていただきます。オリービア様に今後近寄らないでください。迷惑です」
「ちょ!? アリス!?」
「無理」
「な!?」
オリービアは動揺するが、レオンハルトに動揺は一切見られない。ある程度予想はついていたからだ。アリスの言葉に否定の言を投げかける。
その速さと言ったら、まるで脊髄反射のごとくであった。実際、レオンハルトは脊髄反射で返事をしてしまったが。
「用はそれだけか?」
「……いえ、まだあります……私と戦っていただけますか?」
(もとより素直に引き下がるとは思っていません。プランBでいきましょう)
「戦う? 俺は別に構わんが、なぜ?」
「あなたがオリービア様に勝利したと聞いています」
「別に勝ったわけではないがーー」
「学年首席のオリービア様に、落ちこぼれのあなたがどんな卑怯な手で勝ったかは知りませんが、その化けの皮を剥いでやります」
「……なるほど。そういうことなら、やろうか」
レオンハルトは、アリスから距離をとり、素振りのために持ち込んだ黒月を構える。アリスはアリスで、短剣を二本構えながらレオンハルトと対峙する。
「オリービア様。合図をお願いできますか?」
「……プイ」
しかし、オリービアはプイっといいながらプイっと首を捻らせ、そっぽを向いてしまう。
先ほどのアリスの発言で怒ってしまったようだ。
「あはは、仕方ないな。ではそちらの好きなタイミングで始めてもらって構わない」
「はい? 本気で言ってます?」
「ああ、本気も本気さ。別にこれぐらい、ハンデにもならんだろ?」
「……後悔しますよ」
「……」
「ん? どうしました? 早速怖気つきましたか?ならいっそーー」
「後悔、後悔か」
「はい?」
「……これしきで後悔するほど、余は人間然としてないぞ」
「っ!!」
(え? なに? この覇気)
別に威跡・覇を使っているわけではない。
だが、今のレオンハルトは限りなくかつての大統帝に近づいていると言えるだろう。その威圧が、ほんのわずかだがアリスには感じ取れた。
「どうした? こないのか?」
「……行きます!」
そう言ってアリスはレオンハルトに向い、突進する。
そのスピードはなかなかのもの。レオンハルトとの距離を半分ほど縮めたところで、アリスは自らの短剣を投擲した。アリスは投擲と同時に、太腿に仕込んであった短剣を取り出し、再び二本構えをとる。
投げ出された短剣が向かう先はもちろんレオンハルト。しかも、その眉間を狙っての一撃。しかし、狙われた当人はといえば、冷静にそれを弾き、再び相手を見据えていた。
(正確性はなかなか。相当鍛錬を積んだんだろう。ただのメイドではなさそうだ)
刹那、レオンハルトの全身に鳥肌が立つ。
(っ!!)
鳥肌の理由を確かめることもせず、レオンハルトは動く。
陸跡魔闘術ーー動跡・轟
瞬間、レオンハルトの姿が掻き消える。
ゼロコンマ数秒後に、落雷のような音が鳴り響き、レオンハルトが立っていた場所が陥没し、小さなクレーターが出来上がる。
そして、レオンハルトがいた場所に一閃が過ぎる。もしその場に止まっていたら、首が胴体から離れていただろう。
さらにゼロコンマ数秒後に、床を短剣の音が訓練場内を響く。この一瞬の攻防に、レオンハルトも思わず冷や汗が吹き出る。
「危ない危ない。殺す満々って感じだな」
(これは……双換魔法か)
「……運がいいですね。次は当てます」
(避けた!? あれを初見で!?)
涼しい顔をしているが、アリスの内心はひどく混乱していた。
アリスの適正魔法は、非属性魔法であり、双換魔法と呼ばれている。双換魔法は自らの魔力が付与されている物体同士を交換することができる魔法だ。その物体に、自分自身も含まれる。
アリスがやったことは至極単純。魔力を付与した短剣を投擲し、レオンハルトが短剣を弾き、意識がそれた瞬間に魔法を発動させ、短剣と自分の場所を入れ替えたのである。
これだけ聞くと、強力な魔法のように聞こえるが、実際はそうではない。
まず、物体に魔力を付与する方法は少ない。それこそ、レオンハルトがやっているように、武具に魔法を纏わせる方法ぐらいしかない。つまり、双換魔法は実質魔力回路を開通しなければ使えないということになる。
加えて、消費魔力は物体同士の距離に比例するため、あまり遠くては魔力が持たなくなるデメリットも存在する。
それでも、初見殺しであることには変わりないが。
(にしても、双換魔法か。不思議なものだな、運命というのは)
ーーーーー
陸跡魔闘術ーー動跡・轟
足に大量の魔力を集め、それを一気に放出することで超速移動する技である。
足に魔力を集めるという点では歩跡・凩と同じだが、こちらは瞬間的な爆発力に長けている。緊急回避や奇襲の時に用いることが多い。
瞬間的な移動速度なら歩跡・凩よりも遥かに速い。それこそ、雷と間違われるぐらいには。弱点としては、魔力消費が多いこと、うるさいこと、扱いが難しいことが挙げられるが、それでも相当強力な技である。
動跡・轟が生まれた経緯は一人の暗殺者にある。
アレクサンダリア1世は、その強さ故に、倒すことが不可能とまで言われた。だからこそ、他の皇帝とは桁違いに多く、暗殺者を仕向けられてきた。
それでも、アレクサンダリア1世は動じること滅多にない。毒殺だろうとなんだろうと、目の色一つ変えずに返り討ちにしてきた。
そんな中、ある者がアレクサンダリア1世を暗殺しに遣わされる。そのものは当代最強の暗殺者とまで言われていた。実際、彼はアレクサンダリア1世の首に刃を届かせることができた。
しかし、アレクサンダリア1世はその並外れた勘と、足元で魔力を爆発させることで見事回避した。
その後、同じようなことは出来ないか、と研究を重ねた結果が動跡・轟である。
そして、その時の暗殺者が使った魔法こそが、双換魔法である。
ーーーーー
「……双換魔法」
「な!? 知っていたのですか?」
「前に使い手と戦ったことがあるからな」
「バカな!?」
アリスはわかりやすく動揺する。非属性魔法の使い手は珍しく、同じ魔法を使うものはまずいないと言われているからだ。
しかし、それだけではない。
双換魔法はネタさえ割れてしまえば、かなり対処しやすくなってしまう。
(これは、予想以上に厳しい戦いになりそうです)
0
お気に入りに追加
974
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね
いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。
しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。
覚悟して下さいませ王子様!
転生者嘗めないで下さいね。
追記
すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。
モフモフも、追加させて頂きます。
よろしくお願いいたします。
カクヨム様でも連載を始めました。
出戻り巫女の日常
饕餮
ファンタジー
転生者であり、転生前にいた世界に巻き込まれ召喚されて逆戻りしてしまった主人公、黒木 桜。桜と呼べない皆の為にセレシェイラと名乗るも、前世である『リーチェ』の記憶があるからか、懐かしさ故か、それにひっついて歩く元騎士団長やら元騎士やら元神官長やら元侍女やら神殿関係者やらとの、「もしかして私、巻き込まれ体質……?」とぼやく日常と冒険。……になる予定。逆ハーではありません。
★本編完結済み。後日談を不定期更新。
異世界デパート"コレクト・スター"へようこそ~異世界救ったので地球の商品売ってのんびり生活したいと思います~
アマテン
ファンタジー
元の世界:地球の旅行中、事故に合い異世界に転移されたというありふれた理由で異世界:ヴィジョンにきた優斗、真保、聖、翔。しかし翔は1人だけ別の国メルトホルンに飛ばされる。メルトホルンでは国の人に助けてもらったりしてどうにか生活できた。
半年後一人で旅立つことができる実力をつけた翔は自分がどうして召喚されたのか、優斗、真保、聖はどうしているのかを確認するため帝国へと向かった。その道中、エルフのアリシア、魔族のミゼル、天族のミーシャと出会い一緒に足袋をすることに。
そして翔は帝国に付き優斗たちと再会。自分たちが召喚された原因の終末神を倒すことに成功。そして翔はこの世界で生きるために道中考えていたあることをしようと決めました。「よし、お店を経営しよう」
そして始まる店づくり。色ガラスやプラスチックなどの化学薬品を揃えた商店、スパゲティやハンバーグなどの料理を提供するレストラン、四角いフライパンや武器などを売る鍛冶屋など様々なお店が固まる異世界デパート”コレクトスター”が完成した
現代にモンスターが湧きましたが、予めレベル上げしていたので無双しますね。
えぬおー
ファンタジー
なんの取り柄もないおっさんが偶然拾ったネックレスのおかげで無双しちゃう
平 信之は、会社内で「MOBゆき」と陰口を言われるくらい取り柄もない窓際社員。人生はなんて面白くないのだろうと嘆いて帰路に着いている中、信之は異常な輝きを放つネックレスを拾う。そのネックレスは、経験値の間に行くことが出来る特殊なネックレスだった。
経験値の間に行けるようになった信之はどんどんレベルを上げ、無双し、知名度を上げていく。
もう、MOBゆきとは呼ばせないっ!!
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる