Re:征服者〜1000年後の世界で豚公子に転生した元皇帝が再び大陸を支配する〜

鴉真似≪アマネ≫

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転生・蘇る大帝

第10話 月華

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 混乱を極めた帝国軍の夜営地を、離れた森の中の丘から見下ろす一団がいた。皆黒い鎧を着込み、お寝坊さんな朝日を背にしていた。

「帝国軍が引いていくぞ!」
「か、勝った、勝ったぞぉ!」
「まじで勝てた」
「うおおおぉぉ!!」

 意味不明な雄叫びを上げる者もいるが、総じて皆笑みを浮かべている。

 それはひとえに戦争に勝利したからである。しかも、わずか500で10000の軍勢を破ったこと。これが興奮せずにいられるか。

「本当に勝った。レオンハルト様! 我々の勝利です! ……レオンハルト様? レオンハルト様!!」

 勝利した側もまた、満身創痍であった。それを証明するかのように、先頭に立つレオンハルトは先ほどから無言である。

 それもそのはず。彼は極大魔法を放った直後に気を失ったのだから。落馬しなかったのは、せめてもの意地から来たものかもしれない。

 しかし、それも今、崩れる。

レ オンハルトの全身から血が勢いよく噴き出る。身体中に至ところに穴が開けながら、薔薇が咲き誇るように血液を撒き散らす。その勢いでレオンハルトは、仰向けに落馬してしまう。

「「「レ、レオンハルト様!?」」」






(知らない天井だ)

 しかし異世界転生ではない。

 そこは北の砦の医務室。そこのベッドの上で、包帯グルグル巻きにされながら、レオンハルトは寝そべっていた。

(ふぅ~。少し無茶が過ぎたようだ。いや、あれぐらいはやらねばならなかった。必要経費だ。……想定外なのは敵の司令官の強さか。あそこで思った以上に魔力を消費してしまった)

 帝国軍総大将であるケッツェルは決して弱くはなかった。むしろ、かなりの強さであり、レオンハルトが手こずるほどであった。

 だからこそ、レオンハルトは使うことを決意した。

 陸跡魔闘術りくせきまとうじゅつーー戦跡せんせきほむらを。

ーーーーー

 陸跡魔闘術 戦跡・焔。

 文字通り、炎のように魔力を燃やす技法。

 その魔力を纏った武器、もしくは己の拳でも構わない。それを相手に打ち込むことで、自らの魔力で相手を燃やす。

 実にシンプルであるが、それゆえ魔力消費も大きい。

 短期決戦、もしくは圧倒的な魔力量を有している場合に用いることが多い。

 陸跡の技が生まれるのは、決まってアレクサンダリア1世が窮地に陥った時。戦跡・焔のときも例外ではない。

 戦場で相対した強敵。その者は盾の名手であった。アレクサンダリア1世の攻撃を尽く防ぎ、流した。2人の戦いの最中でも、着実にアレクサンダリア1世用の包囲網が完成していく。

 それでも攻め切れない、そのことにアレクサンダリア1世は苛つきを覚えた。

 「盾ごと叩き潰す!」

 奇想天外な発想がその窮地を破る。わずか数回の攻撃で、相手の盾は耐え切れず、粉砕されてしまったという。

 つまり、アレクサンダリア1世と戦うには、前提条件として、刃を合わせてはいけない。どんなに優れた武器でも、戦跡・焔の前では無力なのだから。

 まさに武器殺し。

 同じく、魔力で武器を覆う場合はその限りではないが。

ーーーーー

 最後に予定していた極大魔法は本来、今のレオンハルトの技量や魔力量で発動できるものではない。それに加えて想定外の魔力消費。ただでさえ不足していた魔力を消費してしまい、かなり危機的状況であった。

 そこでレオンハルトがやっとのは、威跡・覇の逆。

 威跡「転」いせき「てん」なびき

 自身の魔力を解き放つのではなく、自然の魔力を取り入れる技、と言えるかどうかは怪しいところである。反動が大きすぎるから。

 自分以外の魔力を取り込むことは、輸血でいうと違う血液型の血を体内にいれるということ。体内の魔力は異物を攻撃し、異物はそれに反発する。そのせめぎ合いによって、魔力回路がズタボるにされてしまう。

 しばらくは、魔力行使する度に激痛が走ることとなる。かのアレクサンダリア1世ですら、これ使ったのはたった1度。

(まあ、あそこで時間くって囲まれるよりかはましか)

 戦の反省をしていると、部屋にだれかが入ってくる。

「っあ」
「っあ」

 シリアである。シリアはレオンハルトをみるや否や、

「れおんがるどしゃま~」
「っぐは」

 泣きながら飛びかかってきた。レオンハルトは思わず呻き声をあげる。

「じんばいじまじだよ~よがっだ~いぎででよがっだぁ~なんでむじゃずるんでしがぁ~」
(心配しましたよ~よかった~生きててよかったぁ~なんて無茶するんですかぁ~)

「お、落ち着け。シリア! 俺は大丈夫だから、ひとまず離れろ」

「だいじょぶじゃありばしぇん! しょれにもうがられましぇん! うわあぁあ~」
(大丈夫じゃありません! それにもう離れません! うわあぁあ~)

「困ったなぁ」

 戦場よりも遥かに困った顔をするレオンハルト。なんせ、前世を含めても女性経験は1人しかいなかったのだから。泣きつく女性の宥めかたなど、レベル高すぎるのだ。

「心配かけてすまなかった。とりあえず、気が済むまではこのまま。これでいいか?」
「はい゛ぃ」

 そのまま、背中に両手を回し、シリアを抱きしめる。レオンハルトにはこれが精一杯である。2人だけの空間が少しずつ出来上がっていく。

 しかし、その2人を他のものが放っておくわけもなく、

「なんだ、今の声は!?」
「レオンハルト様が目を覚ましたのか!」
「おおぉ! レオンハルト様ああぁ!」

 次々と駆け寄る騎士たちだが、

「あ、お取り込み中らしい」
「あ、しつれーしましたー」
「あっ、お、え」

 そのまま引き返してしまい、2人は取り残されることとなる。





 泣き疲れたのか、レオンハルトの看病で疲労が溜まっていたのか、シリアはすぐに眠ってしまった。レオンハルトに抱きついたまま。

 その割に力が強く、レオンハルトもおいそれと引き剥がすことができなかった。そんな風に困っているレオンハルトのもとに現れたのが騎士団長のマルクスである。

「お目覚めですか?」
「マルクス団長か。ああ、今し方目を覚ましたところだ」
「よかったですよ、目を覚まして。なんせもう3日間も眠ったままなのですから」
「3日……通りでお腹が空くわけだ。少しは痩せたのではないか。はっはっは」
「まったく、笑い事じゃありませんよ……あとでそこの彼女にちゃんとお礼を言ってくださいね。彼女、三日三晩寝ずにレオンハルト様の世話をしてましたから」
「……そうか……それは、世話をかけたな……マルクス団長にも迷惑をかけたな」
「とんでもございません! ……元はと言えば、我々が弱いせいで……レオンハルト様に無理をさせてしまいましたから……感謝こそすれ、謝られるようなことではありません」
「そうか……まあ、こうなったのは俺の弱さが原因でもある。もっと鍛えねばな」
「え? あれでまだ弱いんですか?」
「ん? 全然弱いだろう。それこそ、皇宣魔導士とか護国の三騎士とかよりもよっぽど」
「何と比べてるんですかぁ」
「そんなことより、あのあと帝国軍はどうなった?」
「尻尾を巻いて逃げ帰りましたよ。その後も纏まる気配はありません。もう攻めてくることはないでしょう」
「そうか」 

 ーーぐううぅぅう!

 マルクスと雑談をしていると、レオンハルトの腹の虫が鳴き声を上げる。

「ははは、すぐに料理を用意させますね」
「いや、いい」
「え?」
「シリアの料理が食べたい。ここまでしてもらったんだ。目覚めた最初に食べるのが他人の料理ではあまりに不義理だろう」
「……しばらく起きそうにありませんよ」
「我慢するさ。さて、シリアが起きるまで二度寝といこうか」
「ふふ、おやすみなさい」

 レオンハルトが再び眠りについていく前に、マルクスは退室した。砦の廊下を歩きながら、マルクスはレオンハルトについて考えていた。

(人の噂は倍になる、とはいうが、あれで倍な訳が無い。むしろ真逆ではないか……しかし、火がないところに煙は立たないともいうしな、うーん……わからん。まあ、昔はどうあれ今のレオンハルト様はご立派になられている。仕え甲斐がありそうな主君だ。シリア君への対応もすばらしい。あれは信賞必罰を地で行くタイプだ)

 レオンハルトの知らないところで、彼の株は上がっていた。これは何もマルクスに限った話ではない。




(知らない天井だ、ってさっきもやったな)

 日は沈み、周りはすっかりと暗くなっていた。部屋を見渡すと、ベッドには赤面のシリアがうずくまっていた。

「おはよう、シリア。よく眠れたか?」
「……はぃ、快眠でした……あの、その、え~と、と、取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」
「いいさ。気にしていない……そ、それより、飯を作ってくれないか? かなり、お腹の調子がやばい」
「えぇぇ!? まだお食事を取ってないんですか!?」
「最初はお前の料理が食べたいと思ってな。作ってくれるか?」
「れ、レオンハルト様~! は、はい! シリアにお任せください!」
「ああ、頼む」

食事を済ませると、シリアから話を切り出す。

「……レオンハルト様。もう、無茶はやめてくださいね」
「約束はできんな。無茶をせねばならん時は必ずくる」
「……そこは嘘でもしないというところでは?」
「こういう嘘は苦手だ。約束を破ってしまったときのことを考えてしまうからな……あの時も」
「レオンハルト様?」
「いや、なんでもない。とりあえず、無茶はなるべく控えるとするよ。俺もまだ死にたくはないからな」
「……どうして、そこまで。なぜ、そんなにボロボロになるまで頑張ってしまうんですか?」
「お前のためだ、シリア」
「ほぇ!?」

 やっと少し落ち着いてきたシリアの可愛いお顔が、再び真っ赤に染まる。

「そ、それは、一体……」
「お前たち民が、俺を支えてくれている。それに報いねばならん」
「あ、そういう……」

 シリアが目に見えてしょんぼりするが、室内は暗いためレオンハルトはそれに気づかない。

「……あいつとの約束もあるしな」
「はい?」
「あ、いや、なんでもない」

 しばらく、沈黙がその場を支配する。これを破るのは、またしてもシリアである。シリアは何かを決意した表情でレオンハルトに向き直り、

「ではレオンハルト様。もっと私を鍛えてください! レオンハルト様のお側にいられるぐらい」
「なんと? しかし、すでに鍛錬を共にしているが? それにシリアは仕事もあるだろ?」
「もっともっとです。レオンハルト様の鍛錬は私のより、ずっと厳しいじゃないですか。それに、仕事はなんとかしてみせます」
「……そこまでいうなら、いいだろう。もとより、向上心がある人間を拒むのはポリシーに反するしな」
「やった! ふつつか者ですが、よろしくお願いします! うふ」
「ちょっと違う気が……」

 わずかな月明かりが照らすシリアの横顔は、しかし月顔負けなほどに美しかった。

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