219 / 227
第四章 パラレルワールド
第50話 自暴自棄
しおりを挟む
『そう。それなら、きっとあなたは選ばれし者なのね』
話を聞き終えると、圧倒されたようにアメリアは言った。
『だったら、わたしも養成校へ行ったところであなたのようにはなれないわね』
『まあ、そうね』
イビージャは、安心した。もしアメリアが学校へ来たら、誰よりも魔法が優れているともてはやされていた自分の立場が危ぶまれる。そう思ったからだ。
自分の方が優れているのは間違いない。なぜなら、自分は選ばれし者だから。でも、アメリアの魔法の腕前はたしかだった。
『でも、あなたの魔法もなかなかのものよ。だから、何も別に学校へ来て学ぶ必要なんてないと思うわ。わたしが保証する』
『本当?』
『うん。知りたいことがあればわたしが教えてあげるし』
『やった!ありがとう』
アメリアは、素直に嬉しかった。家族以外の人に褒められたことも嬉しかったし、同年代の女友達ができたことも嬉しかった。
それから、ふたりは仲良しになった。
イビージャは、アメリアに魔法の基礎だけじゃなく、学校で習ったあらゆることを教えた。
実際、イビージャは学校ではずば抜けて優秀だった。そのため、基礎的なことを教えるほどの能力は、すでに身についていた。
そして、アメリアの知らないことを教えることに、イビージャは何とも言えない優越感を覚えた。
アメリアは勉強熱心だったので、疑問に思うことは何でも質問した。それに答えられないことは何としても避けたかったので、イビージャも必死に勉強した。そのため、必然的にイビージャの能力も飛躍的に上がっていった。
さらに、イビージャの知らない魔法をアメリアが披露すれば、イビージャはその技を盗んで密かに修練した。それによって、養成校では生徒や教師からもイビージャはより一層もてはやされるようになった。
そのように切磋琢磨して、ふたりは養成校の教師になれる程の実力をあっという間に身に着けた。
その後、ふたりは守護ドラゴンと契約を交わすと、ドラゴンの石調達の仕事を始めるようになった。
地底都市の各地をふたりで一緒に巡っては、あらゆるドラゴンの石を手に入れた。
イビージャは仕事で依頼された石以外にも、密かに伝説の黒いドラゴンの石を探した。しかし、やはりそれはなかなか見つかるものでもなかった。
そして最初は黒いドラゴンの石を見つけることに執着していたイビージャも、いつしかどうでもよくなっていった。それより、アメリアとふたりでこうして仕事をすることをとても楽しく感じていた。
ある日、そんなふたりのもとへセテオス中央部の人間がやってきた。中央部で仕事をしないか、というヘッドハンティングだった。
願ってもいないことだった。いつかはセテオスに移り住んで中央部の仕事がしたいと、ふたりでよく話をしていたのだ。ふたりは、その申し出を二つ返事で引き受けた。
中央部では、ふたりは別々の部署に所属することとなった。それぞれの適性を判断され、アメリアは情報統制局へ。イビージャは監視局へと配属が決まった。
アメリアの情報統制局での仕事は、主に図書館に収められている宇宙のデータの整合性を確認するというものだった。
膨大なデータがある中、ズレが生じた場合にはそれを調整していき、ネットワークにアクセスがあれば、誰が何を調べているかについてまで調査した。
膨大なデータを前に気が遠くなるような仕事だったが、銀河連邦や銀河系の他文明の存在とも交流できるし、広大な宇宙の奥深さや神秘さについても触れることができて、アルタシアはとても魅力的な仕事だと感じていた。
それに直属の上司ソレーテは、とても優しく優秀だった。細かなことまで詳しく教えてくれるし、やるべきことを細かく指示してくれた。失敗しても怒ることなく、優しくフォローしてくれた。
そんな恵まれた環境で、アメリアは充実した日々を過ごしていた。
一方、イビージャは監視局で退屈な日々を過ごしていた。ドラゴンに乗って来る日も来る日もセテオスを訪問する人々をチェックしては、あいさつして回った。
闇の勢力が侵入することもあるから、中央部の監視が行き渡っていることを知らしめるための牽制だと、上司のネイゲルから説明があった。
でも正直あまり効果があるとは思えなかったし、何より退屈だった。こんなことなら、アメリアとドラゴンの石調達の仕事をしていた方がずっと良かった。
ある日、そのことをアメリアに打ち明けると、アメリアは今の仕事を続けたいと言った。とても充実している、と。
それに、これまで知らなかったけど宇宙では闇の勢力がかなり暗躍していて、いずれ地球も闇の勢力に消滅させられるかもしれない危機的状況にある。だから二人で一緒に地球を闇の勢力から救い出そう、とアメリアは熱く語った。
そのためにも、お互い今の仕事で知識と経験を積んでおこう。でも、もし今の部署が耐えられないなら、部署の異動をわたしからもかけ合ってみるとアメリアは言った。
イビージャは、その申し出を断った。なんだか仕事をする動機や心構えからして、アメリアとはまるで違っていた。部署異動をしても、そんな高尚な考えを持って仕事に取り組める自信がなかった。
イビージャは、卑屈になっていた。
自分は、自分なりに何とか仕事を楽しもう。それで続けられなくなったら、ホーソモスに戻って養成校で教師でもしよう。
それからは、イビージャは監視局の仕事をしながら男漁りをするようになった。別に仕事をさぼるわけでもないから、誰かに文句を言われる筋合いもない。気に入った男がいれば、観光案内と称して仕事の合間にデートをした。
アメリアほどじゃないにしても美貌には自信があったし、実際にイビージャはモテた。いつしか、複数の男と関係を持つようになった。
話を聞き終えると、圧倒されたようにアメリアは言った。
『だったら、わたしも養成校へ行ったところであなたのようにはなれないわね』
『まあ、そうね』
イビージャは、安心した。もしアメリアが学校へ来たら、誰よりも魔法が優れているともてはやされていた自分の立場が危ぶまれる。そう思ったからだ。
自分の方が優れているのは間違いない。なぜなら、自分は選ばれし者だから。でも、アメリアの魔法の腕前はたしかだった。
『でも、あなたの魔法もなかなかのものよ。だから、何も別に学校へ来て学ぶ必要なんてないと思うわ。わたしが保証する』
『本当?』
『うん。知りたいことがあればわたしが教えてあげるし』
『やった!ありがとう』
アメリアは、素直に嬉しかった。家族以外の人に褒められたことも嬉しかったし、同年代の女友達ができたことも嬉しかった。
それから、ふたりは仲良しになった。
イビージャは、アメリアに魔法の基礎だけじゃなく、学校で習ったあらゆることを教えた。
実際、イビージャは学校ではずば抜けて優秀だった。そのため、基礎的なことを教えるほどの能力は、すでに身についていた。
そして、アメリアの知らないことを教えることに、イビージャは何とも言えない優越感を覚えた。
アメリアは勉強熱心だったので、疑問に思うことは何でも質問した。それに答えられないことは何としても避けたかったので、イビージャも必死に勉強した。そのため、必然的にイビージャの能力も飛躍的に上がっていった。
さらに、イビージャの知らない魔法をアメリアが披露すれば、イビージャはその技を盗んで密かに修練した。それによって、養成校では生徒や教師からもイビージャはより一層もてはやされるようになった。
そのように切磋琢磨して、ふたりは養成校の教師になれる程の実力をあっという間に身に着けた。
その後、ふたりは守護ドラゴンと契約を交わすと、ドラゴンの石調達の仕事を始めるようになった。
地底都市の各地をふたりで一緒に巡っては、あらゆるドラゴンの石を手に入れた。
イビージャは仕事で依頼された石以外にも、密かに伝説の黒いドラゴンの石を探した。しかし、やはりそれはなかなか見つかるものでもなかった。
そして最初は黒いドラゴンの石を見つけることに執着していたイビージャも、いつしかどうでもよくなっていった。それより、アメリアとふたりでこうして仕事をすることをとても楽しく感じていた。
ある日、そんなふたりのもとへセテオス中央部の人間がやってきた。中央部で仕事をしないか、というヘッドハンティングだった。
願ってもいないことだった。いつかはセテオスに移り住んで中央部の仕事がしたいと、ふたりでよく話をしていたのだ。ふたりは、その申し出を二つ返事で引き受けた。
中央部では、ふたりは別々の部署に所属することとなった。それぞれの適性を判断され、アメリアは情報統制局へ。イビージャは監視局へと配属が決まった。
アメリアの情報統制局での仕事は、主に図書館に収められている宇宙のデータの整合性を確認するというものだった。
膨大なデータがある中、ズレが生じた場合にはそれを調整していき、ネットワークにアクセスがあれば、誰が何を調べているかについてまで調査した。
膨大なデータを前に気が遠くなるような仕事だったが、銀河連邦や銀河系の他文明の存在とも交流できるし、広大な宇宙の奥深さや神秘さについても触れることができて、アルタシアはとても魅力的な仕事だと感じていた。
それに直属の上司ソレーテは、とても優しく優秀だった。細かなことまで詳しく教えてくれるし、やるべきことを細かく指示してくれた。失敗しても怒ることなく、優しくフォローしてくれた。
そんな恵まれた環境で、アメリアは充実した日々を過ごしていた。
一方、イビージャは監視局で退屈な日々を過ごしていた。ドラゴンに乗って来る日も来る日もセテオスを訪問する人々をチェックしては、あいさつして回った。
闇の勢力が侵入することもあるから、中央部の監視が行き渡っていることを知らしめるための牽制だと、上司のネイゲルから説明があった。
でも正直あまり効果があるとは思えなかったし、何より退屈だった。こんなことなら、アメリアとドラゴンの石調達の仕事をしていた方がずっと良かった。
ある日、そのことをアメリアに打ち明けると、アメリアは今の仕事を続けたいと言った。とても充実している、と。
それに、これまで知らなかったけど宇宙では闇の勢力がかなり暗躍していて、いずれ地球も闇の勢力に消滅させられるかもしれない危機的状況にある。だから二人で一緒に地球を闇の勢力から救い出そう、とアメリアは熱く語った。
そのためにも、お互い今の仕事で知識と経験を積んでおこう。でも、もし今の部署が耐えられないなら、部署の異動をわたしからもかけ合ってみるとアメリアは言った。
イビージャは、その申し出を断った。なんだか仕事をする動機や心構えからして、アメリアとはまるで違っていた。部署異動をしても、そんな高尚な考えを持って仕事に取り組める自信がなかった。
イビージャは、卑屈になっていた。
自分は、自分なりに何とか仕事を楽しもう。それで続けられなくなったら、ホーソモスに戻って養成校で教師でもしよう。
それからは、イビージャは監視局の仕事をしながら男漁りをするようになった。別に仕事をさぼるわけでもないから、誰かに文句を言われる筋合いもない。気に入った男がいれば、観光案内と称して仕事の合間にデートをした。
アメリアほどじゃないにしても美貌には自信があったし、実際にイビージャはモテた。いつしか、複数の男と関係を持つようになった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~
笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。
鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。
自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。
傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。
炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
家族と移住した先で隠しキャラ拾いました
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」
ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。
「「「やっぱりかー」」」
すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。
日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。
しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。
ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。
前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。
「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」
前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。
そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。
まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる