クリスの物語

daichoro

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第四章 パラレルワールド

第40話 最強の力

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 突然、バーンと大きな音がした。全員一斉にうしろを振り返った。



 大きく開いた扉から、3人の男が広間に立ち入った。ソレーテと、その従者だった。

 なぜこの場にソレーテが姿を現すのかと、一行は目を疑った。スパイであるネイゲルを除き、地底都市の人間には知られていないはずだ。



 ソレーテは入ってくるなり、ふたりの従者に指示を出した。

 ふたりはうなずくと、剣を振りかざして宙に飛び上がった。そしてブツブツと唱えながら、天井の四隅の魔法陣を剣で切り刻んだ。

 その後ふたりが床に着地するより早く、ソレーテが剣をかざしてカンターメルを唱えた。



「アヌギーレ・ロスウェプス」



 ソレーテの剣から緑色の電流が放たれた。そしてその電流がサタンを包み込んだ。

 それからソレーテが小声で何かを唱え始めると、サタンがゆっくりとうしろへ向きを変えた。



「どういうつもりだ?」

 バルコニー席に座って、見物していた老人が言った。その目は、ソレーテに向けられていた。



 明らかに、ソレーテはサタンを操っている。

 ホルスでも歯が立たなかった強大なサタンを操ることができるなんて、信じられなかった。

 クリスは、初めてソレーテのすごさを思い知った。



 ソレーテが呪文を唱え続けていると、サタンが突然飛び上がってバルコニー席に乗り込んだ。

 見物していた者たちが慌てて逃げまどった。しかし遅かった。



 ザルナバンのトップの老人が真っ先に捕まり、サタンの手の中で握りつぶされた。

 そして、バルコニー席では惨劇が繰り広げられた。



 サタンはまるで粘土細工を与えられた子供のように逃げまどう人間を捕まえては握り潰し、頭や胴体を引きちぎった。

 凄惨な光景を前に、クリスたち一同呆然とした。思考が停まり、目を背けることすらできなかった。



 突如、「うっ」といううめき声が響いた。そしてソレーテの従者のひとりが床に倒れた。

 胴体が真っ二つに斬られ、おびただしい量の血が垂れ流れている。

 傍らに、抜刀したスタンの姿があった。



 スタンの剣は止まることなくもうひとりの従者の胸をも貫いた。

 スタンが静かに剣を引き抜くと、従者の胸から血がどっと吹き出した。従者は白目をむいてその場に倒れた。



 広間の中央には、頭上に剣を振りかざし宙に浮かぶ田川先生の姿があった。

 剣先には、白い光が点っている。光の玉はみるみる大きくなり、まるで太陽のように煌々と光り輝いた。



「オンドーヴァルナーシム」



 田川先生がサタンに向かって勢いよく剣を振り下ろした。光の玉は咆哮する龍となって、けたたましい音を立てながらサタンに向かって行った。

 その光の龍は、クリスやクレアがこれまで見たこともないほど巨大なものだった。



 大きな口を開けてサタンを飲み込むと、龍は建物を破壊しながら外へ飛んで行ってしまった。

 壁にはぽっかりと穴が空き、バルコニー席で殺された見物人たちの死骸も一掃されていた。



 もしかしたら、田川先生が最強なのかもしれない。

 せっかくソレーテが来てくれたのに、勝ち目はないかもしれない。床に着地した田川先生を前にクリスは怖気づいた。




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