クリスの物語

daichoro

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第四章 パラレルワールド

第38話 闇の勢力の幹部

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「君たちは、銀河連邦の差し金かな?」



 低くくぐもった声が広間に響いた。声の主は、2階のバルコニー席に立つ年老いた男だった。

 白装束を身に着けた背の低い老人が、バルコニー席から一行を見下ろしていた。



 老人のうしろには何人もの取り巻きがいる。その中には、教会でクリスの肩をつかんだ初老の男もいた。

 その男はクリスがこうして現れることが分かっていたかのように、にやついた顔でじっとクリスを見ていた。



 そして男の隣には、黒い騎士の格好をした田川先生とスタンの姿があった。ふたりの姿を目にして、『やっぱり』とクリスたちは顔を見合わせた。



「どうしてこうも早く気づかれたのか・・・」

 皺だらけの顔に柔らかな笑みを浮かべて、バルコニー席に立つ老人は不思議そうに首を傾げた。老人の話す言語はラテン語だった。



「どう思いますか?」

 老人がそう言って、うしろを振り向いた。すると最後列から、ひとりの青年が姿を現した。

 背が高く銀色の髪をきれいに切りそろえたその青年の登場に、クリスたち一同凍り付いた。



『え?なんでネイゲルがあそこにいるの?』

 事情が飲み込めずにクレアが聞いた。しかしすぐに察して、唖然とした。



『もしかして、クリスタルエレメントを入れ替えたスパイって、ネイゲルだったってこと?』



 クレアに問われてクリスは首を傾げた。状況は明らかにそう物語っている。しかし、そんなことはクリスも信じたくなかった。



 ネイゲルは前に歩み出ると、老人に頭を下げた。

『いかがでしょうか?地底都市ではソレーテ以下、誰にもまだ気づかれていないはずなのですが』

 ネイゲルの言葉を聞いて、老人はまるで顎ひげをたくわえているかのように自分の顎を何度かさすった。



『畏れ多いことですが、組織にスパイがいるのかもしれません。もしくは、銀河連邦にどうにかして知る術があったのか・・・。しかし、宇宙連盟の中でも無能と噂される銀河連邦に、そんな知恵があるとも思えません』



「ということは、やはりスパイがいたということでしょうかね」

 老人がそう返すと、ネイゲルは恐縮するように深々と頭を下げた。



「まあ、いいでしょう。それについては、この件が終わってからまた洗い出すとしましょう」

 老人は手すりに手をかけて、一行を見下ろした。



「それにしても、やって来たのは子供たちばかりではないですか。銀河連邦もむごいことをする・・・。いや、子供だから無鉄砲にもこうしてやってこられたということでしょうかね。いずれにしても、その勇気をまずは褒めて差し上げましょう」

 老人がそう言って手を叩くと、2階にいる者たちがまばらに拍手をした。



「しかし、残念ながら今一歩遅かったようですね。もうすでに儀式の準備は整っています。こうしてちょうど良いタイミングでこの場に現れたということは、あなた方は生贄として捧げられる運命にあったということでしょう。

 地球消滅と共にいずれ死ぬわけですから、最後にその命をこの最上の儀式に生贄として捧げられることを名誉と思いなさい」



 老人がそう言って椅子に座ると、取り巻きも並べられた椅子にそれぞれ腰かけた。

 田川先生とスタン、それにネイゲルだけは立ったまま後列で控えた。



「さて、私たちはこの余興を楽しむといたしましょう」

 老人のその言葉の後、クリスタルエレメントを載せた台座が徐々に上昇していった。

 そして天井付近まで上がったところで停止した。



 直後、照明が消されて室内が再び暗くなった。それと同時に稲妻が走って、雷鳴が轟いた。



 ひとしきりその状態が続くと、稲光の中大きなシルエットが浮かび上がった。

 辺りには、肉が腐ったような異臭が漂った。あまりの悪臭に、その場にいた全員鼻と口をふさいだ。




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