207 / 227
第四章 パラレルワールド
第38話 闇の勢力の幹部
しおりを挟む
「君たちは、銀河連邦の差し金かな?」
低くくぐもった声が広間に響いた。声の主は、2階のバルコニー席に立つ年老いた男だった。
白装束を身に着けた背の低い老人が、バルコニー席から一行を見下ろしていた。
老人のうしろには何人もの取り巻きがいる。その中には、教会でクリスの肩をつかんだ初老の男もいた。
その男はクリスがこうして現れることが分かっていたかのように、にやついた顔でじっとクリスを見ていた。
そして男の隣には、黒い騎士の格好をした田川先生とスタンの姿があった。ふたりの姿を目にして、『やっぱり』とクリスたちは顔を見合わせた。
「どうしてこうも早く気づかれたのか・・・」
皺だらけの顔に柔らかな笑みを浮かべて、バルコニー席に立つ老人は不思議そうに首を傾げた。老人の話す言語はラテン語だった。
「どう思いますか?」
老人がそう言って、うしろを振り向いた。すると最後列から、ひとりの青年が姿を現した。
背が高く銀色の髪をきれいに切りそろえたその青年の登場に、クリスたち一同凍り付いた。
『え?なんでネイゲルがあそこにいるの?』
事情が飲み込めずにクレアが聞いた。しかしすぐに察して、唖然とした。
『もしかして、クリスタルエレメントを入れ替えたスパイって、ネイゲルだったってこと?』
クレアに問われてクリスは首を傾げた。状況は明らかにそう物語っている。しかし、そんなことはクリスも信じたくなかった。
ネイゲルは前に歩み出ると、老人に頭を下げた。
『いかがでしょうか?地底都市ではソレーテ以下、誰にもまだ気づかれていないはずなのですが』
ネイゲルの言葉を聞いて、老人はまるで顎ひげをたくわえているかのように自分の顎を何度かさすった。
『畏れ多いことですが、組織にスパイがいるのかもしれません。もしくは、銀河連邦にどうにかして知る術があったのか・・・。しかし、宇宙連盟の中でも無能と噂される銀河連邦に、そんな知恵があるとも思えません』
「ということは、やはりスパイがいたということでしょうかね」
老人がそう返すと、ネイゲルは恐縮するように深々と頭を下げた。
「まあ、いいでしょう。それについては、この件が終わってからまた洗い出すとしましょう」
老人は手すりに手をかけて、一行を見下ろした。
「それにしても、やって来たのは子供たちばかりではないですか。銀河連邦もむごいことをする・・・。いや、子供だから無鉄砲にもこうしてやってこられたということでしょうかね。いずれにしても、その勇気をまずは褒めて差し上げましょう」
老人がそう言って手を叩くと、2階にいる者たちがまばらに拍手をした。
「しかし、残念ながら今一歩遅かったようですね。もうすでに儀式の準備は整っています。こうしてちょうど良いタイミングでこの場に現れたということは、あなた方は生贄として捧げられる運命にあったということでしょう。
地球消滅と共にいずれ死ぬわけですから、最後にその命をこの最上の儀式に生贄として捧げられることを名誉と思いなさい」
老人がそう言って椅子に座ると、取り巻きも並べられた椅子にそれぞれ腰かけた。
田川先生とスタン、それにネイゲルだけは立ったまま後列で控えた。
「さて、私たちはこの余興を楽しむといたしましょう」
老人のその言葉の後、クリスタルエレメントを載せた台座が徐々に上昇していった。
そして天井付近まで上がったところで停止した。
直後、照明が消されて室内が再び暗くなった。それと同時に稲妻が走って、雷鳴が轟いた。
ひとしきりその状態が続くと、稲光の中大きなシルエットが浮かび上がった。
辺りには、肉が腐ったような異臭が漂った。あまりの悪臭に、その場にいた全員鼻と口をふさいだ。
低くくぐもった声が広間に響いた。声の主は、2階のバルコニー席に立つ年老いた男だった。
白装束を身に着けた背の低い老人が、バルコニー席から一行を見下ろしていた。
老人のうしろには何人もの取り巻きがいる。その中には、教会でクリスの肩をつかんだ初老の男もいた。
その男はクリスがこうして現れることが分かっていたかのように、にやついた顔でじっとクリスを見ていた。
そして男の隣には、黒い騎士の格好をした田川先生とスタンの姿があった。ふたりの姿を目にして、『やっぱり』とクリスたちは顔を見合わせた。
「どうしてこうも早く気づかれたのか・・・」
皺だらけの顔に柔らかな笑みを浮かべて、バルコニー席に立つ老人は不思議そうに首を傾げた。老人の話す言語はラテン語だった。
「どう思いますか?」
老人がそう言って、うしろを振り向いた。すると最後列から、ひとりの青年が姿を現した。
背が高く銀色の髪をきれいに切りそろえたその青年の登場に、クリスたち一同凍り付いた。
『え?なんでネイゲルがあそこにいるの?』
事情が飲み込めずにクレアが聞いた。しかしすぐに察して、唖然とした。
『もしかして、クリスタルエレメントを入れ替えたスパイって、ネイゲルだったってこと?』
クレアに問われてクリスは首を傾げた。状況は明らかにそう物語っている。しかし、そんなことはクリスも信じたくなかった。
ネイゲルは前に歩み出ると、老人に頭を下げた。
『いかがでしょうか?地底都市ではソレーテ以下、誰にもまだ気づかれていないはずなのですが』
ネイゲルの言葉を聞いて、老人はまるで顎ひげをたくわえているかのように自分の顎を何度かさすった。
『畏れ多いことですが、組織にスパイがいるのかもしれません。もしくは、銀河連邦にどうにかして知る術があったのか・・・。しかし、宇宙連盟の中でも無能と噂される銀河連邦に、そんな知恵があるとも思えません』
「ということは、やはりスパイがいたということでしょうかね」
老人がそう返すと、ネイゲルは恐縮するように深々と頭を下げた。
「まあ、いいでしょう。それについては、この件が終わってからまた洗い出すとしましょう」
老人は手すりに手をかけて、一行を見下ろした。
「それにしても、やって来たのは子供たちばかりではないですか。銀河連邦もむごいことをする・・・。いや、子供だから無鉄砲にもこうしてやってこられたということでしょうかね。いずれにしても、その勇気をまずは褒めて差し上げましょう」
老人がそう言って手を叩くと、2階にいる者たちがまばらに拍手をした。
「しかし、残念ながら今一歩遅かったようですね。もうすでに儀式の準備は整っています。こうしてちょうど良いタイミングでこの場に現れたということは、あなた方は生贄として捧げられる運命にあったということでしょう。
地球消滅と共にいずれ死ぬわけですから、最後にその命をこの最上の儀式に生贄として捧げられることを名誉と思いなさい」
老人がそう言って椅子に座ると、取り巻きも並べられた椅子にそれぞれ腰かけた。
田川先生とスタン、それにネイゲルだけは立ったまま後列で控えた。
「さて、私たちはこの余興を楽しむといたしましょう」
老人のその言葉の後、クリスタルエレメントを載せた台座が徐々に上昇していった。
そして天井付近まで上がったところで停止した。
直後、照明が消されて室内が再び暗くなった。それと同時に稲妻が走って、雷鳴が轟いた。
ひとしきりその状態が続くと、稲光の中大きなシルエットが浮かび上がった。
辺りには、肉が腐ったような異臭が漂った。あまりの悪臭に、その場にいた全員鼻と口をふさいだ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる