185 / 227
第四章 パラレルワールド
第16話 追跡
しおりを挟む
「こんなにたくさん買い物したの、生まれて初めて」
両腕いっぱいのショップバッグを提げ、紗奈が声を弾ませた。満面の笑みを浮かべ、見るからに幸せそうだ。ブロンドに染められた髪にサングラスをかけた紗奈は、見るからに現地の女の子だった。
「本当」
笑顔でうなずき返した優里も、両手はショップバッグでふさがれていた。
そんな優里は、髪も眉も赤毛に染められている。
3人は美容室でそれぞれイメチェンした後、昼食を取ってから思う存分買い物をして回った。ブティックをはしごし、ハーディのコーディネートのもと勧められるままに試着した。そしてハーディがいいと言ったものは、次々にレジへと運ばれた。
おかげで片手では持ちきれず、ベベのリードを引く手にもクリスは紙袋を提げていた。
そんなクリスの髪型は、くすんだ金色に染められてゆるくパーマがかけられていた。
クリスタルエレメントを奪い返すという重要な任務を果たしに来たはずだが、そんなことは忘れてしまうほど3人はこの滞在を満喫していた。しかし、それがハーディの狙いでもあった。
『緊張しっぱなしだと、うまくいくものもいかなくなるからね。リラックスして与えられたミッションは観光ついでだと思って取り組んでくれよ』と、お茶をしながらハーディは言った。
そんなハーディも、買ったばかりの帽子を被ってごきげんだった。
ハーディは帽子に目がないという。だから新しいものを見かけるとつい買ってしまうと笑って言った。
お茶をした後、歴史的建造物のような石造りの建物に入ったブティックがどこまでも軒を連ねる通りに、ハーディが呼んだ迎えの車がやってきた。
大きな4WDの車は人通りが多い中、時折クラクションを鳴らしながらも慣れた様子でするすると近づいてきた。一行の真横で停まると、運転手はすぐさま車を降りてきてドアを開けてくれた。
助手席にハーディが乗り、後部座席に優里と紗奈が乗った。
それからクリスが乗り込もうとすると、ベベが突然ぐいっとリードを引っ張った。指先に引っ掛けていただけだったため、引っ張られた拍子にリードがクリスの手から離れてしまった。そして、リードを引きずったままベベが走りだした。
「ベベ!」
クリスが大声で呼び止めた。
「どうしたの?」
紗奈と優里が、心配そうにクリスを見た。
「ごめん、ベベが走って行っちゃった。ちょっと連れてくるから待ってて」
クリスは手に提げていたショップバッグをシートに置いて、ベベの後を追いかけた。
「ベベ!」
人ごみをよけながら、クリスはベベの後を追った。
周囲の人々が、逃げるベベと追いかけるクリスを笑いながら眺めていた。恥ずかしかったが、しかしそれどころではない。こんな外国で迷子になられたら大変だと、クリスは必死に追いかけた。
通りの角を、ベベが左に曲がった。クリスも後を追って左に曲がった。
その通りにはレストランやカフェが多く建ち並び、狭い通りながら通り沿いにはテラス席が設けられていた。先ほどの通りに比べれば、人通りは少なかった。
『どうしたんだよ、ベベ!』
クリスが思念を飛ばすと、ベベはようやく立ち止まった。そして、レストランの窪んだ入り口に身を潜めた。
『何やってるんだよ。こんなところでかくれんぼなんてしてる場合じゃないだろう?』
建物の陰に身を隠すベベを叱ると、ベベは前方をのぞき込んで『クリスも隠れて』と言った。
『何?どうしたの?』
『いいから、隠れてよ』
クリスは言われた通り、ベベと同じように建物の窪みに隠れた。目の前のテラス席に座っていたカップルが、驚きながらもクリスに笑いかけた。それに対して、クリスは気まずそうにぺこっと頭を下げた。
『ほら、あの人』
ベベの視線の先には、黒のミニスカートに赤いカットソーを着てさっそうと歩く女性のうしろ姿があった。
『うん?あの人がどうしたの?』
クリスが聞き返すと、ベベはまたタタタッと走り出した。それから交差点に差し掛かると、角のブティックの陰に身を潜めた。
赤いカットソーの女性は、通りをそのまま真っ直ぐに進んでいた。
『あの人、あの女の先生だよ』
クリスがベベの後を追ってうしろに立つと、振り返らずにベベが言った。
女の先生?女の先生ってまさか────
両腕いっぱいのショップバッグを提げ、紗奈が声を弾ませた。満面の笑みを浮かべ、見るからに幸せそうだ。ブロンドに染められた髪にサングラスをかけた紗奈は、見るからに現地の女の子だった。
「本当」
笑顔でうなずき返した優里も、両手はショップバッグでふさがれていた。
そんな優里は、髪も眉も赤毛に染められている。
3人は美容室でそれぞれイメチェンした後、昼食を取ってから思う存分買い物をして回った。ブティックをはしごし、ハーディのコーディネートのもと勧められるままに試着した。そしてハーディがいいと言ったものは、次々にレジへと運ばれた。
おかげで片手では持ちきれず、ベベのリードを引く手にもクリスは紙袋を提げていた。
そんなクリスの髪型は、くすんだ金色に染められてゆるくパーマがかけられていた。
クリスタルエレメントを奪い返すという重要な任務を果たしに来たはずだが、そんなことは忘れてしまうほど3人はこの滞在を満喫していた。しかし、それがハーディの狙いでもあった。
『緊張しっぱなしだと、うまくいくものもいかなくなるからね。リラックスして与えられたミッションは観光ついでだと思って取り組んでくれよ』と、お茶をしながらハーディは言った。
そんなハーディも、買ったばかりの帽子を被ってごきげんだった。
ハーディは帽子に目がないという。だから新しいものを見かけるとつい買ってしまうと笑って言った。
お茶をした後、歴史的建造物のような石造りの建物に入ったブティックがどこまでも軒を連ねる通りに、ハーディが呼んだ迎えの車がやってきた。
大きな4WDの車は人通りが多い中、時折クラクションを鳴らしながらも慣れた様子でするすると近づいてきた。一行の真横で停まると、運転手はすぐさま車を降りてきてドアを開けてくれた。
助手席にハーディが乗り、後部座席に優里と紗奈が乗った。
それからクリスが乗り込もうとすると、ベベが突然ぐいっとリードを引っ張った。指先に引っ掛けていただけだったため、引っ張られた拍子にリードがクリスの手から離れてしまった。そして、リードを引きずったままベベが走りだした。
「ベベ!」
クリスが大声で呼び止めた。
「どうしたの?」
紗奈と優里が、心配そうにクリスを見た。
「ごめん、ベベが走って行っちゃった。ちょっと連れてくるから待ってて」
クリスは手に提げていたショップバッグをシートに置いて、ベベの後を追いかけた。
「ベベ!」
人ごみをよけながら、クリスはベベの後を追った。
周囲の人々が、逃げるベベと追いかけるクリスを笑いながら眺めていた。恥ずかしかったが、しかしそれどころではない。こんな外国で迷子になられたら大変だと、クリスは必死に追いかけた。
通りの角を、ベベが左に曲がった。クリスも後を追って左に曲がった。
その通りにはレストランやカフェが多く建ち並び、狭い通りながら通り沿いにはテラス席が設けられていた。先ほどの通りに比べれば、人通りは少なかった。
『どうしたんだよ、ベベ!』
クリスが思念を飛ばすと、ベベはようやく立ち止まった。そして、レストランの窪んだ入り口に身を潜めた。
『何やってるんだよ。こんなところでかくれんぼなんてしてる場合じゃないだろう?』
建物の陰に身を隠すベベを叱ると、ベベは前方をのぞき込んで『クリスも隠れて』と言った。
『何?どうしたの?』
『いいから、隠れてよ』
クリスは言われた通り、ベベと同じように建物の窪みに隠れた。目の前のテラス席に座っていたカップルが、驚きながらもクリスに笑いかけた。それに対して、クリスは気まずそうにぺこっと頭を下げた。
『ほら、あの人』
ベベの視線の先には、黒のミニスカートに赤いカットソーを着てさっそうと歩く女性のうしろ姿があった。
『うん?あの人がどうしたの?』
クリスが聞き返すと、ベベはまたタタタッと走り出した。それから交差点に差し掛かると、角のブティックの陰に身を潜めた。
赤いカットソーの女性は、通りをそのまま真っ直ぐに進んでいた。
『あの人、あの女の先生だよ』
クリスがベベの後を追ってうしろに立つと、振り返らずにベベが言った。
女の先生?女の先生ってまさか────
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~
笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。
鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。
自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。
傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。
炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
家族と移住した先で隠しキャラ拾いました
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」
ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。
「「「やっぱりかー」」」
すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。
日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。
しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。
ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。
前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。
「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」
前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。
そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。
まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる