クリスの物語

daichoro

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第四章 パラレルワールド

第16話 追跡

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「こんなにたくさん買い物したの、生まれて初めて」



 両腕いっぱいのショップバッグを提げ、紗奈が声を弾ませた。満面の笑みを浮かべ、見るからに幸せそうだ。ブロンドに染められた髪にサングラスをかけた紗奈は、見るからに現地の女の子だった。



「本当」

 笑顔でうなずき返した優里も、両手はショップバッグでふさがれていた。

 そんな優里は、髪も眉も赤毛に染められている。



 3人は美容室でそれぞれイメチェンした後、昼食を取ってから思う存分買い物をして回った。ブティックをはしごし、ハーディのコーディネートのもと勧められるままに試着した。そしてハーディがいいと言ったものは、次々にレジへと運ばれた。



 おかげで片手では持ちきれず、ベベのリードを引く手にもクリスは紙袋を提げていた。

 そんなクリスの髪型は、くすんだ金色に染められてゆるくパーマがかけられていた。



 クリスタルエレメントを奪い返すという重要な任務を果たしに来たはずだが、そんなことは忘れてしまうほど3人はこの滞在を満喫していた。しかし、それがハーディの狙いでもあった。



『緊張しっぱなしだと、うまくいくものもいかなくなるからね。リラックスして与えられたミッションは観光ついでだと思って取り組んでくれよ』と、お茶をしながらハーディは言った。



 そんなハーディも、買ったばかりの帽子を被ってごきげんだった。

 ハーディは帽子に目がないという。だから新しいものを見かけるとつい買ってしまうと笑って言った。



 お茶をした後、歴史的建造物のような石造りの建物に入ったブティックがどこまでも軒を連ねる通りに、ハーディが呼んだ迎えの車がやってきた。

 大きな4WDの車は人通りが多い中、時折クラクションを鳴らしながらも慣れた様子でするすると近づいてきた。一行の真横で停まると、運転手はすぐさま車を降りてきてドアを開けてくれた。



 助手席にハーディが乗り、後部座席に優里と紗奈が乗った。

 それからクリスが乗り込もうとすると、ベベが突然ぐいっとリードを引っ張った。指先に引っ掛けていただけだったため、引っ張られた拍子にリードがクリスの手から離れてしまった。そして、リードを引きずったままベベが走りだした。



「ベベ!」

 クリスが大声で呼び止めた。



「どうしたの?」

 紗奈と優里が、心配そうにクリスを見た。



「ごめん、ベベが走って行っちゃった。ちょっと連れてくるから待ってて」

 クリスは手に提げていたショップバッグをシートに置いて、ベベの後を追いかけた。



「ベベ!」

 人ごみをよけながら、クリスはベベの後を追った。

 周囲の人々が、逃げるベベと追いかけるクリスを笑いながら眺めていた。恥ずかしかったが、しかしそれどころではない。こんな外国で迷子になられたら大変だと、クリスは必死に追いかけた。



 通りの角を、ベベが左に曲がった。クリスも後を追って左に曲がった。

 その通りにはレストランやカフェが多く建ち並び、狭い通りながら通り沿いにはテラス席が設けられていた。先ほどの通りに比べれば、人通りは少なかった。



『どうしたんだよ、ベベ!』

 クリスが思念を飛ばすと、ベベはようやく立ち止まった。そして、レストランの窪んだ入り口に身を潜めた。



『何やってるんだよ。こんなところでかくれんぼなんてしてる場合じゃないだろう?』

 建物の陰に身を隠すベベを叱ると、ベベは前方をのぞき込んで『クリスも隠れて』と言った。



『何?どうしたの?』

『いいから、隠れてよ』



 クリスは言われた通り、ベベと同じように建物の窪みに隠れた。目の前のテラス席に座っていたカップルが、驚きながらもクリスに笑いかけた。それに対して、クリスは気まずそうにぺこっと頭を下げた。



『ほら、あの人』

 ベベの視線の先には、黒のミニスカートに赤いカットソーを着てさっそうと歩く女性のうしろ姿があった。



『うん?あの人がどうしたの?』

 クリスが聞き返すと、ベベはまたタタタッと走り出した。それから交差点に差し掛かると、角のブティックの陰に身を潜めた。

 赤いカットソーの女性は、通りをそのまま真っ直ぐに進んでいた。



『あの人、あの女の先生だよ』

 クリスがベベの後を追ってうしろに立つと、振り返らずにベベが言った。



 女の先生?女の先生ってまさか────




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